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草食信仰森小説賞 大賞は偽教授さんの『ディルク・ヴィレムスの殉教』に決定

 令和2年9月10日から10月10日にかけて開催された「草食信仰森小説賞」は選考の結果、大賞一本・金賞一本・銀賞二本、特別賞一本、評議員の個人賞各一本、ファンアート賞が下記のように決定いたしました。
 また、会議により受賞された方全員のコメントが読みたいと可決したため、各賞作品の作者様よりそれぞれコメントを頂戴し、掲載させて頂きました。


大賞 ディルク・ヴィレムスの殉教/偽教授

受賞コメント
 どうも、このたび大賞の栄誉に輝きました偽教授でございます。皆さん割とご存じの通り、きょうじゅはキリスト教徒です。2013年の復活祭に、カトリックの教会で受洗しております。いっぽう、物語の中心人物ディルク・ヴィレムスは、そのカトリックから弾圧を受ける再洗礼派という当時異端扱いされていた宗派の洗礼者でした。彼の言行は、こんにちに残る再洗礼派の信徒の間で新旧の聖書に次ぐ聖典として大事にされている『殉教者の鏡』という列伝に収録されているのですが、このディルク・ヴィレムスについて私が知ったのはもう随分と遠い昔、個人的にアーミッシュ(再洗礼派の末裔の一派で、アメリカで独特な活動しているグループ。たまにハリウッド映画とかに出てくるんで比較的有名)について調べていた時です。今回、そのディルク・ヴィレムスの話を再構成して小説にしたわけですが、それにあたって、本来『殉教者の鏡』のヴィレムスのくだりの中では重要な人物とは扱われない、ヴィレムスに助けられた看守に着眼して、カトリック信徒だったと思われる彼が本当はヴィレムスの死について何を思っていたのか、という点に焦点を当てたのが作品としてうまく行ったかな、と自分では思っております。では、今回は大賞に選んでいただきありがとうございました。

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 大賞を受賞された偽教授さんには副賞として、ももなあさんによるファンアートが進呈されます!! 神秘的で美しい、素晴らしい絵ですね……! 大賞、おめでとうございます!!


◆金賞 ランズ・エンドの約束/鍋島小骨

受賞コメント
 今回、『信仰』というテーマは極めて渋く、レギュレーションを初めて見た時これは良い森が育つに違いないと思ったものでした。一方私自身は、色々考えてみても書き手としてエンタメ側に振る余裕がないことを悟りました。つまり今回自分は一切ひねることができない。そこでテーマをある意味完全にまともに受け取ることに決め、やったこともないジャンルの自分史上最渋作品を書いたのでしたが、結果として思った以上に読んでいただけた上に賞までいただいてしまって、どうしたんだこれは?とまさにスペースキャット状態になっています。正直めちゃくちゃ嬉しいです。
 読んでくださった皆様、ありがとうございました。また、いつもと違うものを書くきっかけを作り、評価してくださった謎の評議員の皆様、ありがとうございました。
 そして、これから講評を見て何か読もうかなと思っている方には、きっとお気に入りの木(作品)が見つかりますように!

 金賞を受賞された鍋島さんには君足巳足さんよりファンアートが進呈されます。ただいま作成していただいておりますので、今しばらくお待ちください…!

◆銀賞&ジュージさん賞 月は寂しいだろうか/洞田太郎

受賞コメント
 こんにちは、洞田です。銀賞受賞とのことで、まさか賞を頂けるとは…しかも銀…すごい…という気持ちでいっぱいです。ご講評の御三方、忙しい中の運営お疲れ様でした。この森の一部になれて幸せです!
 皆さんに読んでいただいてレビューや星をいただくのは、賞をもらうのと同じくらい嬉しいです!(もちろん賞もめちゃくちゃ嬉しいので、つまり両方めちゃくちゃ嬉しいということです!)
 読んでくださる皆さん、本当にありがとうございます!書くのって楽しい!
 それにしても「信仰」ってめっちゃいいテーマですよね〜!人間の不安定さの根本に直接ぶつかってくるテーマといいますか…。読ませて頂いたどの作品も面白くて、「この森素晴らしい…!」と画面の向こうで唸っていました。そして信仰という土壌に皆を導いた草さん、さすがいい土を知ってらっしゃる…!!
 改めまして、この度は素敵な賞をいただいて本当にありがとうございました!信仰森最高!!!

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 こちらはジュージさんによるファンアートとなります。作品世界を再現したすばらしいファンアートで主催もうれしいです!

◆銀賞 能動的スケープゴートの計画/古川 奏

受賞コメント
 銀賞をいただけたこと、驚くと共にとても嬉しい気持ちでいます。この先も書き続けていくための力をいただけたことに感謝いたします。
 また読み手として、すべての参加作品からたくさんのことを学びました。それぞれの熱意で創作に取り組む皆様と、この機会にご一緒できたことを光栄に思います。
 森の中の一本になれたことがとても嬉しいです。草さん、評議員のお二人、本当にありがとうございました!

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 こちらは草食ったという方が描かれたファンアートです、好きにお使いください!

◆評議員特別賞 生まれた時に与えられ、死ぬまで離れないもの/神澤芦花(芦花公園)

受賞コメント
 いつもは気持ち悪い話と怖い話を書いている私が、まさか「信仰」という美しいテーマで特別賞をいただけると思っておりませんでした、ありがとうございます。
 闇の評議員の皆さま、お忙しい中講評お疲れ様です&ありがとうございます。
 私の考える巨大感情が皆様に伝わったということ、大変嬉しく思っております。次回もあったらぜひ参加させてください。

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 こちらも草食ったという方が描かれたファンアートです、是非お受け取りください!

◆各評議員賞

 ファンアートを頂戴しておりますが、主催の裏の伝であるため特にお名前は記載しておりません。是非受け取ってください!

 ◆謎のイートハーブ賞 雪が巡る地/山本アヒコ

受賞コメント
 このたび拙作が謎のイートハーブ賞をいただきました。非常に嬉しいです。個人的に満足しているのは、雪送りの歩き方です。書いてたら思いついたのですが、これが作品の世界に強度を与えてくれたと思います。

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 ◆謎のショートカット賞 白銀の巫子/灰崎千尋

受賞コメント
 この度は「謎のショートカット賞」をいただきまして、大変光栄に思います。
 自分の好みの要素を詰め込むと、他の誰かにもぶっ刺さることがあると、最近やっとわかってきたところです。
 他の方の作品でも様々な信仰の形を見ることができ、とても楽しく参加させていただきました。
 評議員のお三方、参加者および読者の皆様、本当にありがとうございました。

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 ◆謎の綿棒賞 青森の救世主/ドント in カクヨム

受賞コメント
 ウワーッ!? ありがとうございます! 夢のようです……!
「信仰」というシリアスなテーマながら、ちょっと温かみのあるものが書ければと思い、筆をとりました。楽しく読んでいただいて、何よりです。ありがどごぜぇます!!

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 こちらのファンアートはやわらさんに描いていただきました!!作品内の一幕が目に浮かびます……情景が美しい……!!

◆ジュージさん賞 告白/辰井圭斗

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◆蓮河近道賞 アムルとハルワ/大澤めぐみ

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◆深緑賞 ガン・オン・グレイス/藤原埼玉

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◆ズンドコワッショイ賞 天上に至る青さよ/草食った

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 他にもファンアートを描かれたという方が居られましたら、主催のイートハーブまでお知らせください!
 こちらの記事でも紹介させていただきます。


全作講評

謎のイートハーブ
 こんにちは、主催のイートハーブです。皆様お疲れ様でございました。そして草食信仰森小説賞にご投稿いただきありがとうございました! 全54作、おもいのほか集まって大変嬉しく思います!!素晴らしい信仰作品群に揉まれて幸せでした……。
 そしてリスペクト&オマージュ先に倣いまして、謎の評議員お二人にも協力していただきました。謎のショートカット氏、謎の綿棒氏、本当にありがとうございました!

謎のショートカット
 こんにちは~~~~~! 謎のショートカットです!こちらこそ楽しい企画に参加させてもらえてありがとうございます嬉しいです!!! 力不足ですが評議員を努めさせていただきます、どうぞよろしくお願いします!!!

謎の綿棒
 はじめまして、謎の綿棒です。僭越ながら評議員をさせていただくことになりました。読み応えのある多くの作品を楽しく読ませていただけて嬉しかったです。至らぬ所ばかりですが、よろしくお願いします!

謎のイートハーブ
 
情熱のショートカット、冷静の綿棒、冷静と情熱の間イートハーブでお送りいたします。よろしくお願いいたします!
 リスペクト&オマージュ先である本物川小説大賞やこむら川大賞に倣いまして、独自に講評をつけた評議員三名の合議で大賞を決定し、その過程もすべて公開します。
 以下からエントリー作品の講評です。
 また、ネタバレが含まれる講評もございます。ご了承ください。



1、うたうくび、滅びの喇叭/鈴野まこ

謎のイートハーブ
 一番手は鈴野さんですね、こんにちは! タイトルが既に最高です。あまりにもデカダンス。
 月からやってきた美貌の男が世界を滅ぼすお話です。鈴野さんの文章は非常に上品かつ情感たっぷりで、閉じているゆえに美しい世界を表現されるのにぴったりな官能的文体だと私は思っているのですが、このうたうくび~はまさに真骨頂に思います。
 幻想に全て振っているのかと思えばそうではなく、作中差し込まれるサロメ、主人公が死の恐怖として思い浮かべるポリバケツ、視聴率の高い年末の歌番組など、リアリティをちりばめているからこそ、月人であるユキさんの異質さ、異質ゆえの美しさが際立っており、情報の操作が非常に上手いです。
 最終話の美しさは筆舌に尽くしがたく、全身楽器の異星人、という設定からのうたう生首、という発想転換も素晴らしいです。一発目から作品の強度が凄いですね……。
 丁寧に描写されたユキさんはまさに神の化身、歌姫というひとつの教祖にもなります。そして主人公はただひとりユキさんの傍にいられ、滅びを齎すものだと知っており、滅びからの執着も得た「特権階級」です。そんな主人公がユキさんに抱くものはまぎれもない信仰心でしょう。自分の願い、つまりユキさんのためなら世界が滅びても構わないという執念、信仰を感じ取りました。
 死を恐れてユキさんに声をかけた暁人の感情が、死の恐怖を凌駕した信仰を手に入れた結果の滅び、幻想的で美しかったです。全編渡ってとにかく美しい、鈴野さんの最大の強みですね。堪能させていただきました!
 描写から感じたものは「破滅的に美しいもの」への信仰かなと。また、名前をつけがたい巨大な感情、関係に信仰心も感じ取られているのかなと思いました。
 しかし、歌う生首って最高ですね……家に一台欲しいです。

謎のショートカット
「恋愛感情はないと言ったが、妬心がないわけではないんだよ」のセリフがすごすぎて頭を抱えました。うつくしい男がかわいいこと言うのが私は大好きなので……。
「私が恋を知らないのは本当のことだけれど、あなたがいないとこの地上で生きていかれないのも本当だ」「やはり私はあなたがいないとダメだ」とかメチャメチャプリティーですね。だいすきです。人外が持つ、繁殖欲の欠けた情、すべて愛と呼びたいです。そしてそういう『モノ』への傾倒は八割がた信仰なんですね。
 構成が本当に勉強になりました。たとえば元カノの劇団を観てきた→元カノの話をする→元カノに嫉妬→元カノの出演した劇の録画を観る、という無駄のなさ。私にはできない鋭さでした。真似したいです。こういう積み重ねのおかげで、1万字以内に抑えられる情報量じゃないのに、駆け足感もないっていう……。
 あと、人に奏でてもらうという発想のなかったユキさん、というのが宇宙人ぽくて好きでした! 設定はSFなのに歌のような文章で世界観が夢のよう……、まあ暁人くん以外の一般地球人にとっては滅亡の悪夢なんですけど……。そういうの好きですね……メリーバッドエンド大賞です。
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、サロメとかぐや姫2つもモチーフを持ってくるとゴチャついて見えるかもしれません。でもコレはサロメ暁人くん×かぐやユキさんの物語なので必要なんですよね〜〜両方とも〜〜! 私は白雪姫VSシンデレラとか桃太郎×浦島太郎みたいな主人公マッチングぶつけ合いが大好きなので、このほうが好きです……。

謎の綿棒
 ユキさんが月の人なのが、日本人にとってはどこかかぐや姫を連想させて、原始的な信仰の要素のようなものを感じられてとても良かったです。それもあってかユキさんは一見突飛な存在なのに、彼の語る世界観に入り込みやすいのかもしれません。主人公は、ユキさんの語ることをあまり大げさに受け止めていないような印象すら受けて、あくまで淡々と物語が進んでいくのが印象的でした。彼を突き動かしているのは、人類を巻き込むということについての決意や使命感というより、ただ目の前の人を喜ばせたい心という印象だったのがなんだか良かったです。これをユキさんの洗脳では?なんて言ったら野暮すぎるというものでしょう。
 ユキさんの本懐を遂げて終わりに至れるなんて、彼としてはなんて幸せな死に方なんだろうと思いました。信仰心という切り口で読むと、とにかく幸福感の強い作品でした。細かなところですが、「月の人間は相手へ干渉する力が強いため、同意を重視するのだそうだ。」というように、(まさに同様の、有名な吸血鬼ルールのように)月の人にも縛りがあるのがいいなと思いました。


2、天上に至る青さよ/草食った

謎のイートハーブ
 自作です。ドラッグやらないでください!!!ね!!!!!!

謎のショートカット
 文体がリズミカルで楽しい! 文学的だなぁと思いました。
 声に出すと気持ちのいい文章が連続、次から次になだれ込んでくる感じ、まさに『きみ』の持つ雰囲気がこんな感じなのだろうなといった心地です。『ぼく』は『きみ』のことしか考えていないので、五感で感じるものはすべて『きみ』を表すんだろうな。情景描写がうつくしい。文章力の化物!
 『きみ』がバイクの後ろに乗っていた、という描写の時点で「お、本物の恋人の背中か? こいつストーカーか?」などと思ってしまったのですが、これは私が草さんの小説を中毒になるほど読みまくっていた結果の予測なので、それがなければ種明かしのシーンで「え〜〜っ!?」となったと思います。自分のない『ぼく』という人間性の描写がグロテスクですね。『きみ』のことしか考えられなくて物足りないって最悪、自立してくださいと思わせる。
 そして、最後に見ていた景色の正体がわかる、ここが綺麗すぎで膝を打ちました。そっか〜〜マジマジで飛んでたのか!という。好きだな〜〜!
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、西に向かう紙幣、紙幣よりも切符のほうが一般的な表現で一読でもわかりやすいかもしれませんが、絶対に『紙幣』のほうが素敵なんですよね〜〜!

謎の綿棒
 心象風景メインの描写が続くのに、情景が想像しにくいということがなく、とにかく言葉が流れるように美しくて心地よく、詩のようでした。主人公の信仰は、つまり祈りと信念は、彼女が亡くなってからこそ本格的にスタートしたのだなと終盤にハッと思えたのが個人的にとても良かったです。
 彼女が生きていた頃に感じていた物足りなさや渇望という段階から、彼女の死を受け己の咎を深く自覚する苦悩の段階を経て、彼がどこに向かい至るのか、その終わりや辿り着く場所があるのか、その答えすら作中に優しく示唆されている構成が大変美しいと感じました。

謎のイートハーブ
 
(ごめんショート……それ誤字だ……ウケる…………)

3、告白/辰井圭斗

謎のイートハーブ
 辰井さんこんにちは! 参加ありがとうございます!
 エピソードタイトルの「信仰の総算」非常に素敵です。こちら信仰としてはストレートに主人公の持つ信仰、キリスト教徒という立場での神の話になります。……と思われましたが、会話という名の独白形式で神、信仰について語られ、徐々に姿かたちを違うものへと変容させます。
 この流れが端正で、辰井さんの美しい筆致もマッチし、どんどん引き込まれます。引き込まれていって感情移入したところ、ラストの文章ではすっと突き放されるのが気持ち良いです。相手役であるはずのジョンにいつの間にか読み手が移入するように書かれてある、と突き放されたところで私は思いました。一人称の読み手を二人称の聞き手にする技法というか……名称などがあるのかはしりませんが、すばらしい手腕です。
 私の考える信仰の話になるのですが、生死表裏一体、光と闇の表裏一体だと思っています。信仰は他者依存であり一辺倒になれば破滅でしょうが、自分に向く祈り、自分をよみがえらせるための祈りという側面があると思うんですね。それは希望だと私は考えます。
 この話の主人公はまさに私の解釈通りで、たしかに主人公の思う神とはすでに元来の神、無償の愛を注いでくれる存在ではないのでしょう。
 それでも祈るのはやはり、自分を救いたいからかなと解釈しました。というのもこの主人公、どこか清廉なんですよね。多分教徒とはそれぞれ神の理想像が違うので、言うなれば全員間違っているんですが、主人公はそれを苦痛に思っている。その上で信じたいと祈っている。清らかな信仰に見えました。
 相手が日本語を理解していなくて良かった、というのも告解であるがゆえなのかなと思います。真綿で首を絞めてくるような流れ、お見事でした。
 というわけで、辰井さんから感じたかみさまへの信仰は「自罰と許容」です。変化に苦しみつつの生を感じました。個人的にもとても好きな掌編です。

謎のショートカット
 語られるエピソードがおもしろいです。石垣から落ちるくだり、おじいさんのくだりは特に「ははあ、おもしろいなあ」と感嘆しながら読んでいました。インタレスティングなエピソードを散りばめられるというのは単純に強みなので、良いなあ〜〜っと思いました。おもしろい!!
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、冒頭の、主人公にジョンの話を回した『先輩』を『年下の同級生』などの文言に変えることで「主人公は留年している」という伏線を張れたかもしれません。でもそんなもの無くてもおもしろいものはおもしろいんで気にしないでください! ごめんなさい!
 実際の体験談を聞いているようなリアリティがあります。主人公ちあきさん自身そういう実話語りの書き手らしいこともあり、これ『告白』そのものが作者の実話8割なんじゃ?と思わされました。しかしちあきさんの言葉遣いがうつくしいため、メチャメチャ物語になっているところ、私は好きです……。

