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正解が、ほしい。

思考がぐるぐる止まらなくなっていた。

それで、スマホをリュックに仕舞い、祖母を連れて親戚のうちへ、お施餓鬼にいくことにした。

何年に一度訪れる風流なおうちがあるのだ。

何年かに一度だからまるでぜいたく品を味わうようなものと脳が思っている。すぐに忘れられるだろうから、気が楽でもあった。

わたしが、毎度見るのは柊鰯。頭だけが残った鰯に柊の小枝を刺してある。一見不気味だけれど風情があり、玄関口から「いい時間が始まる」との予感をさせる。

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あらあらよく来たねえ。ん?杏ちゃんか?声ちゃんかね~!大きくなって、可愛いねえ。

「ありがとうございます」

いつもはお世辞に思うのだが、わたしはほっと、嬉しい、と思った。ご年配からしたら若いわたしが可愛いのである。

誉め言葉を素直に受け取る自分をひさびさに感じているうちに、祖母が人の家をすたすた歩きまわっているのは横目で気づいていた。

「わたし、お抹茶飲みたいわ~」

お兄さんの奥さんになぜ?

ずっと不思議に思っていたのだが、今日、わかった。昔の人は上下関係がしっかりしている、というのは嘘で、でたらめだ。

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「わ、すみません、ありがとうございます」

奥さんは、すぐに笑顔で「どうぞ~」と立ち止まったものの、一瞬でキッチンに戻った。

白いレースのかかったテーブルは、奥さんが40年愛用しているという夏用の一級品の器にたてたお抹茶と、娘さんに買ってきてもらったという”とらや”の「おもかげ」で彩られていた。テーブル全体が和になり、伊勢神宮に参拝したとき以上に、自分の生まれた国は日本であると思い知らされた。

わたしは不思議に思った。甘いもの嫌いな祖母が、おいしいおいしいと、”とらや”の「おもかげ」を食べている。

「とらやさんだけは戦時中にも小豆が入っていたんだ、軍事さんたちが食べる用でね。」と、祖母。

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いつもなのだが、今日も驚く。「天真爛漫」が誰より似合う祖母は戦時中に生きていた。

歴史もいっしょに味わいつつ、一人の人間の二面性に思いを馳せる。

いろんな人生がある。ひとつひとつを知るたびに、答えをさがす。わたしの人生の正解。わたしもいま一瞬、おばあちゃんになれたなら、迷わなくたっていいのに。思ってみたところで、彼らもそうやって生きてきたのだ。

ごちそうさま、と言い、部屋全体に、歴史をさがす。ひいばあちゃんが大事にしたタンスに、農協から貰った古時計。家具たちが、わたしに、おしゃべりしてくれたようだった。そんなに焦って仕事をさがすのやめていいよ~。女の子なのに家事だけじゃなく絵も文も嗜んでいて素敵よ~。

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祖母はお店の食料の調達にスーパーに言ったが、わたしは家に直帰した。今日はなにもせずのんびりしよう。

あれこれ「のんびり作戦」を練っているうちに、お茶をたてようと思い立った。

一級品をずっと愛用するおばあちゃんたちの教えと、節約を誓った昨日のわたしの狭間に立ち

「正解が、ほしいなあ」と横に寝転ぶわたしであった。

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