俺独自のゲームワールド[俺独ゲー]2-7

「はぁ〜、なんでこんなことに…」
カン、カン、カン、カン。
俺たちは今、マナラ洞窟というハマリングの街付近にある洞窟で鉱石を掘っている。だいぶコウモリは倒したので、クエスト(コウモリ討伐)自体は完了している。だがしかし、俺たちは別のクエスト(借金返済)の為に鉱石を掘りまくっているのであった。
「ごめん、俺が薬品ぶちまけたからな…ほんとにごめんよ…」
「気にしないの。誰にでも失敗はある物なのよ。」
「(いや元はと言えばミランが原因なんだが…)」
キースがいつにも増して凹んでいる。そうとう引きずるタイプのようだ。でも鉱石を知る機会もできたし別に気にしてないから良いんだけど、本人が凹んでいるのでそっとしておこう。
「なあキース、別に俺も気にしてないから大丈夫だよ。そんなことより見ろよ!この鉱石紫色に輝いてるぞ!なんかに使えるのかもしれないぜ!」
「それはアメジストね。」
「アメジスト!?(こっちの世界にもあるんだ?)」
俺は普段からゲームをしてたからある程度の鉱石の名前は知ってる。何に使うんだろ?
「確か幻惑魔法を発動する呪印を付与できるから使えるわね。というか鉱石のほとんどは魔法関係のものに使えるものばかりよ。」
そう言って鞄にそそくさとアメジストをしまうミラン。あれ?いつの間に盗られてた?
「あのなぁ、今は借金返す為に鉱石集めてんだろ、鞄から出しなさい!」
「いーやーだぁー!幻惑魔法使いたいぃ〜〜!」
ミランは頑なにアメジストを離そうとしない。だが、確か現実の世界でのアメジストの金額は数十万した気がする。珍しいのなら売って足しにした方が絶対に良い!
「ほら、はーなーせー!」
「嫌だって言ってるでしょーー!」
スポンっ。
「あっ。」
アメジストはケイゴとミランの手から飛んで、近くに空いていた穴に落ちた。
「あああ!!そんな!かねが!」
「嘘でしょ……幻惑魔法が…」
「言わんこっちゃない。」
――
すると突如洞窟内で悲鳴が聞こえた。
「ぎゃっーー!助け!助けてっ!」
「うわぁあ!!」
「ん?何だ?」
洞窟の奥からどこかの兵隊達が3人慌てて走ってきた。体には無数の切り傷があり、かなり痛々しい。何があったのだろうか。
「!!な、何があったんですか!?」
先頭を走ってきた兵士に聞く。すると、彼は顔を真っ青にして言った。
「あなた方も逃げてください!この奥で私たち王都騎士団の小隊長が異形の巨大モンスターに喰われてしまったのです!危険ですから早く!」
その時、後ろにいた残りの兵士が何か触手のようなものに足を掴まれる。
「ひっ、やばい!」
「しまった!」
「ダナカ!ナーカノ!」
その2人は一瞬で洞窟の奥へ引きずり込まれた。
「おい!逃げるぞ!」
キースが叫んだ。しかし俺とミランは動かない。
「おい!何してんだ?早く逃げないと俺たちまで捕まるぞ…」
「ぐっ…今連れてかれた人達を助けに行くぞ!」
「は!?何言い出すんだよ!今の見ただろ!?危ないから逃げないと…」
「じゃああんたは私達が連れていかれても逃げるのね?」
「えっ?助けるに決まってる!何言わせるんだよ。」
「でも目の前で知らない人が連れてかれても助けないんでしょ?」
「だってまだこの人達がどんな人達か知らないし…」
「でも仲間は助けるんでしょ?私達の事は知ってるって事?」
「うわーー!!悪かったから許して!怖かっただけだよ!お前らが捕まったら嫌だから、逃げようって言ったんだよぉー!」
「分かってるって。キースがそんなクズ人間だとは思ってないよ。」
キースの言い分も一理ある。危険なのは分かっているが、目の前で攫われて[はい、そうですか]とはしたくなかった。そして1人残った兵士に声を掛けた。
「怪我はないですか?」
「は、はい。で、ですが、私達のせいで危険な目に遭っているんです。あなた方にこれ以上迷惑は…」
するとキースが兵士に手を突き出して口を止めた。
「皆まで言うな。俺様達、[ケイゴ最強団]に任せて先に行け……」
キースは一瞬で切り替えてそう言った。
「何よ、そのダサい名前…」