謎の綿棒
 クリスマスの近い夜に己の信心を告白する、自由な信仰の国・日本に生まれ育った女学生のお話でした。神様を試すような祈りをしてしまった、また条件を提示するような祈りをしてしまったと、己の祈りに疑問を感じるこの二つのシーンがとても印象的でした。また、自らの体験から「己の祈る対象が果たしてだたしい神なのか?」という疑問にも至る主人公の祈りの深さと感性を個人的に好ましく感じました。
 それまでの人生で培われた信仰のようなものを棄てるに棄てられず、ずっと問い続けている彼女はまさしく求道者なのでしょう。祈りながら自分なりに道を求めていき、苦悩する信仰のあり方は真っ直ぐで、尊くて、好きです。


4、無能共/あきかん

謎のイートハーブ
 あきかんさんこんにちは!ご参加ありがとうございます!
 多分なのですが、二次創作の界隈についての風刺です。界隈はけっこう独特? 特殊? な暗黙の了解などがあり、慣れない方には不思議に映ると推測されるため、宗教団体というふうな枠をあてはめやすかったのかなと思います。
 上段の通り、とあるカルト的な宗教団体の内部抗争、という内容のお話です。禁を破ったとある信者を排除する流れが起こり、しかし視点人物である「僕」は当然だと思っていた戒律に、とある「グリモア」との会話により若干の疑いを持ちます。
 差別するに違いない! と言い張ることもまた差別になる、ということについて考えさせられました。
 そしてこれは謝罪なのですが、私含め評議員はネタ元である二次創作界隈、とりわけ男性同士の関係に焦点を当てた作品を嗜む人間です。そのため三人とも1ページ目から殆どの察しがついてしまうんです。あるトリックを使われているのですが、そのせいでまったく機能していないように見えます。
 構成に関するまっとうな意見が欲しい場合、二次創作界隈に明るくない方に判断して貰ったほうが良いのではないかと思います、申し訳ありません……。
 起承転結の振り方が明瞭で非常にわかりやすいです。特に蒟蒻問答のほぼ会話劇で構成されている段が軽妙で面白かったです。これはどうでもいい豆知識なのですが界隈によっては逆カプよりも同カプの解釈違いの方が争点になります、是非ネタ活用してください。
 あきかんさんの作品から思った信仰は話のタイトルでもあった「蒟蒻問答」です。どの界隈、団体でもそうだと思いますが、答えのない問題なのでしょう。

謎のショートカット
 腐女子の学級会!! おもしろかったです。
 自分の信仰が揺らがされる感じの表現が良かったです。主人公がグリモア(共同体外の他者)の話を聞いて考えをめぐらせかけたけど途中で思考放棄、結局は何も変えないことを惰性で選択、そしてタイトルの『無能共』!まさに宗教。痛快でしたね、しびれました。ポップアップされる選択肢を無視して『何もしない』を行動をする動作、めちゃくちゃ人間。主人公の思想、理屈じゃなくて宗教って感じが良かったです……。
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、アリステイとビスカレイは造語かな?と思うのですが、全く知らない単語が『五文字でカタカナで最後がイ』という似た字面で出てくると、読者が混乱しやすいかもしれません。『アリステー』と『ビスカレイ』みたいにしてくれると、私のようなバカでも読みやすいです……。
 あとは、三話まで同性愛や一般公開やジャンルなどの言葉を避けて、四話で一気に情報を開示するほうが、溜めて溜めて溜めて種明かし!というエクスタシーを感じやすいかもしれません。が、コレって好みの問題なんですよね〜〜!

謎の綿棒
 己は純真であり被差別側グループに属する、というような自意識を持った主人公は、自己を正統化しながら、信仰のようなものを免罪符に都合のいい狭い箱庭で生きているような印象を受けました。ある信仰を護ろうとした時、そのために様々な付加的な事柄、例えば「戒律」などが必要ですが、しばしばこれらが現実社会との軋轢で調整を余儀なくされたり、より精度の高いものに変更する必要が発生したりすることでしょう。
 この物語はどちらかというと、祈りや信念や個人的な苦悩というよりは、この”信仰に付随しがちな俗世のいざこざ”にフォーカスしたもののような印象を受けました。意図されていたかはわかりませんが、所属する小さな社会の環境や、そこでの細かな諸事情に振り回されがちな人間の哀しさのようなものを感じる作品でした。

5、ディルク・ヴィレムスの殉教/偽教授

謎のイートハーブ
 偽教授さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 率直な感想をはじめに言うのですが、信仰というテーマを強力な右ストレートで顔面に叩き込んでくる作品でした。殉教と実際の歴史を軸にする重厚な内容で三千文字台。それも八十年戦争を経て独立するオランダが舞台。八十年戦争真っ只中の十六世紀。オランダ、個人的にかなり好きな国なんですよ……。その点でも参りましたね……どこを切り取っても本当にいい作品で参りました。
 それぞれの信仰が複雑に絡んでいる、と私は読みました。たとえば老爺となった牢番が最後に語る自分は恩知らずだったと伝えて欲しいという願いなのですが、そう言った理由をずっと考えていました。こうやって真剣に考察解釈を始めてしまう時点でもう本当に素晴らしい作品ですね……以下深読み失礼致します。
 もしも牢番がヴィレムスは本懐を遂げた殉教者だ、彼こそが信仰の要である、というようなことを言ってしまえば、それはヴィレムスの望んだところではないと解釈したのではないか。私はそう捉えました。牢番は当然再洗礼支持者ではありません。内情と事実を取っ払ってから、自分を引き上げてくれたヴィレムスを思い返し、キリストを思い出させる凄惨な最期を思い返し、彼の信念や矜持、揺るぎない信仰を深く感じたからこその、最後の台詞だったのかなと。簡単に言ってしまえば、隣人を愛し、敵を愛す、を解したからこそのひらめきの訪れだったように思います。
 ここにもひとつの信仰が私には感じ取れました。殉教者というある種神性を帯びた、神に導かれるに足るヴィレムスという信徒への敬意とも言えるでしょうか。自分がヴィレムスの偉大さを吹聴することこそ、神への冒涜だと感じたように思います。
 氷の池に落ちた牢番を引き上げるシーンは胸が詰まります。助ければ捕まって残酷な刑を受けるのは見えているためです。花と風車と水の国、現在の姿になるまでに本当にたくさんの犠牲があったということにも気付かされます。
 余韻を残した後を引くような読後感が、作品全体が帯びる哀切で神聖な雰囲気を更に増幅しています。刺さった針のように物凄く胸に残る作品でした。
 私はキリスト教に明るくはなく再洗礼も初めて知りました。それでも深く物語に入り込めたのは、本文がキャラクターがこちらに語りかけてくるように書かれているからかなと思いました。すばらしい手腕です。
 私が物語から感じた信仰とは「信念・矜持」でした。信仰っていうと私が書いたようなネガティブさを浮かべる方もいらっしゃると思うんですが、こちらは信仰とはなんたるか、人間とはなんたるかを右ストレートで打ち込んでくれます。
 信仰小説であり、歴史小説であり、人間ドラマでもあり……読めてよかったなと素直に思いました。あらゆる意味で本当にいい作品です。

謎のショートカット
 知識量! おもしろかったです。
 題材が実在した人間である為あえて物語っぽい雰囲気にはしなかったのでしょうか、エンターテイメントよりはドキュメンタリー的な感じなのかな?と思いました。殉死したディルクではなく殉死させた看守のほうに焦点を当てるというやり方、良いですね、好きです。
 看守はディルクのことをメチャクチャ考えているのですが、ディルクは宗教のことしか考えていないし死の間際にも看守という人間について語りもしないという、この一方通行感、グレイトです!!
 ディルクにとって看守の存在って『神の与えたもうた試練』という扱いで、言ってしまえば名無しのゴンベエなんですよね。個人的感情が一縷もない。そこに看守が、『ヴィレムスに対して一縷の感謝も抱かず、忘恩のままに死んでいった』ことにしてくれ、と頼むの、エモーショナルです。信仰をつらぬいた人間という描写、好きだなあ…。

謎の綿棒
 信仰心が自分と異なる者を(そうするべきという信心や使命感と、己の社会的な立場に従って)罰することに加担しつつ、一方個人的な体験としては命を助けられていたことによる、苦悩のお話でした。もしこの看守に、己の立場や守るべき娘がいなかったらどのような選択肢をしただろう?と空想することはできますが、彼がどうあがいてもこの現世に生きて何かしらに属している人間である以上、それは考えてもあまり意味のないことなのかもしれません。
 彼はきっとせめて己に一貫したものを持ちたくて「最後まで何の悔恨も抱かず、何の反省もせず、ヴィレムスに対して一縷の感謝も抱かず、忘恩のままに死んでいった」ということにしたいと告白したのかなと思いましたが、大変な迷いの中にもきちんと”神父”にそう吐露することで、己の信仰の正しい導線を守っているので、個人的に大きな安心感を得られました。きっと彼は、本質的なところで道を見失うことはないでしょう……!

6、赤い海と青い海/山河李娃

謎のイートハーブ
 はじめましての方です。ご参加ありがとうございます!
 所謂人身御供のお話ですが、描写がぼかされているため現代という雰囲気はなく、幻想小説に似た読み口です。時系列にそって淡々と進んでいく展開は読みやすく、文体の良い簡素さも相俟ってすっと物語に入ることが出来ました。
 主人公は友人が犠牲になるくらいなら、と自分が生贄になることを決意します。父親にそう話し、想い人にも別れを告げて、箱の中へとおさまります。この流れを静かな筆致で追われていく様が情緒を醸し出しており、するっと読めつつも物足りなくはないのが旨みですね。
 内容は無常さもあるのに爽やかさもあります。ここが非常に絶妙です、下手をすると胸糞になる内容だと思うのですが、ヘイトの管理と言うか主人公の性質によりさほど嫌な気分にならずに読み進められるのがとてもいいですね。
 生贄の物語として読むのならば王道の展開で、恋愛の物語と読むのならば悲恋かと思います。「日が水平線に沈み込むとき日光が線のようになっていた。それは私たちを別れされるための境界線のように。」ここの文章が物悲しさ、切なさを醸し出しておりとても好きです。
 霊となり想い人を見守ることにした主人公が自分のお墓を参る彼を見つめるところで話は終わります。霊、つまり人間ではなくなり、個人を見守るモノと化した主人公は、ある種彼の守護霊なのだととりました。
 こちらの物語から嗅ぎ取った信仰は「慈愛」です。神に捧げられ神に近くなった少女の慈愛の物語という側面を、信仰要素として受け取りました。

謎のショートカット
『人間は寒くなると体を温めるために震えるだろうが私の心は温まることはなかった』の描写からメチャクチャ好きです。このみ!!
 海難事故があった年は魚がよく獲れると言います。土左衛門に寄ってくるのでしょう。それかなと思うと良い意味でゾッとしますね。
『漁業』とか『法律』という言葉を挿入することで、幻想ではないリアリティを表現されているのかなと思います。神の生贄という言葉から『世界観は大昔?』と思わせておいて、『法律上殺人罪』という言葉でわりと近代だとわかって、「おもしろい~~!!!」と思いました。そして美恵ちゃんがベッドとかインターフォンとかシャワーとかシャンプーとかバスタオルとか言い出すから、現代じゃん!とテンションが上がりました。設定が好きだなあ!
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、ウクゴミトヒ執行の詳細を書いてくれてたら好みすぎて七転八倒したと思います。朝の支度、禊、港を歩くまでの道のり、裸足で歩くから砂利を踏む、家々は玄関先に青色の幕を下げている、死装束には十年かけた職人技の刺繍、不釣り合いなボロの木箱、クッションのやわらかい寝心地、……みたいな。でも個人の好みの話なので!
 主人公ふくめた村人の全員が、誰も風習をやめようとか逃げようとか言わずに、わりとアッサリ個人の死を認め、粛々と美恵ちゃんが贄になっていくところ、メチャクチャ信仰っていうか宗教を感じました!

謎の綿棒
 中盤まで読んだところで、土着信仰のある村社会に振り回される一人の可哀想な少女の話かな?と思いました。が、物語の顛末があまりに穏やかなのを見届けたところで、彼女の自己犠牲心というのも一つ、生まれ育った村社会で自然に培われていた信心とも言えるのかもしれないという気持ちになりました。
 死への決意があまりに流れるようで、海斗に会いに行く時すらも一人称で悲しませたくないという思いを繰り返し見せていましたが、それが本心なのだとしたら、彼女は幼いながらも随分と自然に自己超越的欲求の境地に到達しているなあ、と感心しました。そんな彼女自身が最後は「この世界に霊として漂うこと」をただ喜んでいるのが、どこかチャーミングな印象でした。

7、偶像のキモチ/川谷パルテノン

謎のイートハーブ
 パルテノンさんこんにちは、ご参加ありがとうございます! すみませんまず感情から失礼します。
 いやこれめっちゃ好きですね……まず主人公のクズさと文章の勢いが本当に好きです。改行があまりなく壁となっているんですが、まったく気にならず読めるところが本当に好きですね、気持ちが良かった……。
 真面目な講評に入ります。設定が非常に面白いです。死んだ人間を仏様になるとはよく言いますが、本当に仏にした上で、仏にした人間は罰として地蔵菩薩の体をなし、人格がそのまま残っている。尚且つその人格とは相当のクズ。この仏からは考えつかない人格が内側にあるという舞台設定が開幕脳にがつんと入ります。続きを読みたくなる、非常に掴みが上手いです。
 お地蔵様になった主人公と残してきた好きな女性が偶然の一致で対面する場面が一番の見所で、女性の「」台詞と地の文であり伝わることのない主人公の声の掛け合いが、コミカルから一転する箇所が私は特に刺さりました。緩急のつけ方が非常に上手いです。
 偶像のキモチという、キモチを片仮名にすることによってのライトさが、この話がある面では死者との対面であることを浮き彫りにしすぎず、爽やかな読み口になるのかと思います。
 最後に恐らく17歳時にしたという告白の場面を持ってくる構成も憎いですね。切なさの比重と爽やかさの比重がちょうどいいバランスで保たれており、すごく素敵なお話でした。
 私の感じた信仰は「贖罪・赦免」です。マリとの会話の場面こそ主人公の改心、罰の享受、かわいく言うなら神様の悪戯ととりました。慈悲小さな欠片を見つけた主人公、いい地蔵菩薩になれるといいなと思います。

謎のショートカット
 文章のテンポが良いですね! メチャクチャ読みやすい。スッと内容が頭に入ってきたのでくやしかったです。
 タッちゃんとマリのキャラクターが良いですね〜〜! おもしろい! かわいい! タッちゃんが刺されるシーン好きです。雨の中バチャバチャ水しぶきを上げてのたうち回ったんだろうなと想像できます。あと、マリのとぼけた女の子っぽい感じがとってもキュートでした。ゆるふわボブで口紅がオレンジ色の女の子をイメージしました。
 けどマリも、タッちゃんの悪行を見て見ぬ振りしていたわけで、良い子ではないんですよね。良い子にするなら『まさかタッちゃんがあんなことしていたなんて。けど、私はそれでもやっぱりタッちゃんが好きです』とかになるわけなので。一緒にいられるなら悪人でも良かったけど、悪人だから一緒にいられなくなる、マリに対する因果応報でステキです。シェイクスピアも言っています、人殺しを許す慈悲は人殺しを育てるに等しい。地獄のある世界観なので、本物の天罰が下ったのかなと思いました。
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、タッちゃんとマリの視点の切り替えがわかりづらかったので、(そういう演出な気もしますが)、二行くらい空けてもらえると私のようなバカは助かります…。あとタッちゃんとマリの生前の仲睦まじいようすがもっと読みたかったけどコレは読者のワガママなんですよね〜〜!
 地蔵になる地獄、おもしろいです! 私が先に思いついたことにならないかな~~~~! みなさんご存知のように閻魔大王は地蔵菩薩の化身でもあると言われているので、タッちゃんみたいな頭が悪いせいで転がり落ちるしかなかった愛されしクズは、せめて痛みのないこういう地獄に落としてあげるのかもしれませんね。「おめでとうな。ありがとうな」のセリフが好きです! 万感の思いが込められている、すばらしいです。

謎の綿棒
 お地蔵さんもとい地蔵”菩薩”ですが、菩薩というのは悟り(仏になること)を目指す修行者のことを指し、他者に対する大慈悲の心を持っている段階でもあるので、悟りの世界と現世を繋いでくれる役割を持つ、凡夫よりは悟り側に近い存在だと言えます。
 人は死ぬと皆仏になる、誰でも仏性というものがあるという仏教の基本の解釈に基づけば、きっとタツオは生前色々とやらかしながらも好きな子の近くの地蔵になって自分のいない人生での幸せを祝福できる、そんな仏性が元来あったのだろうと思いました。甘酸っぱく爽やかな読後感でした。

8、手記/私は柴犬になりたい

謎のイートハーブ
 柴犬さんこんにちは! お名前が長いため犬種だけ抜き出しての挨拶失礼致します、ご参加ありがとうございます!
 初見での率直な感想は哲学的だな……でした。信仰というテーマを掲げたので、宗教的・哲学的な作品も来るだろうと喜んでいたのですが、柴犬さんの「手記」はまさにそうで、散文詩でありながら哲学思想を組み込んであるように見受けられました。丁寧語で進む筆致が非常に魅力的です。
 目がいくのはひらがなのみで構成されている段ですね。「わたし」から「あたし」と一人称が変わっているのが特に印象深く、一瞬別人格かと思ったのですが、深層心理と読むほうが良いのでしょう。ここが最も必死で、哲学的で、原初の香りがします。うまく読み取れた自信はないですが、「なにか」は「あたし」の多面であるととりました。
 自分を俯瞰または傍観する視点を忘れられない人ほど生に苦しむ、というような印象を受けましたが、かと言って死を選ぶわけでもない。これが非常に人間的で、作品全体を包む膜になっています。淡々と静謐に進んでいるけれど、根底に流れているのは渦巻く思念というか、願望めいた信仰に見えました。
 これはかなり貴重な小説ではないかな、というのが初読から変わらない印象です。語り口は丁寧なのに内部構造はまったく丁寧ではなく、あっちとそっち、そうですね、理性と本能、コスモスとカオスの間を激しく往復します。奇妙で貴重な読書体験です、苦悩し脳を回転させながらも努めて理性的であろうとするように見えました。
 手記から感じた信仰は「葛藤」です。家の方向を指す爪先で幕が下りるところがとても好きです、これからも生きて頂きたいです。

