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建設業の人材定着について①

私は2022年に入学した神戸大学大学院経営学研究科(MBAプログラム)で、建設業の人材定着について研究を進めてきました。

人材定着に関わる建設業界の課題は、大まかに分類すると行政が主導して取り組むべき課題と、企業が主導して取り組むべき課題と、企業の管理者が取り組むべき課題に分けられるようです。

それぞれの課題はスケール感が全く違い、解決までに長く時間がかかるものから、従業員の意識ひとつで解決するものまで幅広いソリューションが存在してます。

また、行政主導の課題と言えども企業との関わりなしには解決できませんし、企業主導の課題でも従業員の協力なしに解決することは出来ず、それぞれ複雑な相互関係の上に成り立っています。

私が一企業の経営者として考えたのは、自身の会社を今後どのような会社にしていきたいか、そのために解決するべき課題はなにかという身近な問題意識でした。

人材定着の課題

行政が主導して取り組むべき課題

これは労働時間や労働環境に関する課題が主となり、建設業界の体質とも言える長時間労働や、3Kに代表される労働環境の改善です。

発注方式や制度に関わる問題であるため、行政・発注者・建設会社が一体となって解決しなければならない問題です。

今後の業界の趨勢を左右する最も重要な課題であると言えますが、課題解決には非常に長い時間がかかり、まだ道半ばと言えるでしょう。

企業が主導して取り組むべき課題

これは労務など仕事のやりがいに大きく関わる課題で、給与水準の向上や、休みの取りやすさ、福利厚生など職場環境に代表されます。

もちろん、行政や発注者の川上での改善は重要ですが、建設会社の主体性が強く求められ、昨今「働き方改革」として推進され、対外的にPRされているものの多くは労務に関する問題であると言えます。

管理者が取り組むべき課題

最後に、管理者が取り組むべきは、仕事に関連したポジティブで充実した心の状態をつくる人材のマネジメントに関する課題です。

建設業従事者が永く業界で働きたいと思えるような、仕事への愛着や没入に関する課題であると言い換えることもできます。

建設業に長くいると見逃してしまいますが、建設業のものづくりは、他の製造業と比較してもかなり特殊です。

その代表が単品受注生産や製品の複雑性、施工に関する不確実性などの不確定要素の多さですが、その特殊性に合致した人材マネジメントは未だ確立されていません。

その特異なプロセスにおける、従業員の関係性に着目した人材マネジメントこそが、建設業に人材を定着させる鍵になると私は考えており、自身の研究課題として設定するに至りました。

建設業に合致した人材マネジメント

建設業界は、現在働き方改革 [1] やDX [2] の推進により、他業種から遅れを取りながらも、働き方が急速に変化している業界でもあります。

業界の特性としてしばしば指摘される労働環境の悪さや、長時間労働の常態化は見直されつつあり、働きやすい業界となるべく建設業界全体で前向きに変化していこうという機運が高まっていると言えるでしょう。

人材の定着についても、職員の働きやすさに配慮し、労働時間削減や業務効率化への取り組みを積極的に推進する企業も増えてきています。

しかし、先にも述べた通り、建設業の特性に合致した人材マネジメントの構築は未だ成されておらず、その特殊性を鑑みない汎用的な改革にとどまっているとも言えます。

真に求められるのは、建設業のものづくりプロセスの特徴であるその創発的な性質、すなわち創発性 [3] を考慮し、ものづくりプロセスに寄り添った、ものづくりの価値の最大化と連動した人材定着のマネジメントです。

私の研究は、そのような人材マネジメントのあるべき姿をとらえ、建設業界の進歩の一助となることを目指しています。


[1] 働く人たちが、それぞれの事情にあわせて多様な働き方を選択できる社会を実現するための取り組み。

[2] デジタルトランスフォーメーション:「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(経済産業省(2018)『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン』)。

[3] 部分の革新性と全体最適の往復によって、部分の足し算を超えて製品価値が向上する性質。


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