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草食信仰森小説賞の中で私が好きな作品

 WEB小説投稿サイト「カクヨム」にて開催された自主企画「草食信仰森小説賞」に応募された作品の中から、いくつか私の好きなものをピックアップして紹介したいと思います!

★自主企画のページはこちら。応募作全てが読めます。

★企画主催者の草食った様と評議員の皆様による受賞者発表&全作品講評はこちら。丁寧な講評で、とても読み応えがあります!!

 応募作品は全部で54作品(すごい!)。全て読ませていただきました。どの作品も本当に面白く、レベルの高さに驚きました。「信仰」という同じテーマに対して54通りの異なるアプローチがなされていて、「この手があったか」「心にしみる心理描写!」「信仰の在り方で世界観が構築されていてすごい」などなど、読者を唸らせる小説ばかりでした。

 さて、僭越ながらいくつかの作品を取り上げたいと思います。基準は「私の好み」なので、100%主観です。
 1作品ごとにコメントを載せていますが、講評ではなく、私はこの作品のこういう部分に惹かれました!という感想です。
 また、個人賞として大賞・金賞・銀賞の作品をそれぞれピックアップしました。賞と言っても、あくまで非公式のもので、私が「この作品が好きだ!」という気持ちを賞という形式で表現したものとご理解ください。主催者様をはじめとする運営の皆様とは全く関係のない個人の意見です。

 

大賞
「超絶破壊力アイドル、そして新宿終末戦争」綾繁様

 「信仰」がテーマだった今回の自主企画ですが、こちらは「神」と「神に翻弄される信者」の描き方がとても面白い作品でした。この作品の「神」に当たるのは「神ノ兄妹」という双子アイドルです。
 冒頭で、片方に偏ることを病的に嫌うという語り手の特異な性質が示されるのですが、それが物語を通じて活きるのが素晴らしかったです。主観をこの主人公に置いた選択が良いと思いました。私には絶対思いつけないです。こういう感性の人間を配置するからこそ、神ノ兄妹の神性が極まるという巧みな仕掛けになっていました。語り手の価値観はかなり独自性があり、唯一無二と言えるレベルに高められているのですが、その唯一無二性をもってしても神ノ兄妹の神性を御しきれず、振り回される下界の一人であるところが好きなんですよね。あくまでも神ノ兄妹が人間を凌駕するのだという物語の強固さを感じました。「荒れ狂う人の群れの向こう、超然とした美を崩さぬまま佇む神乃ジョーと神乃アイ。その二人の顔からは、何の感情も読み取れない。」ここの記述が良いですね~。
 また、途中で兄妹が喧嘩し始めた場面で、「意外と人間性があるのかな・・・?」と親近感をもちかけたのですが、神ノ兄妹はそんな都合の良い存在じゃないんですよね!やはり神は神であり、人間を高みから翻弄する存在であったところが心に刺さりました!

 一瞬の静寂。突如として突きつけられたあまりに残酷な言葉に、現実を理解しきれない観客達。次の瞬間に慟哭が響き渡るのではないかと思われた刹那、それを先読んだかのように神乃アイの言葉が届く。

 ここめっちゃ好きなんですよね~~!!物語中の人々と一緒に「えっ・・・!?」と見事に踊らされました。笑顔で下界の人々を翻弄する双子のアイドル。最高です。
 双子によって新宿は阿鼻叫喚に陥るのですが、作中では一言も「阿鼻叫喚」という言葉は使われていないんですよね。けれども阿鼻叫喚という言葉が思い浮かぶ、その確かな描写力が本当に羨ましいです。


金賞
「いい子だからね」富士普楽様

 世界観が大好きな作品です。言葉が構築する独自の世界観が素晴らしいんですよね。特に唄がとても印象的でした。冒頭は語り手の理解に従ってひらがなで書かれ、途中で漢字が判明する場面でその宗教がぐっと近づきます。
 「晴らし」「透かし」「なわし」といった独特の用語も良いですね。知らないはずなのに、懐かしい気持ちを想起させる言葉。異世界ファンタジーではなく、現実の日本の土着宗教を背景に感じ取れるけれども、そこから少しずらされている世界。そういう世界を、このような日本語を使って表現する発想と筆力が素晴らしかったです。世界観の構築を非常に高いレベルでされているなと羨ましくなりました。
 双子の関係性も大好きです。この場面がとってもエモいんですよね。

