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見えざる女帝(1) 佐賀の闇

「相談したいことがある」

十数年来の友人である長い夢氏から連絡があった。

「インスタグラムで知り合ったひとがいるんだけど、人生に行き詰まってるみたいで、チカラになってやってほしい」

友人からそう頼まれては断るわけにはいかない。本腰を入れるかどうかはともかくとして、軽く交流をとってみるのも悪くないだろう。
私は二つ返事で了承し、長い夢氏が "彼 "をLINEグループに招待してくれる運びとなった。

 "彼" はグループに参加すると早速自己紹介をはじめてくれた。


「井上淫太です。佐賀県◯◯市◯◯町◯◯-◯番地に住んでる22歳です。よろしくお願いします」


まだ一言も会話をしていないこの時点で、すでに私の頭の中は「この子はなんらかの問題を抱えているに違いない」という確信めいたもので一杯だった。


「いやいや!住所とか本名のフルネームは書かなくていいですよ!ネットで知り合った人にそういう情報を伝えると悪用されかねませんからね。」

はい

「私は佐々木です。長い夢くんの友達です。よろしくね。それで、なんて呼べばいいですか?インタくん?」

ケイタでお願いします

「え、でもこれ、『淫太(いんた)』って読むよね?」

本当は渓太で親が漢字間違えて淫太になったみたいです

「そんなことある???」


淫という漢字がもつ意味は「みだらな」とか「度を超えた」とかそういうものばかりで、日常で使うことはあまりない。
「凛と凜」や「祐と佑」を間違えるとか、まぁ本来は子供の漢字を間違えて役所に提出すること自体がありえないのだが、ギリギリ考えられるとしたらこのレベルだろう。
そもそも「淫」って人名に使えたっけ??
そう考えている間もグループの会話はどんどん進んでいく。


「でも語感がいいからインタにしようぜ」

長い夢が楽しげに呼び名を確定させていた。

インタはなんか変

「いや絶対インタのほうがカッコイイって!」

そう?

「そうだよ!ケイタなんてたくさんいるけどインタなんて見たことないよ!インターナショナルみたいでカッコイイぜ!」

ほんと?

「本当だよ!嘘言うわけないじゃん!俺たちトモダチだろ!!」


完全に楽しくなっちゃってる長い夢は置いておいて、私はインタが何に苦しんでいるのか少しずつ探ってみることにした。

ここで注意しなければならないことは、22歳だから大学4年生だと決め付けてはいけないし、高校を卒業して仕事をしている前提にするのもいけないということだ。留年していたり自宅警備だった場合に傷つくだろう。私も22歳の頃はなぜか大学3年だったからその気持ちはよくわかるのである。


「ところで、佐賀ってとても良いところだよね。インタくんはそこでどういう暮らしをしているのかな?」

King Gnuの歌い出しよりも繊細な私の質問に対して、彼は異次元の回答をぶつけてきた。




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すべてネットで拾ったに違いない裸体の画像6枚が爆撃のように投下され、私の質問は跡形もなく木っ端微塵にくだけ散っていた。

まるで「淫乱の淫に太と書いて『淫太』です」と再び自己紹介しているかのようだった。


(これは大変なことになってしまった・・・)


ここから私の第2の介護人生がはじまった。


見えざる女帝(2) へ続く】

このノートがあなたにとって有意義なものであったらとても幸いです。