謎のショートカット
 主人公の喋りが良いですね! 好みです。何も起こらないのに最後まで興味深く読めるというのは、それだけ言葉が洗練されているのだろうなと思いました。文学的!
『他には周りに埋もれて過ごすくらいで、おさげの眼鏡だった私は特段何も無かったのです』で表現される主人公の紹介、良いなって思いました。私なんかだと「私はおとなしい子どもでした」とかドカンと書いちゃって、情緒もへったくれも無くなってしまうので……。
「病」をここまで描写できるのがすごいなとワクワクしました。中盤すべてひらがなになるところ、名文の連続でしたね。『ことばがたくさんのあたしをせつめいしていました』『あたしはうごいてません。だからなにもありませんでした』とか好きだな〜〜~~~好きです!!
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、ひらがなのところが読みづらいので改行が欲しいところ、ですが、それが表現なので、これは読者側の傲慢ですね。名文いっぱいだったから読み飛ばされたら悲しいなと思いました。
 あと、主人公がタバコを買う意外性が良いですね。成人していると思わなったので……。そして、その後に「大人」について主人公が物思いにふけるので、うまいな!と思いました。私なんかだと「私は成人式に出なかった」とかって書いちゃうと思うので……うまいな……。

謎の綿棒
 自己の統一感があやふやで様々な声が聞こえる主人公は、何かしら原因があって離人症性障害のような状態に陥っているのかなという印象を受けました。
 追い詰められ、精神障害のような状態の主人公の人生の中に、たまたま何かしらの宗教や神様が存在し、それにすがるしかない状態、という感じなのでしょうか。何か今後好転することを示唆するようなファクターも見当たらないので、彼女が明るみの淵に手をかけられることを祈る他ない、と絶望的な気持ちになりました。
 救いの感じられない読後感がダークで、それがこの作品の旨味のように思いました。


9、白銀の巫子/灰崎千尋

謎のイートハーブ
 灰崎さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 まず設定の凝り方が素晴らしいです。神話から始まることにより世界観を完璧に説明し、主人公視点に移り変わってからもすっと物語に入ることができます。実は異世界ファンタジーは恐らく一番触れていないジャンルで、中々飲み込めないことが多いのですが、こちらはすぐに頭が切り替えられてとても読みやすかったです。灰崎さんの文章力と構成力がなせる技ですね、修飾し過ぎない地の文かつ端正な文章運びにより美男子たちもいっそう美しいです。
 内容はそうですね……感情失礼致しますが、こんなにたくさん長髪イケメンを出してもらえるとは思わず……。やったぜ! と膝を叩いてしまいました。うーん、いい……長髪美男子達が髪を結い合ったりお遊びとして睦み合ったり……なんだこれは……ここが私のシャングリラですか……。
 あとびっくりしたのですが、官能描写が滅茶苦茶お上手です。都合上R指定の小説をよく読むのですが、その無数の指定ものの中に入れてもトップクラスの描写でした。見てしまう状況、ミアの反応、選ばれた語句、文学の手触りすらある描写で本当にお見事でした。
 私は小説の評価を幕切れ、起承転結の転結にゆだねるきらいのある人間なのですが、白銀の巫子のラストは本当に素晴らしくて二回目の膝打ちを行いました。正直読み進めながら、亡くなってしまったミアを想い、神に背を向ける流れになるのかな、と思っていたんですよ。それをぶち抜かれて滅茶苦茶楽しかったです。
 これは与太なんですが、太陽側の話も是非読んでみたいですね。こう、女の園なので違う意味でエグみが増しそう……。
 神に抗えず娶られる。ここに着地したからこその圧倒的読後感、お見事でした。「目を背けられないもの」という信仰を感じさせて頂きました。

謎のショートカット
 冒頭の神話! 冒頭の神話だいすき! 初っ端からあまりにも好みすぎて『一万字もある! ヤッター!』と思いました。
 異類婚姻譚で男神に少年が嫁がされる話なんて本当に最高、一箇所に集められて共同生活する美男子たちなんて私の好みが過ぎる、しかも子どもが身売り人が死ぬ! 講評に贔屓目が入ります、ご注意ください。
 最初の方、『使えない職人に対する目はひどく冷たい』から、巫女である自分の境遇が嫌じゃない、ってところ、なんか好きだな、なんでだろうと考えた結果、生活感が出ていて好きなのだと思いました。労働で食い扶持を稼ぐ村の暮らしとそこで生まれた主人公の自意識が垣間見れて良い。そんな素敵な文章が、その場限りでなく、後にちゃんと生きてくるのすごいです。構成力。
 そばかすと書いて『太陽の足跡』メチャ良くないですか!? 私が知らなかっただけで前からある表現なんでしょうか、オリジナル? 良すぎる、私が先に思いついたことになんないかな、最高!
『星詠みをした後は、目を閉じても瞼の裏で星がいつまでも瞬いているような時がある』も好みです。何が良いって、やっぱり夢心地の中にある生活感かな。幻想的な世界観の中に光る、現実とも通じるリアリティに私は惹かれます。私もパズルゲームした後は目を閉じても視界がピコピコしてることあるし……。
 舞のシーン、レトが神がかりになっていく絶望がナイスです!意思なんてないんです、神に洗脳されて身を捧げて信仰させられるの、リョナ。好みすぎて『俺を狙いにきた小説だろう』と思いました。読者にそう思わせるのすごいことです。
 文字数いっぱいあってうれしい。ピタリ一万字賞をあげたいです。
 あと、私はショタコンなので私が設定してたら『巫子は20歳には死ぬ』にして14歳で殺したと思うので、作者さんはノーマルなんだろうなって感じました。とてもおもしろかったので、太陽側の話も読んでみたいです。
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、ミアとセオの姦通の匂わせ、それでなくともミアが隠しごとする描写などで不穏さなどがもうちょっと欲しかったのですが、一万字以内って制限があるから無理なんですよね! とても悲しい。むしろこの情報量と満足度で一万字はすごすぎる。
 百億点が出ました!メッチャメッチャ好きです!!

謎の綿棒
 神話のような世界観のあるBLで、最後まで雰囲気をたっぷり楽しめました。導入の「原初の神話」が美しく現実離れしていて、とても引き込まれたので、その後の物語にもすんなりと入り込むことができました。
 美しい薄命の若者が集められる閉鎖的な空間での出来事が描かれていますが、主人公の親友が死んでしまい、復讐が果たされるわけでもなく、すっきりとするようなオチがあるわけではありません。
 人を選ぶラストかもしれませんが、何かわかりやすい答えや、エンタメ的な成長物語があるわけでもなく、淡々と進む中に感じる儚さが神話のようで個人的に好みでした。

10、雑木林のツチノコ神/白里りこ

謎のイートハーブ
 白里さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 まず感情なんですが、これめーーーちゃ可愛いです。本当に可愛くて気が狂うかと思いました。私は意表を衝かれるという感覚が大好きなのですが、こちらは完全に意表を衝かれて涎が出ました。
 話の内容は王道的なサクセスストーリーと言えるかなと思います。主人公が現存する神様に出会い、信仰の復興と共に自分も成功をおさめていく、というストレートな構成になっています。この先も一人と一柱は仲良くやっていくだろうし、輝かしい未来ばかりが見えている明るい幕切れです。
 これの意表を衝いて来た点はまさにここです。私は信仰というテーマを打ち立てたとき、殺伐とした話やずっしり胸に来る話、宗教的意味合いの強い話が多くなるだろうと予想しておりました。こんなに可愛くて愛らしくて萌える神様が来るとは思いもしておりませんでした。
 ツチノコ様がとにかく可愛いです。キャラクター性能としては参加作品中随一と言ってもいいかと思います。語尾の「~じゃ!」が可愛すぎるなんだこれは。古ぼけたお社を直してもらって喜ぶところが可愛すぎるどうかしている。視聴者と一緒に投げ銭している気分でしたこんなん金払うわ頼む助けてくれ。
 取り乱しましたすみません。白里さんの文体はさっぱりとして飾り気のない美しさが魅力で、のど越しの良い読み味が読後感の良さとも繋がっています。作品内容とも相俟って更にツチノコ様の可愛さが際立ったのではないかと思います。
 白里さんにとっての信仰はなんだろうなー、信仰というより、神様に向ける視点、というものを感じ取りました。「忘れてはいけないもの」と私には映り、ツチノコ様のことを愛でる気持ちがいっそう増した所存です。

謎のショートカット
 めちゃめちゃ良かったです! おもしろい! 最高! こういう作品が良いんだよこういう作品が!と手を叩きました。最高!
 ツチノコちゃんかわいいな〜。バーチャルアイドルとして成り上がっていく過程をニコニコしながら読みました。ツチノコちゃんの『しかし桜の木がみんな病気で枯れてしもうてな……以来めっきり音沙汰無しじゃ』などのさみしいセリフで「悲しい……」となり、報われてほしい……と思わされた読者側の願いがノータイムで叶うのでノーストレス、最高です! 萌えオタなのでツチノコちゃん人間にならないかなーとか思いましたが、ツチノコ形態のほうがほのぼの感が出てかわいいかもですね。キャラクターが成功するのをニコニコで見れるって読み物としてメチャクチャ魅力です! 良かったな〜。マジでお気に入りの作品になりました!

謎の綿棒
 ライトでポップなツチノコちゃんとのハートフル小噺!多くの神がいる日本にはきっとこんな可愛い神様もいるの違いないと思うと可愛いです。
 現代的な世界観にマッチしたツチノコちゃんですが、果たしてネット上で己の力になるような強い信心や祈りを集められるのか、それを持続できるのか、そんな余計なこともつい考えてしまいましたが、ツチノコちゃんなら可愛く楽しく吸収率よく(?)パワーを集められるかもしれませんね。そんな可愛い神様もいてこその日本なのだろうなあという気持ちになり、癒されました。


11、えびす神社のお守り/ジュージ

謎のイートハーブ
 ジュージさんこんにちは!ご参加いただきありがとうございます!ホラーでとても嬉しいです、喜んで拝読致しました!
 シンプルにとても上手いです。書簡形式が非常に合うお話で、じわじわと忍び寄ってくる不穏さの演出が巧みであり、最終話ではぐるっとひっくり返される感じが堪りません。締めの一文には切なくもなり、客体でしか表現されていなかったはずのおばあちゃんの涙が見えるかのようでした。
 ホラーミステリの読み口です。ジュージさんは伏線回収や転調のタイミングが本当に巧みで、えびす神社も言わずもがなでした。こういうの書きたいんだけど書けないんだよなー! と一人で悔しがってしまいましたね……。
 日本神話(古事記)に絡めてくる手腕にも唸りました。なるほどえびす神社……と驚き背筋が寒くなると同時に思わずにやついてしまいました。情報の管理が本当にお上手です、ホラーでぞっとすることが少ないのですが開示の瞬間の粟立ちは本物でした。これはすごいです。
 現代日本版の猿の手とも言えるのかな。誰かが未来を勝ち取ると同時に誰かは未来を失う、こういうことはよくある気がします。猿の手も無条件に願いを叶えてくれる魔法のアイテムではなく、高い代償を求めるいわば呪いのアイテムです。
 しかしこの代償を支払ってでも叶えたい祈りというものもまた存在するんですよね、これが愛ゆえの業です。人間が人間たる所以かと思います。おばあちゃんの「信仰」は罪だったかもしれません。それをおばあちゃんもわかっているからこそ、絶対に中を開けるなと言ったのでしょう。
 愛を多段に感じるお話でした。私がこちらの作品から捉えた信仰もやはり「愛情」、愛する他者に向けた祈りという側面。それも多分、業をもし背負うなら自分だけというおばあちゃんの掛け値のない無償の愛情だったのかなと思います。

謎のショートカット
 おもしろい! お手紙という形を取って書簡体ということを差し引いてもスラスラ読めました。おもしろかった! 己の既往歴とご近所の嫁いびりという、一見してつながらない二つの事象がつながった時の爽快感ったらないです。本当につながるの!?と思いながら読んでいたのでスゲ〜〜〜!!って思いました。
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、実里さんが『おばあちゃんは骨壺を暴いたのでは……』『墓を荒らしたのでは……』でなく、『山内さんから赤ちゃんの遺体の一部をもらったのではないでしょうか』と確信するに至る根拠があったら膝を打ちました。お嫁さんがしたのがリストカットではなく足を切ろうとしたとか耳を落とそうとしたとかだと、違和感を伏線にできたかもしれません。でもそんなの無くてもおもしろいものはおもしろいので個人の好みです……。
 締めの言葉が良いですね。物語を包括してより良いものにしています。あと実里さんの人間らしい弱さが良い。己と身内に情状酌量を期待している浅ましさ、自分に課せられる刑罰の度合いをうかがう卑しさ、最高です。

謎の綿棒
 祖母の想いと、今や母になった主人公・実里の気持ちと、信じたくないような想像されうる真実と……。恐ろしい内容でありながら、手紙という形式で、また主人公の聡明な雰囲気の主観で語られていることによって、どこか登場人物たちの血の通った生きた温かさをも感じる作品でした。祖母の信仰心が特に篤かったのは言うまでもありませんが、主人公がその想いを汲みつつ、祖母の行動によってもたらされた事柄の罪について問うている本作は、読む者に信仰やその功徳の力、他者への愛情のあり方などについて考えるきっかけを与えるような趣深い内容でした。八百万の神々のいる日本において、祈る対象を選ぶ際には慎重になりたいものですね。全体的に、個人的にかなりのお気に入り作品でした!ありがとうございました。



12、アルファツイッタラーの死/シメ

謎のイートハーブ
 シメさんこんにちは!はじめましてイートハーブです。
 これはけして悪い意味ではないですが、こういう作品がくるといいなーと思っていた通りの作品でした。私は血祭りが大好きですので、待ってたよ……と思いながら拝読致しました。
 内容は主人公の私が好きになったツイッタラーを殺すまでです。これは身の回りで起きかねないラインにある程度近付いていると思うのですが、淡々と描写されるゆえのリアルがいっそうホラーで面白いです。
 文中の「ぐふ、と痛そうな声を出す。痛かったね。」ここが特にいいですね。痛かったね、が非常にいい味を出しております。主人公のこの超越したような視点。殺人はまったく褒められたものではなく、肯定する意図はないと前置きをするのですが、重罪は犯すとある種の境界を越えてしまうのか、信者が発生してしまう場合もあります。いい例がサイコシリアルキラーのファンですね。
 こちらは「神」を殺して「神」に成り代わる話、ととりました。それでいて殺害した「神」の顔は見ずに立ち去ることで、「信仰」も持ったままでいる。私はそのように読み込ませて頂きました。
 一物だけを切り取った阿部定は一番思い出のある部分を持ち去ったと供述しました。この主人公が持ち去ったのは薬指、結婚指輪を嵌める指です。非常に気持ち悪くて嫌な読み味が残る幕切れ、面白かったです。
 否定的な意味ではなく、悪い例の信仰を見せていただけたという満足感がありました。「狂信、暴走」これもまた信仰なのでしょう。

謎のショートカット
 そんなに温度のない単なるフォロワーだったのが不意のキッカケでファナティックに転がり落ちていく描写が好きです。ある意味とても理性的におとなしくしておいて急に凶行に走った主人公、彼視点ではまったく脈絡のない被害だったのだろうなというところもナイスです。事前にツイッターに怪文書を送るとかもなかったんだもんな〜、怖〜……。
 欲を言えば、一度も現実世界で会ったことがない彼を『彼』だと認識する根拠の描写が欲しいです……。本物かわからない人間に手を出す狂気の演出かもしれないとは思ったのですが……たぶん、言外に「一度も(対面して)会ったことはない(けどいつも背後から見ていた)」とかがあるとは思うのですが……私のような心配性の読者は、その一言が欲しいんです……。
 何より最後まで彼の顔を知らないところがいいです。私だと最後に顔を見て「思ってたのと違った。ファンやめます」って薬指も置いて帰らせたと思うので、さじ加減というか、我慢できてすごいなって思いました。彼、中肉中背で短足で日焼けしていない生白い肌に毛穴の浮いた鼻と黄色くてでかい歯、とか描写したくなるところ、一切しないでくれたので、もしかしたら細身イケメンだったかもと思えて、なんでしょう、本当に最後、彼の顔を見せるの我慢できてすごいなって思いました。
 坦々とした本当に狂気がいいです!!!!

