見出し画像

電子音楽ミニコラム その1 Oscillations by SilverApples

おはこんばんにちは(古。久しぶりの更新で最早誰も見る人なんかいないんだろうなと思いつつ不定期に一つのバンドで一つの曲を挙げてつらつらと諸々を解説するコラムのようなものを書こうかなと思います(続くかどうかわかりせんが)。今回取り上げるのはSilver ApplesのOscillationsです。


ときは1968年、モーグ博士が名機ミニモーグを開発する二年前。まだ、研究室で箪笥のように積み上げられたモジュラーをいじるか、磁気テープを切り貼りすることでしか電子音楽が作れなかった時代に、電子音楽をロックンロールに取り入れ、ライブ演奏を行ったユニットがいた。彼らの名前はシルバーアップルズ。彼らは、あらかじめチューニングしておいたいくつもの発振器に電鍵を繋ぎ、さらにその発振器をフィルターやファズ、リバーブなどのギター用のエフェクターにつなぐことで、音色を作り、そしてドラムのリズムに乗せて電鍵をクリックすることで発振器を「演奏」したのだ。このバンドはもともとは典型的なロックンロールのバンドだったが、リーダーであるシメオンコックスが、ある友人の家で発振器をいじったのをきっかけに、電子音をロックンロールに取り入れることを目指して発振器をピーピー鳴らしまくった結果、次々とバンドのメンバーが離脱(現代の電子音フェチの私ですら時たま冷たい目線で見られるのだから、世の中のほとんどの人がまだシンセサイザーのシの字も知らない60年代では致し方ないことだろう)。そしてついにドラム担当のダニーテイラーだけが残り、彼らはオシレーター担当とドラム担当のツーピースバンドという後にも先にもない形態になり、シルバーアップルズと名乗るようになったのだ。そう、彼らの音楽はドラムと電子音と歌声のみで構成されている。コックスはライブの際、リアルタイムで9つものオシレーターを含むエコー、ファズエフェクター等の大量の機械を制御するために、両手両足、挙句の果てに額まで使って、電鍵やペダルを制御したという。その音色は現代のシンセサイザーを知る私たちからすれば非常にプリミティブなものだが、同時にそれは唯一無二の音色である。コックスの電子音への果てしないラブコール、音色の追求の賜物である。新たな音色、新たな音楽を追求することそれ自体の楽しさ、それらが結晶してできたのがシルバーアップルズの曲なのだ。また、今の観点からすると、オシレーターのいかにも「電気」な音は逆に新鮮で、心地よい。
ちなみにシルバーアップルズは案の定当時はあまり売れず1070年に解散したが、現在では再評価され、90年代に再結成。その後2005年にダニーテイラーが亡くなった後もシメオンは活動を続けた。この"Oscillation"も2019年にリアレンジヴァージョンがリリースされた。しかしコックスが2020年に亡くなったため、現在は活動していない。

↑復活後のライブの様子。技術の進歩のおかげでシメオンの機械類もすっきり(あくまで60年代当時と比べてだが)


参考文献:「未来の<サウンドが聞こえる> 電子楽器に夢を託したパイオニアたち」(マークブレンド著 ヲノサトル訳)
wikipedia 「Silver Apples」https://ja.wikipedia.org/wiki/Silver_Apples
英語版も参考にしました。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?