猫、旅立ち

7年一緒に過ごした猫が、突然旅立った。

20日前、突然後ろ足がふらつき、続いて前足も立てなくなり、前後両足の麻痺となると腫瘍が疑わしいということで大がかりな検査を受けた。MRI検査。その結果、悪いところ(原因)は見当たらなかった。けれど後ろ足の麻痺は続き、肉球の色も明らかに変色していた。かかりつけ医の見立ては「血栓症」。

猫の血栓症は、心臓由来がほとんどで、血栓が詰まると激痛が走ってのたうちまわり、明らかな異変が見られるという。しかし、これまで痛がる様子はなく、先般の検査や追加受診した検査でも心臓に大きな原因は見当たらなかった。そこで、血栓が発症したと見られる部位をさらにエコーで検査してもらうと、尻尾の手前あたりに3センチほどの長さにわたる血栓が確認された。猫ではほぼ見られない、犬のような血栓とのことだった。

週末から抗血栓薬を投薬し、少しでも栄養をつけてもらいたくて、注射器様の器具で給餌も始めた。一緒に頑張ろう、元気になるから、と。けれど、数時間ほど所用で外出した間に、容態が急変した。帰宅すると、別の猫が異様な声でないていて、その猫がいる場所で異変を訴えていた。最後の力を振り絞って、ないて、反応してくれて、私の服をしっかりと噛んで、そして力尽きた。あの場所で、苦しみながら、待っていてくれた。そう信じたい。けれど、一人で苦しい思いをさせて本当にごめんねという気持ちで、胸が張り裂ける。

なぜ外出したのだろう。たいした用事ではなかったのに。

どうしてあの場所に寝かせたままにしたのだろう。好んだ場所だったとはいえ。どうして。取り返しのつかないことをした。悔やんでも悔やみきれない。

5歳男児は「お母さんがまた何かおかしな精神状況になってる」と感じたのだろう。近寄らず、ひたすらテレビや絵本を見ている。私が「(構ってあげられず)ごめんね」と言うと、「ごめんねは言わなくていいよ」「ごめんねを言うなら、XX(猫)でしょ? 」「ごめんねって言った?」と言う。私がひたすら猫に謝っていたからだろうか。「ごめんねって言ったよ」と言うと、「そらのうえにいっちゃったんだね」と。涙が止まらなくなった。そして、ふと「虹の橋」という言葉を思い出した。

「動物はね、お空に行くときに虹の橋を渡っていくんだって。きっとXXも虹の橋を渡ってるかな」と言うと、「にじのはしってどうやってわたるのかな?今度さがしにいこう。XXに会いに行こうよ」と言ってくれた。言ってくれた、というのが正しい表現かわからないけれど。

落ち込んでいる私を救ってくれた猫だった。うちに来て2年後、子供が生まれ、その後の5年近くの間、なかなか従来ほどには構ってあげられなかった。食事の好みがうるさくなり毎日にゃーにゃー怒ってきたり、毎日朝早く頭を叩かれて起こされたり、腹が立って辛く当たってしまうことがままあった。どうしてあんなことをしたんだろう。どうしてもっと優しくしてあげられなかったんだろう。後悔ばかりが押し寄せるけれど、後悔は先に立たない。本当にごめんね。

きっとずっと「ごめんね」と思い続けるけれど、その何百倍も「ありがとう」と言おう。どこかの家で暮らしていたところを、何らかの事情で置いてきぼりにされて、路上で生活していた君。出会えて本当によかった。おかげで、私の人生は、ふかふかに、豊かになった。いつもふんわりとしていたあなたの毛並みのように。ずっとそのふわふわを触っていたいよ。行かないで。