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File.35 身体とモノで紡ぎ出すドラマ 中原くれあさん(俳優/プロデューサー)

俳優陣はほぼ舞台に出ずっぱり。役を演じているとき以外は身体や生活用品などを使って、何もない舞台上に流れるように装置や風景をつくり上げる。ステージングの美しさ、アンサンブルの絶妙さも相まって、観客の想像力を刺激し、言葉では表し得ないメッセージを投げかけてくる。日本では珍しい身体表現とオブジェクトを重視したTHEATRE MOMENTSは旗揚げ当初から海外での活動を視野に入れ、ゆっくりだが確実に夢を実現してきた。旗揚げメンバーでプロデューサーもつとめる中原くれあさんに聞いた。
取材・文=今井浩一(ライター/編集者/Nagano Art +
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(写真上)THEATRE MOMENTS『遺すモノ〜楢山節考より〜』

——中原さんの演劇のキャリアのスタートは宝塚歌劇団です。退団後、俳優座養成所に通われ、今は劇団運営をされているなど、これまでのタカラジェンヌとはひと味、ふた味違う演劇人生を送られているような気がします。

宝塚には音楽学校時代も含めると7年所属していました。退団して、もっと演劇を勉強したいと思い、劇団俳優座の養成所に通いましたが、ピンと来なくて、1年でやめてしまいました。商業演劇ともご縁をいただきましたが、そういう現場を体験すればするほど宝塚が恵まれていたことに気づくんです。その大好きな宝塚をやめて、さらにミュージカル出演を封印してでも、自分がやりたい表現はどこにあるのかを探し続けました。そして退団から2年ほど経たときに、アメリカ人の演出家、俳優のデボラ・ディスノーさんが都内で開いていたワークショップに参加しました。そこで自分の身体や声、またアンサンブルで作品の世界観をダイナミックに表現する方法に出合いました。いわゆるパフォーマンス的な演劇です。彼女に「くれあはどうやりたいの。くれあがやりたいものを見せて。不正解はないの」と言われたのが衝撃的で、こうやりなさいではなく、まず私がやりたいことを認めてくれることがうれしかったです。

——演出家が“先生”と呼ばれてしまう日本の演劇とは違う文化に出会われたんですね。

どうなんでしょうね(笑)。誰かの動きに反応してこう動きたくなってしまうという感覚的な表現が、このワークショップではどんどん生まれ、それをもとに作品もできていく。そうしたワークを体験したときに、私がやりたいことはこれだと思ったんです。その後もイギリスやフランス、ロシアなどの演出家に学び、私のアンテナに引っかかったのはセリフだけではなく、身体やオブジェクトを駆使して想像力を刺激するスタイルでした。デボラさんの「私たちはスピーカーではなくアクターだ」という言葉は今も強く印象に残っています。またイギリスに2カ月滞在してイギリス人の演劇人たちと作品づくりをしたこともあります。その時にいろいろな舞台を観に行きましたが、まだ日本ではあまりなかったフィジカル系の演劇が多々あり、これを日本でやりたいと思い劇団を旗揚げしました。

——演出をされている共同代表の佐川大輔さんとはどちらで出会われたんですか。

俳優座養成所の同期でした。そこからほぼ歩みを共にしています。同じものを見て感動ができる存在です。デボラさんのもとでも一緒に2年間学びました。
海外の演出家と出会ってすごく思ったのは、私たちは、子供のころは想像力で遊んでいたということ。ジャック・ルコック国際演劇学校の元教授、フィリップ・ゴーリエの教えの基礎が「子供のような感性を大切に」ということ。演劇をやるときに、子供のような遊び心やユーモアが想像力豊かな美しい表現を生むことを学びました。

——立方体を使ったり、木枠を使ったり、トイレットペーパーを使ったりというオブジェクトも使われていますね。

それは身体表現の師匠である舞踊家のケイ・タケイさんの影響が強いかもしれません。ケイさんは例えばTシャツだけを使って踊りをつくります。私たちも作品テーマにリンクするようなモノを使います。例えば『楢山節考』の時はさまざまな大きさの木枠を使い、「山」や「神輿」、また抽象表現としてルール(枠)などに見立てました。そもそも「見立て」は日本の文化。想像力豊かなこの面白さを皆さんにも楽しんでいただきたいと思っています。

