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『SIGNALIS』レビュー

SIGNALIS (シグナーリス)』は、太陽系外惑星の天然資源採掘施設を舞台とした、トップダウンビュー(俯瞰視点)のSFホラーアドベンチャーだ。

主人公は "LSTR-512" という型式の地上調査/船舶技師タイプのレプリカユニットで、作中では "LSTR=エルスター" という型式名で呼ばれる。彼女は不時着した宇宙船で目覚めるが、船内には他の乗組員の姿はなかった。

行方の知れない乗組員の姿を求めて、彼女は採掘施設へと足を踏み入れていくことになる。

レプリカという用語は、映画『ブレードランナー』において人造人間を指す造語として登場した"レプリカント"を語源としているようだ。対比として本作にはゲシュタルトという用語も登場する。

開発:rose-engine
販売:Humble Games
配信日:2022年10月27日 / 日本語サポート有
Steamにも同レビューを公開中:Link

ゲームシステム

主人公の目的は行方不明の乗組員の捜索だが、ゲームとしては辺境惑星の地下採掘施設という閉鎖的な空間での探索がメインだ。施設には何らかの不測の事態が起こったらしく、各区画は封鎖され、破壊の痕跡やレプリカユニットの死体が放置されている。

プレイヤーは封鎖を解くための手段の発見や、暗号の解読といったパズル要素をこなしていくことになるが、そのヒント自体も探す必要があり、また背景を知るためのドキュメントも点在しているため、根気強く地道な探索が求められるだろう。

クリーチャー化したレプリカユニットとの戦闘も発生するが、ハンドガンやショックバトンといった攻撃手段はあるものの、弾薬や回復アイテムなどリソースは限られるため、積極的に倒していくようなゲーム性ではない。

あくまでメインは探索であり、不要な戦闘は避ける選択も必要なデザインとなっている。

開発元が公言しているように、初期の『バイオハザード』や『サイレントヒル』といったクラシックスタイルの作品にインスパイアされているため、同作の既プレイヤーにとってはゲーム性がイメージしやすいだろう。

世界観

本作は全体主義の統一政権下というディストピア的な架空の世界観がベースとなっていて、少なくとも太陽系外への恒星間航行が可能で、身体の義体化や人造人間の運用といった程度まで科学力が発達している。

登場するユニット名や、ドキュメントに書かれた人名、施設内の標識やロゴなどにはドイツ語と中国語が混在していて、どの国家が統一政権の核となったのか考察も捗りそうだ。

例えば、ある区画に放置された取調報告書にはその対象者数名が書かれているが、いずれもドイツ系の名に中国系の姓(ピンインの英語読み)が組み合わさった名前が並んでいる。

また宇宙空間における根源的な恐怖感を表すコズミックホラーとしての演出もあり、例えば採掘施設に入って最初に手にする本『黄衣の王』がそれを暗示しているなど、外部知識として元ネタを知っているプレイヤーならば気づく要素も多い。

シンプルなわかりやすさではなく、そうした世界観そのものが様々な要素を交えた考察を好むプレイヤーに刺さるものとなっている。

日本語サポート

音声はなく、UI/テキストが日本語に対応している。

ローカライズサポートは "PLAYISM" が担当。多くの要素が登場することで、複雑で難解になりやすいテキストも(必須の固有表現を除けば)比較的読みやすいものとなっていて、プレイヤーの邪魔をすることはないだろう。

余談だが、タイトルの『SIGNALIS』は「シグナリス」ではなく「シグナーリス」が公式訳となる。ローカライズサポートを担当したPLAYISMの表記が正しいので、こちらを参照してほしい。
https://playism.com/game/signalis/

気になるポイント

ゲームとしては気になる部分は無い、というのが正直なところだ。

あえて言うなら、本作ではクラシックなスタイルを演出するために、ブラウン管に映したような画面表示オプションが用意されている。しかしこれをOFFにしてもクラシックな見栄えのため、やや文字が見えにくいシーンがあった。

ただプレイには支障はないだろう。

総評

まず、この有機物と無機物が共存するSF色の強いアートワークに惹かれたプレイヤーも多いだろう。特に弐瓶勉氏の作品 (初期頃の『BLAME!』など) へのオマージュが感じられ、ファンのみならずこうしたデザインを好むプレイヤーも多いのではないだろうか。

一方で、ゲーム性は初代『バイオハザード』や『サイレントヒル』にインスパイアされたクラシックスタイルのSFアドベンチャーであり、不必要な戦闘を避け、弾薬など限りあるリソースをやりくりしながら地道に探索を進めていくタイプで人を選ぶ。

ただ進むだけではゲーム側がすべての情報を与えてくれるようなものではないので、外部知識やテキストによる情報補完が苦ではなく、考察を好むプレイヤーは特に楽しめるが、刺さる/刺さらないがはっきり分かれる作品だろう。

興味を持たれた方は、こうした点を理解して手にとってもらえると、すれ違うことをなく楽しめるはずだ。

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