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たたき売りされてるチェスターコートを見ると胸が苦しくなる

1月。

お正月気分を過ぎ、日常が巡り出した頃。

百貨店は新春セールと冬物最終セール(といっても冬はまだまだ深まる余地を残している。どうもアパレル界隈は季節の歩みの実態に対し大袈裟に先を行っている感があって、まぁ季節モノはえてしてそうだし春に春の服おろしたい気持ちもあるし当たり前のことなんだけど、この点は何となくいつまでも馴染めずにいる。)が混ぜこぜになって、界隈はビビッドな広告と装飾に包まれている。

私はこの秋冬にかけて、特に洋服に関しては近年稀に見る物欲魔獣と化していたため
ちびちび百貨店を徘徊しては、
好みにどストライクなNew arrivalなり、
狙い目のものの「もうあとひと声!」なりを虎視眈々と狙っていた。
私服警官が巡回しています、ばりに巡回していた。徘徊物欲魔獣。

そんなわけで、この秋冬は陳列されるものたちの移り変わりを何となしに把握していた(あ~やっぱりあれはすぐに売れたねぇとか、意外と値下げされて居残っているねぇとか)わけであるが、
この時期になって、

「Sale!」のハンガーラックにまとめられたチェスターコートが、雨後の筍の如く現れてきた。

1店舗のみならず、その百貨店の複数のテナントたちにそういったハンガーラックが登場する。店舗入口近くに現れるパターン、店舗奥に秘められているパターンいずれも見受けられるのだが、どんなかたちにせ「なんとも言えない場所」に鎮座している。

彼らは、特に可もなく不可もない、所謂、 「the チェスターコート」、という感じの型で、カラバリはどこもほぼ同じくネイビー・ブラック・グレー(とたまに濃いブラウン)。それぞれの色が大体3個くらい(おそらくSML)、金属製の業務用感満載なラックに合計10着前後がきちきちと収まっている。特価!安いよ!ラストセール!という感じのメッセージ性を文字以外にオーラとしても帯びている。

少なくとも昨年の秋から虎視眈々をしていた私はここで、はて、と思うわけである。
何せ、これらの安く「なったよ!」と謳われているチェスターコートを、このシーズン中に見た覚えが全くないのである。

年が明けて冬の終わりも見えてきて(少なくともアパレル側的には)、というタイミングで突如、
もはやブランドの垣根なく共通の製作者がいて撒かれているのではというくらいにデザインも配色もほぼ同じような、鋭い言葉で表せば「没個性的な」チェスターコートたちが登場したというわけだ。店舗スタッフが推しとするでもなく、お得感のみを武器に矢面に立たされた彼ら。値札には割引前後の価格が示されていて大層なお値引き感で彩られているものの、おそらくはハナからその後者の価格で売られることを念頭に作られたのであろう彼ら。セールのためだけに何ら個性を与えられずにきちきちと売りたたかれている彼ら。

冬の終わりの刹那に店頭に並んだ、没個性な彼らの、買ってくれ、手にとってくれ、という心の叫びが何となく聞こえたような気がして、何だか胸がキュッとなってしまった。誰が生めと頼んだ?誰が作ってくれと願った?もうミュウツーじゃん。


「セール向け品」にももちろん需要があってのことだし、このたたき売りを目撃したことを以て「量産」と流行りの「SDGs」を掛け合わせて何か論考を巡らせるとかいう気もない。
ただただ、その没個性的なチェスターコートたちに、亜流は大変なシンパシーを感じてしまった、というだけの話なのだが…。


さて、
時は流れて
今は3月。

アパレルの店先はすっかり春色に包まれている。暖かく明るく、パステルな季節が始まる。
しかし、そんな早咲きの桜を見ているような店先であっても、
冬真っ盛りの刹那に現れ、売り切られたのか否かは別として今やすっかり撤去されたあのハンガーラックを、たまに何となしに思い出してしまうのである。

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