俺独自のゲームワールド[俺独ゲー]1-5

「今のは、時空じゃ。」
「は?どういう事?」
「時空の魔人。カラルト・バルクライじゃ。」
ゼンじいが呟いた言葉は聞き馴染みが無かった。
「何?時空の魔人って。今の人が時空の魔人っていうのなの?」
「そうじゃ。こんなところではなんじゃ、一旦ハマリングの街に入るぞ。」
ハマリングの街に「入る」という言い方をしたのは、街の周りに大きな壁があり、門をくぐらないと入れないからだ。門は思っていたより大きく30メートル位の高さが横に広がっていて、街をぐるりと囲んでいた。
門の前には他の街から来たらしい荷物をたくさん持っている人々が並んでいた。俺達はその列の後ろに並んだ。
「なあなあ、さっきの魔人っていうのは……」
「(しっ!あんまりその名前を人が多いところで言うんじゃない!!関係性を疑われたら狙われるかもしれんのじゃぞ!)」
「(は?どういうこと?そんなに魔人って危険なやつなの?)」
「(大体は危険な奴じゃ。まあ、あとでわしの家で続きを話すからちょっとだまっておれ!)」
「(はーい。)」
列に並んだ人達が少しずつ前に進んでいく。すると俺達の前で並んでいた若い男が門番に止められた。
「おい!この宝の山はなんだ!盗んだ物ではあるまいな!」
「え?いやいやいや!こりゃー洞窟の宝箱から手に入れた宝ですよ!ほら!宝箱もあるでしょ!」
荷車に載せていた布をとると、中から宝の山が見えた。金銀財宝ざっくざくで欲しくなる。宝箱を見せている若い銀髪の男は焦りながら説明している。
「本当か?最近ある村で窃盗事件が多発していてその犯人は若い男だって話なんだが。お前じゃないのか?」
「え!!そんな!その事件は知りませんが、それだけで決めつけるのは良くないと思いますよ!だって若い男なんてそこらじゅうにいるじゃないですか!ゾードル村の人も酷いなぁ!その犯人の男だって何かしら悲しい理由があるでしょうに…ねえ!門番さん!」
超早口で言っていて聞き取り辛かったが、なんかおかしな点がいくつかあった。
「よし、連行しろ。」
「なんでーーー!!!??」
俺も連行する理由が分かった。だって……
「俺はある村としか言ってない。それなのにお前はゾードル村とはっきり言った。しかもこの事件を知らないならゾードル村で事件があった事自体知らない筈だ。」
「あ。」
やっぱりな………。
「うわーーー!!許してくれ!!借金が溜まって、金が無かったんだーー!!ほんの出来心で!!この街で換金したら返すつもりだったんだよーー!!」
開き直りやがった……。
「換金したら換金所に宝は渡るから村には返せないぞ!」
「そうなの!?」
アホすぎる……。
うぎゃーーー!!と言いながら門番に検問所へずるずると引き摺られながら連れて行かれた。何だったんだ……
「次の方どうぞー」
俺達は別に怪しい物は持ってないから良いけど、びっくりしたな……
「お二人はどうしてこちらに?」
「わしはここに家があるから帰ってきただけじゃ。で、こいつはハマリングで装備を整えたりするらしい。」
「街で道具を買い揃えたりするつもりです。」
「そうか、それにしても君の服装は見た事がないな?貴族の出だったりするのか?」
「え?俺の服?」
俺の服は家で過ごしてたからジャージ姿だ。確かにこの世界では異質な服装だ。
「いや、故郷で普通に売ってる服です。」
「そうか、初めて見るから怪しんでしまったが、ただの服なら問題ない。ん?このにわとりもどきは誰かのペットモンスターか?」
「コォン。」
「ああ。わしの仲間じゃよ。」
「そうか、分かった。入ってよし。」
こうして無事に街に入れた。モンスターだから、にわとりもどきは警戒されると思っていたが、ペットモンスターは意外と一般的らしい。街に踏み入るとさすがゲームの世界だ。街の中は高い家が密集しているところと、広場を挟んで背の低い家が密集しているところに別れている感じで、日本ではあまり見ない形の家がたくさんあった。ボロボロの家があるわけでもないし、高級そうな家があるわけでもないという色とりどりの街並みでとても賑やかな街だ。街の奥には大きな建物がありその前には人がたくさんいて、楽しそうに話していたり、騎士や、魔法使いがたくさん歩いている。
「うぉぉおおーー!!!広ーーい!!!ゲームに入ってきた実感湧くーー!!なあなあ、あのでっかい建物は何の建物だ?」
「あれはギルドじゃな。冒険者登録したり、ギルドに所属してボスモンスターの討伐に行ったりクエストを受けるとこじゃな。」
「うぉおお!後で行ってみよーっと!」
「じゃあまず、わしの家に来てくれ。さっきの魔人について話すからのぉ。」
ゼンじいは背の低い住宅街の方へ歩き出した。ゼンじいが言うには、背の低い方は西地区。高い方が東地区らしい。西地区に入ると子供達が追いかけっこしていた。
「あー!ゼンじいだ!おかえりなさい!」
「おお!タリンか!ただいま帰ったぞ。」
「知り合いの子?」
「ああ。この地区の人はみんなわしの友達じゃよ。」
タリンと呼ばれた子や周りの子達はゼンじいにニコニコしながら手を振って走って行った。
ゼンじいは好かれてるんだな。
「さあ、着いたぞ、わしの家じゃ。」
「え?ここ?でっか!」
この地区の家は背が低い建物が多いと話したが、ゼンじいの家は横に広かった。お屋敷とも呼べる和風旅館みたいな家は現実でも2、3軒くらいしか見た事がない。
「さあさあ入れ入れ。」
「お、お邪魔します……。」
屋敷に入ると、ドタドタと足音が聞こえて来て、若い男性が廊下を走って来た。俺と同い年くらいの着物姿の白髪の青年だ。
「じいちゃん!?帰ってくるなら連絡しろっていつも言ってるだろ!!まだ何も片付けてないんだよ!」
「おお、すまんの。気分で帰りたくなるんじゃよ。」
「気分って何だよ!ん?この人は?」
「ああ、森でバウラドッグに襲われた時に協力して戦ってくれたタニグチケイゴじゃ。」
「ええ!?バウラドッグに!?それはそれはうちのじいちゃんが世話になりました!」
「いやいや!こっちも助けてもらってばかりだから大丈夫!」
「僕はゼンマキの孫のタマキです。ケイゴさん!ほんとにバウラドッグから逃げられて良かったですね!」
ゼンじいの本名ゼンマキっていうんだ。それよりも、
「いや、逃げたんじゃなくて倒したよ。」
「ファっ!?」
余程驚いたのか固まった。まぁ確かにバウラドッグを倒せたのは奇跡だよな。
「まぁタマキは置いといて、先程(の魔人)の話をしよう。わしの部屋に来い。」
タマキは固まったままだったが、部屋へ移動した。
部屋に入るとゼンじいは話を切り出す。
「では、魔人とは何か教えてやろう……。」

1-5 完

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