メトロウォークのすすめ

(これは部誌に投稿したものです)


 みなさんはどのようにして早稲田大学へ来ているのだろうか。私は、大手町から東京メトロ東西線に乗って早稲田で降りて、学生に揉まれながら…そう、東京メトロ。
 東京に住んでいて東京メトロにお世話になったことがないという人は珍しいだろう。都心を縦横無尽に走る地下鉄。地下にもぐり、再び階段をあがって日の目を浴びたとき、目の前の景色はすっかり変わっている。そんな不思議な乗り物である。
 さて、以下に続くのは、そんな便利な乗り物があるにも関わらず、あえて、「線路の真上を歩いてみた」(後々メトロウォーカーというあだ名を授けられた)女子大生がメトロウォークをした雑記である。とはいえ、大学入試当日に東海道線と湘南新宿ラインを間違えたレベルには電車音痴の私である。軽い感想文程度の駄文を垂れ流す。

 さて、東京メトロは全部で9路線あり、195㎞179駅からなる。数字で見ると思ったより駅数があったので驚いたのだが、そのぶんメトロがカバーする範囲も広い。地名も東西もわからず東京に出てきた私はある日、サークルの新歓企画の一つ「半蔵門線ウォーク」に参加した。説明するまでもないが、要するに渋谷から押上までひたすら歩く…先輩の話を聞きながら歩く…。意外と歩けるもんだね16.8㎞。それになんだか地名を覚えられた気がする…体で覚えるってこういうことだね。こうして始まった、「東京メトロを全線歩き通す」という個人企画。基本的には1路線/1回、休憩なし。必ず「すぐわかる地図 東京」(JTBパブリッシング)を持ち歩いた。紙地図の良いところは歩いた道を記録できること、そして通信料がかからないこと!(私はGoogleマップを使いすぎて通信制限に引っかかることがある)
以下に半蔵門線を除く各路線を歩いた感想を載せる。メトロウォークに興味を持った方に参考にしていただきたい。



★東西線
早速マイルールを破っていくが、東西線については早稲田を境に東西に分けて別日程で実施した。というのも当初、まだ目標はぼんやりとしており、ほんの散歩気分で歩いていたら西船橋についてしまったのだから!早稲田を出て東に進み皇居を過ぎると、ビルだらけ。東京の建物は背が高いですね!なんて驚きつつ進み、門前仲町あたりで気が付く…あれ、なんか自転車多くない?これこそ「歩く」ことで気が付くポイントだ。だんだん建物も低くなり、ロードサイド店舗が増えてきたことを肌で感じる。電車に乗っていたら感じられないぞこんなこと…。清砂大橋付近で東西線とご対面。地下鉄も地上を走るなんて知らなかったよ。こうして初めて徒歩で県境を越えることとなった。順調に進んだように見えて妙典付近でふと立ち止まる、あれ、この橋、電車しか通れないじゃーん!ここで事前にGoogleマップで確認しなかったことを大いに悔やみつつ歩行者用の橋を探して渡る。とんだロスタイムである。このあたりになるともう、畑。ありがとう千葉県、私たちの胃袋を満たしてくれて。西船橋についたとき、さすがに達成感があったのでSNSに投稿した。みんながほめてくれた、うれしい。人間とは承認欲求で動ける動物である。
まったく別の日、5時間目が暇になったので早速、早稲田から中野まで歩くことにした。一瞬であった。あえて感想を述べるのなら、高田馬場から早稲田通りを進むと、左右に小路が伸びるのだが、やけに高低差を感じる。それから中野駅近くの線路沿いの壁画がキュートである。