謎の綿棒
 現実にも存在していそうな、ネットの有名人との距離感のおかしくなってしまったインターネットの住人目線のお話でした。主人公の発想から、現代社会特有の精神的な病理を感じて恐ろしかったです。
 信仰とは決して対象の理想化や思い込み、盲信のことではないと私自身は思いますが、ただ、信仰ということに履き違えられた(正当化された?)執念、というものは度々存在しうるのかもしれませんね。なんにせよ事件を起こしてしまうような人物は、きっと自分の中では筋の通った行いをしているのだろうと想像すると、末恐ろしいなあと思いました。

13、スキャンベルル近傍より/風鈴

謎のイートハーブ
 初めましての方です、こんにちは!ご参加ありがとうございます!
 共和国と帝国内で勃発した戦争のお話です。しかし凄惨な戦いの描写はほぼなく、半分以上は手紙と神話が占めています。
 この神話がかなり作り込まれていて読み応えがあります。昼と夜、人間と岩という対比を書くだけに留まらず、姿かたちを見せてしまったことによる争いについて記され、作品が放つメッセージ性を高めています。
 兄の独白めいた手紙の部分は鬼気迫る筆致で、追い詰められた兄の心情が上手く現されていました、お上手です! 
 兄にとってはこの神話こそ自分が理想としていた世界で、そのために邁進していたつもりがいつの間にか見失っていたのでしょう。そして信条を優先し敵国の子供を助ける、自己犠牲の最期を遂げます。兄らしいな、と思うくらいには感情移入しました。
 ボーイミーツガールのあたたかなやり取りのあと、答えない「岩」を見上げての幕切れ、余韻があってとても好きです。
 信仰というよりは神話、そこに属する我が父、そして燃え盛る岩こと太陽という、神的存在の話かな、と思いました。神に祈れば世界は変わるか。この作品は否と唱えているように感じました。興味深く読みました、面白かったです。

謎のショートカット
 まずスキャンベルル神話の内容がおもしろいですね。民族学的?宗教学的?……何なんでしょう、ともかくおもしろい! 本当にこういう神話がどこかに残されていそうだなと思えます、よくできた物語ですごい。
 光あれ然りアマテラス然り万国共通、神話というものは天地創造、特に「昼」と「夜」のなりたちについて語りたがるものですが、それにしたって本当によくできてるな、と思いました。
 それを踏まえて、何より本筋のストーリーがすばらしいです。キャラクターによってしっかり確立された思想をぶつけられる感覚、プロの小説を読んだ気分になりました。
 根底に反戦思想がある戦争ものって、良いものであるほど後味が虚無なんですよね。死を無意味に描くので、むなしい……。最期の瞬間をエンタメとしてじゃなく、喪失として描くからむなしい……。エンタメ依存症である私は戦争ものってほとんど摂取しなくて、それでも一番最近に観たのが1917(命をかけた伝令)なのですが、この最高の作品と後味が似通っていて、あ〜濃いコンテンツに触れたなと思いました。充足感。
 最初に共和国勝利の喜びを書いたのに、兄の手紙を読み進めるにつれ戦争から『意味』が削ぎ落とされていくのは見事でした。母親がアイの欠損を隠すことを選び、アイもそれに異を唱えなかったであろうこと、そこにスキャンベルル神話がぶつけられるのも良いですね!
「人と同じがすばらしい」という信仰、身に覚えがある人も多いと思うので、信仰森にこういう作品が来てくれたの良かったです。

謎の綿棒
 敵対する異国の神話を知ることで、そこにいる人々も自分と通じる感性を持つ同じ人間であることを知るーー。世界中の神話や民話、土着の言い伝えられる物語には、不思議なことに似ている内容のものが存在することが多々あると言いますね。(例えば、浦島太郎によく似た物語は世界各地で見られるようです)特に神話や民話は、シンプルだったり抽象的だったりするからこそ物事のエッセンスが凝縮されていて、異なる文化に属する人の心にも通じるような物語になるのでしょうか。
 対立、侵略、勝つか負けるか、そのような他者や己と異なる勢力との衝突に疲れた人が、敵対するはずの存在にすら共感するきっかけになるのは、他でもなく物語や文学なのかもしれない……そんな、物語というもの自体の力強さをも感じさせる作品でした。


14、ヒゾウの子ら/木船田ヒロマル

謎のイートハーブ
 ヒロマルさんこんにちは! ご参加ありがとうございます!
 こーーーれは凄いですね、びっくりしました。めちゃくちゃ巧みに誘導されていて、本当にびっくりして気付いた瞬間に気持ち悪い笑い声が出てしまいました。凄いです。
 これ説明するとすべての台無しさが凄いので、読んでいない方は講評を読むのもちょっと遠慮頂きたいです。以下からネタバレ含めます。
 話の流れは、敢てこう言いますが極一般的な男女の恋愛小説です。恋した先輩は「ヒゾウの子」というマイナーな宗教に属しており、主人公に告白の台詞すら言わせません。そして立ち去ってしまいます。しかし高校時代の友人の結婚式で再会し、主人公は先輩と共に帰路をゆきます。踏み切りの向こうに消えようとする彼女を今度こそ追いかけ、二人は……。
 と、ここまで書きましたがこの話の一番私が唸ったところは「最初の一文」と「最後の一文」を「ヒゾウの子」という宗教ががっちり接続するところです。「ヒゾウ」の漢字は最終話で彼女が教えてくれますが、こちらは実際に見ていただくとして、ここで語られる「信仰」「神様(敢ての語句です)」って、敬称略で失礼致しますが「木船田ヒロマル」なんですよね。先輩は唯一それを理解しているメタ的なキャラクターなわけです。
 いやそうだわ、そうなんですよ、そりゃ我々が作り出したキャラは我々が「神様」なわけです。でもメタ展開なんてよく見るやん、と思いがちですがヒゾウの子らの巧みなところは、最後の最後まで実際にありそうな男女の物語だというリアリティを保持しているところです。だからこそヒゾウの漢字が明かされ、最後の一文が来たところで、或いは最後を読んでから冒頭の一文に戻ったところで、完全に突き放されて没入を切り離され読者は観客ですらなくなってしまう。物語を消費していただけと気付かされる、完全に異化られたなあこれは……。普通の恋愛小説に宗教絡めた話か~とか言いながら読んでたのが超絶恥ずかしい、反省しました!
 うわーもう気付いたとき本当に面白かったです、これは確かな信仰。この作品の神は「作者」キャラの信仰は「抗えない絶対的なもの」。面白かったなあ、面白かったです。そして書き手としては悔しいなというのが率直な意見です!

謎のショートカット
 情景描写がすさまじいです! めちゃくちゃ上手い、どうやって書いたのだろう。主人公の内心をまわりの状況が物語る、最高です。
 ヒゾウの子とは何なのか?の答え合わせがおもしろかったです。膝を打ちました。ヒゾウか〜〜〜って。思いつかなかった…! そして流れるように続けられる概要、メタフィクション! 私メタフィクションだいすきです! 最高です、手を叩いて喜びました。
 構成が綺麗でした! これをしたら終わると言って、それをして本当に終わる。すさまじい。賞のテーマである「信仰」についてもガッツリ作中で切り込んでくださり、しかもメタフィクションらしく登場人物にセリフを喋らせる手腕。構成のお手本を見せられた気分です。
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、ヒゾウの子らの宗教観がとても興味深かったので、もうちょっと読みたかったところ……ですが、字数が制限ギリギリなので難しいですね……わかってます……。
 ラストが好きです~~~。あの瞬間に時が凍結し、うつくしい挿絵のようになって永遠に世界が終わってしまったのだろうなと思わされましたし、知らないうちにそんな思考に至る段階をどんどん踏ませられていた感じ、おもしろかったです。
 この構成がすごい大賞です!!

謎の綿棒
 主人公から見た先輩女性の存在感がミステリアスで、まさに憧れという風で大いに楽しませていただきました。そういう憧れの先輩には彼氏がいて、失恋するところまででワンセット、ですよね……。
 最初からメタじみた発言が多い印象の不思議な先輩が最後まで不思議なままなのも良かったです。彼女の信仰についてはあまり触れられていませんが、それがかえって彼氏よりも(主人公にとってはよくわからないままの)信仰に奪われてしまっているような趣があると思いました。勝手に言わば寝取られ小説のような文脈で楽しんでしまい、すみません。こういう作品がとても好みなもので……。


15、灰色の果てより/藤本佑麻

謎のイートハーブ
 初めまして藤本さん、ご参加ありがとうございます!
 一文一文が綺麗で、文字を書きなれてらっしゃる方なんだろうなあという印象です。
 信仰対象が変わる話と読ませて頂きました。美を何よりも愛する、信仰する青年が完璧な美を持つ女性に出会って、そこからすべてが変化していく流れが綺麗です。文章が非常に端正な方ですね、シンプルな美しさがあり何処か淡々としている話全体の印象に繋がっているように思います。
 冒頭主人公が夢に見る灰色の世界は美の欠片もなく、すべてが単色に染まるなんて考えたくもない、とげっそりしますが、出会った彼女は常に世界がそう見えている女性でした。その二人が迎える結末は実際にお読み頂きたいです。これもまた信仰のひとつである、主人公が最後に選んだ信仰であると私はとりました。
 文芸の手触りがある作品で、興味深く読ませて頂きました。最後に来るまではなぜ三人称なのだろう? と実は不思議がっていたのですが、ああなるほど! と腑に落ちて面白かったです。
 最後の段にある「紗彩さんにすっかり壊された」という台詞が主人公の信仰の変化を如実に現しており好きです。話全体がぐっと引き締まった台詞で巧みです。
 ある信仰からある信仰へと変化する、神様そのものを変えるという作品になっているため、少し悩んだのですが「生のその先」を信仰、救いとしている、ととりました。主人公の変化、大変面白かったです!

謎のショートカット
 主人公の設定がおもしろいなあと思いました。文学的な主人公で私にとっては新鮮でしたね。モノローグの言葉で説明するだけでなく、世界が灰色になる夢を使って主人公の思想を見せるのうまいなって思いました。
 紗彩って名前でハハ〜〜〜ンとなりました。一樹が好きそうな名前だ……。サアヤ……。
 『世界を壊す死神ね』の表現いいなあ〜〜! こっちの世界を壊してくる人間、本当に好きです。未成年の主人公の価値観をぶっ壊して、美しい変人から退屈な真人間に堕とした挙句に自分と心中させる成人女性、良すぎて倒れちゃいました。死という救済、宗教の極み〜〜〜〜!
「これに、色は関係ないね」も良かったです。この感じ良いんですよ……文学的な恋愛小説って感じで好きですね……。おもしろかった~~~百点です!!

謎の綿棒
 まるで美しさそのものを信仰しているような主人公は、どこかジブリ映画『風立ちぬ』の主人公・二郎のイメージとも重なると思いました。二郎は最愛の妻さえもその”美しさ”を愛していて、どこか神聖視し、最後まで人間に対するような愛情を深めきれなかったような印象を個人的には受けましたが、本作の主人公は、紗彩さんとの出会いをきっかけに、それまでの自分の中の常識を覆すような感性を手に入れました。
 またそれによって、同時に生への執着も手放したのかもしれません。二人の感性は独特で、その辺りはあまり明確には説明されていないのに、そして最後二人は消えてしまったのに、不思議と爽やかな読後感でした。それは二人それぞれについて、何かしらからの解放のようなものが感じられたからなのか。世間に肯定されるようなものではなくても、これはある種の悟りのようなものだったのかもしれないと思いました。


16、雪が巡る地/山本アヒコ

謎のイートハーブ
 アヒコさんこんにちはご参加ありg五億点!!!!
 ちょっと講評というよりも感想文になってしまうんですが、なんでこんなに五億点なのかまったく言語化できずびっくりしました。魂で良い……と思わされた感じです。
 でもどうにか抽出してきたのですが、画が恐ろしくいいからだと気付きました。ただ、画が恐ろしくいいのにずっとモノクロなんですよ。一話目は薄暗い重たい灰色がずっと敷き詰められており、そのトーンを二話目も引き摺ります。主人公は妹を失い、探し、戦場に出るのですが、ここにも黒煙が上がる暗い画が続きます。主人公自体も渇いたモノクロな男です。
 死体置き場でヒロインというか女性に出会うのですが、このあたりは少し明るくなるものの、ウサギのお守りを手渡したあとの戦いで主人公は負けてしまい、一気に画面が暗くなる……と見せかけるんですよこの小説。なんだこれは。このまま暗くなっていって幕切れかと思いきや、晴れているのに雪が降ります。
 これ、ここなんですよ。画面が一気に明るくなってしかしそれは溢れんばかりの白色です。真っ白な雪、真っ白な巫女、真っ白なウサギ、そこにいつの間にか佇んでいる渇いた主人公。ラストの段はご自身の目で確かめてください、最後まで画が良いです。淡々と情景だけ描写されて終わるこの……虚無感……最高ではないでしょうか……? すごいですねこれは……五億点です、情景の作画が良すぎて私の頭も真っ白になりました。あともうウサギが本当にいいです、ユキウサギの系列だとお聞きしたので森が閉じたら他もすぐ読みたいくらいぐっとウサギに引き寄せられました。
 それでいて信仰要素もしっかり満たしています、これは土着信仰、山岳信仰の類と読みました。ここ一年ほどの話題作で言うならばミッドサマーなどがわかりやすい例でしょうか。霊山と輪廻の概念はチベット仏教、密教の雰囲気があり、個人的に仏教寄りの思想であるためこの点でも楽しませて頂きました。
 この山岳信仰、土着信仰、私非常に好きなんですよね。霊山から魂が還るという構造もどこか仏教的ですが、カルマゆえの輪廻というよりはまた生まれてくるという祝福、よろこびの面がつよくて、人間の生への優しさを嗅ぎ取りました。画面もいい、構成も堅実で美しい、信仰は想像上でありつつ現実味のある土着信仰、私から言うことはもう本当にありません。素晴らしいです。
 作品が孕む信仰とは「根付き伝えてゆくもの」。こう受け取りました。
 いや良かったな……本当に良かったです、ありがとうございました……。めっちゃ長くなったな、申し訳ありません……。

謎のショートカット
 話がポンポン進んで読みやすかったです。設定がおもしろい! 雪送りとか大霊山とか精霊とかファンタジーな設定なのに、手堅く現実的な機構として出てきておもしろかったです。
『これまでザーバトは誰かにここまで思われることはなかった。』『セーヴェルはもちろん愛していたが、年齢的に彼を心配するということはなかった』ここの文章好きです! そうだよね〜〜誰からも心配してもらえることはなかったんだよね〜〜とストンと落ちて速攻アーラに心許しちゃいました。
 ひとつだけ気になったんですが、雪送りをしなければ大霊山に行けないという設定だったのでは?と思って……。アーラに雪送りステップ踏んでもらったザーバトが山に行けるのはわかるのですが、セーヴェルは……もしかしてセーヴェル売られたわけじゃなくて普通に死んでしまっていて、ザーバドはソレを家族に隠されてたのか……? もしくは死後のザーバトが見たセーヴェルは神様が見せた幻覚なのでは……? といろいろ妄想して疑心暗鬼になってしまいました……。
 しかし神様とは慈悲深いものなので……信仰とは手順ではなく心なので……。信じています……。設定が超おもしろいうえに生き別れた妹と奇跡の再会を果たすハッピーエンドなので大好きです! 星3つでした!

謎の綿棒
 美しい雪景色の中で紡がれる、主人公の優しさと哀しさが印象的な物語でした。絶望的な妹探しの旅の中でも、どこか妹を思わせる幼い女の子との交流で慰められたり、思わぬところで故郷にゆかりのあるアーラとの出会いがあったり、ままならぬ無情の現実の中でも確実に存在している温かさというものを感じることができました。
 最後、おそらくザーバトは極限の果てに幸せな夢を見ているのでしょうが、妹の面影を追っていた彼がたどり着いた旅の終わりがあの場面なのだとしたら、なんて優しいんだろうと、ただそう思いました。
 故郷を飛び出た彼にも、きっと故郷の諸々の加護があったのでしょう。細かなシーンの繊細かつ端的な描写も、全体的な印象も総じて美しく、ため息が出ました。


17、宵闇の王と銀の魔女/こむらさき

謎のイートハーブ
 こむらさきさんこんにちは!ご参加ありがとうございます!
 神への土着信仰を軸においた正統派ファンタジーです。とても興味深く読ませて頂きました。こむらさきさんの小説はいつもキャラクターが生きている印象を受けるのですが、こちらの作品も非常に貪欲なまでの生が描かれていると思いました。酸鼻を極める状況にある主人公(死が近い)が自我を取り戻し本来の姿に戻る(生命力に満ち溢れる)という流れにカタルシスを覚えます。
 宵闇の王が本当にかっこいいです、そして銀の魔女も気高く美しくかっこいい……。冒頭の言語が解される瞬間にもまたカタルシスがあり、視界がぱっと開ける場面が印象的です。王道ファンタジーが本当にお上手だなー! 銀の魔女たる所以も手に汗握りました。エンタメ小説としても面白くて、上から見ると林檎に見える建物やディエが身に着ける衣服、事切れた天使の描写などディテールも凝ってあり、想像させてくれる手腕が素晴らしいです。
 信仰要素の話なのですが、本当は主ではない神に祈りを捧げていた少女が本来の主を取り戻し、王と共に夜に帰るという流れが美しく、互いの信仰を侵したシウテに一泡吹かせようと飛び去る幕切れ、いいですね……信仰を感じました。
 ファンタジーの素養がない私でもすっと入り込めるファンタジーは良質だといつも思います。こむさんのファンタジーは王道かつ不幸を転じ幸せに向かう救いの色が濃い物語で、読み手を傷付けないところも魅力的だと思います。
 こちらの作品から受けた信仰は「境界を守るもの、対象を守るもの」です。この守るには色々意味があるのですがもう蛇足なので割愛します。守られた少女が王を守り返す、この先の宗教戦争が楽しみですね……! 丁寧な描写も相俟って映画のような読み口でした。面白かったです!

謎のショートカット
 おもしろかったです!冒頭で世界の宗教観をガッツリ固めてくれたので読み進めるのが楽しかったです。
『私のことを考えて、助けてくれようとしているの?』→『邪法の獣除け目当てに汚れた民を匿うなど、太陽神様が赦すと思っているのか?』悲しすぎて絶望しちゃいました……。人間界はクソ……希望を失っちゃった……。
 不遇な少女が謎の男と出会い敵に襲われ覚醒して旅立つ流れ、構成がアニメの第一話みたいだなあと思いました。これから大冒険がはじまりそうな感じ、好きです。少女漫画のダークファンタジーって感じで童心を思い返してワクワクしました!
 闇側が主人公っていうのは良いですよね……良い……太陽と天使が敵っていうの良い……良いです……。こういうの好きだったな〜〜! 少女の心がドキドキしてしまう……。サヘーラ、ビスクドールみたいな美少女がいいし2人にはゴシック衣装でバトルしてほしいです……。
 エンタメというかキャッチーさに振りきった感じがコレまでの信仰森の中にはなかった感じで新鮮でした。
 実はおのれの中二病時代を思い出して恥ずかしかったのですが、これくらいやらなきゃカッコよくないんですよね。マジでカッコイイです!

