少女は卒業しない 読みました。



もう何年も、薄まっていく記憶があるのと同時に、呪いのようにこびりついて離れないあれやこれやがある。

「学生時代は部活ばかりだった。」
これは字のごとくその通りなんだけれど、恐らくこのセリフを聞いた他人がもつ印象と、私の実際過ごしてきた時間の濃さ、みたいなものは一緒ではない。
悪い方である。「濃密な時を過ごしたんだね」と言われると、私は返す言葉がない。
培ってきたのは、本気で取り組む人たちばかりの部活に参加しているように見せかけて多目的ホール裏でサボる方法だ。拘束される時間だけはしっかり守っていた。だから
「学生時代は部活ばかりだった。」


紛れもなく過去であり、"その時代が私にもあった"と、ただ数年先を行くだけの輩がもの言いたげに振り返ったりうなずいたりしている。
実際は、全くもって消化できていないだけ。
それをなんとか隠して(隠しているつもりで)生きているだけ。




「少女は卒業しない」   朝井 リョウ

廃校が決まっている地方の高校、今年の卒業式は三月二十五日。
翌日からは取り壊しが始まり、在校生も卒業生も式の日を最後にこの校舎とさよならする。
運命みたいに通うことになった図書室、幽霊の噂があった東棟とその屋上、部活で毎日使っていた体育館と、文化祭準備をしていた生徒会室。
教室も廊下も、生きる世界の全てみたいにそこにある。
この思いを、この経験を、青春と呼べるようになるのはもう少し先かもしれない。
かけがえのない今を、等身大で過ごした少女七人の視点から描く短編集。




私はこちらを読んでから「桐島―」を読んだのだけれど、
どちらを読んでも、なんでこんなにも学生時代とは、今となってはむずがゆく、美しいのだろうと考えた。

そう思わせる朝井さんの文章、描写がいたるところにあるというのは前提として、【学校】【思春期】【未成年の主張】みたいなあの時期特有の胸のつっかえはその先何十年経っても経験できるものじゃないからなのかな。
総じて"青さ"とするならば、今でもそれはなんとなく持ち合わせているような気がするのだけど(良いか悪いかはおいといて)、やっぱり今とは全く違うんだよな。似て非なるものばかりだ。
これって本当にすごい。

学校というコミュニティや、13~18くらいの年齢って、そのものがつくづくいびつで、得た感情があまりにもその先に残りすぎる。

もちろんどういう環境を過ごしたかによってプラスマイナスはあるけれど、自分の当時との比較対象として、この本はとても輝いていたし、泥のようだなとも思った。
ずぶずぶと、足を取られる感じ。



どれだけあの時の私を当てはめて考えてみても、今の私は彼女たちと違い、
擦れて、荒んで、諦めて、逃げているものだから、
むしろその年月をかけて得た傲慢さから彼女たちにやんやと言いたくなってくる。

私が通っていた学校ではかつての生徒と結婚した先生がいたから、無責任にもその恋を応援したくなっていたし、(いや、もちろん略奪的なアレではなかっただろうけど)
文化祭マジックなんかにあやかって壇上で告白する人は、もれなくヘラヘラしていて告白された人もヘラヘラしていて見てるみんなもヘラヘラしていて、結局すぐに別れたらしいよなんて噂を聞いてエンドなんてのがザラにあったものだから、あなたのその小粋で純粋なスピーチがヘラヘラされないように守りたいと思ったし、ヘラヘラと受け取らない先輩であってくれと願ったし、
自分だけが知っているあの人の姿、なんてものはこの学校という狭い空間の中では限りなく"ない"に等しいぞ、はやまるな、確かめておけ?目立つやつなら尚更だ、いいから周りをリサーチしておけ??などとお節介BBAの特殊能力を発動してしまいそうになったし、

ああ、もう、

若人の青い春、口を出したい。

そんな大人など信用できないと思っていた。思っている。
そうならないために考えている。

でも、そんな赦されないことを考えるほど、ひとつひとつのお話にずぶずぶと足を取れられている。成人一名ここに在り。



人と人がいて、それぞれ思いがある限り、
万事解決円満解散などは非常に稀であると思う。
それは年齢など関係なく、いつになってもいくつになってもそうだと思っている。
それでも人と関わると、スッと胸が空く瞬間があることも確かだ。

若いときの苦労はなんとやら。それは物理だけではなく対峙した時の感情だって同じである。むしろそちらがメインだったりする。
彼女たちはきっとこれからもっと強くなる。大人と呼ばれる年齢になっている私が"今"読むことで、そういうふうに想像できる。

卒業しないと言いつつしっかりと殻を破っているさまは羨ましい。
そのきらきらと泥臭さの両立に、羨ましいと思うばかり。

この気持ちは新たに生まれたのか、それとも思い出しただけなのか。
なんにせよ私はまた背負いなおして、少し前を歩き続ける。




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