タラレバ定食
「昼飯食べにいこうぜ。」
笹崎の声に顔を上げると11時52分だった。
オフィスの隣りにある定食屋さんはとても人気で
12時を過ぎるといつでも行列ができていた。
このタイミングなら並ばないで済む。
その定食屋さんは、5卓しかない小さな定食屋さんだから、12時を過ぎるとすぐに満席になってしまうんだ。
----------------------------------------------------
ベストなタイミングだった。
店の引き戸を開けると先客は2組しかいない。
「キョウハナニスルノー。」
まだ座ってもいないのに店の奥から注文をとってくるのは、この店のスタイル。
この店というより、おばちゃんのスタイルだ。
南米の国からやってきたおばちゃんは、せっかちだけどとても陽気で、僕は好きだ。
奥から水を持って出てきたおばちゃんにニラレバ定食を頼んだ。
笹崎は ”タラレバ定食 ”を。
「タラレバって、、、、」僕が言い終わらないうちに
「ニラトタラネ。」おばちゃんが言った。
「いやいや、タラレバって、、、、」言いながら壁のメニューに目をやると真新しい紙に” タラレバ定食 ”
と書いてあった。
「タラって何だ?」笹崎に聞いても、
「美味いんだよ。」としか帰ってこない。
タラって何だ???
「ハイ~ニラレバネ。タラモスグデキルダカラネ~。」
僕は「お先に。」と先に食べ始めた。
言い忘れてたけど、この店の米は美味い。
おかずも美味いんだけれど、なにしろ米が美味いんだ。炊き方なのかな。
だから僕はおかずより先に米を食べるんだいつも。
だけど、今は” タラ ”が気になって、米の味が分からなかった。
「タラレバオマタセ~」
ついにタラレバがやってきた。
「てか、それさ、、、ニラレバじゃね?」
僕が聞くと笹崎は
「なに言ってんだよ。タラレバじゃねえか。」
真顔でそう答えた。
すると、あのニラっぽいのはニラじゃなくて、タラなのか?そもそもタラってなんなんだ?、、、、
その日は、ニラレバ定食もなんだか味気なく感じた。
僕もタラレバ定食を頼んでいタラ、、、、、、、、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3日後、リベンジの時がやってきた。
その日は珍しく僕の方から笹崎に声をかけた。
「笹崎。飯。」
11時50分
完璧だ。今なら行列ができる前に店に入れる。
笹崎と2人、店に入り、「キョウハナニスルノー。」を聞くや否や
「タラレバ!」
と頼むと
「ゴメンーキョウハタラレバナイダカラー。」
壁に目をやるとタラレバと書かれたメニューはなかった。
あの日” タラレバ ”を頼んでいレバ、、、、、
諦めて、米を美味しく食べることにした。