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オンライン会議を長くやっても結論が出ない理由【スマホはどこまで脳を壊すか】

 コロナ禍をきっかけに一気に進んだ「オンライン化」。その利点は多いですが、一方で人と人が顔を合わせてコミュニケーションする機会が減っていくことに、物足りなさを感じる人も多いのではないでしょうか。じつはその“実感”には科学的な裏づけがあることが近年わかりつつあります。「脳トレ」でも著名な川島隆太先生率いる東北大学加齢医学研究所の榊浩平先生に、オンラインでのコミュニケーションが脳に与える影響について聞きました。榊先生の著書『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書/2023年2月刊)から、一部を抜粋・再編集して紹介します。
(タイトル画像:Aleksei Morozov / iStock / Getty Images Plus)

榊浩平著/川島隆太監修『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)
榊浩平著/川島隆太監修『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)
スマホやパソコン等のデジタル機器を便利に使うことでヒトが“効率的≒ラク”をした結果、脳も一緒にサボっている実態を、最新研究をまじえて検証。さらに“サボらせている”のが成長期の子どもの脳であれば、影響はより深刻で、スマホ依存がいかに学力低下につながるか、衝撃のデータとともに明らかに

■オンライン会議で脳にサボり癖がつく!?

 そもそも「コミュニケーション」とは何でしょうか。私は自著『スマホはどこまで脳を壊すか』の中で、「人と人とが双方向的な情報のやりとりを通じて心を通わせること」と定義して論じました。

 心理学者のロイ・バウマイスター博士とマーク・リアリー博士の論文によると、ヒトは持続可能でポジティブな人間関係を形成し維持することを望む「所属欲求(Need to belong)」を、基本的欲求の一つとして持っているといいます。ヒトにとって集団で生活することは、食料を獲得したり、外敵から身を守ったり、生殖や子育てをしたりする上で有利であり、単独で生活するよりも生存できる可能性が高かったためであると考えられます。

 コミュニケーションが私たちにとって必要不可欠であることは、裏を返すとコミュニケーションが不足すると様々な問題が生じてくることになります。

 多くの人は、他人とコミュニケーションをする機会が減ると、寂しいという感情を抱くでしょう。心理学の分野では、人間関係が質的または量的に不足しているときに生じるネガティブな感情を「孤独感」といいます。孤独感と心の健康は密接に関わっています。ドイツで行なわれた約1万5千人を対象とした大規模調査の結果、孤独感の高い人は、うつ病や不安障害の傾向が高く、自殺願望が強いことが報告されています。

 東北大学加齢医学研究所では、孤独感が脳に与える悪影響について検討がなされました。平均年齢約20歳の大学生776人を対象に、孤独感と脳の容積の関係を調べました。その結果、孤独感の高い人は知的活動に関する機能を担う前頭前野【図1】をはじめ、言葉や感情、表情の読み取りなどコミュニケーションに関わることが知られている幅広い脳領域の容積が小さいことがわかりました。この研究の結果から、孤独感の高い状態が続くと、共感や他人の気持ちを推し量るといったコミュニケーションに重要な役割を果たしている脳の機能が衰えていってしまう可能性があると考えられます。

【図1】コミュニケーションに不可欠な機能を支える前頭前野。言葉を話したり、相手の気持ちを推し量ったり、感情を制御したりと幅広い機能を持つ。(イラスト・祖田雅弘)

 ではその手段が対面からオンラインに取って代わったとしても脳にとって影響はないのでしょうか。オンライン・コミュニケーションの方法には、様々なものがあります。メールやLINEなどのインスタントメッセージ、TwitterやFacebookなどのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上でのやりとり、ZoomなどのWeb会議システムを用いたビデオ通話といった方法が利用されています。

 両者にはどのような違いがあるでしょうか? 対面と比べて、オンライン・コミュニケーションは「楽である」という特徴があります。たとえば会議について想像してみてください。オンライン会議なら極端なことをいえば、上半身だけ仕事着に着替えてしまえば身だしなみは問題ないわけです。たとえ部屋が散らかっていたとしても、背景に画像を埋め込んで隠すことができます。会議が始まる5分前に目が覚めてさえいれば、準備が間に合うかもしれません。わざわざ会社へ出勤することも、会議室を準備して資料を印刷することも必要ありません。

 人間の脳は大変なことをしているときほど、負荷がかかって活発にはたらきます。あなたが楽をしているときは、脳も一緒になってサボります。サボり癖のついた脳は、あなたをどんどんと楽な方へと導いていくでしょう。コロナ禍に入って2年以上が経過し、オンライン会議に慣れた方も多いのではないでしょうか。オンラインでサボり癖のついてしまった脳をお持ちの方は、「対面の会議はもうやりたくないな……」と思ってしまったかもしれません。

榊浩平(さかき・こうへい)
榊浩平(さかき・こうへい)
1989年千葉県生まれ。東北大学加齢医学研究所助教。2019年東北大学大学院医学系研究科修了。博士(医学)。認知機能、対人関係能力、精神衛生を向上させる脳科学的な教育法の開発を目指した研究を行なっている。共著に『最新脳科学でついに出た結論「本の読み方」で学力は決まる』(青春出版社)がある

■オンラインでは相手に好印象を持たないとの結果も

 対面コミュニケーションとオンライン・コミュニケーションが持つ性質の違いについて、海外で行なわれた研究をご紹介しながらもう少し詳しく見ていきましょう。

 米国の研究グループは、グループの意思決定場面におけるオンライン会話の特徴について、いくつかの研究結果を集計して報告しています。グループの意思決定とは、例えば、今後の予定や目標を定める、問題を解決する、新しいアイデアを生み出す、異なる意見をすり合わせて交渉する、などを目的とした話し合いのことを指します。

 解析の結果、対面会話と比べて、オンライン会話では、目標の達成が難しく、話し合いにかかる時間が長く、会話の満足度が低いことが報告されています。やはり、活発な議論が必要になるような重要なテーマについて話し合うときには、オンラインは不向きだといえるでしょう。

 英国では、48人の大学生を対象に、初対面の同性の相手と1対1のペアで会話をした後に、相手に対してどのような印象を抱くのかを調べました。学生たちを半分に分けて、24人が対面、もう半分の24人がオンラインで会話する条件で行ないました。相手の思考を読むようなカードゲームをペアで行なった後に、相手に対する印象を問うアンケートをとりました。

 その結果、対面に比べて、オンラインでは、相手に好意的な印象を持たず、賢いと感じなかったという回答が多かったことが報告されています。このように、対面とオンラインでは、相手に抱く印象にも違いが現れてくるのです。


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