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島へ渡る 瀬戸内国際芸術祭2019その2

2019.08.02
2日目 豊島

 ぐっすり眠って起きて七時過ぎにチェックアウト。アカイトコーヒーに朝ごはんを食べに行くと、けっこう混んでいて相席だった。トーストもコーヒーもおいしい。
 水分だけでなく栄養補給もきちんとしないと倒れてしまいそうで、ごはんは意識してしっかり食べていた。

 朝イチの高速船で豊島へ渡り、着いてすぐ唐櫃岡へ直行、大人気だという島キッチンの十二時半の整理券を無事もらう。
 そのまま周辺の展示をひととおり観て(「ストーム・ハウス」とか、アトラクションぽくて面白かった)、今度は豊島美術館の整理券を取りに行った。豊島はスケジュールをうまく組めず、唐櫃岡と豊島美術館のあいだを無駄に往復してしまった。徒歩十五分ぐらいの距離なんだけど、前日調子に乗って歩きまくってかなり疲れたので、この日は一区間でもバスに乗れるところは乗るようにした。

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 必要な整理券を確保したところで「ささやきの森」を目指した。
 前を歩いている人に適当について行ったらその人が盛大に道を間違えていたり、炎天下の一キロの上り坂でくじけそうになったりしつつ、森にたどり着いてあの無数の短冊と鈴を見たときは感動した。風があまりなく、蝉の声にかき消されて鈴の音はほとんど聞こえなかったけれど、頑張ってここまで来てほんとうによかった、と強く思った。

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 感傷のあまり涙ぐみながら来た道を戻ってきて、島キッチンで魚の定食を食べた。
 鯛のフリットとかカマの南蛮漬けとか、すごくおいしかった……

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 豊島美術館はまるごと内藤礼の作品。白いドームのような空間の天井に、まるい大きな開口部がふたつあって空が見える。開口部には紐のようなものが渡されていて、風に揺れている。ダイナミックな上方に対し、地面では水が繊細な動きをしていて、水滴が不規則に走ったりほかの水滴と合流したり、一箇所に集合して水たまりになったりしている。この水はどういう仕組みで動いているのだろう、とじっと見ていたら、床の小さな小さな穴から湧いてきて流れていた。いつまででも飽きずに眺めていられる感じだった。
 みんな作品のなかで座ったり、寝転んだりして思い思いにくつろいでいて、時間を忘れてゆったり過ごせる美術館だと思う。とてもよい空間だし、お金を払う価値は十分すぎるほどにある。しかし、直島の地中美術館といい、入館料はけっして安くないな、という思いは正直拭えなかった。

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 瀬戸内の光と風のなかで、海の幸に舌つづみを打つことも含めて、五感を研ぎ澄まし日常から解放される体験ができる作品が多い、それはもちろん意義のある、素晴らしいことで、私だってこの祝祭の空気を存分に楽しんでいるのだけれど……という、いわく言い難い「感じ」をもちはじめたのはこのあたりからだと思う。
 違和感、とも言いきれないこの「感じ」は、一年経った今も言語化できない。

 バスで唐櫃港へ出て「心臓音のアーカイブ」まで歩いた。「ささやきの森」も「心臓音のアーカイブ」も、ボルタンスキーはとにかく展示までに歩かされる。とはいえ、個人的にはこの二作品に出会うためだけにでも豊島へ行ったほうがよい、と思う。
 歩いていくと目の前にぱっと海がひらける、静かでうつくしい浜辺の手前に「心臓音のアーカイブ」はあって、とにかくロケーションがよい。スタッフさんも白衣を着ていて、「最果てのラボ」っぽさがある。

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 唐櫃港から家浦へ戻り、急いで豊島横尾館を見学した。鯉が泳ぐ池が見えるアクリルの床の間や、一歩踏み込んだら落ちそう……と本気で感じさせる鏡を使った滝のインスタレーションが印象的で、面白かった。

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 この日の宿はもともと乳児院だった建物を再生したという銭湯付きのゲストハウス・mamma。
 ゲストハウスは初めてで実は少し不安もあったのだけれど、浴場もきれいだったし、肉をソイミートに変えてくれた夕ごはんも美味しかったし、宿の人たちは親切だった。最大の懸念だった宿泊者どうしのコミュニケーションも、一人旅でひとと話していなかったせいか、むしろ楽しかった。
 私が泊まった部屋は三人部屋で、同室の女性は二人とも3シーズンパスポート所持のリピーターだったのでだったのでいろいろ教えてもらった。お互いに名前も連絡先も聞かなかったが、どういうルートでまわったかとかあの作品がよかったとか、あの島のあの店のかき氷がおいしいとか、情報交換だけでも話のネタが尽きない。カフェスペースで日記を書いているのを珍しがって、ひとしきり話していった人もいた。
 家浦港周辺の作品をほとんど見られなかったし、離れたエリアにある「豊島八百万ラボ」に行けなかったのが心残りで、豊島はまわりきれなかった……という気がしていたのだけれど、私のこの日の行程を話すとみんな「いやそれだけ見ていれば十分では」という反応をしてくれて、なんとなく気が済んだ。

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