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カードバトルの大会で看破できなかった話

その昔、ガンダムウォーという二人用対戦型トレーディングカードゲームの大会に出た事がある。トレカ収集をしていた元カレに、大会参加賞の限定カードが欲しいから一緒に出てくれと言われたからだ。マジック:ザ・ギャザリングや遊戯王などのトレカ市場は既に出来上がっていたが、ガンダムウォーもレアカードはじわじわと結構な高値で取引されつつあり、新規参入コンテンツと言えどさすがガンダム、公共施設の大ホールなどで大会をやるほど愛好者も増え続けていた。

今でもコンシューマーでFPSやオープンワールドアドベンチャーものを遊んでいるし、小学生の時に買ってもらったファミコンから始まり、実家では年の離れた弟のお陰でスーファミ64スーパースコープやバーチャルボーイがあるような環境だったり、高校時代には部活の先輩から誘われてTRPGにかり出されたりもしていたので、同年代女性よりはだいぶゲームするタイプの人間ではあると思うが、カードバトルとなると何しろハードルが高い。モビルスーツを場に出して、キャラクターを搭乗させ、オペレーションを出して対戦相手を攻撃してHPの削り合いをするというバトルの手順だけでなく、カードの特性など覚える要素が多過ぎで早々に理解するのを諦めてはいたが、大会に出るからには放棄するわけにもいかず、大気圏外でも戦えるモビルスーツをメインにした連邦デッキの元カレを相手に、なんとかバトルの体裁を取るまでには練習の成果を上げていた。

そもそも、ガンダムシリーズも全部観ているわけではなく、好きなMSはキュベレイとケンプファー(肩がデカくて甲冑ぽいのが好き)で、∀ガンダムが画集を買った位好きな程度で全部の話を覚えているわけでもないので、ここから出してくださいよ〜のカミーユとかマラソンするアムロとかカツがクズとか位の知識しかない。人によっては、MSの登場シリーズで固めたり、ストーリーに沿った戦術を練るなど、戦績よりも勝ち方に拘るような人もいたと記憶している。私は何事においてもまずは形から入るタイプなので、格好良いMSに特殊能力者のパイロットを乗せて相手の作戦を悉く潰してやる気を削いでやろうと「サイコミュ搭載MSにニュータイプ乗せて攻撃無効化するデッキ」を組んだ。そもそもコレクションが優先でレアカードは即バインダー行きだったので使えるカードは限られていて、コレクションからダブったカード→元カレのデッキ→私のデッキ、という、お下がりだったらグレる位の濾され具合だったので戦法も何もなかったのだが……同じカードは3枚までしかデッキに入れられないという制限の中、その残った余りカードから「キュベレイ」「量産型キュベレイ」と「作戦の看破」(相手の攻撃や作戦を無効にできる強カード)を限界まで入れた。カミーユやウッソなどの連邦側ニュータイプのキャラクターは元カレが使用していたので私が使えるキャラはフォウだけで、そこそこのレアで余りの少ない「キュベレイmk-2」「サイコガンダム」は各1枚しかデッキに入れられず、特化したい割には何とも中途半端すぎるデッキとなっていた。

大会当日、川崎の商工会議所的なホールに集合し、現地で元カレのバイト仲間(クサガメみたいな質感の革ジャンを年中着ていたので“亀さん”と呼んでいた)と合流した。大会はトーナメント戦で、参加者は100名位はいたと思う。私の初戦の相手は歴戦の猛者タイプの人で、「始めてどのくらいですか?」みたいな話もしたような気がするが、こっちが初心者だと知っても全然手加減とかはしてくれなかった。

「作戦の看破」はほぼ全員が入れているようなカードだったので、攻撃しては看破して、どちらのカードが先に尽きるかを競うようなところがあった。ジークジオンデッキの猛者も3枚デッキに入れているようで、ゲーム序盤2回までは相手の作戦を看破して反撃の機会を伺っていたが、3枚目の「作戦の看破」がなかなかドローできずに、相手の攻撃をくらい続けていた。「看破しますか?」(ジオンの猛者)「……しません」(私)というやりとりが余程辛かったのか今でも鮮明に覚えている。たまたまドローできなかっただけなのに、準備を怠っているくせにラッキー戦果を求めてノコノコ戦場にやってきた出稼ぎ歩兵だと思われていたんだろうな。(余り物デッキで参加賞欲しさに参加したんだから間違ってはいないが)看破など現実世界ではできないのだ。

バトルは2ポイント先取制の3回戦で、MCバトルに例えるなら、渋谷あたりの小箱でやってる中堅イベントで、用意した韻の他は脚韻2文字しか踏めない初心者ラッパー(私)と駅名サイファーの主催者(ジオンの猛者)が初戦であたるようなものだった。どう対戦相手を決めたのか不明だったが、そう考えると妥当な組み合わせに思えて来る。ポイント先取され挽回の機会もなくあっさり負けたが、その後辞退者が出たとかで敗者復活に呼ばれ、賢そうな小学生(連邦)と対戦し、サイコミュ攻撃と作戦の看破が上手く発動できて何とか1勝した。(その後本気になった小学生にビートに倍速でのられて負けた)亀はラッキー敗者復活の私以下の初戦敗退、元カレは3回戦まで進んだが、速攻敗退していた。ベスト16辺りは通常の人間が立ち入れるゾーンではない。

今どうなっているんだろうと検索したら、ガンダムウォーは2011年に終了、後継シリーズも2017年にサポート終了していた。

このバトル以降、私は普段から常に「作戦の看破」を3枚持つことを意識している。起こりそうな嫌な事を想定して、看破できる材料を用意するようにしている。すぐに引けなくても、取り返しがつく内にドローできれば問題はないし、すぐ使わなくても手札にあるだけで、いつでも看破できるのだからもう少し踊らせてやるか……という優しい気持ちにもなれる。それ程、あの「看破しますか?」「看破できません…」の応酬は私の心に暗い影を落としたのだった。



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