俺独自のゲームワールド[俺独ゲー]2-5

「詰みだ。クククッ。」
エルガゴームはミランとキースに向かって不敵に微笑んだ。
私の魔力はさっきゴーレムに撃ちすぎてほとんど残ってない…。キースの怪我は大した事ないけどこの数の敵を相手にできるかは分からない…。そして1番の問題はケイゴね…頭から血をかなり流してる。このまま長い時間放置は危険ね…。
「貴様ら、死ぬ覚悟は出来てるか?一思いに殺してやろう。どんな風に殺してほしい?周りの奴らに原型が無くなるまでひねり潰してもらうか?俺が直接手を加えてやってもいいぞ?焼死か?溺死か?落下死か?圧死か?望んだ殺し方で殺してやる。」
「…っ、余裕そうね。」
「てめぇ…、人の心がねぇな!!」
「そりゃあそうだ。俺はヴァンパイアの王でもある。元から人間じゃねえ。さあ、そろそろ話すのも飽きてきた。どんな死に方がいい?選ばせてやる。」
エルガゴームは冷たい眼差しで見下ろしてくる。だがキースはその余裕に納得がいく。こいつから流れ出ている魔力はジライゲンと同等かそれ以上だ。まともに戦ったら死ぬ。キースは直感で悟った。
「俺様達は死ぬ気はねぇよ!ミラン!逃げるぞ!」
「そうか…じゃあ死に方はこっちが決めさせてもらう。」
フッ
「死ね」
バシュッ
ミランは一瞬の出来事過ぎて何が起こったのか分からなかった。突然キースの横にエルガゴームが現れ、キースの腕を飛ばしたのだ。
「………え?…………あああああっっっ!!!がああああ!!腕がぁ!うが腕腕があああ!!」
「キース!!!!」
キースの腕はキースの足元に落ち、腕の断面からは血が噴き出している。見ていられない重症だ。ケイゴも重症だが、それ以上にキースが重症を負ってしまった。
「死ぬ気はないだと?貴様らが死ぬ気なくても死ぬ運命は変わらない。痛くない殺し方をしてやろうかと思っていたがやめだ。啖呵をきるんじゃなかったな小僧。」
「痛い痛い痛い痛い!!!ぎゃあああっ!!」
「キース!傷口を抑えて!出血が止まらない!」
私の魔法で氷が出れば出血は抑えられるかもしれない。でも「出れば」の話だ。乱魔法の弱点である特定の魔法が出せないところがこんな所でも足を引っ張ってくる。
「小娘、哀れだな。魔法使いでも仲間の事は助けられないか。仲間を助けられず絶望し、その直後で自分も惨めに死ぬ。[絶望死]だな。クハハハハっ!!笑えるな!」
「「「「「ハハハハハハハハハハ!!」」」」」
「「「「「ハハハハハハハハハハ!!」」」」」
「「「「「ハハハハハハハハハハ!!」」」」」「「「「「グシャッ」」」」」
「何だ?」
突如周囲にいたモンスターの笑い声が何かが潰れる音によって掻き消された。
「誰?」
そこにいたのは水色の長髪の若い男だった。
「…………っ!きさ」
エルガゴームが叫んだかと思うとエルガゴームの動きが止まった。まるで動画の停止ボタンで止められたように。
「!どうなって…」
「君、怪我はないかい?」
「!?は、はい。」
瞬きした時にはその人は私の目の前にしゃがんでいた。
「そこの彼にはもう処置してある。安心していいよ。心配なら後で病院に行ってねー」
「えっ?あれっ!?腕が!?」
キースは気絶して倒れているが何と腕がくっついているのだ。しかも周りにあった血も一滴も無くなっていた。
「ど、どうなって…」
「あーー、あともう1人気絶してる彼、いるだろ?」
「えっ、はい。」
「彼に伝えておいてくれるかな。
君に期待してるから、もっと強くなってくれよ。
ってね。」
そう言った途端、エルガゴームの体が動いた。
「まは!……っ?何が起きたんだ。」
「ははははっ。何が起こったか分かってないみたいだね。君のことを[停止]してただけだよ。」
「やっぱりそうか…貴様[時空の魔人]だな。」
「おおーっ!まさか[殺戮の魔人]エルガゴーム・マサークルさんに知ってもらえてるとは!照れちゃうねー。」
「貴様っ!!俺をコケにするのも大概に」
「当たらないよー。」
