見出し画像

水野美紀が妊娠中一番つらかった「体重管理」 救世主となった食べものとは

 42歳で電撃結婚、翌年には高齢出産。女優・水野美紀さんが“母性”ホルモンに振り回され、育児に奮闘する日々を開けっぴろげにつづった子育て奮闘記『余力ゼロで生きてます。』(2019年11月、朝日新聞出版)からの記事。今回は、妊娠中、一番つらかったという体重管理について。救世主はスイカにガリガリ君だった!? さらに子育て奮闘記第二弾『今日もまた余力ゼロで生きてます。』が9月20日発売決定! こちらもお楽しみに。

水野美紀著『余力ゼロで生きてます。』

 一年前、私の体重は今より10キロ以上重かった。

 ウエストは1メートルに届かんばかりで、バストもスリーカップ以上サイズアップ。

 現在は着ぐるみを脱いだかのごとく、すっかりしぼんでしまった。

 私の身に何が……そう! 出産である。

 昔は、「二人分食べなきゃね」なんてよく言ったもんだが、今やとんでもない話。

 妊娠が発覚して通った病院では、高齢出産であるということに関して特別レクチャーされることはなかったものの、体重コントロールに関してはすごく厳しく言われた。

 明暗は、妊娠初期に分かれる、と、私は思う。

「暗」!!

 私は完全に暗だった。

 その原因として、まず、悪阻。

 全く食べ物を受け付けなくなる症状になる人から、特定のものだけしか受け付けなくなる人、ずっと食べていないと気持ち悪くなる、いわゆる「食べづわり」と呼ばれるものまで、症状は様々。

 水すら受け付けなくなる人もいると聞く。

 土壁を食べたくなった、という人もいた。実際に壁を削ってちょっと食べたそうだ。

 壮絶である……。

 私の場合は、かるーーい食べづわり。

 ものすごくフライドポテトが食べたい、とか、グレープフルーツが食べたい! なんてことがちょいちょいありつつ、普通に食事はできる。

 で、胃が空になると胸焼けするので、一日中ちょこちょことつまみ食いを続ける。要は一日中食っている。デブまっしぐらだ。

 それから、正月を挟んだのが痛かった。

 妊娠5カ月までは、ドラマ撮影などの仕事をしていたのだが、妊娠3カ月のころに一週間ほど、正月休みがあった。

 その一週間、どうにも身体がだるくて、眠くて仕方がなかった私は、ゴロゴロと食っちゃ寝を繰り返した。

 そして、夫の優しさも痛手となった。

「たくさん食べなー」
「横になって休みなー」
「欲しいものある?」

 と、食っちゃ寝する私の後押し。

 多分、高齢だと流産の確率がすごく高いことをネットで調べて知っていたのだろう。

 安静にするようにと、すごく気遣ってくれた。

 そんな条件が重なり、妊娠4カ月目にしてすでに6キロ増!

 臨月で、胎児の体重がだいたい3キロ。羊水と胎盤でプラス2キロ。

 妊娠中は血流も増えるし、乳腺も発達するし、母乳に備えて皮下脂肪も付くので、だいたい、7~8キロは増えるものらしい。

 しかし、体重増加の上限は、12キロ。

 これを超えると、難産のリスクが増えるという。

 8~9キロ増での出産。これが理想(BMIによって個人差あり)。

 なのに私ときたら、4カ月にしてすでに6キロ増。

 完全にスタートを誤った。

 これはかなり痛い。

 なぜなら、ここから安定期に入って悪阻がおさまると、食欲は増していくし、妊娠後期はホルモンの関係で、とにかく太りやすくなるのだ。

 その危機感の薄かった私は、5カ月目の検診で前月より体重が増えていなかったことにすっかり油断して、次の6カ月の検診までにさらに2キロ増!

 すごい。妊婦の体は、2キロとか一瞬で増える!

 ここから、厳しい体重管理が始まった。

 医者は、

「ダイエットはしちゃダメよ」

 と、難しいことを言う。

「え、どういうこと?」

 と思ったが、要は食事を抜いちゃダメよ、ということらしい。

 体重を増やしちゃいけないのだけれど、胎児に栄養は必要。

 なので、あくまでもバランス良く食事を取りながら、現状キープを目指す!