「俺たちがその敵からさっきの人達を助けてきます。兵士さんは洞窟から出て、騎士団の方の増援を呼んで下さい。」
「わ、分かりました!後、さっき連れてかれたのはダナカとナーカノです。私はツカチキです。それではご武運を!お気をつけて!!」
そう言って出口に向かって走り始めた。
「よし、俺様達も行くか…」
「ちょっと待って。」
「ん?何だ?」
「俺のスキルが増えてる?」
・超音波
「超音波?何だこれ?」
「超音波ってコウモリのスキルじゃない?」
詳しく見てみると、暗い所や壁の裏側の生物の位置が分かるようになるスキルらしい。良いスキルを手に入れられた。
「よっし。これをうまく使うか。行くぞ2人とも!」
「「応!!」」

―――洞窟の外では
「はっ、はっ、騎士団長!報告が!」
「ん?………ラバラクスはどうした。」
騎士団長と呼ばれた男は大勢の部下に囲まれて報告に戻ったツカキチを見やった。
「私と共に調査に行ったラバラクス小隊長が巨大なモンスターに喰われ、残りの2人も連れ去られてしまいました…!増援を要請します!」
「…何!?」
「洞窟内にいらっしゃった冒険者の…[ケイゴ最強団]という方々が代わりに討伐に行ってくださいました。」
「…ケイゴ…!!そいつぁ、今話題の勇者候補じゃあねぇか…!よぉし!ワイらも向かうとするかい!行くぞ!」
「「「ラジャー!サットマー騎士団長!」」」
サットマー騎士団長は王都騎士団第3団長。糸目に細身で頼りない外見だが、とても部下に慕われている。
「ケイゴだと……?まさかあの時の…?」
その中にはケイゴを知る人物がもう1人いた。
――――
洞窟を歩いていると、超音波スキルが何かを察知した。
「っ!!奥に何かでっかい奴がいる!気をつけて進むぞ!」
「「了解!」」
少し進むと広い空間に出た。その中心にいたのは超巨大なスライムだった。そこらじゅうに触手を伸ばし、至る所にへばりついている。そしてその中の2本の触手にさっき連れてかれたダナカとナーカノが捕まっていた。
「あっ!いた!助けるぞ!」
「[乱魔法]!!」「[乱魔法]!!」
俺とミランは同時に乱魔法を撃つ。俺は電気、ミランは棘をマシンガンのように撃った。しかし、電気は当たったが棘は貫通した。
「!!こいつ電気が効くみたいだな!でも物理が効きにくそうだ。キースはあの2人を頼む!ミランは援護を!俺があいつに攻撃を与える!」
「分かった!」
「任せて!」
俺はスライムの顔の前に飛び上がり、口を大きく開けた。
「うぉおおおおぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!!」
その途端、[超音波]スキル発動!その名も
「[震練](マグエチュード)!!」
「ぶにゅにゅにゅにゅにゅにゅにゅ!!!!!」
激しい揺れが巨大スライムを襲い、触手から気絶したダナカとナーカノが落下する。そこでキースがキャッチして落下を防ぐ。その時にスライムが倒れ込んだが、ミランの魔法薬[少しだけ弾くヨー液]によって、スライムにのしかかられずに弾かれたスライムは反対側に倒れた。
「ナイスだ!キース!ミラン!」
「おうよ!この2人は気絶こそしてるが俺様の華麗なキャッチで怪我一つしてないぜ!」
「おっ!良かった!」
「ねぇ、助かったのはいいけど一つ気になること言ってもいい?彼ら、怪我一つしてないけど魔力が全然残ってないわよ?」
「えっ?なんでだろう?対抗する為に魔法を使ってたとか?」
「スライムに吸われたのか?」
「それとも俺に吸われたのかだなぁ?」
「「「!!!!?」」」
すぐ真横に何者かが座り込んでいた。気配が少しも察知出来なかった。ボロボロのローブを纏い、黄緑のボブヘアーに目の下には大きなくまがあった。明らかに普通の人間ではない。
「誰だ!!」
「俺?俺かぁ?俺はなぁ…………[溶解の魔人]ベルボロス・アン・ダイクルズだぁ。溶かし甲斐がありそうな餓鬼どもだなぁ。誰から殺るかぁ?」
「「「!?」」」
また魔人か!?なんでこう俺の前には魔人がこんなにも来るんだよ!!もしかしてこの巨大なスライムも仲間なのか!?