「しろっ!!っ!?何っいつの間に!?」
ミランは今のやりとりを目を離さずに見ていた。しかし時空の魔人が攻撃した瞬間だけ見えなかったのだ。あの青年が時空の魔人だったこと以上に目に見えている戦いが理解できなかった。
「ごめんねー、僕の能力は強過ぎて何が起きたか分かりにくいよねー。ちなみに今のは僕の体の時間を戻してさっきいたところに瞬間移動したんだけど、理解できる?」
「貴様ぁ…!!」
さっきまであんなに恐ろしかったエルガゴームが何もできずに攻撃を受けている。それほど時空の魔人が強いということなのだろうか。いや、ちょっとまって、何で時空の魔人は私たちを助けてくれるのか…さっきケイゴに期待してるって言ってたけど知り合いなのかしら……
「舐めるなよ時空っ!!」
「だから無理だよ。」
「ぐあっ!」
「[遅時](スロータイム)」
「な……に……を………し………た…………?」
「[自動運天](オート・オルビット)」
「ぐ…………あ……………!!!!!」
時空の魔人が指さしている軌道に沿ってエルガゴームが飛ばされ、近くの大木に激突した。
「つ、強い……。」
「お、お嬢ちゃん尊敬しちゃった?いいよー尊敬どんどんしちゃっていい噂立ててねー。」
「くっ!貴様ぁ。……。」
「どうする?まだ殺る?死にたくなければここからいなくなればいいんじゃないかい?」
「…………………ちっ、分かった。分が悪かったな。帰るとするか。貴様ら、行くぞ。」
「…はっ!」
エルガゴームと周りにいたモンスター達は飛び上がって姿を消した。
「はぁっ、はぁっ、たす、助かった……。」
ケイゴとキースを見ると、怪我はどちらも治っている。時空の魔人が処置したと言っていたが、ここまでとは。
「彼らに処置したのは[逆時間](アップサイドダウン)、彼らの体を攻撃喰らう前の状態に戻したんだ。」
「…」
「ただし、攻撃喰らった事実は変わらない。ダメージを喰らう前の体に少しでも回復魔法をかければダメージは無かった事になるよー。」
「えっ!じゃあすぐに病院に向かわないと!」
「じゃあ僕は帰るとするかなー。あ、あとこれこれ、[軽量化](ライト)!これで彼らが軽くなったから女性1人でも2人を背負えるはずだよー。じゃ!またねー。」
「あっ!助けてくれてありがとうございました!!」
時空の魔人は手だけを向けて少し振った。その直後にはいなくなっていた。
「何がなんだか分からないけど…早く2人を街に連れてかないと…って軽っ!紙みたいね!?これなら2人とも連れてけるわ!」
その後男2人を背負ってハマリングの街に帰ってきたミランは街の人から驚かれて「怪力のミラン」と呼ばれるようになるのはそう遠くない話であるが、そんなことは置いておいて病院に連れて行った。
――――
その頃、エルガゴームの屋敷では……
「ちっ!」
ボカァン!!
柱を殴ってヒビを入れた。
「俺の邪魔をしやがって!時空め!!なんだあの出鱈目な能力は!反吐が出る!!」
「エルガゴーム様に負傷がなくて何よりですよ。」
「黙れ!!!俺の殺戮を邪魔されたんだ!!あの場で1人も殺せなかったのが1番許せないのだ!!!許さん!!時空!!」
「………」
「まあ、ほっといてやりなよ。殺戮の魔人は今機嫌が悪いみたいだし。」
「し、しかし毒腐の魔人様…」
そう言ってエルガゴームの配下を嗜めている男は[毒腐の魔人]ザクス・カマラーダだ。彼はエルガゴームとお互いの支配している土地を侵略しないという中立関係をとっている。
「ちっ、もういい、下がれ。ベルジュ、ザクス。」
エルガゴームは周囲の壁を一通り殴って壊した後に言った。
「はっ。」
「…ああ。」
2人が出た後、エルガゴームは1人呟いた。
「次は確実に殺す。俺の殺戮を邪魔した男、時空の魔人と、俺の配下を殺した男タニグチケイゴ…!覚えたぞ……!」
そう言ってまた壁に拳をめり込ませた。

2-5  完

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