2024年 夏



 2024年 夏



「好きにへいわボケぇ! さあ! 始まりました『好きにへいわボケ!』早速ゲストを呼んでみましょう!」
「速い速い速いって。ちょ待てって。え、オープニングトーク無いん?」
「無い。ゲストの」
「ちょ待てって!」
「うっさいなあ」
「つーかこの番組のスタッフおかしいやろ。初回は大体ゲスト無しなんよ。第3回くらいまでふたりでやって、そののちゲスト回やから。聞いたことないから初手ゲスト回」
「この番組超高予算番組やから」
「どこがや。こんな超弱小番組に予算注ぐかあ」
「感謝やねえウチらみたいなもん使ってくれるっち」
「まあそれはそうなんやけどこれ誰が観るん? 層どこ?」
「ウチらの地元のやつ」
「観るわけないやろ。地元のやつネット配信とか知らんから。田舎なめんな」
「そうなん? ウチのばあちゃんこの間契約したよテレビのやつ」
「これテレビのやつやないから。なんか騙されとるやんアンタのばあちゃん」
「スタッフさんすいませんこの番組急遽地上波にできませんか?」
「できるかあ。地上波にするために今日から頑張るんやろ?」
「そうっちゃ!」
「んじゃまあゲスト呼んでくださいや」
「はい! さあ今回のゲストは今大注目の若手売れっ子女優でチャンネル登録者数なんと! 100万人を達成! ハルちゃんプライムのハルちゃんこと谷田遥香さん! そして!」
「三流頭うちタレントの大原志乃さんです」
「ちょっとお! 誰が三流頭うちタレントですか!」
「お前みたいなもんは三流に決まっとるやろ。ギャラやしいから呼ばれとるんじゃ」
「ちょっと酷すぎるんやけど! あたしたち同級生でしょ!」
「知らん! そんなん知らん! 谷田はずっと友達やけど」
「いえーい! いえーい!」
「相変わらず酷いよね瀬下さん」
「いえーい! いえーい!」
「谷田頼むからウチらの番組でピースやめれ。ホームビデオ感すごいから」
「いえーい! いえーい!」
「そうやぞハルちゃん。タレントはいつでもシャキッとしてないと。見とれよ」
「いや相方のダブルピースいらん! なにしとんじゃ!」
「いったいのお! なにするんじゃ!」
「ほら瀬下さんも早く早く!」
「瀬下いえーいって! ほら、いえーいって!」
「いや終わる終わる! 終わってしまう! ウチらの初冠番組が同級生三人に潰される! マジでなにしてくれとんじゃ!」

 愛ちゃんもしっかりピースをきめる。
 カメラの枠内から飛び出してダブルピースする谷田ちゃん。唯は楽しくてしかたがないように笑って、二人の顔はまるで泣いてるみたい。
 谷田ちゃんは昔からそうだった。笑うときは顔をぐっしゃぐしゃにして笑うから、本当心配になるくらいだった。唯もそう。愛ちゃんも大原ちゃんだってそう。この四人の笑い方は本当にほとんど似てる。うちの子らもそう。『へいわぼけ』が画面に映るたんび、ひっくり返って涙を流しながら笑い転げる。
 未来は明るい。四人の未来も、みんなの未来も。この子らの未来も、誰の未来に似てしまったのか、確実にわかるくらい明るい。
 ほら、また笑ったよ。うちの子らがほんっとに楽しそうに。

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