本日は、お日柄もよく 読みました。
当人同士は繋がりのない知人2人に「読みやすい小説を教えてくれ」と聞いて、いただいたおすすめ。
読書家の選ぶ本は、好みはあれど筋道あればおのずと似通ってくるのだろうか。
私の人となりを多少なりとも知った上で考えてくれたのだろうか。
そんなことはまあ、別にどっちでもいいんだけれど。
読み終えた私には、2人への感謝しかないのでね。
以前友だちから、結婚すると連絡が来て、いつか式をやるから来てねと言ってもらった。
当時、同年代に生涯の伴侶を見つけた人はそんなにいなかった。ちょうど流行り病が脅威を見せていた時期だったということもあり、お式をやると決めた人も少なく、私は誘われたのも初めて。
んなもん当然やがなと返事をして、ついに第一次ビックウェーブが来るんかなァとぼんやり考えていただけだった。
しばらくして日程と会場のお知らせが来て、わー準備してたんだねえ、大変だねえと他人事をぬかしていたら、
友人代表スピーチをやってくれないかと頼まれた。
えっ
正直思っても見なかった。
私と相手は間違いなく友だちだけれど、なんというか、そんな晴れの日にそんな大役を任せられると思われていたことがびっくりだった。
私は完全に腰が引けてしまい、ごめんスピーチとかやったことなくて、たぶん迷惑かけちゃう…自分荷が重いッス…他…他の人は…と正直に話した。
結局友だちの多い相手は、別の人に頼み、実際お式ではにこやかな友人代表スピーチを聞くことが出来た。
やっぱり私がやらなくて正解だったと、着慣れないセミフォーマルドレスにもぞもぞしながら拍手をしたものである。
やらなくて正解だったと思う反面、せっかく私にといただいた、友だちに対する感謝とパートナーとの末永い幸福を願っていると言葉にする機会は、今後あまりないのだろうなと思うと(実際数年経っているけれど改めて、なんてことはなかったし)
今でもふとした時に思い出すくらいには、もしかしたら心残りなのかもしれない。
【本日は、お日柄もよく】 著 原田マハ
こと葉は参加した結婚式でとてつもなくつまらないスピーチを聞いていた。
家族ぐるみで付き合いのある、幼馴染の厚志(あっくん)と、あっくんの会社で短期バイトしていたことで出会った恵里ちゃんの結婚式。
つまらない、眠い、目の前にある料理にすら興味を持てない。
配膳のはやすぎるスープ、銀食器、ダリの絵、なんで自分じゃなかったんだだろう、好きだったのになあ。
いろんなことが頭をめぐり、気がついたときには頭からスープ皿に突っ込んでいて、気分は更に最悪。
そんなときに出会った女性に、
その女性が、まだ未練の残る片恋相手へ送る祝辞に、
まさか涙が溢れるほどの感動をもらうなんて。
言葉のプロフェッショナルと呼ばれるスピーチライター、久遠久美との出会いがこと葉の人生を変える。
本書の最初でスピーチの極意が提示される。
その枠組を知ってしまうと、斜に構えている私なんかは、結局お涙頂戴かよなんて思ってしまったりもする。
それでも、一章から泣かずに読めるわけもなかった。
恐ろしいほど単純だけれど、久遠久美のスピーチにぐわっと心を持っていかれたのはこと葉や式場にいた人々だけではない。
見知らぬ人の結婚式に参加し、見知らぬ人の人生を身近に感じ、そして心から、『おめでとう、末永く幸せになれよ!お前らは幸せにならなきゃだめだよ!』と言いたくなってしまうようなスピーチ。
本当に単純である。
私にはこと葉と違って勇気がないだけ。
仮にあの場に自分がいたとしても弟子入りする勇気はない。
そして、大事な友だちの晴れの日に己の言葉で華を添えようとする勇気もなかっただけ。
1冊通して本当に読みやすかった。
実際にあった政治的なところの描写もあること含めて、状況が想像しやすいというのは、活字を読むことにおいてめちゃくちゃ大事なんだなと気づいた。
自分が"曲がりなりにも"働いているということも関係している。
おすすめしてくれた2人はどちらもよく働く人だ。
背表紙に書いてあるあらすじの締めには
[目頭が熱くなるお仕事小説]とある。
そんな、私なんぞ連休とかちょおっと月の休みが多くなったくらいでもう働かないほうが豊かすぎ、人生。とか思っているのに。
もしかしてこの物語を読むにあたって、意識の高さ、関係してくる?だったらヤバない??とか思っていたのに。
そんなもんだから、働くことに熱を注いでいる人に"しか"刺さらないと勝手に不安になっていたけれど、実際には《言葉の力》がどういうことをもたらすのか、という側面もあるからこそ、働いている、に"曲がりなりにも"がついてしまう私にとっても、心に残る1冊となった。
家族にかける言葉、友だちにかける言葉、共に頑張ろうとしている人にかける言葉、そして自分自身にかける言葉も。
私は選ぶことからも伝えることからも逃げ続けている気がする。
ぱっとできるようになることではないからこそ、大事だし、できる人が羨ましくなるし、じんわり響いているのにな。
この言葉に、抱きしめられない人はいないんじゃないか。
物語の中の登場人物がみんな、誰かの言葉を支えに頑張って、頑張ったからこそ得ている温かさと、もっと進んでいけるエネルギーを分け合っているさまが美しい。
本書を通して私が得た温かさを、感想という形だけではなく
身近な大事な人に伝えるために、言葉を選ぶ努力に変えたいと思う。
こと葉ほどの才能はないけれど、スピーチでもないけれど
日常の中で少しずつでも私の想いが示せますように。
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