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ちゃんと生きてますか?と問いかける歌

忘れられない歌がある。
1年前、紅白歌合戦を見ていたら聞こえてきた問いかけ。

「人生は苦痛ですか?」

続く言葉に、気づいたらテレビの真ん前に移動していた。
  
「人生は悲劇ですか? 成功は孤独ですか?
僕はあなたに あなたに ただ会いたいだけ
正しくなくていいから くだらなくてもいいから
僕はあなたの あなたの 本当を知りたいから」

平井堅さんの「ノンフィクション」だった。

涙がこぼれ、そうなんだよなぁとつぶやいていた。

□□□

その10日ほど前、中学からの友人が病気だと知らされた。

中学・高校が一緒で、一時期は「相棒」のように毎日一緒にいた。特に何があったわけではないが、ある日を境に急速に仲良くなり、週2日は部活をさぼって、街をうろついたり、夜遅くまで話したりした。いつも話したくて仕方がなかったし、出会えて本当に幸せだと思っていた。誰とでも打ち解けるように見えて、時折、人を寄せ付けない雰囲気を出す彼女が、複雑な家庭事情を少しずつ打ち明けてくれるようになるにつれ、もっと笑ってほしい、これからずっと幸せであってほしいと心から祈っていた。

病気という連絡を受けた翌日、久々に彼女に会った。顔色もよくて、いつもと変わらないように見えたが、1月下旬の手術で、半身麻痺や植物状態、さらには命を落とす可能性まであると告げられた。

彼女にとっても突然の出来事だった。25歳だ。お互い望んだ職業に就いて、社会に出たばかり。これから先、ずっと人生が続くことを疑ったことなんてなかった。

手術まであと1カ月。彼女に何ができるのか、何を伝えたいか、伝えられるのか。千羽鶴を折りながら毎日考えていた。大学では彼女が、就職では私が地方に行き、だいぶ長いこと会ってなかったんだな、と気づいて寂しかった。相変わらず大好きなのに、想像もしていなかった環境に置かれた彼女の気持ちが何も分からなくて、不安で悔しくてそばにいたかった。

その中で聞こえてきた平井堅さんの「ノンフィクション」。

「何のため生きてますか? 誰のため生きれますか?
僕はあなたに あなたに ただ会いたいだけ
人生を恨みますか? 悲しみは嫌いですか?
僕はあなたの あなたの 本当を知りたいから」

そうなんだ、私は昔も今も彼女にただ会いたい。
彼女のことをただ知りたい。

「覚悟も納得もいかない」と肩を震わせる恐怖。

現実感がわかないからと、毎朝起きるたびに診断書を見て味わう絶望。

今までほとんど言葉を交わしてこなかった父親が、声を出さずに涙を流す姿を見る切なさ。

「周りの人にいい気味だと思われてる気がする」というみじめでぐちゃぐちゃした抑えようない感情。

そんな生活の中にもある喜び。

全部教えてほしい。

明けましておめでとう、とともにその気持ちをLINEで送った。

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彼女は手術を無事に乗り越え、職場復帰もした。奇跡みたいなことだ。彼女が生きてること、自分が生きてることにあぐらをかいてるなと思うとき、私はこの曲を聴く。あの時の、彼女を失うかもしれない恐怖や伝えたい気持ちを探す切実さを思い出し、ちゃんと生きてるかな?と自分に問う。

生きて、大切な人と理解しあって、笑って過ごせるって、貴いことなんだな。どうかその気持ちを忘れませんように、大切な人がつらい時にそばにいられる存在でありますように、と思っている。





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