塞いだ耳に嗤う楽園㉛ 恋愛裁判

若い女たちの会話は続く。
最初は孤立無援の様相の岡根唯菓の私擁護だった。
それが意外にも徐々に変わりつつあった。

「え~…カッコよくない?」
「でも、顔はカッコよくない?」
彼女たちの中から私のことを誉める声があがった。
花村(はなむら)さんと千羽(せんば)さん。
これは意外だった。君たちはどこにいたのだ。
岡根はちょっと驚いて私の方を見ていた。視線が痒い。
彼女は私の顔が良いとは余り思っていなかったようだ。

「なんか女の子に冷たそうじゃない?」
倉木は私の悪いところを論う検事のようだ。
被告人は私か。となれば弁護士は岡根唯菓、告訴人は古瀬島なつ季、裁判官は堤芽依、証人が花村と千羽か。
だとすると沢口風花は…。
「あの人優しいよ」岡根は言った。何とも言えない表情をしていた。もしかして1年の時の瀧澤や貝塚まみと話していたあの時のことか。古い話だなあ。

沢口風花は、犯人ということか。

話の展開は、なぜ私がD組だとなにもしないのか、という方向になっていったようだ。
「罰ゲームか」倉木は顔を歪めた。「あ、それはちょっと…」まずい。倉木は言いかけた。

沢口風花はその時に、自分が最大の当事者であるということに気がついたようだった。
彼女は机に向かって目と口を見開いたように見えた。


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