(なにに祈るの?)
(おばあちゃんに祈ってる)
(うん。わたしも祈ってる)

 朱音は時々、こうしてわたしの心を読んだ。それは嫌なことじゃない。双子だから当然だと思ったし、朱音と心が通じなくなることなんて想像できない。

 ここ良いですね~~~!!目で会話したり、心を読んだりするのがとてもエモいです!このエモさがあるからこそ、その後の展開がより絶望的で残酷に映ります。
 「我が家の歴史そのもの」とあるように、土着的な背景をもとに受け継がれてきた宗教なのだと思います。こういう地域独特の習俗は、自分の大切な人や思い出と結びついているからこそ、他人に何か言われても自分は大事にしようと思えるんですよね。主人公の場合、朱音とおばあちゃんという大切な人と宗教がくっついているんだろうなと思いました。


銀賞(タイトル五十音順)
「青森の救世主」ドント in カクヨム様

 とっても面白かったです!各地でイエス・キリストが復活するという世界中を巻き込んだパニックから始まり、青森でのささやかな交流が描かれるという構成が良いですね。復活したのに最初コスプレイヤー扱いされるのも面白いです。
 青森の方言に馴染みのない私でもキリストの訛りがすんなり頭に入ってきて、すぐに物語に入り込めました。また、パンを増やし水をワインに変えるという聖書にもある場面がごく自然に物語に挿入されていて、ストーリーテラーとしての手腕がとても羨ましいです。

「ライターです。ライター。要するに物書きです。いろんな重要な情報を、多くの人に知らせる仕事……」
 そこまで言って俺は苦笑して、はじめてコーヒーを口に運んだ。ブラックのコーヒーはギュッと苦い。
「ほいあばオメさん、えれぇごどしてんだない。世のタメさなるごどでねぇっすか」
「……そうでもないかな」
 俺は世に言うオカルトライターだ。

 ここ好きです~~!!!この部分で、物語が優しい未来を向いていることが分かります。印象に残る、ほっこりするやりとりでした!
 「青森の救世主」というタイトル、青森弁を話すイエス・キリスト・・・と、良い意味で珍妙な状況の導入から、主人公を確実に前向きにさせたという温かみの残る幕引きに繋がるのが良かったです。読者の私も、青森の救世主から何かを受け取ったように思いました。
 最後の言葉も好きですね~~!世界に不幸の予兆は起きなかったけど、それはキリストたちが現れたからこそ回避出来たのかもしれないな~なんてことを考えました。


「白銀の巫子」灰崎千尋様 

 美しくも残酷な世界観が素晴らしかったです。神事に関わる者、俗世に関わる者とはっきりと切り分けられていることが、この世界の非情さを強調していました。顔なしの扱いが本当に無慈悲で心に刺さります。
 色彩感覚も巧みで凄い!と膝を打ちました。よく国語の教科書に、小説の技法として「色彩描写」が載っていますが、学生時代の私は「それ本当に効果あるの?」と疑問を抱いていたんです。が、この作品はそんな長年の疑問を吹き飛ばすような、美しい色彩設計がなされていました。「白銀の髪」「銀の髪飾り」「濃紺の天鵞絨を広げたような空」「青や白、紫の紐に銀糸の混ざった美しい編み紐」などの表現の、あまりの艶美さと儚さにため息をつきました。
 登場人物全員好きなのですが、ぐいぐい来るスゥが私の好みof好みですね。ちょっと嫌味な感じとか、その立場とか・・・良いですね~。容姿描写も口調もドストライクでした。
 好きな描写を引用しようと思ったら9529字全て引用することになるので、迷いましたがこの部分を引用します。

 俺は普通の一つ結びですらぐちゃぐちゃにしてしまうので、見かねたミアが毎晩結ってくれるようになった。ミアはとても手先が器用で、俺の髪を編み込んでみたり、いくつも簪かんざしを挿してみたり、色んな結い方をしてくれる。それを見た他の巫子が自分にもやってほしいと言ったりしたが、いつの間にかミアが結ってくれるのは俺だけの特権になっていた。「みんなはレトほど不器用じゃないでしょう」ということらしい。

 ここ良いですね・・・!すごく良かったです・・・!!!美男子の戯れと巫子たちの生活の機微が凝縮された箱庭のような一幕です!!!神となってこの箱庭を上から眺めたいです・・・! 