★銀座線
渋谷側は半蔵門線ウォークの際、東に向かって歩いた道と重なるので、銀座線ウォークでは浅草からはじめることにした。初めに断ると、銀座線はいちばんおすすめできる。なんといっても距離が短いうえに東京の最先端の地と伝統の地を走る、見所たっぷりの路線だからだ。まずは田原町付近の道具街、いやでも目につく仏具店。それから文化の杜、上野、いつも賑やかなアメ横、オタク文化の聖地である末広町(秋葉原)。ここまでが下町エリアだが、すでに個性的すぎる。文字やらイラストやらともかく情報量の多いこのエリアを抜けるととたんにすっと雰囲気が変わる。重厚感のあふれる商業エリア、老舗百貨店が並ぶ。建物の高さがそろい、道もまっすぐ。ちなみにこの日、「この付近をスニーカーで歩くなんておそれ多い」と思い込んでいた永井はこのエリアのためだけに履き替え用の靴を持ってきていた。ビジネスマンの町、新橋付近はアンテナショップが多く、ここに来るだけで各地の食事を楽しめそうである。官庁街を抜けると機動隊の姿が…お疲れ様です!赤坂見附の辺りは由緒あるホテルやら御用地やらがあり、国内外から人の出入りが激しそうである。溜池山王の名前からは、そこに外濠がかつてあったことを思わせる。そして始まるキラキラエリア。人通りが増え、まっすぐ歩けないのだが、ゆっくりお店をみながら歩くのもまた楽しい。最後の渋谷への急な下り坂は渋谷川によるものだ。

★副都心線
池袋を境にして南北で大きく雰囲気が変化する。池袋から南下するとまず驚く、神田川がつくった急傾斜。付近ののぞき坂は東京で最も急な坂と言われている。雑司ヶ谷は鬼子母神堂などもあり落ち着いた雰囲気。さらに南下すると新宿、渋谷と明治通り沿いに副都心が並び、大久保付近は韓国系の店やキリスト教会もあり、セグリゲーションの良い例であった。この付近は食べ歩きやショッピングをしたら楽しいのだと思う。ただ、「副都心」同士の距離が意外にも近く驚いた。東京という大都市は、いくつかの地域が連続して存在しているのである。
変わって池袋から北側についてだ。池袋を出たとたんに感じる、「あれここTOKYO?」非都会出身者の持つイメージが崩れた瞬間だった。ロードサイド店があるというわけでもなく、電線が地中化されている分余計に青空が広く感じる。小竹向原に近づくにつれて車の通りも少なくなる。小竹向原で立体交差に感心しつつレンガ敷きの遊歩道を進み、植物を愛でる。この辺りは静かな住宅街である。石神井川を渡ると氷川台であり、ここも住宅地でまばらに畑などもみられる。地図を見て気が付いたのが、蜘蛛の巣状の区画整理がされていること。歩いていてもカーブばかり目に付くのだが、調べてみると単に幹線道路が傾いていながら、生活道路は傾けずに計画した結果らしい。武蔵野台地と荒川低地との境に当たるうえに、白子川と支流の百々向川(暗渠化されている)の影響で地下鉄成増駅周辺は起伏に富み、坂が多い。県境を越える経験は二度目である、埼玉県和光市に入った。

★丸の内線
丸の内線は中野で分離するので、この日は池袋から荻窪ルートを選択。ひどい雨の日だった。文京区は有名な学校が多く、さすが文化のまちという感じ。坂が多いのは、武蔵野台地の東縁であり、南に向けて張り出している台地と谷が入り組んでいることによる。茗荷谷から急な坂を下りると小石川車両基地を発見。この「谷」を感じる道は階段だったので車や自転車では通れない。御茶ノ水駅での3路線の立体交差については地下鉄博物館で詳細な模型を使った説明がなされていたので気になる方はそちらへ。ここから先は他路線でも通る道。ただしよく地図を見ると同じ駅名でも微妙に道が違う。丸の内線は国会議事堂の下を通過する模様…これは仕方ないので心持ち建物に近づいて歩いた。四谷駅の東西で街の雰囲気も変わり、西側は雑多な感じ。新宿通りを進み、新宿駅の雑踏をぬけ中野区に入り、しばらく歩くと一階に商店、上層階は住宅といった街並みで町の雰囲気も変わる。
別のある日、空きコマができたので大学から方南町方面へ行った。神田川と善福寺川の合流点付近に中野車両基地があった。

