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『トラペジウム』の完成度の高さを伝えたい

映画『トラペジウム』観てきました。
noteとか書いたことなかったんですが、どうしても感想を共有したかったので書かせてください。
感想というよりただ語ってるだけな気がしますが...
ちなみに原作の小説はまだ未読です。

はじめに

この映画、'前提知識'が非常に大事だと思うんですが、私は主題歌、公開直前PVで興味を持ち、Xでの感想(主に主人公がやばいというもの)を見て面白そうとなり観に行くことにしました。なので、この映画のレビューによくある「主人公の行動がやばすぎて応援できない」というものは前提知識として持っていて、それを楽しみに観にいったのでそう思いませんでした。

ネタバレほぼ無しの感想(宣伝)

まず、この映画を一言で表すと

自分勝手な主人公が成長する物語

です。
東西南北4人のキラキラした青春モノではなく、あくまで話のベースは主人公(東ゆう)です。
これをここで言うか迷ったんですが、さっきも言ったようにアイドルものだと思って観に行ったら騙された!最悪!という感じのレビューを大量に見るので、この映画について語るには必要かなと思い書きました。公式も言ってるし...
酷評しているレビューの大半がこのことについてなので、逆に言えばこれが前提知識としてあればとても楽しめる映画なんじゃないかな、と思っています。
まだ迷ってる...という人は、とりあえずこのPV↓を見ましょう。このPVがトラペジウムの全てです。これを見て面白そうだと思ったなら観に行って後悔するということはないです。
これをもっと早い段階で公開していればここまで荒れることはなかったんじゃないかな...?

宣伝だけだとアレなので感想も少し。
ゆうの無自覚サイコの演技が本当に上手すぎる。鳥肌がやばかった...
あと高専の狂った部分がちゃんと描かれていて解像度高いな...と笑いました












ここからは

ネタバレありの感想

になります。

このような作品では、

この映画は何を伝えたいのか

というようなことがよく話題にされます。
トラペジウムも例外ではなく、感想を見るとそんなことを言っている人が多いです。
これについて私が感じたことは、「自分にとっての当たり前は他人の当たり前ではない」ということと、「結果がどうであろうと、そこまでの経験は決して無駄にならない」ということです。自分の当たり前と他人の当たり前が違うとかそんなの当然だって?無意識にやっているかもしれませんよ。
ゆうは「女の子は誰だってアイドルになりたいと思っている」という考えを一切曲げずに物語の終盤まで突っ走りました。案の定3人との間に亀裂が入ってしまうのですが...
最後、大人になったゆうは夢を叶えアイドルになっていました。都合が良すぎるだとか色々言われていますが、私はゆうが東西南北(仮)での出来事から自分の考えは正しくないと思い知り、それがあったから成長してアイドルになれた、という意味だと思っています。
相手のことをしっかりと考えられるようになったからこそ、アイドルになれたのではないでしょうか。

宣伝のところでも似たようなことを言いましたが、この映画はあくまで

アイドルを夢見たひとりの少女の物語

です。これはPVに書かれていたものそのままで、トラペジウムをよく表していると思います。この映画、ゆうの視点でしか描かれていないんですよ。
学校に通いながらアイドルをするとなると、壁として立ちはだかってくるのは"学業との両立"です。蘭子は少し触れられていましたが、それは口に出していたから。問題はくるみです。
彼女は高専ロボコンで優勝を目指していました。なのでアイドルをする暇なんて無いはずです。泣く泣くロボコンを諦めたのかどうかは分かりませんが、その描写が一切無いんです。描かれているのはアイドルとしての練習風景のみ。蘭子と美嘉も、学校での様子が一切描かれていません。もしトラペジウムが"4人の物語"なら必ず入っているはずのものがごっそり抜けているんです。これは、ゆうが「アイドルが一番優先されるべきで、他のことはどうでもいい」と思っているから。または「その両立はできて当然」と思っているか。どちらにしろ「興味が無く視界に入っていない」ことなので描かれていないのでしょう。蘭子に対しての「できないなら努力すればいいじゃん」という無責任なセリフからこのことは間違いないと思います。
ゆうがサイコパスだとか頭おかしいだとか言われる主な原因は多分ここで、自分の夢を最優先にするばかりに他人の夢を全く考えていないんです。くるみが本当にかわいそうだった...美嘉のボランティアも、誰かのためではなく自分の夢のための踏み台としか考えておらず、ここは批判されてもしょうがないですね...
「アイドルになりたくないと思っている人なんていない」と本気で思ってるんでしょう。

また、私が描写細かいなと思ったのがゆうの"外堀を埋める上手さ"です。相手のことを徹底的に調べ上げ、確実に友好関係を築く。蘭子がお蝶夫人を目指していることを知り「エースをねらえ!」を履修したり、くるみがロボット好きなのを知りプログラミングを勉強して話し合えるようにする、などメンバーを集めることへの執着がすごいです。これはセリフだけでなく様々なところで描かれていて、例えばゆうの部屋。くるみと仲良くなるために使ったプログラミングの教材がしっかり映っています。

特に細かいと感じたのはゆうの夢についてで、「アイドルになりたい」という夢を、ゆうは一切3人に話していないんです。一切話すことなく、アイドルという自分の夢まで無理やり連れて行ったんです。そう、"無理やり"。
くるみが「アイドルなんかどうでもいい!!」と言っていたのがこれをよく表していて、ゆう以外の3人は「アイドルになりたい」なんて一言も言っていないんですよね。蘭子が言っていたように"流れに乗った"だけ。

「どこまで連れて行かれてしまうんでしょうね。」

このセリフを聞いたときにセリフを作るのが上手い...と感動しました。アイドルという夢なんか最初から持っていないから、「どこまで行けるか」ではなく「どこまで連れて行かれるか」なんです。この時点でアイドルを続けたいと思っていたのは、ゆうだけになっていたのではないでしょうか。もしくは、初めから...

"トラペジウム"の意味

最後の演出、良かったですよね...!昔撮った写真がタイムカプセルのようになり、それの題が「トラペジウム」。
トラペジウムとは、ラテン語で台形。どの2つの辺も平行でない四辺形です。
一度は揃ってアイドルになれましたが、上手くいかず引退。結局それぞれ別の道を歩むことになりました。上手くいかなかったのは、4人がトラペジウムだったから。平行でない、本来は共に歩むことがなかった4人をゆうが無理やり引き合わせたから。
トラペジウムにはもう1つ意味があり、それはオリオン星雲の中にある4つの重星です。これは非常に高温で強い紫外線を放ち、星雲全体を光らせます。
東西南北(仮)は確かにゆうのエゴによって生まれました。しかし、誰か1人でも欠けていたら、この4人でなかったら光ることはできなかったのではないでしょうか。

「わたし一人では、アイドルになれないんだって。」

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