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アートセラピーにおける色・線・形やモチーフの意味の読み解き方について【マシュマロ質問箱から】

みなさん、こんにちは!

先日投稿したポスト『アートセラピーが子供のセラピーに向いている5つの理由』の記事をご覧になってくださった方から、マシュマロ質問箱にご質問をいただきました。お読みくださりありがとうございます!

今回いただいた質問は、

描かれた色や線や形やモチーフの意味などを読み解いていく方法とは?

そこで、今回は、クライアントさんの描かれた絵について、どうやって意味を紐解き解釈していくのか、わたしが参考にしている文献の紹介と共に、わたし個人のやり方や、解釈に関して思うことを少し紹介させていただきたいと思います。

注意:アートセラピストをはじめ、心理療法を提供する側の方を対象とした内容となっています。

描かれた内容を読み解く必要性について

様々なアプローチが存在するアートセラピー。創作物の意味を読み解くスタイルを取るのは、心理理論の中でも、精神分析・精神力学、もしくは現象学やゲシュタルトを取り入れたヒューマニスティックアプローチをするセラピストが中心かと思います。わたしはこれらの理論を好んで使っているので、クライアントさんの絵の解釈をすることがありますが、絵の分析や解釈を全くしない、というアートセラピストの方もいると思います。

絵の意味を紐解いていく時というのは、言葉でのコミュニケーションが発達しきっていない子供や、様々な事情から言葉で気持ちが上手く表現できない方、深層心理を探究したいクライアントさんなどに対して、感情の外的化を促す目的であったり、違う視点や洞察点を提案したりするために使うことが多いです。しかし前提に、セラピストの一方的な解釈や意見を押し付ける形でセッションが行われることは決してありません。この点に関して、詳しくは、創作物への分析や解釈に関する世間の誤解とアートアセスメントのあり方について紹介した記事も合わせてご覧ください。

絵の解釈の際に参考になる文献などについて

精神分析・現象学をアートセラピーに取り入れて研究をしていたマーラ・ベテンスキー博士は、著書"What do you see? Phenomenology of therapeutic art expression"の中で、このように、人間とアート表現の関係を説明しています。

芸術の中でも、アートセラピーにおいても、普遍的な、または主観的な人間経験の様相をこのような表現から探すことが出来るだろう:線を気分を表すもの、色を感情を表すもの、形を重さを表す、または世界感を象徴するもの、そして、動きや態度、ジェスチャーを活力や自身の感覚や生き生きした感を表現するものとして。("What do you see? Phenomenology of therapeutic art expression" by Marla Betensky)

ベテンスキー氏の本は、創作に表現されるものが『シンボル・象徴』として、作品を見る者(創る者)にとってどのような意味合いを持つのか、個人(クライアント)の主観的な視点を探るためにセラピストがどのようなアプローチを取りながらセッションをすればいいのかを現象心理学を取り入れて説明しています。精神力学・ヒューマニスティック系のアプローチを取るセラピストには、とても参考になる点が多いです。(この本は、アメリカAmazonで購入した方が送料込みでも安いかもしれません。)

また、彼女の著書でも紹介していますが、ユングの『人間と象徴』やカンディンスキーの『点と線から面へ』も線や色、形などの普遍的なイメージを理解する上で参考になる本だと思います。

特に、多くの絵画を研究していたカンディンスキーによる、色彩の持つ温度感(暖色・寒色など)の分析や線の持つ特徴についての説明などは、普遍的に、絵の雰囲気感を掴むのにはとても参考になる気がします。

その他、個人的に参考としているものとして、ギリシャ神話をはじめポリネシア・日本・インド・アステカ・中国‥様々な国や文化の神話や民話集、演劇、哲学の本、ネイティブアメリカンの教えに沿った様々な動物の持つ意味をまとめたもの、星座などを気が向いた時に探すようにしています(もともと文化人類学や民族学がとても好きなので半分は趣味感覚です。)

あとは、様々な絵画や芸術作品の解説文などにも、描かれている内容を理解するきっかけになりそうな表現方法や概念、社会・歴史背景等に気づく時もあるので、そういうものを雑多に集めて、創作物の解釈の参考資料にしています。

わたし個人のやり方、描かれた色や線や形やモチーフの意味などを読み解いていく方法について

ここでは、精神分析系・力学やヒューマニスティックアプローチを取るわたし個人の、描かれたものの読み解き方の一例を説明させていただきます。この他、様々なやり方も存在することを前提にご覧ください。

