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水野美紀 例え雨合羽がパンツだけでも、自分は濡れても我が子は濡らさぬ…雨と親たちの戦い

 42歳で電撃結婚、翌年には高齢出産。女優・水野美紀さんが“母性”ホルモンに振り回され、育児に奮闘する日々を開けっぴろげにつづった子育て奮闘記『余力ゼロで生きてます。』(2019年11月、朝日新聞出版)からの記事。今回は雨に備える親の努力と苦労についてお届けします。さらに子育て奮闘記第二弾『今日もまた余力ゼロで生きてます。』も好評発売中! こちらもお楽しみに。

水野美紀の子育て奮闘記『余力ゼロで生きてます。』(2019年11月、朝日新聞出版)

 雨だ。

 ママたちは天気に敏感にアンテナを張っている。装備が増えるからだ。

 子供を抱っこして、びしょ濡れで移動しているママを見たことがおありか。ないと推測する。それは、ママがアンテナを張って、

「あめ……来るわ!」

 と事前に察知して、しっかり武装しているからである。

 私もママチャリのチャイルドシートとカゴには常にカバーを装着し、保育園バッグの中には子供の雨合羽、玄関には大人用雨合羽を準備している。

 我が子との移動では、傘をさすという選択肢はない。傘で片手を塞がれては、子供と荷物を抱えられない。ベビーカーだって、片手では押せない。

 少し前なら抱っこ紐で傘、という選択はあったが、10キロ超えの現在、それで保育園まで送り届けると、あちこちにダメージを受ける。

 だから、母になってから私は、初めてマイ雨合羽を買った。

 雨の日の保育園の送り迎えの選択肢は3つ。

 ママチャリ
 ベビーカー
 車

 一番大変なのはチャリだ。

 チャイルドシートにカバーをつけてあっても、子供に雨合羽を着せてから乗せる。保育園の駐輪場には屋根がないから、降ろす時に濡れてしまうのだ。

 玄関で我が子にカッパを着せ、自分も着込み、長靴を履いて、まずは我が子を玄関でちょっと待たせて、荷物だけ先に積む。

 それから我が子を抱えてシートに乗せる。

 保育園まで移動して駐輪場で我が子を降ろし、建物入り口でカッパを脱いで、脱がせて、拭いて、畳んで、我が子を預けて、建物を出て、カッパを着込んで、再びチャリで戻る。

 ちなみに、カッパはパンツもはかないと、漕いでいる間に膝がびちゃびちゃになる。

 ああ、書いているだけでも面倒くさい。

 雨の日の送り迎えは大仕事だ。

 カッパって、脱ぐ時に結局、あちこち濡れるし。

 一度雨の装備をうっかり忘れて、お迎えに駆けつけてしまったことがあった。

 仕事先から保育園に向かう途中に雨が降りだした。保育園に到着する頃にはもう本降り。

 私は傘も持っておらず、保育園にはベビーカー。雨カバーなし。

 焦った。

 保育園近くのコンビニに飛び込んで、雨合羽を探したところ、子供用のものはないが、大人用の雨合羽を見つけた。

 それとビニール傘を一本購入して、保育園へ。

 ベビーカーにはひさしがついているから、それがある程度は雨を防いでくれる。

 大人用の雨合羽で足先までくるんで乗せれば、何とか濡らさずに帰れるだろうと思った。

 玄関で買ったばかりの雨合羽を袋から取り出すと、それは上着ではなくてパンツだった。パンツのみ。

 痛恨のミスである。

 仕方がないのでそのパンツを我が子に履かせて、脇の下まで引き上げて、ひさしを降ろし、さらに傘でカバーしながら必死に帰宅した。

イラスト:唐橋充

 それからは、天気予報アプリを入れて、しっかりチェックするようになった。雨雲レーダーで雨雲の大きさや動きもチェック。送り迎えの時間にさえ降らなければいいのだ。

 だから、朝起きて雨が降っていたら、すぐに雨雲の動きをチェック。10分後に止みそうならば10分ずらして出掛ける。

 私一人でふらっと出掛けるなら、

「あら、やんだわ」

 程度に思うだろう。

 しかし、バタバタと大変な準備をして出かけた途端にやんだら、

「嘘だろおい!!!! ちっきしょーーーー!!!!」

 と空に向かって叫びたい気持ちになる。

 逆もしかりで、

「あら、降ってきたわね」

 なんて冷静じゃいられない。

「いやあああああああ!!!! やーーめーーてーー!!!!!!」

 と血眼でチャリを漕ぐ。

 もうちょっと大きくなったら、一緒に傘を差して、歩いて登園できるようになるだろう。

 そうなったらそれも楽しそうだな、と思う。

 でも今はまだ、雨が恨めしいばかり。

 今朝は夫が、車を出してくれるというので本当に助かった。

 夫が我が子をチャイルドシートに乗せてくれて、私は荷物を持って、我が子の隣に乗り込んだ。

 とたんに固いものが背中にぶつかって「ぎっ!!!」と声が出た。

 庭の柵をDIYしようと夫がホームセンターで購入した材木が積んであって、後部座席の方に突き出していたのだ。

「あ、そうだごめん、それ降ろすわ」と夫。

「今日雨だし、明日は晴れるみたいだから明日降ろせば?」
「でも、雨の日に降ろしても、ぶつけたとこは腫れるだろ?」

「腫れる」と「晴れる」とをかけて、うまいこと言ったとしたり顔だ。

 いつもならイラッとしそうなもんだが、今朝に限ってはまったくしない。

「うまい! 上手いこと言った!」

 と返すと、不安そうな顔を返してきた。

 なんでだよ!(さまーず三村さん風に)

水野美紀(みずの・みき)
1974年三重県生まれ。女優、作家・演出家。87年芸能界デビュー。2017年第一子を出産。映画「踊る大捜査線」シリーズ、ドラマ「探偵が早すぎる」シリーズ、テレビ番組「突然ですが占ってもいいですか?」、舞台「ベイジルタウンの女神」。舞台では脚本・演出を担当、自身で演劇ユニット「プロペラ犬」も主宰している。他にも多数の出演作があり、CMにも出演するなど、幅広いジャンルで活躍し続けている。また、何気ない日常をユーモラスにつづったエッセイ集『水野美紀の子育て奮闘記 余力ゼロで生きてます。』も好評を得ており、続編が9月20日に発売予定。その他の著書に、『ドロップ・ボックス』『私の中のおっさん』『プロペラ犬の育て方』がある。

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