見出し画像

File.32 トライ&エラーで未知の領域に踏み込む 西田シャトナーさん(劇作家/演出家/俳優/折り紙作家/イラストレーター)

西田シャトナーさんと出会ったのは、西田さんが作・演出を務める劇団「惑星ピスタチオ」が1994年のパルテノン多摩演劇フェスティバルで最優秀賞を受賞したころだった。「宇宙一の劇団を目指す」という目標を掲げた彼らは、ダイナミックな身体表現「パワーマイム」で旋風を巻き起こし、時代の寵児となった。宇宙規模から深遠なる体内の物語、時代劇などめくるめく劇世界に魅了されたのを思い出す。
取材・文=今井浩一(ライター/編集者/Nagano Art +
————————————
(写真上)『ソラオの世界』(2009年)稽古場で演出中の西田さん

——物語の世界観から風景、一つの事象などすべてを役者の肉体とセリフ、照明、音楽などで表現する「パワーマイム」で一世を風靡したころによく取材させていただきました。

その節はありがとうございました。

——このコロナ禍では次のアイデアなどどんなふうに考えていらっしゃったのですか。

コロナで丸一年の予定が吹っ飛ぼうが、それを演劇の危機だとは思いませんでした。作り手がつくる気持ちを持ち続ける限りは続くわけですし、僕もなんらかの作品をつくっていくでしょうから。この時の経験をしっかり養分にして花を咲かせるに決まっていますので、演劇者として慌てるようなことはありませんでした。むしろ緊急事態に陥ったときこそ慌てたら危ない。

——そう思えるのは阪神・淡路大震災を経験されているからなのかもしれませんね。

あの時は、瞬間的に演劇などやっている場合じゃないと思いました。演劇が眼前の危機に対しては全く役に立たないと感じました。僕は400年後に人びとの争いが少しでも減らせるために、布石の一つを打つことを重視したいと思うようになりました。

舞台写真/SHATNER of WONDER『破壊ランナー』(2017年)SHATNER of WONDER『破壊ランナー』(2017)

舞台写真(出演も)/シャトナー研『感じわる大陸』(2007)シャトナー研『感じわる大陸』(2007)。右から2番目が西田さん。左端は岩崎う大(かもめんたる)さん

——作家、演出家として創作のタネになりそうなことはありますか。

今はしっかり見渡して記憶を貯めている状態です。そう不幸なことばかりでもないという感覚です。僕は自宅に引きこもっていますが、意外に幸福な時間が多いんですよ。経済的には厳しくなくはない。けれどずっと家族と一緒に居られる時間は金銭に変えることができない幸せでした。この期間に見つけた幸福の物語を書くことはあるかもしれません。

——改めて伺いますが、今後の活動の予定はいかがでしょう。

緩やかかつ慎重なものになると思います。そのためにも今回の助成金は非常にありがたいです。演劇者がやらなければいけないことのひとつは、この世界を見続けること。出口があるかどうかもわからない状況を、後世にいずれ語るときのために見ておくべきだと思うんですよ。アーツ・ユナイテッド・ファンドの助成はそうした作業を助けてくださったと僕は思っています。収入は減って不安だけれども、洞窟の中で足掻かなくてもいい、しばらくここで座って待っていようという助けになりました。当初イメージしていたよりも事態は長引いていますし、どんな出口がくるかもわからない。なおのこと丁寧に見ておく必要があると思っています。

——ところで西田さんは折り紙作家としての顔もお持ちですね。サイトを拝見すると想像を絶する作品が掲載されています。

僕は絵を描くことも、音楽を奏でることも好きですが、自分にとって苦労なく上手にできるのが折り紙です。なぜ折り紙はこんなに苦労しなくてもできるのか、なぜ演劇はこんなに苦労しなければできないのか、不思議ですよね。ただ折り紙でも演劇でも一見して不可能そうなことに挑戦するのが面白いのは同じです。折れるはずがないと感じたものをトライ&エラーを繰り返した末に折れてしまったときに宇宙の物理法則が改変されたような気持ちになる。その感動に未来を感じるという点では、このパンデミックを乗り越えてやっていくんだということと同じ。人間とか宇宙の可能性を感じるんです。研究を続ける科学者や技術者には課題に対する興味と感動があると思うんですが、僕の中にも未知の領域に踏み込んでいくことへの情熱は常にあるんです。

折り紙作品/『荒川区のT-REX』(2012年)折り紙作品『荒川区のT-REX』(2012)

折り紙作品/『風に向かうケンタウルス』(2021)折り紙作品『風に向かうケンタウルス』(2021)

シャトナーさんの公式サイトで折り紙のコーナーをぜひ見てほしい。こんなものが紙一枚で折れるものなのかと驚くようなものがずらりと並んでいる。神々しさも深遠さもまとった折り紙の怪物を見つめていると、これらは、シャトナーさんが試行錯誤しながらつくりあげる演劇そのものにも共通する姿なのかもしれないと思えてくる。折っては開き、開いては折りしながら少しずつ生み出される形状や風合いに、感動が宿っていく。表面的な形の素晴らしさに目を奪われているだけではわからない、深層にこそ大事なものがあると改めて教えられる。

——————————————————
西田シャトナー(にしだ・しゃとなー)
1990年、劇団「惑星ピスタチオ」を結成し、劇作家、演出家、俳優として活動を開始。並行して、折り紙作家、イラストレーターとしても活動。2012年より、舞台『弱虫ペダル』に脚本・演出担当として参加している。

公式サイト https://www.n-shatner.com/

折り紙作品制作中写真



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?