「これから」が必ずしもいい意味ではないんだと、あの日彼女は呟いた。

「#これからの仕事術」という題を聞いたとき、きっと彼女は思ったさ。

「これから」が必ずしもいい意味ではないと。

囲むように滲みてゆくように、「もっと」という言葉が彼女の耳をなぞる。「自分はダメだ」「もっとがんばれ」「自分を変えろ」と自分の心に鞭打つ彼女は、いつの日か、会社に来なくなった。仕事中にも溢れる彼女の涙に、僕は何度、見ぬふりをしたことだろう。

あの日の帰り道、雨上がりの匂いが霞む夜のこと。

「”これからの働き方”を世論が、正解と構成することに、苦しむ人もいるのだろうか」彼女はぼそっと呟いた。

「いつも優しい彼女だから、きっと遠くの会ったこともない誰かを思い、放った言葉なのだろう。」そんな風に僕は辿った。

…そう思い込もうとしていた。

本当は。

話の主人公が彼女自身であることに、薄々気づいていた。彼女が聞いてほしいと思っているだろうことも、察知した。伊達に営業の仕事はしてないさ。

けれど僕は彼女を、ほんの少しわかりながら、無視をして、他の奴に話を映した。

バツが悪いと思ったから。
面倒だと思ったから。
そんなん無視しろよと思ったから。

彼女はあまりに綺麗すぎて
僕はたまにイライラする。
いじめてやりたいと思う。
あっちにいけと思う。

僕はそんな自分を隠し、
彼女に一見、仲良くする。

彼女が心底優しくて、その分傷つきやすいことを知りながら。

きっと彼女ならこんなとき、
何のアドバイスもせず
ただただ聞いてくれるだろう。

微笑みながら。
頷きながら。

僕が話を止めるまで。

こんな僕が安らぐまで。

そんな彼女が会社に来なくなった。

「うつ」の一歩手前と、上長が呟くのを聞いた。

僕が最後に聞いた彼女の言葉は、

「”これからの働き方”を世論が、正解と構成することに、苦しむ人もいるのだろうか」

という台詞。

彼女と会えなくなった今
僕は心配のメールすら打っていない。

バツが悪いと思ったから。
こんな汚い僕に、なんの同情の言葉がかけられるかと思ったから。
少しめんどくさかったから。

…自分のせいだと知りたくなかったから。

彼女にもしもう一度会えたなら

この話を聞いてみたい。

彼女のもつ「”これからの働き方”」とはなんなのか？
どんな場面で「正解」を押しつえられたと感じたのか？
苦しいって、どんな気持ちだったのか？
支えになってくれる人はいるのか？

こんな僕にも、彼女は言葉を選びながら
きっと話してくれるだろうけど

もしかしたら彼女はその「正解」に合わせようと苦しむだろうと言い訳をして
やっぱり今日も、僕はメールを打てないまま

「#これからの仕事術」に自分を当てはめ順応して、
上手く生きようと思うのだ。

「#これからの仕事術」という題を聞いたとき、きっと彼女は思ったさ。

「これから」が必ずしもいい意味じゃないと。

でももし機会があれば僕は、伝えられたらいいなと思う。

「実は僕は、優しい君に憧れている。そんな君には、やっぱり笑っていてほしい。微笑んでいてほしい。だから君の見ている「これから」が苦しいのなら、新しい「これから」を探してほしい。」

彼女にとっての「これから」が、彼女の生きたいように、彼女の幸せにまっすぐなように、光り輝いていられることを、羨みながら憧れながら僕は心で君を見つめ、祈っているよ。