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「ともかく人を褒める」をやめると人間関係が円滑になる

『やめる勇気――「やらねば!」をミニマムにして心を強くする21の習慣』(朝日新聞出版)の著書がある、産業カウンセラーで職場のメンタルヘルスの専門家である見波利幸さんは、ともかくストレスにつながることはすべて「やめる」ことを推奨しています。今回は、人間関係を円滑にしようとついついやってしまう「とりあえず褒める」の上手なやめ方をご紹介します。

 職場で信頼し合える人間関係をつくることの大切さを、ほとんどの人は実感しているでしょう。

 私のクライアントの中に、「できるだけ人を褒めるようにしている」という方がいました。たとえ社交辞令やお世辞であっても、相手を褒めることで物事が円滑に進むことがあるのは確かです。だからこそ、その方も褒めることを心掛けていました。

 相手に対する肯定的な言葉を、心理学用語で「プラスのストローク」といい、これはコミュニケーションの好循環につながります。

 褒めることはプラスのストロークですから、基本的にはよい影響を及ぼしますが、「とにかく何か褒めるところを探さなければ」と考えながら人と接していると、ストレスが増すばかりか、逆に人間関係をぎくしゃくさせてしまうこともあります。

 冒頭の方は、相手のその日の服装や持ち物を褒めるのだそうですが、それで相手が喜ぶこともあれば、微妙な反応をされることもあるそうです。そうすると、少なからず、「せっかく良いところを見つけて褒めたのに、喜んでもらえなかった」とがっかりしてしまうのです。

 ただ、「がっかりした」ということは、本心から褒めたのではなく「相手を喜ばせることで、自分への印象をよくしたい」という打算的な考えが心の奥底にあったといえるかもしれません。

 だとすると、案外、相手は「心にもないことを言っているんじゃないかな」と気づいているかもしれませんね。見返りを期待して発する褒め言葉は、本能的に察知されるものなのです。いくらプラスのストロークであっても、これでは「褒める」という行為が信頼関係をつくれていませんし、逆にストレスを抱える結果になってしまっています。

 私は、ストレスになるくらいなら、無理に褒めるのはやめたほうがいいと思っています。他人に気を使ってたくさんの褒め言葉を発するよりも、相手が大切にしていることや、その人の本質的な美点に気づけた時にだけ、褒めるようにするのです。

 そのためには、何をすればいいか。

 まず、相手のことを褒めようとするのではなく、相手のことを理解しようとしてみてください。

 そうすると相手の人柄や気質がだんだんと見えてきます。その時点で長所が見えてくることは多いのですが、それはその人の「本質の周辺」である可能性が高いので、そこを褒めようとするとうまく伝わらないことが往々にしてあります。

 もう少し辛抱して相手をしっかり見ていくと、やがて相手の「本質」が見えてきます。それがわかった時に心から褒めるようにする。そうすると、その人はあなたの言葉に感動し、本当の意味で心と心が通じ合うのです。

 本質的な褒め言葉が出てくるのは、相手自身や相手の行動の意図を深く理解している時だけです。それがわかれば、会ったらとりあえず褒めるということも必然的になくなるでしょう。

 また、褒め言葉を発するタイミングは、必ずしも早ければいいというわけではありません。思いついたらすぐに言う必要はなく、あなたが一番言いたい時に相手に伝えるのがベストです。褒め言葉に限らず、感謝や謝罪の言葉もそうですが、時間が経っているからこそ、相手の深いところに伝わることも多々あります。

 時が熟してから、「あの時のあなたの行動は本当に立派でした」「あの時の一言のおかげで、本当に救われた。ありがとう」「あの時は、本当に申し訳なかった。ずっと謝りたかったんだ」と言われたらどんな気持ちになるでしょうか。それは、数日後かもしれませんし数カ月後かもしれません。

 たったそれだけで相手との関係性が深まると思いませんか?

 プラスのストロークを積極的に投げかけるのも、コミュニケーションにおいて必要なプロセスだと思います。ただ、真の信頼関係を築きたいのなら、本質的な褒め言葉が出てくるまで相手を深く見つめるようにしてみてください。

 人と接したり集ったりすることが難しい日々がつづいて、対面で接した時の感覚が鈍っている今こそ、これまでの習慣を見直して、きちんと伝わり、あたたかみのある関係を築くコミュニケーションをはじめていくことが、折れない心を育てることにつながります。

(文:見波利幸/写真:Gettyimages)


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