謎の綿棒
 Sound Horizonの世界観を彷彿とさせるような雰囲気たっぷりのファンタジーでした!呪文のような歌が引き金となり明かされる事実、虐げられている立場の者が実は……?というどんでん返しなど、各所に散りばめられたいい意味での王道展開の数々がとても小気味よかったです。
 男女の主従は恋愛なのかそうでないのか曖昧なラインがロマンティックでたまらないと思いました!


18、生まれた時に与えられ、死ぬまで離れないもの/神澤芦花(芦花公園)

謎のイートハーブ
 芦花公園さんこんにちは!忙しい中でのご参加ありがとうございます!
 感情失礼致しますが、めっちゃ好きなBLでひっくり返りました……ホラー要素がない……美しい……切ないし胸に棘が刺さる読後感……オタク並感失礼致します尊い…………。
 ある男性二人の一生を、それもこの二人が濃密に関わった場面を切り取っての恋愛小説です。恋愛小説なんですが、どこか幻想小説の読み味を孕みます。筆致が上品だからでもあるかと思いました、ホラーである場合は上品さゆえの恐ろしさが際立つのですが、恋愛ドラマ主軸だと幻想的に作用するのか、と別の面を発見した気分になりました。
 少しだけ出てくる主人公の元彼女の台詞が非常に印象的で、信仰というテーマの集約された巧みな台詞に思います。講評を読んでいる未読の方のために抜粋は遠慮しますが、この台詞を軸にして更に物語が動きます。流石の手腕です。
 そしてこの第三者が非常にうまく作用しているのではないかな? と思いました。暴論に近いのですが、要らないキャラってとにかく要らないと思うんですよ。特に掌編には……。でもこちらに出てくる元彼女は必要なキャラクターであると強く感じます。主観としても客観としても、主人公が相手に執着しているのだという事実を際立たせるからかなと個人的には思いました。第三者が有用な掌編、本当に見事です。
 流れ自体はジェットコースターなのですが、これはあくまでも「あなた」と「自分」が主軸であるため、必要な成分だけを抜き出されているのだなと感じました。切り取りかたが上手いです。読み手を置いてけぼりにしないラインを無意識にでも把握してらっしゃる手腕に思います。
 元彼女の台詞があり、その先で名前が明かされる構成はとても綺麗です。そして形見に持つものは形がない、触覚で確認できる物体ではないのですが、確かにあるしそれは主人公しか持てない、持つことの許されない形見です。
 これがまさしく信仰かと思いました。目には見えないけれど確かにある、個人個人が所有する思いのたけとでも言うのでしょうか。この二人の間でしか有り得なかった関係性、「あなた」がいなくなったあとも続く激しい感情、まさに信仰です。主人公の中で「あなた」は絶対視され、祈りの対象となり得ています。
 感じ取った信仰は「生きる糧」です。主人公だけが持つ形見の正体に幻想と信仰を同時に感じます、ラストでもう一槍刺してくるところも棘立つ読後感でした。急にこっち向くんだもん……どきっとしました、とても好きです。これが読まされるという感覚でしょうか、感情が本当に揺さぶられました。

謎のショートカット
 最高最高最高〜〜〜!!! タイトルが秀逸ですね、アレのことだとすぐにわかる。読む前にタイトルだけ見てホラーかな?と思ってました、ごめんなさい!
 好きなところをうまく言えないので、まず好きなセリフを列挙します。『いや、思っていなかった。あなたのことを兄弟だと思ったことはなかった』『男と女というきまりごとがあるのを知ったのは何年経ってからだっただろうか。それはとても残酷な気づきだった』『恋人同士ではない、あくまで「ような関係」というのは、辛いことの方が多かった。あなたはただ楽しそうだったが、それはあなたが……恨み節を回したいわけではないから、言いません』など名パンチラインがバシバシ飛び出す名作なのですが、私が一等いいね!と思ったのが『「これはあなたの祈りなのね」と言うんです。「神様と文通してる方とは付き合っても不毛ね」』……です。お題が信仰ということを除いても最高のパンチラインでした。神様と文通してる方とは付き合っても不毛ね。何度推敲してもこれ以上の言葉遣いにはならないのではないでしょうか。
 私は、異性と結婚することを選ぶ同性愛者の話が大好きなんです。持って生まれた本能を押しのけて後付けの価値観や常識(理性)を優先して動いてしまう、人類の業が詰まっているじゃないですか。は〜〜好きです。
 最後まで二人のアレを出さないところがいい。コネコとリンゴかな?と思いましたが、これを詮索するのは野暮でしょうね。

謎の綿棒
 幼い頃から大好きな幼馴染のお兄さんに支配されて、囚われてしまった哀れな主人公のお話……というのはあくまで読者の私から見た場合ですね。客観的に見れば二人の関係は児童の暴行や精神的な支配とどこか犯罪めいたものですが、この主人公の主観では、最後まで呪いめいた耽美なまどろみの中にいるようで、一概に幸せだの不幸だのと第三者がレッテルを貼れるようなものではなく壮絶でした。
 第三者の彼女から見て「祈りのよう」だった主人公のお兄さんへの執着は、常識的なものとは随分かけ離れていたことでしょう。二人の関係の描写のキーとなる名前の使われ方がとても効果的で、読みながらとてもワクワクしました。
 読者にすら明かされない二人の幼い頃の秘密の呼び名は、誰も破れない、あまりにも最強の呪縛です。

19、残像の杜/中川大存

謎のイートハーブ
 初めましてこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 幻想小説の味わいがあり、作品全体を包むノスタルジックな雰囲気が素敵です。
 主人公が過去の自分は本当に存在したのか?というある種哲学的な問いに頭を悩ませながら歩いていると、大きな鳥居のそばを通り掛かります。
 ここからの展開がとてもいいですね、読み味の似た作家で言うなら個人的には恒川光太郎です。過去の残像が次々に現れる展開はどこかSFチックでもあって、しかしもしかすると起こるかもしれない、というラインを見失わないところがちょうどいい読み口になっていると思います。
 なんとなく先の想像がつくのだけれど最後まで読んで「良かったなあ」と思える作品はいい作品です。残像の杜は私としてはまさにその類で、最後にはこうなって希望を見出すエンドがいいなあ、という期待を裏切らずにいてくれます。主人公の未来を読者も安心して祈れるというのは大事なことですね、改めて認識しました。
 構成の面でも非常にわかりやすく読者に優しいです。主人公は悩みがあり、それが徐々に解決に向かい、納得のエンディングを迎える。起承転結の基本かと思います。幻想小説の類ですので、なぜ残像が見えるのか?ということをまったく気にしなくていいところもちょうどいいですね。
 万が一この作品を膨らませるのであれば、上記のように何故残像が見えるのか? を掘り下げるといいのかなと思います。神社自体にスポットをあて、鳥居をくぐる様々な悩みを抱えた人間たちを映す、というようなオムニバスにも発展させることができそうです。
 信仰要素は舞台が神社というところにあるのかなと思います。信仰というテーマ性自体は私の解釈上では弱いのですが、すっきりとした読み口のいい小説でした。「希望」を見出すにふさわしいラストです。

謎のショートカット
 文体が好きです! 童話みたいでおもしろいなあと思いました。ストレートな神がかり、神秘体験。怪談っぽさもある。おもしろい……。
 わがままをいうんですが、もうちょっとたくさん「僕」の過去が見たかったです……おもしろかったので……。「僕」が23歳だとすれば、鳥居は23回までくぐってもよいのではないでしょうか!? 駄目ですよね…。
 よくできたホラー絵本、というような心地でした。幻想小説だとは思うのですが、ストーリーが子どもでも理解しやすそう、過去の自分が見えるとか子どもが好きそう、子どもからしたら怖めかな……ということでホラー絵本っぽいなあという発想です。私は子どもの頃ちょっと不気味な感じのホラー絵本大好きでした。正方形の製本で、ページを開くたびに「僕」が鳥居を通り抜けて次の鳥居が見えてまた通り抜けて……みたいな絵本を想像します。
 就活生が過去の自分をかえりみる、という設定もかなり良いですね。整っている! 小説、というか物語として上品で素敵だなあと思いました。

謎の綿棒
 就活生が「自分とは?」という漠然とした疑問に改めてぶつかることは多々ありそうですが、主人公は常日頃からそのようなことを考えていたということで、冒頭部でいい意味での奇妙さ(引っかかり)を感じて、引き込まれました。
 もしかしたら主人公は、常日頃から無意識の中に現実逃避ぐせのようなものがあったのかもしれません。だからこそ地に足のつかぬ状態で非現実的な空間の狭間に足を踏み入れてしまったのでしょうか。一つ目の鳥居、小学生の自分、二つ目の鳥居、中学生の自分、……そして最後は未来の自分。クリスマス・キャロルを彷彿とさせるようなテンポのいい構成が個人的にとても好きです。
 未来の自分が「なんとかやってるよ」とこれ以上ないエールを送ってくれて、良かったなあ、と主人公の気持ちになりながらホッとしました。


20、御遣いは少年を救いたるか?/佐倉島こみかん

謎のイートハーブ
 佐倉島さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 すごくいいですねえ!思わず膝を打ってしまいました。ボーイミーツガールに絡む信仰と宗教、時代が時代ならばやがて男女の仲にもなったかと思われる甘酸っぱい青春の風味、それを引き裂く腐った体制!かなり面白いエンタメでした。最後の展開も含めて非常にいいです面白い。
 まず少年少女の微妙な関係性の描写が絶妙です。だからこそ最終話を開いたときに「うわあ……」と声が出ていました。上げて落とすの基本ですね、没頭していたので不意をつかれてしまいました。その手前に誰にも言わないでねと秘密が開示されて、絶対に守るよと約束した、のに……というこの落差。お上手です。
 そして信仰要素も抜群でした。この世界で覇権を持つ宗教があり、その宗教が祀る神様の遣いを信仰する宗派があり、そしてその宗派は反逆者と捉えられ……という流れが理解しやすく、すっと頭に入ってきます。遣い宗派の本当の試みや迫害の理由もなるほどなと納得しました。人間は生まれながらに悪です。
 主人公が最後に選んだ人生、宗派、その上で成し遂げたこと、素晴らしいラストです。自分のためではなく死んでしまった母子、あるいは仄かに恋心を寄せていた彼女のために選んだ人生、強い信仰を感じました。
 主人公の信仰は「正義」ととりました。ある面では悪に見えるのもまた道理かもしれませんが、迫害されていた宗派を認めさせるに到る道程は相当厳しかったと思われます。それでも挫折しなかったのはやはり、わざと嘘の教義を吹聴して私欲を貪る体制に対する反乱、自分が正しいと感じたことを貫くという強い正義感があったからと読みました。
 架空の宗教、ボーイミーツガール、ラストの光景、すべて面白かったです。

謎のショートカット
 おもしろかったです!
 読みながら「これは何だろう?」「エルナって何者なんだろう?」「本当にエルナが御遣い様でしたってパターンかな?」「どうなるんだろう?」とワクワクしながら読むことができました。読みながら続きが気になる小説は最高!
 私、魚をくれるんじゃなくて釣り方を教えてくれる人、大好きなので、エルナのことも速攻で大好きになっちゃいました。御遣い信仰の根源は『教え育てること』だとエルナは言います。良い。知らないことを教えてくれる女の人、良いですね。良すぎる。
『樵虫の卵があんなに高い位置にあるでしょう。あの虫は、雪に埋まらないギリギリの高さに卵を産むの。つまりあそこまで雪が積もるのよ』というエルナの言葉に「物知り……素敵……わざわざこんな子どもに説明してくれて良い人……」とうっとりしました。と同時に「カマキリの風説みたいだ……」と思っていたのですが、キコリムシって実在する虫なんですね……。
 あと宗教の設定が超おもしろかったです。神様を信仰する宗教と天使を信仰する宗教が……というロジカルがマジでおもしろかったので、ここは是非本編を読んでもらいたいです!!

謎の綿棒
 殉教した親友エルナとその母の意志を継いだ主人公クラウスが、自身も御遣い信仰を受け継ぎ悲願を遂げるお話。
 二人は亡くなってしまったけれど、クラウスは他でもない彼女たちの行動や人格に大いに影響を受けて、教会に御遣い信仰を認めさせるという偉業を成し遂げたことを思うと、受け継がれた意志の力に純粋に胸が熱くなりました。正しいとされるもの、良いとされるものについては絶対的な価値や判断があるわけではなく、時代や社会にもよってくる中で、意志を同じくする者たちは例え命を失っても通じ合い続けるのだなと感じました。
 信仰という切り口で見た時、この物語は紛うことなきハッピーエンドだと思います。


21、ユエの国/ももも

謎のイートハーブ
 もももさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 感情から失礼するのですが、めっちゃ好きです。ユエがとにかくいい造詣で、力を使っては小屋でこんこん眠る描写が非常に可愛いです。能力もさることながら、ビジュアルも少年のまま変わらずで、これは愛すべき存在……と神としての器をびしびし感じるキャラメイクです。もももさんは人外キャラクターの造詣が巧みだなと勝手に思っていたのですが、こちらのユエも本当にいい造詣で終始ユエへの感情だけで読み進めることもできますね……すばらしい手腕です。
 内容も作り込まれている印象を受けました。架空歴史小説と幻想譚の間を絶妙なバランスで行き来しています。そこに加わる人間の業、やはり人間は生まれながらに欲望を有する! 喜んでしまいました、ありがとうございます。
 ユエという神の化身のごとき少年を主軸に、時代がどんどん流れていく構成が非常に良いです。ひとつの世界の神話が完成するまでを一万字以内でおさめる構成力、私も欲しい技術です。
 特に長い眠りについたユエが目覚め、時代ががらりと変わってしまっているのにユエは変わらず、ただ人々の笑顔が好きだからという純粋な理由で願いをかなえる場面が好きです。王の即物的保身的な悪性とユエの超然たる純粋さの対比としても素晴らしく、絶対駄目やん……という私の想像通りに絶対駄目な方向に転がっていく物語、素晴らしいですね……。
 カル・タイヤンも非常にいいキャラクターです。最後に花を添えてくれる立場としてもかなり有能で、「人の世は人が治めるもの。神の時代は終わりを告げ、新たな御世が始まる。混沌を捨てよ。そして王の中の王たる私のみを崇め讃えよ」この信仰を切り捨てるかのような台詞からの最終話がもう本当に……なんでしょうかこれは、本当にいい小説を読ませていただけました。満足度がめちゃくちゃ高いです。
 信仰とは「人々の言霊」なのかもしれません。そう思わせてくれる、含みがある素晴らしい読後感でした。
 これは余談なのですがはじめ最終話のブランクを読み飛ばしており、全然違う講評を書きかけていました危ないところでした……。最後があるとないとでは印象が180度変わる物語だという気付きを得られ、違う楽しみ方もできて一石二鳥でした。

謎のショートカット
 すごく完成度が高いというか、物語としてものすごくよくできたお話でビックリしました。めっちゃ良いですね!
 お茶と赤子が「交換」という形なのが神話っぽくて好きです。しかも青年には「交換してもらった」という自覚がなく「茶を落としてきちゃったけどもういいや」なのが洒落ている、センスが光る……神話の幕開け感にワクワクしました。
 かぐや姫や桃太郎のような異常出生譚の『非凡な生まれの子は非凡な成長をする』というお決まり通り、ユエもまた非凡な子です。作中どんどん社が建っていくところ、信仰ができていく感じが目に見えてわかるのが超おもしろかったです。あそこの道沿いに神輿を担いで練り歩くとか、社に順番に光を灯していく、みたいな祭りが後世にできたりするんだろうな〜〜! 宗教の始まりを説得力もって描かれて脱帽です。
「人の世は人が治めるもの。神の時代は終わりを告げ、新たな御世が始まる。混沌を捨てよ。そして王の中の王たる私のみを崇め讃えよ」良いセリフでした。ユエが×されるところ、最悪で良かったです……。カル・タイヤンの末路もいい。最後までおもしろく読めました。宗教って本当に、神様のためにあるんじゃなくて人のためにあるものだなぁ、と思いました。
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言おうとしたのですが、話として良く出来すぎてるうえに好みの話だったので何も言えることがありませんでした!星3つです。

謎の綿棒
 不思議で無邪気な、子供の姿をした守り神のお話でした。彼は強大な力を持つものの、人格は幼い子供のままなので、彼を導く人間の徳によって救いにもなれば災いにもなるというところがすえ恐ろしいですね。
 読みながらふと”大いなる力には大いなる責任が伴う”という言葉を思い出しました。彼は永遠の子供なので、きっと永遠に責任からは自由な存在と言えるでしょう。そんな存在がもし現れてしまったら、周りの人間はどうするべきなのでしょうか。きっと一番に試されるのは、作中の王のように側近かつ権限のある、責任ある大人たちなのでしょう。
 天命を知る不思議な力を持った存在と王、というと、『十二国記』シリーズの麒麟と王の協力関係も想起しました。ユエが再び別の時代や土地に生まれ、その時々の権力者と国を守り、時に滅ぼしていく物語も是非読んでみたくなりました。



