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マニュアル男子の出家場所リリー・フランキー【ミッツ・マングローブ/熱視線】

 女装家・タレントのミッツ・マングローブさんが時代を駆け抜けた「アイドル」たちについてつづった書籍『熱視線』(2019年8月刊)より、珠玉のコラムを選りすぐりで紹介。今回はリリー・フランキーさんについてお届けします。

ミッツ・マングローブ『熱視線』
ミッツ・マングローブ『熱視線』

 石原さとみさん、新垣結衣さん、北川景子さんといった美人どころが毎年しのぎを削る風物詩と言えばご存知『なりたい顔ランキング』です。『憧れの顔』や『真似したい顔』とはまた違う「努力はしたくないけど、願わくは寝て起きたらそうなっててくれないかしら」という自己中心的かつ怠慢極まりない現代人の精神が生々しく込められたランキング。かく言う私(43歳 ※編集部注:2018年5月)も、「日々の過剰な化粧やパンストの締めつけが功を奏して、気づいたら井川遥のような顔になっている日が来るかもしれない」という幻想を捨てきれずに生きています。

 ちなみにこのランキング、男性版もあるようで、最新の集計では10代・20代の1位が竹内涼真くん。30代・40代の1位が竹野内豊さん。そして何が衝撃って、50代の1位が再び竹内涼真くんなのです。世のオッサンたちが「なれるものなら竹内涼真の顔になりたい」と思っているという現実は、43歳の女装家がうっかり井川遥になれると信じ込んでいることよりも煩悩として悪質な気がするのですが……。どうかこのランキングが平日夜の新橋駅前や上野のせんべろ居酒屋で得た回答をもとに作られたものでありますように。

 考えてみれば、男性の『憧れ精神構造』は女性よりも複雑です。長嶋茂雄や松田優作のようなヒーローを崇める一方で、ポパイやメンノンやレオン片手に「モテたい・ヤリたい」という欲求だけを健気に追い求め、己のコンプレックスにうなだれる日々。ちょっと唇を厚ぼったく塗っただけで石原さとみになれてしまう図々しさは、男にはありません。キムタクがCMしていたRV4を買うためにバイトをし、TSUTAYAで1週間レンタルした藤井フミヤのバラードを必死で覚え、眉毛を抜いたついでに鼻毛も抜く。私の学生時代はこれがマニュアル男子の王道でした。お手本やマニュアルを必要とするのは、むしろ女性よりも男性の方なのかもしれません。同時に「俺はマニュアルなんかに縛られてない。誰のことも手本にしてない」というプライドも、男子の重要かつ面倒なところ。いつまでもチャラチャラしているわけにはいかない30代・40代にとって、寡黙で髭の似合う竹野内豊は千載一遇の好条件アイコンなわけで、つまりは竹野内もジローラモも『マニュアル精神度合い』的には同じだと言えるでしょう。

イラスト:ミッツ・マングローブ

 そんな『竹野内ってかっこいいよな系男子』たちが、最近こぞって「あんな歳のとり方をしたい」と名前を挙げる男がいます。リリー・フランキー氏です。リリーさんが醸す「中2的ファンタジー」と「ミドルエイジのトラッド」が絶妙に混在する『超ハイブリッドなフーテン貴族感』は、まさにマニュアルをこじらせた男子たちの「女にも男にも憧れられる軽やか、かつ重厚な男でいたい(でも竹野内豊にはなれない)」という福袋のごとく詰まった業と願いが最後に行き着く寺院のような大衆性を持っています。

 でも知っていますか? リリーさんが今もっともその愛と財を注ぎ込んでいるのが、女装したオカマ3人組『星屑スキャット』だということを。この人の性は、マニュアルなんかに収まり切らないぐらい繊細なこじらせ方をしています。さあ、世の男子たちよ、もっとリリー・フランキーを深くお手本にして、星屑スキャットをスターに!

(初出:週刊朝日2018年5月25日号)