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映画 『My Policeman』

マリオン!マリオンがかわいそうすぎる。。というか全員かわいそう。なんでこんな思いをしなきゃならないんだ…

邦題は『僕の巡査』。日本語の代名詞よ…! "My" だとダブルミーニング的になって、より「そういうことだったのか」となると思う。

舞台は2020年代と1960年代のイギリス。現在と過去を行ったり来たりする構成だ。ままならない現在から、その背景となるままならない過去を、視聴者は知ることになるのだ…。

1960年代といえば、パソコンが生まれる前頃。劇中にはタイプライターも登場する。近い時代のイギリスに、有名な数学者がいる。同性愛者であるアラン・チューリングという人だ。ドイツ軍の暗号機「エニグマ」を解読したほか、電子計算機や、反応拡散系と呼ばれる生物に見られるパターンを数学的に研究し、基礎づけたことでも知られている。彼が亡くなったのが1954年。この映画の舞台はその直後、1957年頃だ。

当時のイギリスでは同性愛が禁じられており、同性愛者は見つかると逮捕され、「矯正」させられていた。チューリングもその「矯正」を受けた一人だと言われている。矯正するべきではないと思うし、矯正できないのではないかと思う。しかし当時同性愛は正しいことではなく、「自然でない」ことだとされていた。そんな社会のなかで、あったかもしれないリアルを描いた映画だと思う。そして、今もこういうことがあるのではないかとも。

ただマリオン!マリオンがいい人すぎて、彼女の負担が重すぎて心配になる。周囲の男性も終始抑圧的で、「正気になれ」「落ち着け」と言って諭そうとしてくる。別にヒステリーを起こしているわけじゃないのに。彼女に寄り添う人がずっといなかった。母親とかが出てきてもいいように思ったけど、出てこなかった…私がマリオンだったら、多分いろいろ目撃した時点で実家に帰る…。

トムは理想家かもしれないけど、正直犠牲にするものが大きすぎた。でもああして、愛があって、周囲に関して盲点があり、かつピュアな人って神様みたいに思える。みんな振り回されてしまう。パトリックはロマンチックという言葉をよく使っていたけど、そういうロマンに富んだものを美しく感じる人だったんだろうと思う。美的感覚に優れた彼が監獄にいる間は苦しかっただろう。

最後の展開で少しだけ気が晴れたけど…だからといって万事解決するわけではなかった。私は女性に恋していた時期がかなり長くあって、そのときに同時に男性と付き合っていたことがある。だから余計に感情移入できる立場が複数あって複雑な気持ちになった。正直、バイセクシュアルはあまり良い立場で描かれることが少なくて心細い。いつも自由で、勝手すぎるように描かれてしまう。そこもあって辛かった。

鑑賞後の感想として「人は本当に愛している人といるべきなんだ、こうやって人生の時間をむだにしたら誰も幸せにならない」と思ったけど、結局トムが愛したのはマリオンだったのかパトリックだったのか。もしかすると彼はポリアモリーかもしれないなと思った。ポリアモリーが許されて、お互いに納得できる関係なら幸せになれたかもしれないけど…そうはいかなかった。

普段、話し合わずにすれ違う人たちが出てくる作品を見ることが多いので、比較的話し合っていてえらいとは思った… (ちゃんと話し合った上でダメだったので絶望したシーンもあったけど…)。話し合ってもダメなことはある。不条理というものがある。誰のせいでもないというか、たぶん大元を辿れば社会が悪いのだけれど。

画面全体が薄暗くて抑圧的で、皮肉で、ああイギリスだ…と思った。ファッションや色使いもくすんでいて良かった。暗澹たる気持ちになれる悲劇。

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