22、アムルとハルワ/大澤めぐみ

謎のイートハーブ
 大澤先生こんにちは、ご参加ありがとうございます!
 宗教や信仰や神というワードを出さずに表現する「信仰」……技術力に終始戦慄いておりました。生きる糧、未来への希望というのでしょうか、これの対象となる存在への心はまさしく信仰に思います。
 まずほぼ一万文字にこの話をおさめきる手腕、時間軸を縦横無尽に歩き回る複雑なキャラを抱えている上で引っ掛からず読める構成力、話全体が含んでいるテーマ性など、あげればキリがないうまさに嫉妬してしまいましたがこれは私の与太ですすみません……。
 大澤先生の書かれる話の「気がついたらぬるっと違う場面にシフトされている」という雰囲気が好きで、例に出すならファックと鳴く変なセミの怪異に飲まれる場面なんですが、アムルとハルワではこの手法を更に変形させた技術が使われているように勝手に思いました。具体的に言うと、ハルワのキャラ造詣がその手法で時間を跨ぎ生きているキャラクターなのだな、という解釈をしました。へんな読み方ですみません……。
 因果が循環する、すなわち二人が各所で出会い続けることは最早運命である、この設定が本当に好きです。雑踏で偶々出会った、という話を元にアムルの姿を探して話し掛ける、ここの必然と偶然が顕著に交差している場面が特に好きで膝を打ちました。自分たちで偶々を作り出す二人の性質と関係性、お互いに無二なんだろうなと思えるキャラクター造詣にも巧みの技が感じ取れました。
 そして最期にハルワが残す言葉、解釈の余地が残されていて私はとても好きです。本当でも嘘でも、アムルには絶対に必要な言葉だったなあ……と感慨耽りました。そこからの幕切れも、最後の最後にまたぱっと先を照らしてくれるようで、いつのまにか私という読み手の光もハルワになっていたのか……と術中にはめられた心地がして唸りました。
 キャプションにある-Life must go on-、英語なので色々な意訳ができるかと思うのですが、「命ある限り進み続けなければならない」という意訳で私はとっております。同時に、アムルをより強く現しているかな、とも解釈しました。この思考の結果をもたらしているハルワという存在が彼または彼女にとっての唯一の光、進み続けるための光であり、ただひとつの信仰でもあるのでしょう。
 なんだかもったいないので、この信仰森以外のところにもばんばん出していただきたいし、リライトや加筆やなんやかんやを行って先生の短編集に掲載とかしていただいて、よりたくさんの人の目にふれてほしいな……と個人的には思いました。本当にいい作品を読ませていただけました、ありがとうございました。

謎のショートカット
 おもしろい〜〜〜! 不死の人間と時間を飛び飛びで生きる人間のマッチングもハルワの寿命は普通なのも超超おもしろ〜〜〜〜い! は〜〜いい話だった。最高でした。
 読むのに没頭してしまったので、すべて読んだ後にアレッ信仰は?とわからなくなって読み直しましたが、いつか大事な人にまた会えると信じること、自分の最期が悪くないものになると信じることってコレ以上なく信仰ですよね。は〜〜最高……。
 物語としてとにかくおもしろかったです。この二人の話、永遠に読める。もう最高……。お互いに……お互いがいて良かったね……。おもしろい以外言うことないんです……。
 アムルには脳味噌を破壊すると記憶を失うって設定があったので、『やめて! そんな死に方をしたらハルワのこと忘れちゃう!』とか『ハルワ…? 誰……?』からの『はじめまして、アムルが私を忘れることも知っていたよ』みたいな展開が来るのかとワクワクしてしまいましたが、ハッピーエンドも大好きなのでコレは私の性格が悪いです!
 この設定があるおかげで冒頭で語り部を記憶喪失にできて、状況説明とキャラクター紹介がものすごく自然に導入できてすごいな……とんでもないテクニカル……と思いました。小説を通してドでかい山を見た気分になりました。

謎の綿棒
 時間も場所もを超えた、究極の魂の結びつきのある二人のお話でした。
 主人公のアムルは”不死身”なので何事も恐れることはないとはいえ、お腹も減れば痛みも感じますし、周囲の人間と生きる時間が異なることで、きっとかなり辛く孤独な生を生きていますが、それでもハルワという絶対的なバディが存在することで全てを乗り越えて生きることができています。生死をも超越した二人の結び付きは凄まじいものです。
 この絶対的な安心感で信じられる存在というのは、この世の誰もが普遍的に心の底で求めているものなのかもしれません。ここに信仰の要素を感じました。二人の関係性にフォーカスした物語の流れは端正で美しく、まるで音楽を聴いているかのような心地よさで読むことができました。
 心理描写もとてもクリアで、特殊な状況に置かれているはずのアムルの気持ちでも、すんなりと入り込んで読むことができました。


23、幸せな世界へ/河童

謎のイートハーブ
 河童さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 以前から思っていたのですが、河童さんの作品はどのジャンル設定でもミステリの読み味があります。手法もかなりミステリ寄りでとても好みです、安易に明るい救いの方向へ進ませないような内容も硬質な筆致によく合っていてとても好きです。
 インタビュー形式で進む、一人の犯罪者を追った話です。このインタビュー形式というか視点や語り手を都度変えての形式、私は勝手に原型は芥川の藪の中だと思っているのですが、まさに想像通りの読み味で嬉しいです。徐々に形作られていく事件全容の書き方がお上手で、私のミステリ脳がとても喜びましたありがとうございます!
 犯人である幸田智之にとっての幸せな世界とは一体なんであるのか、考えながら読み進められる部分もいいのですが、おおよそ推理に必要とされる部分には「」がつかわれず、地の文として処理されているところが、ミステリは読み慣れないという方には優しいのではないか、と個人では思いました。現代ドラマですがついミステリ部分に言及してしまいすみません、癖です……。
 犯人の真実が語られたところでふっと切れる、この切り方もかなり好きです。人が死なないミステリ、難しくないですか? 日常の謎といいますか、それがかなりお上手だなと驚きました。
 智之について話を聞いた三人が、智之にとって未だに信じられる、迷惑をかけるべきではない人物だと、最後にぽつりと漏らす台詞で感じ取れます。ここが一番好きです。根っから悪に染まっての犯行ではないと示唆する台詞としても有用で、技を感じ取れました。
 現代を生きる人間がほとんど持ち合わせていると思われるお金への執着、必要性。これを盲信・悪性と捉えてすべて燃やせと迫るに至った主人公……各事情聴取から導き出された結果の悲劇お見事です。
 金銭への信仰は「奪うもの」ととりました。いや、私もお金はだいすきです……。お金がないと小説も打てないわけですからね……ええ……。
 ちなみになのですが、後半ピックアップは数が増えたこともありアミダではなくくじ引きにしてしまいました。こちらで謝罪させていただきますすみませんでした。

謎のショートカット
 金を燃やせっておもしろいな〜〜と思いました。紙幣が無ければ、という宗教ですね。
 キャラクター達が全員若者でなく中年なのが新鮮でした。それだけに本当に重たい話でしたね……。
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、もうちょっと幸田智之が犯行に至る理由である、人間界のドロドロが見たかったです。でもこれは私の好みの押し付けです……。
 若くないってだけで希望がないと言ってしまうわけにはいきませんが、物語において『若くない』という設定にも『若い』という設定にも、それだけで意味があるからしんどいですよね……。
 小説として、この年齢を設定したところに作者さんの『思い』がある気がしました。私だと、仮に金を燃やせと要求する犯罪者という設定を思いつけたとしても、この年齢にすることはできなかったと思うので、これは河童さんならではの小説ですね。おもしろかったです!

謎の綿棒
 お金というのは古今東西人間の執着心を掻き立ててきたもので、独特のあまりに強い力がありますよね。だからこそ宗教や信心の世界にはお布施というものが必ずあり、人間が最も執着する欲の素を心から望んで尊いものに捧げる、というところに信心としての意味があるのだと思います。
 本作の幸田智之もまた金に振り回され金に苦しみ、あらゆる人生の喜びを得られなかったという思いから突飛な行動に出ました。彼のしたことは言ってしまえばヤケクソ的で、お金を物理的に燃やしたところで現実的な解決には到底至らないのですが、この信仰というテーマの企画にお金燃やすことを扱った作品で参加していただいたことに、個人的に「オッ!」と思わされました。


24、たぶん神さま/そのいち

謎のイートハーブ
 そのいちさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちらめちゃくちゃ良かったです。面白いしちょっと切なくほどよくコミカル、主人公も少年もキャラが立っていてどことなく可愛い。さくさくと読める文章表現も魅力的です、いや本当に面白いですもっと読まれてほしい……!
 早速信仰の話をさせて頂くのですが、こちらの作品予想外の信仰要素が入っていたことにもすごく驚かされました。信仰というテーマに沿って神さまのふりをする主人公と、主人公を神さまだと思って壁越しにお話をする少年、というのが基本の流れなのですが、ここに生じる少年→主人公(神さま)への純粋な信仰もさることながら、主人公→労働という社会的な信仰の図に本当に目から鱗が落ちました。私にその発想はなかった、参りました……。
 この主人公はそれはもう社畜で、がんがん働きふっと糸が切れたように無断欠勤をします。そしてがんがん働いていたことに対して仕事を信仰していた、と比喩します。これが本当に良かった。もうひとつ信仰重ねてきた! という喜びもありました、二重の意味で上手い、旨いです。
 文章もさくっと読みやすく、かと言って説明が足りないわけでもなくぽんぽんと一段飛ばしで進めているような軽やかさがありました。これは本当にすごいです、いいタイミングで挟まるミッキーマウスの染みや万年床が初年床などのコミカル要素が読み手の肩の力を抜いてくれるのもひとつの理由かなと思います。
 それでいて待ち受けている結末にも驚きました。けして突然の変調ではなく、しんみりしつつも少年への解釈を残しているような、救われたのは主人公であると思わせてくれるような読後感、本当にいい作品です。私でよければシュークリームを一緒に食べてあげたいと思うほどには主人公に感情移入しておりました。
 信仰要素は上でもいいましたが「仕事への盲信」と少年が持つ「純真」の合わせ技でした。本当にいい作品です、投稿してくださって嬉しいです。

謎のショートカット
 文章が超おもしろいです! 冒頭からブッちぎってくれたので読んでて楽しい。ハイスピードのスポーツカーに連れ去られる気分でした。そんで会社をバックれた描写がうまいのなんの……楽しいったらない小説だな、と思いました。
 壁越しに神様やるのがまず1おもしろいし、壁の向こうがトイレってので2おもしろい。おもしろいギミックが作中に何個もあって、絶対におもしろがれるようにできてるのトンデモ丁寧では??と思いました。
 これは読者側のワガママなのですが、隣の少年の正体をもっと詳しく正しく知りたかったのです……。が、『これ』で終わるのが物語のオチというか、……読者が男と一緒に「少年は一体……?」と物思いにふけることが正しい感受の仕方なんだろうなと思います……。
 オチが好きですね〜〜。ここからは講評というより推理とか想像とか妄想とかになります。
 隣の部屋に住むとある少年が学校でいじめられていた→少年が自殺→いじめっ子が転校した。という過去があったのかな、と思いました。少年はいじめっ子が転校したことを知らず、『僕はもういじめられなくて済むけど、友達は変わらずいじめられるんだろう……』と気がかりで成仏できずにいたけれど、神様と出会って勇気を得て学校に行き、いじめっ子が転校していたことを確認して成仏。霊障がなくなった男も会社に行けるようになった……かな〜〜〜〜などと推理しました。などといろいろ想像させてくれる小説です。
 でもたぶん、タイトル通りなんでしょうね……。人を救うとき自分も救われている。神様を信じるとき自分を信じている。おもしろかったです。

謎の綿棒
 気付いたら仕事を頑張りすぎてうつのような状態に片足を突っ込んでいた主人公が、お隣さんの神様になるお話。
 優しくユーモラスな文章、言葉運びや台詞の雰囲気が個人的にとても好みでした。(「ミッキーに子供が出来たのだ」でフフっと声に出して笑ってしまいました)主人公は仕事人間で、おそらく仕事以外のコミュニティもあまり持っておらず、壁越しに少年の神様になったことが一つの気分転換になったのでしょうか。普通、事故物件の地縛霊というと、この世に未練のあるおどろおどろしい魂のような気がしますが、この少年の霊?は無邪気で、通常だったら薄気味悪い印象になりそうなオチもどこかほっこりとした印象になっています。
 仕事に疲れた男がお隣さんの神様になることも、地縛霊の少年がお隣さんの神様になることもきっとあるのでしょう。日本の舞台作品にもできそうな喜劇的な雰囲気の作品で、あたたかな気持ちになることができました。



25、愛しき信者に捧げる真相/長月瓦礫

謎のイートハーブ
 長月さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 不思議な読み口の話です。文章全体が淡々としていて読みやすく、またこの作品の内容ともマッチしていて非常に好感触でした。
 これは指摘というわけではないのですが、恐らくクトゥルフ? ですか……? 浅学なためふわっとした概要とラブクラフトの名前くらいしかわからず、クトゥルフとしての出来がどうか、という話はできません。そこだけご了承願います申し訳ありません……。
 スプラッタ描写、ゴア描写にかなりの良さを感じました。ラストも虚無感を引き摺る終わり方で、この話ならばそうであってほしいなという思いを裏切ることなく進んでくれて面白かったです。
 旧支配者という怪しげなものを祀るがゆえに生贄に捧げられた主人公と初めから祭壇の部屋にいた男のやりとりが個人的には好きでした。一蓮托生の空気が流れており、同じ身の上同士慮る空気がつかの間の安堵を滲ませてくれます。
 そしてこの祭壇の部屋にいた男性、いかにもワケアリという風体でかなり興味をひかれます。個人の好みの話になるのですが、こういった絶望的状況下にいるこの男性のようなキャラ、物語に安定や説得力を連れて来てくれて読み手としても安心できて好きです。年上の同性であることもいい配置だと思いました。BLという意味ではなく、少年が心を開き仲間意識を持ちそうな人選としてです。
 信仰要素は旧支配者への信仰ととりました。旧支配者を理解していないのですが、カルト宗教の類とひとまず捉えまして、それに伴う後味の悪さが私は非常に好きな結末です。
 自分を生贄にした信者に一泡吹かせたかったのかと思うのですが、結局はうまくいかず手にかけた人物は……いいですね、いい意味で悪い信仰の話でした。

謎のショートカット
 旧支配者の話でした! 私クトゥルフ神話だいすき! 私クトゥルフ神話RPGだいすき! でもあんまり詳しくないので……トンチンカンなこと言っていたら申し訳ないです……。
 個人がラヴクラフトの本にハマって作った宗教がはじまりって超おもしろいな……と思いました。かつ、TRPGで探索者が終盤にいくとわかる「惨劇の理由」っぽいなと思いました。クトゥルフ神話TRPG最速ゲームオーバーRTAって感じですね……。探索者は弟の方……。
 個人的にはクトゥルフ神話を題材にした二次創作系で邪神を倒してハッピーエンドとか呪縛を解き放ってハッピーエンドとかだと『旧支配者の力ってのはそんなもんじゃないんだよ! もっと陰険で醜悪で理不尽で……どうしようもなくて……宇宙的恐怖……なのに……まあエンタメとしてはこういうのこういうの大好きだから……楽しく読んじゃうんだけどサ!』となってしまうのですが、こちらの小説はかなり『クトゥルフ 』だったのではないでしょうか。
 『今のところ人の意識を保っていられる』『同じ状況の仲間がいる』というちょっとプラスの状況を、削られるように失っていくの、良かったです。クトゥルフ 神話についてあんまり詳しくないので、あんまり喋れなくってごめんなさい! おもしろかったです!

謎の綿棒
 どう考えても食べる物ではない泥団子を主人公が嫌がりながらも食べているのに異様さを感じた後、両親が何も説明してくれないまま主人公を異世界にやってしまうシーンで、とりあえず一旦何が起こっていくのかをただ見守ることにしました。旧支配者という存在の説明がないままに物語が進み、説明がなされたと思ったら「旧支配者とはある作家が作った神話に登場する神様のことだ。斬新なその設定はまさに革命と言えるべき作品だった。その小説に狂うほどハマった先祖が言い始めたことが儀式の始まりだった。」ということであまり納得はできなかったのですが、先述の姿勢でとりあえず読み進めることにしました。
 主人公の体が徐々に変容していくシーンが淡々としていて雰囲気もありよかったです。ラストで弟を切ってしまい物語は終わりますが、全体を通してのテーマのようなものが見えづらかったので、どこかシュールで淡々とした褪せた色調の、海外のダークな雰囲気のアニメーションを見ているような気分で読み終えてしまいました。読んでいる側が置いてきぼりになってしまうような印象が拭えませんでしたが、雰囲気重視であえてそういう世界観を描いたのなら個性的で良いと思いました。



26、空は七つも穿てない。/田島春

謎のイートハーブ
 田島さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 はじめに謝りますすみません! 恐らく三割も理解できておりません……。地の文を主人公、【】を二次元の想い人の描写、ととって読み進めましたが、【】の方がよくわからず……。エッセイとなっているので主人公=作者様なんでしょうか?
 タイトルの意味もしばらく考えてみたんですがこちらもわからず、とても目を引くかっこいいタイトルなだけに無念度がすごいです……。
 内容は主人公がプレイするとあるゲーム、とりわけ信仰を覚えるほどのキャラクターに対する感情の話、ととりました。主人公のどこか陶酔するような語り口が面白いです、本当にこの【】で語られる作品が好きなのだな、と思いました。
 観測者を観測させられている構造が不思議で、これを読む私もまた誰かに観測されているしこの講評を読む誰かもまた私を観測して評価するのか……という謎の思考に陥りました。
 昔にワンダープロジェクトJ2という機械の少女に指示を出して進めるゲームをやったのですが、それを思い出しました。めっちゃかわいかったんですよね、それはもうやりこみました。誰にでもひとつはメタ要素を盛り込まれて、こちらが多少干渉できるゆえに入れ込んだキャラがいるものですね……。
 ほぼ独白の形式に合った話のように思いました。答えを探し続けて彼女を思い続ける主人公の感情には切ない思いがわいてきます。
 絶対に会うことはできないけれどいるはずだと信じてしまう、それが主人公の抱えるキャラクターへの信仰ととりました。

謎のショートカット
 ゲームのキャラにハマった主人公の話でした。『そういうプレイスタイルでやるものじゃないというのを直感として得た』の文章で、コレはおもしろい小説だな……と思いました。適当になんとなくコンテンツに手を出してみて、「あっコレはこんな軽い気持ちで向き合うものじゃないな」と居住まいを正す感覚、わかる〜〜〜〜。
 どんなゲームなんだろう。おもしろそうですね……。干渉できないメタフィクションで不穏なゲームっていうとひぐらし系のストーリーを連想しますが……。ソーシャルゲームかな? ガチャありそう。主人公のハマったキャラ(少女IあるいはN)、ピンク髪で水色のセーラー服だといい。あんまり髪の毛は長くないほうがいい……。
『グッズが展開された。恥ずかしながら、私も幾つか持っている。恥ずかしさを感じるのは全部では無いためだ』おもしろいです。主人公の価値観がこう……伝わってくるというか……そのゲームにハチャメチャに入れ込んでいること、それでいて普段のゲームはここまで入れ込まないことがわかるというか……。
 おもしろかったです。文体が個性的なのですが、そのぶん何度も読み返したくなる感じでしたね。