画像3THEATRE MOMENTS 『遺すモノ〜楢山節考より〜』

画像2THEATRE MOMENTS 『フランケンシュタイン/怪物』

——2004年にTHEATRE MOMENTSを設立され、2013年から念願の海外公演をされています。ここまでやってきた手応えはいかがですか。

まずは1本作品をつくってみようというところから始めました。その時に、たまたま海外から帰国されたお客様がいらして「日本でこういう作品が見られるなんて」「これは劇団にして続けていった方がいい」という言葉に勇気をいただいて、劇団化することにしました。日本の演劇は演出家のプランのもとに俳優が動くというやり方が主流だと思います。私たちの創作方法は「デバイジング」。全員で話し合いながら集団創作します。小説や古典戯曲を舞台化することが多いのですが、その作品の「今やる意味」からをみんなで考え、パフォーマンスアイデアも出し合います。完成までには4カ月くらいかかり大変ですが、俳優としてとてもやりがいがあります。
私たちは設立当時から日本でつくった作品を海外に持っていき評価を得ることを目標にしていました。いくつかの国から呼んでいただけるようになり、頑張ってきてよかったなと思っています。海外で評価をいただいているわりに、日本ではまだまだ。どうにか広く発信して、多くのお客様に観ていただきたいと考え、2019年から東京公演でも英語と中国語の字幕を付けることにしました。MOMENTSの個性の一つになったらいいなと。また海外公演と同様に、地方公演をしていきたいという想いもあります。

——これから劇団として目指しているところを教えてください。

これまでアジアには足がかりができています。コロナで足踏み状態ですが最近は韓国やシンガポールなどからもお話はいただいています。10月に公演した『フランケンシュタイン/怪物』は観に来られない方をはじめ、海外への営業にもなればいいなという想いで、アーツユナイテッドファンドのお力を借りて、配信することができました。おかげさまでアメリカ、イギリス、マカオ、マレーシア、シンガポール、香港、台湾の方が購入してくださいました。次の夢としてはヨーロッパ、アメリカで公演ができるようになりたいですね。

——まだしばらく海外の状況が見えないかもしれませんが、どんなふうに活動していくご予定ですか。

マレーシアでは「クラウドシアター」という演劇配信がだいぶ進んでいるそうなんです。『フランケンシュタイン/怪物』を配信しないかとマレーシアのプロデューサーからお話をいただいており、近いうちに実現したいと思っています。もう一つ、マカオから子供向けの作品を提案してくれないかと言われています。実は初の海外公演が2013年マカオで、オスカー・ワイルドの『幸福な王子』を上演しました。マカオの貧富の差を感じ、この作品を選びました。2004年の日本初演時、子供向けにつくったわけではなかったのですが、観た方からのお誘いで何度か小学校でも公演させていただいています。マカオ公演から8年経っていますし、当時マカオでは有名ではなかったので、『幸福な王子』を提案してみようと話をしています。
新作については、ハードな作品が続いているので、お客様がほっとできる、優しい気持ちになれる作品としてミヒャエル・エンデやサン・テグジュペリの作品を考えているところです。そういう作品ならマカオの子供向けにも合うかもしれないですね。韓国のフェスティバルや香港での配信なども実現したらいいなあと思っています。昨年コロナの影響で中止になった『楢山節考』の北海道公演を3月に公演させていただくことになりました。市民の方に向けて演劇ワークショップも同時に行います。

——コロナ禍でも、これまで撒いてきた種が、形を変えて育っている感じがしますね。

すべてを栄養にして種を育てていきたいですね。私たちは演劇、アートは社会と密接につながっていると思っています。東日本大震災の時も、私たちの表現は変わっていきましたし、演劇業界全体にも大きな変化を感じました。このコロナもプラスにしていかなければいけないし、そうありたいと思っています。そのために何をし続けるべきか、考え続け、行動に移していきたいなと思っています。
そして個人としては、年齢に負けず、ハードな身体表現を続けられる身体づくりと、表現者としてのレベルをどこまで高めていけるかが今後の課題ですね。

コロナ禍において、オンラインで稽古をしたり、オンラインで作品を発表するという流れが起きた。それは時代の要請でもあるし、新たな表現の可能性を感じさせてくれるものもあった。その一方で、時間を限定し、わざわざ劇場まで足を運んでもらう演劇は、その場その時間に集った人しか体験できないものだからこそ価値がある。そんな原点というか、当たり前のことを考える。THEATRE MOMENTSはそもそもオンラインがいくら隆盛になっても、メンバーが集まらなければ稽古自体が成立しない。そんな面倒で厄介な課題を突きつけられ、乗り越え、乗り越え続けていくことは、そのたびに大きなステップアップを彼らにもたらすのではないかと想像する。

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中原くれあ(なかはら・くれあ)
宝塚音楽学校卒業後、宝塚歌劇団に5年間所属。その後、劇団俳優座養成所を経て、海外の演出家(米・露・英・仏)からさまざまな演技術を学ぶ。ダンスをケイ・タケイに、日舞を故藤間紫に師事。2004年佐川大輔との共同主宰で、東京に発足。以降全作品の出演・制作を行う。2013年調布市せんがわ劇場演劇コンクールにてグランプリ、オーディエンス賞、演出賞を受賞。芸能プロダクションリベルタ所属。CMナレーターとしても活躍。

公式サイト http://moments.jp/
公式Twitter https://twitter.com/THEATRE_MOMENTS
YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCzg4Tq0uXi7kHmAmXhexraA

中原くれあ




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