蒼い初期衝動、羽が散る① デパートの屋上

私は二浪目が確定した。

瀧澤は大学2年になった。
小曾根、楠、越谷もそれぞれ別の大学に合格し進学した。
ひとりだけ、高校のメンバーで2浪が確定した男がいた。
菅山(すがやま)。瀧澤と同じテニス部のメンバーで、1年の時は同じC組だった。
菅山は2年目は家計の問題もあるので、アルバイトをしながら受験勉強をするという。

私もまたアルバイトを探そうと思った。
実は近藤も2度目の大学受験に失敗した。
だが彼は2浪は想定していなかったらしく今回はかなり焦燥していた。
彼はアルバイト何てしている暇はないと言う。

唐突だが私はデパートの屋上が好きだった。
お金が無くても時間が潰せた。
売店。
長いベンチ。
人気のないゲームコーナー。
曇天のこの頃のデパートの屋上は、幼い頃と何も変わらないように思えた。
私は小曾根とそこでアルバイト求人雑誌を拡げながら無為な会話を繰り広げていた。
小曾根は浪人時代は何も面白かったことがなかったらしい。
予備校で友達ができるパターンもあるらしいが、小曾根はうまくいかなたったようだ。

「ここどうだろう」
小曾根はアルバイト求人雑誌にあった寿司屋の募集を指さして言った。
「おれ寿司好きだし」
私は寿司はあまり食べたことが無い。
そう言えば、私の家は不思議なくらい寿司を食べる機会がない家だった気がする。
「よし電話しよう」
携帯電話を持っていない私たちは公衆電話から求人の電話をかけた。
私は電話が極端に苦手だったので、小曾根がかけてくれるなら、アルバイトはどこでも良かった。

私たちは、その寿司屋でアルバイトをすることになった。

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