謎の綿棒
 最初にお伝えすると、大変申し訳ないのですが、独特の表現方法がいずれも読みづらく、世界観を掴むのに苦労してしまいました。【】の使われ方がまず初見ではよくわからず、使われている単語からどうやらバーチャルな娯楽コンテンツについて書いているということはわかるのですが、読んでいて内容を咀嚼するのが難しかったです。
 また地の文もどこか誰かの脳内に浮かんだ言葉をそのまま書き出しているような印象で、読者がかなり頑張ってついていかないと振り落とされてしまうように思いました。曖昧な印象をあえて用いることもあるかと思いますが、全編そういった雰囲気だとかなり難解です。
 もしこちらが何かのオマージュだったり、私が知らないだけでこのような小説のスタイルがあるのでしたら、それを拾えず申し訳ありませんでした。


27、私を照らすもの/惟風

謎のイートハーブ
 惟風さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら信仰森唯一の百合(とタグもつけられている)小説です。主催がBL好きなばかりにBLが多かったのですが、そこに燦然と輝く唯一の百合、いいですね……。
 内容もお互いを想い合って響き合うような人間ドラマが展開されます。なにかわけありの主人公が暗い色をキャンバスに塗る、主人公の相手役と思しき人物も最近絵を描いている、というはじめの情報提示がうまいです。どのように出会った二人だろう、と先の展開へのうまく誘導がなされています。
 読み進めていくうちに、主人公が明里に対して見出す光をまた、明里も主人公に対して抱いていた、ということがわかります。この場面が特にいいですね、オタク用語でいうなら尊いにあたるかと思います。お互いを照らすという関係性、非常に美しくて心が洗われるようでした。浄化作用のある作品は貴重です、惟風さんのほかの作品も読後に良い話だった……と染みるものがあり、是非もっと伸ばしていって欲しいと思う描写です。
 ちょっと気になってしまったことを一点だけ……! 視点が一人称(栞)、三人称単数(栞寄りカメラ)、三人称単数(明里寄りカメラ)、一人称(明里)とバラつく部分は人によっては読みづらさを感じるかもしれません。この構成はたぶんあまり掌編向きではなくて、登場人物が多い中~長編に適していると個人的に思います。なので、キャラが二人だけであるなら、もう少し人称を整理したほうが読みやすいかな……。一人称を適宜視点切り替え、または三人称単数を適宜切り替え、という方向性でも充分良さを感じ取れる作品かと思います。
 あくまで個人の好みによる意見です、参考までに……!
 醜いものを塗り潰そうと黒を塗りたくった末に出された解答が本当に純粋で美しいです。穿たれた新円が私の目にも浮かぶようでした、二人の行く先はきっと光があるだろうと思わせてくれる幕切れ、とても好きです。
 信仰とは「先を照らすもの」ととりました。心が浄化される素敵な百合をありがとうございます。

謎のショートカット
 とても好きです! もうすごい好きです!
『嫌いな色を素敵な色で覆って、全て隠してしまえば。私の人生もこの先良いものに塗り替えられる気がする』もう引き込まれました。おもしろい……。
 無彩色の闇を抱えているのが明里のほうなのは、予想はしていても実際にネタバラシをされるとおお〜〜と思いました。そして栞の描いている絵がまた良かったです……。あなたそんな絵を描いていたの……!? 感涙してしまう……。
『お月様だよ』、良すぎて膝を打っちゃいました! 私にはない発想でマジ悔しかったです。闇を全部を塗り潰せなくても、ちょっとの明るさ、光があるだけですべてが変わることってあるんですよね……はあ〜〜最高……良すぎて震えちゃった……。
 似たような境遇に生まれ育ちながら、内面も外面もまったく正反対になった二人の交わり、ほんとうにうつくしかったです。
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、もっと明里と栞の心についての描写が読みたかった……もっと見たい……二人の人間性を浴びるように感じたい……お互いの目にうつるお互いの姿を見たかった……まだ酔いたかった……という感じなのですが、キャラ萌え重視するタイプの読者である私の傲慢なんですよね……。

謎の綿棒
 傷を抱えて繊細に生きてきた、どこか似たところのある者同士が出会い、二人だけの箱庭の世界を見つけて自由になるお話でした。
 己の外の世界に怯える人が他人に心を開くのは並大抵ではなく難しいと思いますが、幸いにも二人はよく似た傷を抱えてよく似たものを求めていたため、バランスを損なうことなく交流することができたのかもしれません。
 今後の二人がどうなるのか、長らく寄り添っていけるのか、はてまた密になりすぎて亀裂が生まれてしまうのかはわかりませんが、少なくともそれぞれにとって、他人の世界とコミットすることのきっかけとなれた交流は、二人の人生にとってきっと大きな出来事になるのだろうと思いました。


28、どうせみんなキスしてセックスして愛するんだろう?/ミヤシタ桜

謎のイートハーブ
 ミヤシタさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 内容の話をまず置くんですが、信仰要素をうまく捉えられた自信がないことを謝罪します申し訳ありません……。考えた末に自意識、タグにもありましたがナルシシズムという点を捉え、自分自身に対する過剰な自信・愛をイコール信仰ととらせて頂きました。それを前提に講評を進めます。
 主人公は所謂、恋やら愛やら馬鹿らしい、と嫌悪感を抱く人間です。この人物造詣がわかりやすく、主人公の心情がするっと飲み込めてとてもよかったです。
 その後、桜に誘われ外出し、公園に立ち寄ったところで奇妙な男に出会います。これがある意味運命的な出会いで、男は主人公に身の上話をし、主人公を叱咤激励してくれます。そのことにより恋愛というものに対しての希望というか、接し方を掴んだと読ませて頂きました。
 この男性なんですが、もうすこし掘り下げてあるほうが読み手は受け取りやすいのではないかなと思います。主人公の視界で物語を見る読み手、主人公ではないので急に主人公も知らないようなおじさんに話し掛けられるとびっくりしてしまいます。なので、悪いおじさんではないということを回想などを交えてていねいに話してもらえると嬉しいです。あくまで私はなので、参考までに……。
 手についた錆を自分自身の汚れのようだと思っていた主人公が、汚れではない、と締めくくるところが綺麗で良いですね、ここが一番好きです。勲章、という印象を受けました。少し違うかもしれませんが、流行の歌に乗れない自分を少しは認めることができた、というようなニュアンスも感じます。
 タイトルにある疑問への解答を微かにでも掴んだと感じられる、爽やかな幕切れです。
 信仰要素については冒頭に述べた通りです。しかし幕切れでは確かな変化があり、「未来に向ける祈り」を感じました。この変化の流れがとても好きです。

謎のショートカット
 窓というフィルターを通し美化された外の景色、という一文が超好きです!
 性愛、というか性的快感以外で愛を感じられない、愛を信じられない男が出てきます。
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、男の魅力、というか善性がわかるシーンをもうちょっと読みかったです……。私は魅力ある人間の言葉じゃないと正論でもまったく聞かないクソ女なので……。男、反面教師にしても良いとこなし虐待野郎ではないですか!? でもコレは私の趣味嗜好なんですよね……。
 愛を信じていない主人公が、愛を信じられずにいる男に出会い、愛を信じろと言われる話。愛を信じろ、という『男が伝えたいこと』のメッセージ性。そしてタイトルが「どうせみんなキスしてセックスして愛するんだろう?」。この物語、私が読みとれていない深さがあるのでは……!? 読み手側に考えさせる作りですね……。

謎の綿棒
 どこか自暴自棄な主人公が、寂れた公園で愛に付いて語る男と出会うお話でした。
 勝手な解釈のようになってしまいますが、なんとなくこの公園にいる男は主人公の未来の姿なのかなという印象を受けました。男の語ることはどこか偏屈で突飛なのに、主人公がすんなりと共感していることからそう思ったのかもしれません。そうなると、この主人公は未来でもあまりブレることなく今も抱いているような偏屈な思いを持ち続けるのでしょうか。
 何にしても、男の言葉を受けて、依然愛を求め哲学しながらどこか独りよがりで内向きな印象の主人公には、人間らしい哀しさと愛おしさを感じました。


29、Cave/ナツメ

謎のイートハーブ
 ナツメさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 感情失礼します!信仰BLだ!! とてもはしゃいで読んでしまいました、読みながらもずっとはしゃいでいました凄く好きなやつですね……。
 君は美のイデアだ。から始まった瞬間口笛吹いてしまいました、よくわかっていらっしゃる……。最初の一文のパンチは私の中ではこちらが最強でした。人間に対して美のイデアと評する時点でもう二人は破綻しているんですよ、どうなるの……!? と一気に続きが気になります、掴みが素晴らしいです。
 こちら内容も良いのですが、構成が物凄く巧みだなと個人的に感動しました。登場人物二人の視点が交互に来るのですが、この視点がじわじわと離れていく流れが本当に素晴らしい。特に最後にかかってくる、片方が悲しい結果になってからの感情の離れ方が読後の空しさをより強固にしています。わかっているのですが本当にお上手ですね……分断されたレールは二度と交わることはないとはっきり読者に突きつけてきます。
 タイトルにも触れたいのですが、イデアという単語と組み合わせて考えると本当に洒落ています。カメラマンは結局、洞窟の壁に映る影を美しいといって撮り続けていたようなもの……私はそうとらせていただきました。普段のツイート風に言うのなら、に、人間ごときにイデアが観測できてたまるか~~! なのですが、きっとナツメさんの思惑通りなのでしょう……脱帽します。
 人物像にも切り込んでおきたいのですが、私このカメラマンがかなり好きです。愚かに映るように描かれていると思うのですが、そして実際に愚かで蒙昧でそれは無意識にしろ結局罪悪感を信仰に置き換えているだけだぞ……と私は目頭を押さえたのですが、これこそ私が読みたかったネガティブな方向性の信仰です。愚かな人間、どうしても愛しいんですよ……本当にわかっていらっしゃる……。
 転調となる「ある日。ふと、気付いた。顔になにか違和感がある。」から始まる段、私はここが唯一二人の思考が重なった瞬間だと読みました。その通りであるなら本当に計算されていますね……ここから一気に瓦解してすべては離れ続けていくため、余計に頭に残る一節です。
 人の信仰は他者依存の側面が確かにあると思われます。こちらの作品からはその悲劇を感じ取りました。現実と剥離する、神として崇められる神ではない意思の存在、かなしいですね……。
 信仰要素は「妄執、他者依存」ととらせて頂きました。いい滅びの信仰BLを読ませて頂けて大満足です、面白かったです!!

謎のショートカット
 ケイブ!と読むのですね。調べてみると洞窟とか洞穴とかいう意味だそうです。
 濃厚なボーイズラブで最高のサスペンスでした。カメラマンvs被写体は最高。もう最高でした。設定だけで最高なのにストーリーまで最高です。
 ストーリー、少なくない数の宗教が偶像崇拝を禁止にしている理由の一端がわかる。これをここまで文章化できるのすごーーーい!となりました。名作です。
「俺」を死なせた「私」が、のうのうと死なない理由を見つけて使命感に目覚めて生きていくことにしたの、最高すぎでシンバルを叩く猿のように喜びました。もう最高……この評議員何回最高って言うんだよって思われる方もいるかもしれませんが最高なんです……。殺した男を捨てて忘れていく男は最低で最高……。「私」が理想的なクソ男で良すぎました。
『ガスの臭いがしたときに、逃げれば良かった』もう最高〜〜犬死と生恥。良すぎて足をバタバタさせました……。
 心中というものは存在しなくて、殺人罪持ちの自殺者と同意殺人の被害者がいるだけなんですよね。
「私」が愛していたのは「俺」ではなく『「俺」の美しさ』——『「俺」の写真』と言い換えてもいいかもしれませんね。はじめは確かに写真じゃなくて本人を愛していたけれど、ちょっとしたキッカケで写真が本体になってしまった。偶像崇拝です。それだけのことなのに、死んでしまったから取り返しがつかない。逃げれば良かった。最高の小説でした。

謎の綿棒
 あくまで他者を愛するという体をもってして、結局自身の中の理想を押し付けているだけということ、ままありますよね。美しさにしても何にしても、他人は好き勝手に対象に理想を抱きますが、もしそんなチグハグな二人が人間として密に関われば大抵の場合はうまくいかなくなって早いうちに破局するでしょう。
 しかし本作の二人は、”俺”の方も”私”の価値観を内面化して愛を返してしまったため、破滅に至るまで共に生きてしまったのでしょう。”私”はイデアとはっきり言っていますが、普遍的な理想を個別具体な対象に見出すのは非常に危険を感じます。
 本人の人間性以外のところに価値を見出して重用したりといったことは、主に客体側(本作でいう”俺”)の自意識にもよるかと思いますが、危ういバランスの上に成り立つ事柄だなとひしひしと思います。しかし、だからこそ面白い情感や物語が生まれもしますよね……。


30、月は淋しいだろうか/洞田太郎

謎のイートハーブ
 洞田さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こーーれはいい、凄くいいですね。まず日本昔話のような民話の空気感が素晴らしいです。独自の手触りがある無二の文章を書かれるなあと木を見る小僧を読んだ時から思っておりました。
 凄くいい理由は色々あるのですが信仰要素に早速触れさせていただきます。上段で書いた通りに民話、昔話の空気感であり、内容も凄く昔のどこかの農村、という風情です。言うなれば信仰の原型について語られている物語かと思います、めちゃくちゃ興味深く読み込ませていただきまして、「俗信、言い伝え」の類ととりました。
 これ日本人なら絶対はっとするはずなんですよね、猫が顔を洗うと雨が降るとかカラスがなくと人が死ぬとか、なんらかの俗信、迷信を一度は聞いたことがあると思うんですよ。これらの是非は一切関係ないので割愛しますが、こちらの作品からは強くこの匂いを嗅ぎ取りました。非常にいいです、なるほどと唸りました。この発想は私から完全に抜けておりました、日本人なのに悔しい! やられたな……と悔しさまで覚えてしまいましたすみません!
 そしてこの俗信の類、信じていた、信じているという人もけっこう多いのではないかと思います。実際根拠のある俗信もありますし、言いがかりに近かったとしても背景はきちんとあるものが多いです。この作品はそのラインをいきつつ、山に育てられたという、自然の申し子のようなキャラクターも登場し、更に民話性が増してきます。もう神話性と言ってもいいんじゃないかな、古来より日本という国土、自然を恐れ敬い崇める信仰が根付いていると思うんですよ。そこを完璧に現した掌編に思います、恐怖すら感じるほど素晴らしい物語です。
 それでいて話も文章も読みやすく、ラストでふっと視界を開けさせてくるところも素晴らしいですね。なぜ屋根に猪などの頭を放り投げるのか? という謎にも解答が用意されており、構成力も抜群です。
 投げたものを咥えて飛び去る鳥の力強さ、まさに天に届かんばかりです。深読みかもしれないんですが鳥への信仰も感じました。古事記などにも鳥ってめっちゃ出てくるんですよね、有名なのはヤタガラスかな……。天と地を繋ぐものの象徴としての側面もあると思うんですが、そこを捉えて魂を運ぶ存在ととって崇める信仰、この文脈も含んでいると読みました。これなら月も淋しくないし魂も天へと還ることができるのでしょう。
 畑に愛されているという言い回しも非常に好みです。イコール土に、イコール自然に愛されているともとれて、山の子と波長が合うことにも頷けます。風景の描写も抜群にお上手で、なんかずっと褒めてますね、本当に好きなんですえげつない角度で後ろから急に刺されたんですよ……。
 本当に良い読書体験でした。日本昔ばなしで放送してほしいなー!あの絵柄とあのナレーションで楽しみたいです。
 信仰要素は散々話しましたが「古くから根付くもの」ととらせて頂きました。いやわかるな……根付いてるんですよこういった類の殆ど生活に馴染んでいる信仰は……かなり納得度と満足度が高かったです、本当に良かった……推させてください……。

謎のショートカット
 おもしろかったです! 日本昔話っぽい、ほのぼのした暮らしと生活の苦労が同居している雰囲気、大好きです! おトキの両親の畑の話が特におもしろく読めました。
 長吉とおトキが心を通わせる描写がナイスですね。ずっと同じ村の住民として認識はしていたけど、おトキが一人ぼっちになって、はじめて一対一の会話をする……エモです……。
『尻の肉は力が出る』『脚の肉はヤツらの速さに負けないために噛む』みたいな、まったく論理的でなくエビデンスもないのに、なんとなく私達が感覚的に納得できる『事象』を出してくるの良いなって思いました。肝臓が悪いなら肝臓を食えば治るみたいな民間療法はありがちですが、それだけ「人間の感覚」に分かりやすくて受け入れやすいんですよね……。この日本昔話感を現代に出せるとは天才なのではないでしょうか??

