33.『荻美咲』



 この世界は素晴らしくて文句のつけようが無い。だけど、文句をつけろと言われたらこの世界はあまりにも糞すぎる。みんながやってるのはこんなのばかり。
 この町がすべてじゃない。学校がすべてじゃない。僕の居場所はここじゃない。だから悲しくないし寂しくない。抜け出せばすべて終わること。
「美咲、やってくれ」
 火をつける。ページが青白く光る。鼻にツンとくる。失敗したポップコーンの匂いに似てる。パチパチ燃える。鎮まることなく燃え上がり続ける。
「急ぎましょう。そろそろ終わる頃っす」
 遠くで花火の音が聞こえる。みんなの声が、消えて無くなる音も聞こえる。鬱陶しいみんなの声が絶命していく。
 産まれる。産まれる。骨の中で繭が、動いている。

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