「お察しの通り、俺の能力で作り出したスライムだぁ。俺はここで洞窟に入ってきたやつの魔力を奪って力を溜めてんだぁ。邪魔ぁする気かぁ?」
「魔力を奪う?そんなことして何をする気だ!!」
「あぁ?教えるわけがねぇだろぅが?魔人には魔人の目的があんだよぉ。邪魔すんならぁ殺すぞ。」
殺気……!!
「キース!」
「あぁ![逃走本能]!!」
ベルボロスが全身から液体をじわじわ出したと思った瞬間に俺とキースが逃走本能を発動し、液体が飛んできたのを見てかわす。
「ミラン!なんでもいい!魔法を!」
「[乱魔法]!!」
ミランの魔法が構えを解いたベルボロスに直撃する。岩の塊をぶつける魔法だ。
ベチャッ!
だが岩が直撃した途端。ベルボロスの身体が液体状になって飛び散る。
「なっ!?」
「無駄だぜぇ〜。俺の身体は液体に変質できる。物理攻撃は効かねぇ。でもお前らは喰らうんだよなぁ。」
「は?何を、………っ!!!」
「がっ!いったたた!!」
俺とキースの服にかかった液体が服を溶かし、素肌に付く。すると付着したところがだんだんズキズキしてきて火傷のような痛みがやってきた。
「俺の溶解液は無機物を初めに溶かし、その後に人体を溶かしていく。その液体を一度でもくらえば全身が少しずつ溶けて何も残らなくなるぜぇ。へっへっへっ。」
「っ!ミラン!お前だけでも撤退しろ!お前だけかかってないから、今なら間に合う!」
「大丈夫だぁ。魔法使いの魔力は強すぎるから興味ねぇ。邪魔だからいなくなってくれた方がマシだぁ。」
「だとしても逃げるなんて……」
突如ミランが何かに掴まれて空中に飛び上がった。
「おうおう、来たかぁ。女はお前に任せるぜぇ。」
「仲間か…!」
顔だけ人間で鳥の羽を全身に生やし、足も鳥になっており、強力な力でミランを軽々掴んでいる。ハーピーのような見た目だが、ハーピーは女性である。こいつは男だ。
「このレディは私が処分してこよう。」
「ちょっ!待て!ミランを返せ!」
「安心しろ。君たちの見えない所で殺しておく。」
「ケイゴ!キース!」
そう言ってミランを掴んだまま飛び去ってしまった。
「くそ!早く溶解の魔人から離れないと…!ミランを助けに…」
「ケイゴ!!」
そう言って何かの薬をかけてきた。
「…!傷が治っていく…!」
これは高くて一つしか買えなかった回復薬だ。まさか…!キースがこっちを真剣な目で見ていた。
「この2人を頼む。まだ溶解液は付いてない。魔力はないけど軽傷だ。この2人を洞窟の外に運んで、その後はミランを助けに行ってくれ。」
「ちょっと待て!キースを置いてけねえよ!お前も一緒に逃げないと……」
「誰かが魔人を止めてないと兵士2人を連れて逃げられないだろ。」
「でも…!」
「リーダーがいなくなったらまずいだろ?早く行け!」
「………分かった、すぐに助けに戻るからな!」
俺は2人の兵士を抱えて逃げる。
――
「へっへっへっ。馬鹿が1人で残ったかぁ?痛みで身体を上手く動かせないだろうに、何故あいつ1人だけ逃したんだぁ?」
「俺様の仲間で、初めての仲間で、リーダーだからだ。他に理由はいらねぇ。かかってこい!」
「威勢がいいじゃねぇか!全身溶かしてやるよぉ〜!」

2-7  完

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