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第11話 三鷹へ行こう!

六月某日

私  「澤田さ〜ん、あさじんが帰還するんだってさ〜」
澤田  「そうみたいだね。あの条件じゃ厳しそうだったもんね」
私  「2ヶ月も保ったのも意外でした。まだ住むところが決まってないらしいからホームレスですかね?東京の夏は暑いぞ〜」
澤田  「でも、ちょっと可哀想だなぁ。なんとかしてやりたいな
私  「え、まじ?」


こうして落ち武者あさじんは、澤田氏の所有する物件に無料で住まわせてもらうことになった。
といっても無償ではない。週1回程度、澤田さんの経営する麻雀遊図に勤務し、広告塔となること。これが条件だった。

遊図は三鷹駅から徒歩3分で行ける0.5東南の雀荘だ。もはやアットホーム感というワードでは誤魔化せないくらい場末属性の強い店であった。
(現在は店内と一部の客を改装・一掃したため、当時に比べると綺麗な雀荘になっている。)


ということで遊びに行ってみた。



はい、南入太郎義家〜〜

お店の扉を開けると、ちょうど常連さんが南入のお知らせで迎え入れてくれた。
南入太郎義家の意味はまったくわからないが、響きがいいため慣れるとだんだん心地よくなってくる。

「あっさじーんさんいますか?」
店主の澤田さんに訊くと、どうやら買い出しに行っているらしい。私は同卓希望を出して待つことにした。


「すみません!ただいま戻りました!」

15分ほどしてあさじんさんが帰ってきた。
タイミングよくここで卓が割れ、私とあさじんさんが入れることになった。


「ミナサマ、メンバー ゼンイリニナリマスガ、オノミモノワ ヨロシイデショウカ?」


彼はペッパー君よりもロボットらしく話していた。しかし、ペッパー君よりも熱意は伝わってきた。真面目な男なんだな、と私は思った。


私  「あさじんさん、いっしょに打つのは久しぶりだね。その後、どうですか?」


あさ  「ハイ」


会話力は相変わらずだった。



場面は南一局。あさじんの親番だ。

二段目に入ったあたりで、あさじんさんは彼自身から見て左から2番目の9mを手出し。
そして次巡、1番左から7mを切って立直をかけた。
彼は "完全理牌タイプ" の打ち手であるから、この立直にマンズは当たらない。


完全理牌とは上下を揃え、左から小さい順に並べていくスタイルだ。やたら上下を揃えるブロックがあったらマンズの可能性大だ。
彼の流派は、23m567s68m のように同じ色のターツを離して並べることすらない、パーフェクトタイプであった。ペッパー君へのリスペクトだろう。

よって1289の手出し位置によって各色の構成がほぼ特定できるため、面子手なら3枚、6枚、9枚、12枚で構成された色は当たらないことがわかる。逆に4、7、10枚の色は当たる。小学校の加算減算レベルの話だ。


このとき、あさじんさんの手牌構成は
・ピンズが6枚で確定。
・字牌とソウズで7枚。

リーチ宣言前と打牌後にソウズのほうを凝視したので、当たるのはほぼソウズだけだ。

こんなものは読みではなく視力検査のレベルであるが、こういう基礎をしっかり積み重ねていくことが重要である。もちろん彼もそれが分かっていて"ハンデ"としてやってくれているのだ。


そんな折、常連のマダムが前線に出てきた。

マダム  「ちょっとまってね。・・・うーん、、親かぁ、、ま、これは立直!」

マダムはメリハリがはっきりした打ち手だ。手が悪いと丁寧に降り、手が良いとかなり押す。そしてなぜか立直時の平均打点があり得ないくらい高い。

「ツモ!!」

マダムの一発ツモだ。あさじんさんを見ると苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。手が高かったのだろう。これが名物だ。

「リーチ、一発!ツモ、ぴんふ、ブルー、赤、赤、ドラ・・・あ!ウラウラ! これいくら?」

呪文とともに指を数えながら、マダムがあさじんさんのほうを向いて訊いた。こういうとき、私は介護士だからと言って「指が十本折れているんだから十飜だろ」などと口出しはしない。メンバーさんの対応を見てみるのだ。


あさ  「えーと・・・倍満・・・4000/8000の7枚です」


彼は不貞腐れず、驕りもせず、丁寧に正確に教えてあげていた。なぜか機械的でもなく、とても素晴らしい接客だと思う。
こういうところは能力でなく、お気持ちが反映されるものだ。お客様への心からの感謝の気持ちがないと、つい不貞腐れた態度が出てしまう。


結果、マダムが5万点の天辺に到達して終了し、彼はラスを引いて少なくないお気持ちを表明していた。しかし。


「いやぁ、、ほんと強いです」

お世辞まで言えるようになったのかと、私は涙が出そうになった。名古屋での成長をひしひしと感じた。


あさ  「ラストです!ゲーム代をいただきました。ありがとうございます。あの、それじゃ・・・」

待ち席に客もいないのに、彼はそそくさと席を立ち退こうとしていた。


私    「どうしたの?あさじんさん、せっかく会いにきたんだから打とうよ〜」

あさ   「えぇ・・・あの・・・・。はい、わかりましたよ」


露骨に嫌な顔をしていた。さっきまでの接客はどこへ行ったのか。もしかして本日一万ポイント以上のお気持ちを表明しているからだろうか?


私    「あさじんさん、損切りはよくないよ。接客接客〜」

 「・・・・・・」    

鋭い眼光で睨まれた気がした。





【 第12話 口座凍結 】

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