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精神的な支配を受ける苦しみと周囲に理解されない辛さを描いた、櫻木みわ著『カサンドラのティータイム』/瀧井朝世さんによる、著者インタビューを特別公開

 櫻木みわさんの『カサンドラのティータイム』が11月7日に刊行されました。「週刊朝日」2022年11月25日号(11月15日発売)に掲載された、瀧井朝世さんによる著者インタビューを掲載します。

櫻木みわ著『カサンドラのティータイム』(朝日新聞出版)

 2018年に作品集『うつくしい繭』で小説家デビューした櫻木みわさんの第3作『カサンドラのティータイム』(朝日新聞出版 1760円・税込み)は、2人の女性が主人公だ。

 東京でスタイリストのアシスタントとして働く友梨奈と、琵琶湖湖畔で夫と暮らす未知。異なる場所で生きる彼女たちの人生が、やがて思わぬところで交錯する。

「以前、身近な人の言動で苦しんだことがあったんです。渦中にいる時は、自分の状況がよく理解できなかった。後に人と話したり本を読んだりするうち、少しずつ分かってくるところがあって。今回はそれを突き詰めて小説にしたいと思いました」

 友梨奈と未知に共通するのは、ともに男性から一方的な支配を受け、精神的に追い詰められる点。

「自分の体験を友人に相談した時、“その相手は自己愛性パーソナリティ障害かもしれない。そういう人からはすぐ離れたほうがいい”と言われたんです。それで調べたら、自己愛性パーソナリティ障害には自己愛が大きくて傲慢なタイプと、逆に自信がないから周囲を傷つけるタイプがいると知りました。それぞれを書き分けたくて、友梨奈に被害を与えた男性と、未知の支配的な夫の2人を登場させました」

 本書の執筆中に出合ったのが、作中にも登場するマリー=フランス・イルゴイエンヌ著『モラル・ハラスメント』(高野優訳、紀伊國屋書店)。

「この本を読んで、自分が傷ついた理由が明確になったんです。小説でも触れましたが、精神的な暴力は、ふるう側もふるわれる側もなかなか問題に気づけない。それに、ふるわれる側は自信を削ぎ落とされ、“自分が悪いんだ”と思いこみ、どんどん自分を追い詰めてしまうんですね」

 さらに辛いのは、その苦しみが周囲に理解されないこと。未知も夫の暴言を共通の友人に相談しても「あいつはいいやつ」「未知ちゃんがそうさせたところもあるんじゃない?」などと言われてしまう。それはまるで、呪いによって誰からも信じてもらえなくなった、ギリシア神話のカサンドラのようである。

「じつは最初に書こうと思ったのが、このカサンドラ症候群と呼ばれる状態でした。モラル・ハラスメント自体も辛いですが、その際身近な人にまったく理解を得られない苦しみは、ものすごく大きいと思います」

 本書を読んで、自分が現在経験している、あるいは過去に経験した苦痛の正体はこれだ、と気づく人はきっといるはず。

「当事者だけでなく、無縁の人にも読んでもらえたら。そうすれば、身近な人がこういう状況に陥った時、“大したことない”と受け流さなくなるかもしれない。そんな希望を持っています」

 本作の主な舞台である滋賀県に移住して2年目となる櫻木さん。

「いろんな土地、いろんな文化、いろんな生き方を描いていきたい。次もまた滋賀を舞台にして、今回とは違うテーマの小説を書こうと考えているところです」

※週刊朝日 2022年11月18日号