子供のアートセラピーで、創作物の表現を読み解く方法とは。

子供のアートセラピーの場合、事前に親や保護者から、その子の抱えている問題や状況を出来るだけ聞き出しておきます。そして、それを元に、関連づけをしていきます。それは、精神分析系のプレイセラピーにとても近いやり方で、例えば、すごく怖い思いをした子供が怪獣の絵を描いていたとしたら、その『怖い思い出』を『怪獣』に当てはめてみたり。そこから話を発展させるように、その『怪獣』はその子にとってどういう意味を持つのか、そこに描かれたものは何なのか、を『怪獣』の描写やそこに描かれるストーリーを材料に読み解いていきます。

子供の場合、上記に挙げたカンディンスキーの色彩分析などを参考にするよりも、その子個人の視点を聞き出すことを優先します。例えば、赤で真っ赤に画面を塗ったとしても、それが怒りや強い感情を表現しているのではなく、ただ単に好きな色を使いたかったから、という場合も。

なので、一応自分の仮説を立てるものの、ほとんどはクライアント本人から創作されたものが何を意味しているのか、その答えを引き出す質問や発言に徹します。最終的に解釈を確実なものにするには、子供の様子やその子から直接聞いた言葉を参考に、その子が抱える問題や気持ちと創作物の関係を推理していくような姿勢をとります。この時、「あ、〇〇を描いたんだね」と言った自分の主観に基づく瞬発的な発言は絶対にしないように気を付けるようにしています。(アートセラピストは、クライアントの作品に対して、言葉遣いにとても気を付ける必要があるように思います。)

大人のアートセラピーで、創作物の表現を読み解く方法とは。

大人の場合、ある程度普遍的なシンボル・象徴を元に、具体的な完成図を見越して創作される方が多いと思います。それでも、個人の生まれ育った文化背景や、認知力、画力、アート制作への意欲度などにより様々なケースが想定されるでしょう。

わたしはいつも、自分が出来上がりの作品に第一声を上げる前に、「何を描いたか・表現したか」を説明していただくようにクライアントさんを促します。

そして、そこで語られるストーリーを参考に、自分にはその創作物がどう見えるのか、考えていきます(これは逆移転に近いかもしれません。)その時、クライアントさんの話す内容と自分がその創作物に抱く印象がズレていたり、逆に関連づけ出来そうなのに語られていない部分があったりするのを発見したら、「ここの部分は他の部分と違う雰囲気がありますね?」「ここの部分はどのようなイメージで描きかしたか?」という感じで、クライアントさん自身が内容を掘り下げていきやすいように会話を広げていきます。

また、創作物に関する感想や発言があまり見受けられない・またはクライアントさんが言葉に困ってる時などに、例えば、「△△の文化では、〇〇はこういう意味もあるそうですよ。」「(色使いから)暖かい雰囲気がありますね」と言った感じで、あくまでも話を広げることを目的に、文献や普遍的に伝わるシンボル・象徴の持つ意味についてを関連付けた発言をする時もあります。

でも、あくまでも会話を促し、クライアントさんが心地よく色々思ったことを話せるよう、意識・無意識な様々な情報を引き出すための潤滑剤のように解釈を使っていくことを心掛けています。これはもしかしたら、世間一般が考えるアートセラピーのイメージとは大分違っているかもしれません。

まとめ

人生で抱える葛藤が一人一人違うように、クライアントさんの見てきた色、線、形、やモチーフも百人百様です。そのため、自分の感じた解釈と、クライアントさんが思い描く解釈が異なっていることがあっても、とても自然なことなのだと感じます。

アートセラピーのプロセスは、まるで、自分の偏見を正してくれるような発見や、気づきをセラピスト側に与えてくれるように思います。そして、クライアント側には、自分の意思を思い存分、自分主観で主張出来る場を与えてくれるエンパワリングな機会になるように感じます。でも、それを実現するためには、アートセラピストのする解釈がいつも絶対・万能ではないことや、セラピストの解釈に異論があれば自由に自分の思いを話してもいいこと、何より一番大切なのは分析された内容ではなくてそれを元に展開するクライアントさんの気持ちなのだということ、をアートセラピストがクライアントさんに心理教育していくことが必要なのだと思います。

‥というのも、一番最初にも述べましたがアートセラピーって「絵を見たら心が分かる」超能力や占いのようなものと誤解されている方も結構いるのではないかなと思うのです。実際、自分の過去に描いた絵を持ってきて「わたしの性格を当てろ」と挑戦してきた方もいなくはありません(汗)。これは、アートセラピストさんが抱えやすい悩みの一つかもしれません。

長くなりましたが、今回いただいた質問、『描かれた色や線や形やモチーフの意味などを読み解いていく方法とは?』への個人的な意見を書かせていただきました。これからも、このようなご質問、どしどしお待ちしております!

注意)本記事で紹介のリンクはAmazonアフィリエイトになっています。

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