「雑木林のツチノコ神」白里りこ様 

 一希という人間が、山でツチノコ神と出会うお話なのですが、このツチノコ神様がとにかく可愛いんです!可愛いと言っても、ヒロイン的な可愛さというよりは、例えるなら「布団の上で踏ん反りかえるふてぶてしい猫」に通じる可愛さなんですよね。猫動画に人々がワラワラと集まり癒されいいね!を押すように、ツチノコちゃんに集まりファンと化す人間たち。SNS時代の信仰の在り方ってこんな感じかもしれないなあと思いながら読み進めました。「ツチノコが発見された!」となったら大騒ぎになりそうなところ、そうはならなかったところが面白かったです。なぜ現実にはツチノコ神様がいないのでしょう!
 ツチノコ神様のことばかり語りましたが、一希もすごく良い子なんですよね。素直で謙虚な彼の未来もきっと明るいものに違いありません。
 一希とツチノコ神様の軽妙でテンポの良いやりとりも大好きです。好きな台詞を引用します。

「いかにも。そこに、我の絵を飾るがよい。我の存在を知らしめるのじゃ」「知らしめていいの?」
「無論」
「じゃあさ、ちょっと祠に入ってみてよ」
「よかろう」
「そこで、自己紹介してみて?」
「よかろう」

 ツチノコ神様の「よかろう」にニコニコしますね。神様だけど大きな力をふるうわけでもなく、良い意味のちょろさと言うか、好物を捧げたら言うこと聞いてくれそうな近しさが、とても慕わしいですね。
 明るい筆致で、最初から最後まで笑顔で読みました。とても面白かったです!


「ランズ・エンドの約束」鍋島小骨様

 決して一言では語り尽くすことの出来ない、重厚で美しい人間ドラマを描いたストーリーでした。読後感を例えるならば、名作映画を観終わり、これから数十年、折に触れて心の引き出しからこの物語を取り出して眺めるのだろうなと確信した時の感覚に似ています。「名作を見てしまった・・・」と呆然とするあの感じ。ベルリン国際映画祭に正式出品されている名作の原作ですと言われても疑わないと思います。
 「でも助けてくれない」から始まる冒頭すごく良いですね。言葉の一つ一つに重みがあって、この部分だけでもデリラが粗悪な環境に置かれてきたのだと推察できます。
 アーネストの最期の言葉も心にずしんと来るものがありました。その言葉をハントに言った意味の重さを考えました。また、デリラと迎えに来たハントの会話が大好きなんですよね。

「嫌なやつ。売春女は他所に行けばいいと思ってるくせに」
「思ってない。ランズ・エンド行きの列車をきみが選んでくれて嬉しいんだよ。お帰り、デリラ」
「……まだ帰ってない」
「帰ろうと思った時、魂は帰ってるんだ。アーネストもそう書いていただろう?」

  回想で語られるデリラの過去は目を背けたくなるような酷いものですが、一歩ずつ事態は好転しているのがとても良かったです。かつては誰も助けてくれなかったけど、これからは違う。そんな希望のある終わり方で本当に救われました。彼女は神に見捨てられていない、愛されているのだと安堵しました。暗闇の中に一筋の光を見るような物語でした。



総括
 自主企画の作品を全部読み通すのは今回が初めてでした。今までは好きそうな作品を選んで読むというやり方だったのですが、全部読んだ方が結果的に好きな作品にたくさん出会えるということに気が付きました。まだ見ぬ推し作品や推し作家さんに出会いたい人は、全部読みを強くオススメします!!!!!!
 主催者の草食った様、評議員の皆様、また参加者の皆様、楽しい時間をいただきありがとうございました。


追伸
 最後に、草食信仰森小説賞に応募した拙作のリンクも置いておきます。

「信仰と貨幣」夏木郁

 ある漫画の原作至上主義者のお話です。こちらもよろしければ、ぜひ!!(*'▽')


パンデミックが収まったらロンドンや中国に芸術旅行したいですね~~~!!!頑張ってお金貯めます!(*'▽')