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Artist Note vol.1 宇留野 圭

「Art Squiggle Yokoyama 2024」では、「アーティスト・ノート」というコンセプトを掲げ、各参加作家に本フェスティバルの準備段階で、まだ頭のなかにしか存在していなかった展示についてのインタビューを行いました。作品に込める思い、悩みや葛藤、インスピレーション源についてなど、まさに「Squiggle」の最中にいたアーティストの声がここには綴られています。

アンバランスなかたちで成り立つ世界を
現実と虚構を行き来しながら描く

スタジオの様子

今回は、どのような視点で展示する作品を選びましたか?
新作ではないですけど、複数の作品を集めてインスタレーションとして新たな空間をつくります。 通底するテーマがありながらも作品ごとに少しずつ内容が変化しているので、それらをまとめて見せることでひとつの世界観が提示できたらいいなと。これまでの歩みがわかるような展示になります。

《26の部屋》、《9の部屋》(ともに2023)など部屋をモチーフにした作品のシリーズは、いつごろからつくり始めたのですか?
新型コロナウイルスが感染拡大したころから、 ロシアとウクライナの戦争をはじめ、社会がより物騒になり、それらが個人に及ぽす影響が拡大していると感じる機会が増えました。プライベート空間である部屋とその外側にある社会との繋がりを表現したいと考えるようになり、個々の部屋は閉じていて独立していながらも、それらが空気によって接続され、部屋同士が影響し合うことで音が嗚ったり、何かが動いたりする構造を思い付いたんです。個人の空間が外からの影響を受けながら どう成り立っているか考えるなかで、部屋をテーマにした作品群が生まれました。

《26の部屋》、《9の部屋》(ともに2023)、Art Squiggle Yokoyama 2024
Photo: 市川森一

構造についてもう少し詳しく説明していただけますか?
ファンが付いた木製のパイプによって部屋同士が繋がっていて、 そのファンが回ることによって音が出る仕組みを採用しています。つまりパイプオルガンの構造をとっていて、複数の部屋が連なるひとつの作品のなかを循環する空気の流れが生の音に変換される、立体作品でもありながら、自動で演奏する楽器のような作品です。内側と外側の見えない繋がりを表したかったので、目に見えない空気を利用し、それが音として聞こえてくるようにしました。

事前にコンセプトがあり、手を動かしながらさらに発展させていくのでしょうか? 制作プロセスを教えてください。
僕の作品は大規模で、一見建築的ではあるんですけど、実際のプロセスは建築のそれとは逆ですね。どちらかというと、ドローイングに近いと思います。まずひとつの部屋をつくり、その後はひとつ ずつ部屋を繋げてバランスを取ったり、倒れないようにしたりしながら組み立てるプロセスが自分には合っています。計画通りにつくるのは、あまりわくわくしないのもありますし、かたちのないものをつくろうとしているので。実験的なプロセスを経て立ち現れる抽象的な姿を、自分自身も見てみたいんです。

《26の部屋》制作の様子

身近なものが素材として使われながらも、非現実感を帯びた世界観に引き込まれます。
例えば、 展示作品のひとつである《Good Night》(2023)を例に挙げると、 洗面台の鏡のように見える部分は1日型のiPhoneみたいな仕様になっています。作品の目の前に行くと自分自身が映し出される。世界で巻き起こるさまざまな問題の情報だけは入ってくるけど、自分たちの生活は何も変わらない状況に気持ち悪さを覚えます。 作品にかけてある二つ折りのタオルには、 「Good Night」と書かれているのですが、「Good」の部分は裏面にあるので見えない。 グッドなんだけど、グッドじゃない感覚というか……普段生きているなかで感じる感覚を表現したいと考えていました。 というふうに、具体的な説明をしているのですが、その説明通りの作品になるのもなんか嫌で。例えるなら、映画の舞台装置のような、現実と虚構を行き来する作品にすることを常に心がけています。 そのほうがより幅広い人たちに届くと思います。

《Good Night》(2023) MYNAVI ART SQUARE、2023

日常生活から遠く離れていないものを題材にしているということですが、
どのようにして現在のユニークな手法に辿り着いたのでしょうか?

工業高校を卒業した後に鋳造会社で5年間働いていたのですが、 趣味で絵を描くのが楽しくて22歳 で仕事を辞め、 名古屋芸術大学に入学しました。 人物や風景のリアルな描写をしていたものの、 絵がうまい人は山ほどいるし、 描く理由がわからなくなり壁にぶつかりました。 自分にとって必然的 なアウトプットを考えたときに、 過去にたくさんの部品をつくってきたことで蓄積されたものの見方や世界観こそが答えではないかと思い始めたのがきっかけです。

オーディエンスの方たちに向けて、 一言お願いできますか?
作品って、 一元的なコンセプトで作られているわけじゃないんですよね。 部屋の外に広がる世界と の繋がりを意識した話をしましたけど、 それもひとつの側面でしかなくて。 例えば初期作品の《17の部屋·耳嗚り》(2021)というタイトルは、耳嗚りが止まらなかった時期に制作したから付けた 名前で、 自分の身体的な問題と向き合うためにつくり始めた作品なんです。 他の人には聞こえないけど、 自分にだけ間こえる音を、 パイプオルガンを使って鳴らそうと思ったのが始まり。 その後に、 部屋自体を心理的なひとつの箱のようにも捉えられるなと思って発展した作品なので……何だろう、 僕が今話した話がすべてじゃないというか、 いろんな要素があって、 それらをすべて受け入れて出来上がったのが作品なんです。 なので、 伝えたい一言は 「先入観を持って見なくていいで すよ」かな。

Interview Date: 2024/06/25
Text by Naoko Higashi


PROFILE
1993年岐阜県生まれ。2023年、名古屋芸術大学 大学院美術研究科修了。部屋や洗面台などの身近なモチーフを元に、機械の構造を用いた立体作品や舞台装置の様なインスタレーション作品を制作している。2023年、 ARTIST’S FAIR KYOTO 2023 マイナビART AWARD 最優秀賞受賞。主な個展に「予期せぬ接続」(FOC、石川、2024)、「KEY WAY」(BankART Under35)(BankART Station、神奈川、2023)など。


About "ARTIST NOTE"
会場では、それぞれの作家ごとに用意されたテーブルの上に普段制作に使用している道具やアトリエにあるもの、影響を受けた書籍などが並ぶほか、インタビューや制作プロセスが垣間見れる写真などが掲載された「アーティスト・ノート」が2枚置かれています。会場を巡りながらそれらを集め、最後にはご自身で綴じ、自分だけの一冊をお持ち帰りいただけます。

宇留野圭のアーティストテーブル



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