★南北線
同行者Sくんが参加してくれた。出発は目黒で、彼の土地勘に助けられながら夜の麻布を歩く。アークヒルズに寄り道したりビルのデザインについて彼の知識に驚いたり…。老舗ホテルを見上げつつ紀尾井坂をのぼる。上智大学とお堀の間は一段上がって遊歩道になっているので、お堀を見下ろしつつ市ヶ谷へ。人もまばらな市ヶ谷駅がお堀のみなもに写っている様子は幻想的だった。
後楽園では東京ドームを通過。ちょうど消灯時間だったらしく急に照明が落ちたので驚いた。いよいよ東京の町も眠りにつく頃だろうか。本駒込付近は寺院が多い。都電の線路をみつけ、早稲田から繋がっていることにはしゃぐ永井、飛鳥山公園を通過して線路をまたぐ。赤羽岩淵についたころがちょうど日の出の時刻。真っ赤な旧岩淵水門は渡ることができたので、河川敷をふらつき達成感を味わいつつ雄大な朝日と水面の反射に感動。もうね、こういう景色をみせられるとやめられないよ夜歩き。しかしこの日反省したのが、出発時の雨に対して傘を持っていくと、翌朝周りの視線が気になる。こいつ朝帰りじゃん。(間違いではないけどさあ)

★日比谷線
夜の中目黒からスタート。目黒川と渋谷川によりつくられた坂をのぼりくだりしておしゃれなお店エリアに。正直この日はバイト後に実行し、記憶が途切れがちなため十分なレビューができないので申し訳ない。六本木から神谷町にかけての道はキャッチのお兄さんたちが怖くて後悔した記憶がある。霞が関はあちこちにお巡りさんが立っていて、軽装備の女子大生が深夜に独り歩きしていても放っておいてくれる、安全地帯。銀座では人気のない歌舞伎座を見上げる。もうスニーカーで銀座を闊歩することにも慣れてしまった。ところで日比谷線は前回の東京五輪に間に合わせるため、建築許可の得やすい道路下をルートとしている。そのため地上の交差点に沿った急カーブが築地や水天宮付近で見られる。延々と歩く中で、上野-入谷間の片道5車線の道路標識をみて、道はどこまでも繋がっているのだなあとしみじみ感じた。北千住駅で始発列車を待ちながら見た朝焼けが紫色だったのは寝不足のせいだろうか。

★有楽町線
この日は午前中に定例会、午後に芝巡検に参加したのちのウォークであった。それゆえ日が落ちてから新木場を発った。まず辰巳プールで感動の光景に出会う。人影はなく、右手の橋上を駆け抜ける京葉線、正面には海を挟んでスカイツリーが光り、背後には高速道路が走る。昔ながらの辰巳団地と正面にそびえる巨大なマンション群の対比。人工島を結ぶいくつもの橋。ビバ!夜の江東区!飲み会を楽しむビジネスマンを横目に有楽町を抜け、国会議事堂前を通過。飯田橋までは南北線のルートに近く、特筆すべきことはなかった。江戸川橋までは高速道路の下を進み、池袋方面へつづく坂をのぼる。左右に出版社の建物をみつけ、都心ならではの産業を感じた。

★千代田線
最後に残ったこの路線もバイト後に実行。
しかし夜の代々木公園に突入する勇気はなく都道を歩く。原宿から延びる表参道はキャットストリートに向かって下がるが、ここが旧渋谷川の痕である。乃木坂の旧名は幽霊坂で、現在は交差する高台から降りてくる急坂を指していた。ちなみにこの日、霞が関の財務省坂上の交差点でひとり二十歳の誕生日を迎えた。皇居の横を北進し神田橋を超えたあたりでビルが低くなる。そのまま湯島天神に参拝。実際は不忍池の下を千代田線が走るのだが、この工事の際に池の水が漏れた事故があるとかなんとか。隅田川を超えるために線路からそれてしまうが仕方ない。千住新橋を渡り少し夜景を楽しんだ。がしかし、嫌でも視界に入る東京拘置所。さらに北綾瀬まで住宅地に迷いこみ精神的に疲弊。翌日1限のドイツ語がきつかった。

とまぁこんな感じでした
肉体的にきつかったりするし防犯上よろしくないので、積極的におすすめはできませんが…興味を持っていただければ幸いです

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