 という、大変微妙なさじ加減で管理しなきゃいけない。

 これがきつい。

 激しい運動はできないし、口寂しさをやり過ごすためのコーヒーや紅茶は飲めないし。

 大好きな辛いものもダメ。お酒もダメ。体はどんどん重たくなって機動力は下がるし。

 ああーー、生殺し! 悶々とあれもこれも我慢我慢の毎日はまるで生殺し!

 毎朝体重計に乗り、10グラム単位の増減に一喜一憂。

 通常時ならば、体重が減ることや、躰が締まってパンツが緩くなったりすることが達成感に繋がりモチベーションが上がるのだが、目的はそこじゃない。

 健康的に胎児を「育てること」が目的なのだ。

 とてつもない怠重さと、何十年ぶりかの便秘を抱えながら……。

 ああ、ご褒美が欲しい……。

 そんな私の救世主となったのが……。

 スイカとガリガリ君、そしてたんぽぽコーヒーだった。

 朝食はだいたいトーストと目玉焼き。

 お昼はたっぷりのサラダにおにぎり一個。

 夕食はサラダに焼き魚、味噌汁とご飯。

 基本、このようなメニューで、デザートとおやつに、スイカを好きなだけ食べる事を許した。

 一日一本のガリガリ君も。

 口さみしくなったらタンポポコーヒー。

 たまに、わらび餅や、一切れの羊羹も食べた。

 妊娠前は甘いものなんて好きじゃなかったのに、この時期はまあ、細胞に染み入るような美味しさだったよ……!

 そうして頑張ってみても、妊娠8カ月に突入したころの太りやすさったら尋常じゃなくて、私は意を決して水泳を始めることにした。

 ネットで色々と調べたところ、ジムのプールでマタニティークラスを設けているところが結構ある。だいたい、週1回。

 内容を見てみると、プールに浮いたり、軽くウォーキングしておわりなのかと思いきや、がっつりクロールで泳ぐらしい。

イラスト:唐橋充

 あ、クロールオッケーなんだ、と思ったら俄然やる気が出た。

 さらに調べると、妊婦オッケーな区民プールも結構ある。

 ということで、近所のジムや区民プールのスケジュールを綿密に調べて、私は週3でプールに通うようになった。

 クロールで、25メートルプールを15往復ほど。

 疲れたらウォーキングを挟んで、のんびり泳いだ。

 この頃、もうかなりお腹は出て、躰が重くなっていたが、水の中では、重力から解放されてとても気持ちがよかった。

 通い出して2週間後には、体重増加がピタリと止まった。

 ダイエットに、と運動を始める人に勘違いが多いなと思うのは、最初は筋肉が疲労する事によって躰がむくむので、むしろ体重は微増する。

 そこから段々と筋肉が付いて、代謝が上がって、体重は減り始めるのだ。

 だから、運動を始めたのにすぐに痩せない! とがっかりすることはないのだ。

 ともかく、長い妊娠期間中、一番辛かったのはこの体重管理だった。

 ほんとうに、初期に食べ過ぎた自分を恨んだ。

 あと、もっと早く水泳を始めときゃよかったよな、と振り返って思う。

 ついつい億劫で後ろ倒しにしてしまったけど。

 ウォーキングより十倍効果があったしストレス解消になった。

 夏出産の妊婦だからできたことかもしれないけれど。

 後悔は多々あれど、最終的には10キロ増で出産にこぎつけた。

 出産の痛みへの恐怖よりも、この体重管理から解放される喜びの方が勝ったくらいだ。

 人生で一番、本気で体重管理した数カ月であった。

水野美紀(みずの・みき)
1974年三重県生まれ。女優、作家・演出家。87年芸能界デビュー。2017年第一子を出産。映画「踊る大捜査線」シリーズ、ドラマ「探偵が早すぎる」シリーズ、テレビ番組「突然ですが占ってもいいですか?」、舞台「ベイジルタウンの女神」。舞台では脚本・演出を担当、自身で演劇ユニット「プロペラ犬」も主宰している。他にも多数の出演作があり、CMにも出演するなど、幅広いジャンルで活躍し続けている。また、何気ない日常をユーモラスにつづったエッセイ集『水野美紀の子育て奮闘記 余力ゼロで生きてます。』も好評を得ており、続編が9月20日に発売予定。その他の著書に、『ドロップ・ボックス』『私の中のおっさん』『プロペラ犬の育て方』がある。

■水野美紀さんの子育て奮闘記・第二弾 9/20発売!

水野美紀の子育て奮闘記 今日もまた余力ゼロで生きてます。

※Amazonで本の詳細を見る




みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!