ムードメーカー【エッセイ】
私の中では、ムードメーカー=人気者という方程式が出来上がっている。
それは、私が小学生の頃から変わることはない。
そんな私の方程式を一度だけ覆されたことがある。
それは私が、高校生だった頃にさかのぼる。
私が通っていた高校では、1学年1クラスが基本だった。
1年生から3年生、学校の常勤の先生たちを合わせても、校内が100名に達することはなかった。
そんな私のクラスには、私を含めて10名しか生徒がいなかった。
退学や留年で人数が減ったわけではない。
入学当初から、3年間ずっと10名だったのだ。
なんとも寂しい話である。
こんな少人数のクラスでも、ムードメーカーは存在した。
いつも何かとクラスの中心に立って、みんなをまとめていた男の子だ。
仮に、A君と呼ぶことにしよう。
A君は、授業中では先生に質問されて真面目に答える時もあるが、考えるのが面倒くさいと言わんばかりに、いい加減なことを答える時もあった。
スポーツでは、体格がよかったため体育の授業では何かと活躍する場面が目立っていた。
コミュ力も高かったため、男の先輩たちとゲームの話をしたり、部活動でも先輩たちと和気あいあいと活動していたのが印象に残っている。
クラスでも、A君が中心となったグループがあり、お昼休みも机をくっ付けて話に花を咲かせたり、スマホゲームに勤しんだりしていた。
人気者の周りには、人が集まるとはこのことだろう。
また、A君は自称「霊が見える」人らしい。
よく休み時間に、「○○には、女の人の守護霊がついてる。」などと言ってグループ内で会話が盛り上がっていた。
私も、会話には加わっていないが、耳をダンボにして聞いてた。
しかし、A君は優等生とは言い難く、よく授業をサボったりしていた。
体格がいい割には、よく学校も休んでいた。
人間らしいといえば、人間らしい。
そんなある日である。
A君がいつものように学校を休んだ。
ムードメーカーがいなくなるだけで、クラスは途端に静寂が訪れる。
平和ととらえるか、寂しいととらえるかは人それぞれである。
静寂の中でも、時間は確実に過ぎていく。
あっという間に、お昼休みだ。
グループはいつもの様に、机をくっ付けお弁当を食べていた。
皆がゲームの話をしていた時、一人の子が言った言葉に私は衝撃を受けた。
「A君ってゲームうまい自慢してるけど、実はめっちゃへたくそなんじゃない?皆思わなかった?」
「それな。うまい自慢する割には、スマホ画面見てもイマイチだし。」
「あと、妙にうんちくとか語ってくるよな。」
「わかる。正直うざいかも。」
この時、私は初めて気が付いた。
A君は、「嫌われていたのか!?」と。
この会話を機に、A君に対する不平不満が出てくる出てくる。
水を得た魚の様に、出てくる出てくる。
いつもは、嫌っている素振りなんて微塵も感じなかったのに。
皆、そんなに溜まっていたのかと唖然。
ムードメーカーなのに嫌われてる。
私のムードメーカ=人気者という方程式が、覆された瞬間だった。
それからも、A君が休むと誰かが何かしらのA君の不平不満を言うようになった。
本当に嫌いなのだと、感心した。
しかし、私は気づいた。
あまりにも頻繁に、A君の名前、A君についての話題が出ていることに。
嫌いならば、話題にしなければいいだろう。
それなのに、必ず話の話題に入っているのだ。
これではまるで、人気者ではないか。
私のイメージでは、人気者は会話の中心になり、何かと話題になる人が人気者だと思っている。
人を嫌うということは、嫌いな人のことで頭の中がいっぱいになり、意識を全部その人に持っていかれるということだ。
これは、人気者(好きな人)とも同じことがいえる。
好きな人のことだったら、どんな時でも考え、意識がその人に持っていかれるだろう。
ここで私の新たな方程式が生まれた。
嫌われ者=人気者
この方程式は、あくまでも私の持論なので聞き流してもらっても構わない。
会話の中で、頻繁に名前が挙がったA君はムードメーカー=嫌われ者=人気者だった。
(あれ、私のムードメーカー=人気者の式に当てはまってる…)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?