謎の綿棒
 村を包む季節の匂い、登場人物の息遣いまでをも感じるような、情景がまざまざと浮かんでくる文章に引き込まれました。ラストシーンの美しさがたまりません。
 世界にも共通するらしい古来からの肉食文化の中に、滋養強壮のために自分の身体の弱い部分や強化したい部分に該当する(動物の体の)部位を食べるというものがありますが、本作でも、ただ西洋文化風に侵略し殺して奪うというのではない、「お命を感謝で頂く」という日本古来からの感性を彷彿とさせる精神が描かれていました。
 何も劇的ということではない、素朴な生活の中の自然な美しさが豊かに描かれていて、贅沢に楽しむことができました。


31、でも、明日を信じて/海野しぃる

謎のイートハーブ
 しぃるさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 信仰ゴリラじゃないですか、やったね!! 突然現れる封魔忍……!腹筋をピクピクさせながら読ませていただきました!
 まじめな講評なんですが、緊張してきたり難しい話になってきたところで抜く、というふうな技法がお上手だなあといつも思います。こちらの作品でもそれを感じました。けっこうな悪さをする人間が主人公なのにどこか軽やかに読めてしまうのはこの技巧にプラスして、キャラクターの設定が絶妙だからかなと思います。特に主人公、憎めなさが言葉の端々から感じ取れて好感を持ちました。かわいさすらあります……マモンもいい造詣で、こういった部分もやはりお上手だなと唸りました。
 妙な感想かもしれないのですが、投稿された順番が絶妙に息抜きしたい……脳が疲れておる……!というタイミングだったのが個人的には嬉しかったです。全力で笑えて面白い!と楽しめました。
 パルプ・フィクションというものをおおよそ理解できていないのですが、ニンジャスレイヤーのようなことでしょうか。魔の者絶対殺すべしなニンジャ、なんだか懐かしさがあり……いやこれは与太です……出てきた瞬間本当に手を叩いて喜びました、かっこいいニンジャ大好きです!
 そしてミステリの文脈も感じ取れつつ熱いバトルありと豪華です! 綺麗な伏線回収! 実はすべてはマモンの策略で……からのニンジャ! この流れ、本当に面白かったです。すばらしいコメディとは計算され尽しているのだと感動しました……。
 途中で(……??)となるような長回しの台詞が挟まりすぐに霧散する部分と、熾烈な戦いを示唆する幕切れが非常に好きです。最後まで読みきってからの「でも、明日を信じて」というタイトルがどこか切なさを感じさせてきて、ふっと笑わせるラストも相俟って絶妙な読後感がありました。
 マモンから神への感情というか、時代背景により信仰の是非が変わり、信仰の形態をまた古代に戻したいというマモンの言い分に信仰要素を強く感じ取りました。信仰と宗教、時代を反射する鏡のようですね……さくっと読んでも面白く、じっくり読んでも面白い、非常に質の高い作品でした。

謎のショートカット
 冒頭からおもしろくて引き込まれました!
 敏樹のキャラクターデザインが秀逸だなぁ……開幕人殺しなのに明るくて、犯罪者な感じがまったくしないコメディリリーフでありながら、連続殺人鬼になってしまっていることに違和感がない……。あと私の好みの男……頭が悪くてまっすぐでよく喋る……好みです……。そしてマモン、まさに悪魔のような女で一章目から大好きになっちゃいました。
『生まれた時から地獄に落ちるのが決まってるなら、神様を信じる意味が無いだろう』『悪魔だよ私は。悪いことは私のせいなのに存在意義の否定だよ!』など、マモンが開示する世界設定が超おもしろいです。必見! マモンの語る目的も本当におもしろくて、読むのがメチャクチャ楽しかったです。このあたりの設定は本当におもしろいのでぜひ大勢の人に本編を読んでもらいたい~~!
 そして突然の忍者で声を上げて笑いました。教皇庁所属、バチカン市国警備隊封魔組所属、六百代目の封魔小太郎……とかいう肩書きがもう無茶苦茶すぎて最高でした……。
 超展開、超おもしろかった……やっぱ卓袱台をひっくり返すなら、卓袱台にはキチンと食事が並んでいないといけないんだなと思いました。何も置いていない卓袱台を返しても、何も置いてないから卓袱台返しでお茶を濁したんでしょ?って感じですもんね。きちんと並べた食膳をひっくり返すから卓袱台返しなのです。

謎の綿棒
 全体が長編小説の冒頭のような雰囲気で、続編が(存在しそうな気持ちになって)読みたくなりました。
 マモンが語る中に、神様と悪魔の、言ってみれば聖悪の、表裏一体の関係性がサラッと言及されていたのが個人的に好きでした。神様がいなければ、つまり人間に認識されなければ、同時にまた悪魔も存在できないという……。
悪魔と封魔忍者という対立関係は、一瞬和洋折衷な世界観を想像しましたが、魔を封じるのが封魔なら何もおかしなことはないな?しかし突然現れる忍者との戦闘シーンなどテンションが独特だな!?等々、自分なりに印象を咀嚼していたところ、こういった作風がニンジャスレイヤー等のパルプ流脈を汲むものと教えてもらい初めて知りました……!笑
 登場人物のキャラクターが立っていて会話のテンポもよく、全体的にとても読みやすかったです。


32、背信のマータダム/こやま ことり

謎のイートハーブ
 こやまさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 頭から最後まで美しいBL掌編です。耽美系はあまり嗜んだことがないため新鮮で、興味深く読めたのですがはじめに謝罪します、ごめんなさい! 世界観設定に馴染みがなさすぎて、恐らく魅力を受け止め切れていません……申し訳ありません……!
 魅せるための言葉遣いがお上手で、性癖を煮詰めたと仰っていたためその点を重点的に読ませていただいたつもりではあります……!
 主従と言えば主を殺す従者ですよね! とまず喜びました。朝焼けに照らされた場面と最後に火に巻かれる場面がリンクしているようで非常に美しかったです。どこか演劇やオペラの雰囲気がありました。
 信仰要素も感じ取らせていただきました、元々信仰していた神から現在の主へと信仰がスライドした経緯が自然ですっと入り込めます。この世のものとは思えないほどの白い主とこの世からすべて消し去るほどの赤い火(陽)の対比も随所に散りばめられていて目が楽しかったです。
 主と従者という対比、神と人間という対比、白い肌と褐色の肌など、なにもかも違うのに名前がない、という部分が面白く、また二人とも相手以外では有り得ないと思っているようなところも非常に良かったです。運命力と私が勝手に言っている概念があるのですが、それを強く感じました。この二人じゃなければ駄目だったな、というキャラ設定すばらしいです!
 信仰要素はそのまま「主従関係」でとらせていただきました。国民自体が神の化身と信じる主への信仰要素もありますが、主従が主題と思いましたのでこちらにしました。主従、耽美な世界観には打って付けの関係性だなと思います。二人の間でしか交わされなかった約束や命令、興奮してしまいますね……。神がいなくなっても解釈次第で信仰が続くという幕切れ、とても好きです。
 余談ですが私も美しい名前で一本書いたことがあり、やはりこの曲ついイメソンにしてしまいますよね……と勝手に脳内同意しておりました。世界は二人のために回り続けているよ……こちらのお話にとても合うなあと思いました。

謎のショートカット
 はちゃめちゃにおもしろかったです〜〜〜〜! 名無し!名無し!名無し!
 よその血を入れないため近親婚に至る、というのは人間界の歴史でも王族や上流階級あるあるですが、こういう舞台設定はやはり良いものです。ご存知の通り、近親交配で生まれる子どもは潜性遺伝を発現しやすいんですよね。潜性遺伝とは、両親から同一の遺伝子をもらわないと発現しない遺伝。つまり潜性遺伝はマイノリティーになりやすいということです。たとえば「耳垢が乾いている体質」は潜性遺伝なのですが、両親が共に「耳垢が乾いている体質」の遺伝子を持っていると、子どもが耳垢が乾いた子になる可能性が倍率ドン!というわけです。これが近親だと、夫婦で同じ遺伝子を持っている可能性が高い。王家もそれの繰り返しによって滅んだのですね。
 こういう、神聖だと思われているものに正体があるっていう話、大好きなんですよ。疫病の流行を予告する神獣だと思われていたものがただの疥癬の狸だったとか、そういうやつ……。王自身の達観した内心や神々しさすらある立ち振る舞い、国のために己を人柱にする献身も相まって、良い味が出ていると思いました。
 神様なんじゃなくて、ただの人間なんですよ。それも、死ぬことでしか事を為せない人間。村を焼くことしかできない人間。弱すぎる。だからこそ、「私」は『お前が我を殺せ』という命令を聞くしかなかったんですね。これだけは私しかいないのだ、私にしかできないのだ。
 奴隷以下の語り部に名前がなくて、神様である王にも名前がないの本当に良いなあと思いました。はあ〜〜〜〜クソデカ感情。親を殺され村を焼かれたのに相手を〇〇だと思ってしまう男は最高です!「あの強大な火を、炎を、統べる貴方は――私には、まさしく、○に見えたのです」のセリフで膝を打ちました。火葬と土葬の話が「なるほどなあ!」と思っておもしろかったです。

謎の綿棒
 本作のように、王が神の現し身という扱いで、権力をかなり掌握している世界観の、王国物と言うのでしょうか?そういう舞台設定の中で生まれる物語は面白いですよね。(別の方の講評にも作品名を出してしまいましたが『十ニ国記』シリーズが好きなので、どうしても連想しました)
 はじめ信仰というより忠義の物語のように思いましたが、王が神のような存在なので、それらの綯交ぜになった情緒が特徴的だと思いました。
 運命や信条という、ある言い方をすると縛りのようなものの中で懸命に生きる姿は美しいです。


33、青森の救世主/ドント in カクヨム

謎のイートハーブ
 ドントさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こーーーちらめちゃくちゃいいですね、トンチキ系かと思わせつつのうるっと来る読後感……時期の設定も絶妙でした。深読みかもしれませんが、某感染症の第一感染者がたしか11月だったと思うので、それ以前の出来事と考えると一層目頭が熱くなってしまいます。
 ゴリゴリの方言をしゃべるキリスト(仮)の人格が言い表せない良さに溢れていました。本当にいい人、と評する主人公の気持ちがよくわかります。
 すっと世界に入り込んでおりいつの間にか主人公の気持ちになっていたので、誘導と引き込む力が非常に高いと思いました。するする読める文章を私は評価しがちで目指すところでもあるのですが、ドントさんの文体は良い意味で軽妙さがあり本当に入り込みやすく、理想系のひとつを見せて頂いている感覚になります。
 キリスト(仮)、本当にいい人で凄い人だし、夕焼けの海に立つ場面のところでは主人公と一緒に息を詰めてしまいました。場面描写も修飾し過ぎずばしっと決めているところに熟練の技を感じます。
 書かれている物語も、非常に文体にマッチしており唸りました。主人公の逸脱しておらずいい意味で凡庸、といった風情の憎めなさもたいへん良いですね、とても好きです。
 ちょっと妙な読み方かもしれないのですが、現存する世界のifとして見て、この作品そのものが信仰なのではないかなと思いました。外出したいし外食したいし病気の親にも会いに行きたいけれど……と、なにかと制限のある世の中です。しかしこうしてキリストの概念が世界中で目覚め、奇禍を抑えてくれたのであれば……そんな祈りの形を感じ取りました。
 それでいて説教臭くもなく全体的に優しさに溢れ、腑に落ちるような読後感。素晴らしい小説です。講評公開後に完全版を掲載予定だとお聞きしているので、そちらを読むのも非常に楽しみです。

謎のショートカット
 冒頭から笑ってしまいました。おもしろいな~~~! ずっっっと一貫して最後までおもしろい!
 まず世界あちこちにある『神の子の墓』から一斉に神の子が復活するのがおもしろすぎて、うらやましくなります。全員同じ顔をしてるのもおもしろい……。しかも訛り……!? ご当地ごとの特色まであるの……ご当地キティみたいにグッズ化できるじゃん……こんな設定を思いつくのすごすぎる……こんなの、この設定があればどう書いても多少は面白くなるのに、この小説はストーリーまでガッツリおもしろい……。はーーあ私が思いついたことにならないかな……ならないです……。
 ストーリーがものすごく良くて、神の子が聖書にあるような力を使って見せるところなんて鳥肌が立つようなおもしろさでした。
 事前に世界を救った結果、それが目に見える大災害にならなかったから、結局は何も起こらなかったように見える図、超カッコイイなと思いました。また、海というシチュエーションがいい! 世界中の救世主たちが同時に手をかざすなら海しかないことはこの小説を読んだ後ならたしかに一目瞭然なのですが、それを実際に選んで決めて書くとなるとむずかしいのでは!?と思います。おもしろかったです!

謎の綿棒
 ちょっと不思議で愉快な雰囲気と、個人的にとても読みやすい文章で、冒頭から「このお話はどうなるんだろう?」ととてもワクワクできました。自称イエスが妙に謙虚なのにクスッとしたり、彼が聖書で有名な奇跡を起こして主人公が驚くシーンに、(いい意味での)”お約束にありつけた”的ワクワク感がありました。聖書の中のイエスの弟子たちなんかも、イエスと出会った時は案外こんな感じたったりして?なんて想像できて楽しかったです。
 終盤には主人公にとってまさに奇跡のような救いもあり、ほっこり幸せな気分になれました。主人公が彼の不思議さを理論理屈で追究したりはせず、己の見たままを受け止めているところに芽生えたばかりの信心のカケラのようなものを感じ、今回の企画のテーマである”信仰”を強く感じた気がしました。”信仰”というと、ともすると大それたもののように思えますが、実はこういう身近で素朴な体験から芽生える気持ちこそが軸なのかもしれないなあ、という気持ちになりました。
 どうやら世界各地に現れたらしい彼は、その場所によって方言や特徴も少しずつ違った(或いは、交流した者に合わせて違っていた)のかな?なんて想像もして楽しみました。
 私自身はキリスト教の信徒ではありませんが、縁あってアメリカ人宣教師が創設した学校に通い日々聖書に親しんでいたので、聖書の中の弟子たちとイエスの交流にもいい意味で気軽に楽しく触れていたと思います。(実は結構愉快なストーリーもあるんですよね)それもあって、親しみやすい方言で話す不思議なイエスおじさんと悩める私、という雰囲気の本作が特に楽しく読めたのかもしれません。ということで、個人的にヒットの個人賞として選ばせていただきました。
 優しく楽しくも不思議な、かつ信仰のエッセンスも感じられる素敵なお話をありがとうございました。


34、巡礼のナール/狐

謎のイートハーブ
 狐さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 異世界ベースの信仰と宗教、そこに現れた不死の男の話です。全体的にどこか静謐な空気が流れていて、鬱蒼とした森の描写がとても綺麗です。異世界ファンタジー、カクヨムに来るまであんまり読んだことのなかったジャンルなのですが、狐さんの異世界は王道の気配があって、RPGくらいならば履修できている私にも馴染みやすいです。
 すごく細かいところを失礼するのですが、タイトルと各話タイトルがダントツで好きなんですよねこちらの巡礼のナール。愚者のパレード、聖者の旅路、声に出して読みたい言葉の連なり、好きですね……。終末のフールを思い出す語感です。
 メインの登場人物であるラウラとナールがどこか対照的で、狐さんはいつも絶妙な二人をコンビにされるなあと思っているのですが、こちらもその技巧が発揮されています。絶妙な二人組と来れば旅路とくる……特に不死の男のキャラ造詣が本当に好みです。狐さんの書かれるどこかくたびれた感じの男性キャラ、本当に好きなんですよ……。
 愚者から聖者に話が変わってからの展開が面白く、なるほどなー! と喜びました。ラウラと不死の男の間に起こっていた齟齬は切なさがありますが、神の側にも自意識がありしかしそれは人間の普遍とはかけ離れている、この齟齬の調整がすばらしいです。介錯のようにすっとナールを終わらせてあげるのもまた慈悲……に、人間の私には見えました。いつのまにか私も女神を信仰していますね……?
 神がもし意識的に言葉を話すなら、人間をよく理解しているというよりは、神の価値観で采配するという態度をとってほしい。そんな気持ちが満たされました。人間、有限だからプリミティブなんですかね……言葉のひとつひとつにうんうん考えを巡らせることができて楽しかったです。
 人が信仰するからこそ神は存在する、だから神も人に近くなる。そんな異世界の信仰要素を感じ取らせていただきました。生まれ変わったナール、また女神さまを信仰してあげて欲しいです。

謎のショートカット
 霊廟を目指すラウラが、道中、不死のナールと出会います。ラウラの正体がわかるシーン、大好きです。
 盗賊が、棄教か殉死を迫るシーン、良いですね……。そこに現れるナール、良すぎました。
 目をそらしてしまったから呪われた、とナールは思っていたけれど、神様の気まぐれ(というのは女神様に悪いけれど)だったぽいのが神話っぽくて良いな……と思いました!
 理解者が欲しくて偶然会った人間を不死にしたけど、何も話せることなく終わった世界。少なくともナールは女神様の本当の目的を知らないまま生きて死んでしまった。さみしいです……。
 このさみしさを含めて、良い読後感でした。

謎の綿棒
 後半に女神としてのナールの存在の種明かしがあり、女神も実は人格を持った人間のような存在である(こともできる)とわかりましたが、そのどんでん返しが面白かったです。
 記憶を封じられた"ヒトの社会を観察するための端末"としての彼女の自我と、女神として目覚めている時の彼女の自我の切り替わりについて主観視点でもっと詳しく知ってみたいなあと思いました。
 個人的にですが、全編通して噛み砕いて読み進める必要があるように感じ、設定の説明のようなパートを読み飛ばしてしまう感覚になることがしばしばあったので、読者を世界観にスムーズに誘うような作品に改善できるような余地がまだまだあるように期待を感じました。


35、ランズ・エンドの約束/鍋島小骨

謎のイートハーブ
 鍋島さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 不遇の戦争未亡人と彼女を迎えに来た神父さんのお話です。めちゃくちゃ好きな話でびっくりしました、このびっくりというのは鍋島さんは作風の幅が広い……!というびっくりです。
 リアリティのある素晴らしい文章にも圧倒されました。わかってはいるもののやはりお上手です……。
 重厚な現代ドラマに圧倒されましたが、よく見れば舞台は列車の中に限定されているんですよね。舞台は車内から一切動かないのに、小説内部は恐ろしい広がり方を見せます。もうここが流石の手腕です、起こった出来事を回想の形式で適宜挟みながら、現在の軸での話と隠されている真実をじわじわ広げていきます。
 この間に回想を定期的に挟むって手法、多分熟練してないと読み手の脳は混乱すると思うんですよ。でもそれをほとんど感じさせない、情報の管理が卓越しているなと感じました。
 キャラクターもそれぞれ違った愛しさを覚える人格や生い立ちです。私はわかりやすい人間なので抜群に神父が好きなのですが、実は途中までは胡散臭いな……と思っておりました(すみません……)いや怪しいんですよね、信仰の只中にあり人を神へと導く立場の人間ですが、些かデリラに情を割きすぎでは……?町人を懐柔しなにか企んでいる……?本当に真心のみの行動か……?とミステリ脳が訝しみました。すみません癖みたいなものなのでお許しください……。
 しかしそこはさすが鍋島さんというべきか、私のような捻くれた読み手には「デリラに特別な情があるけど立場ゆえに受け入れられない」と思わせてくるんですよ……いやもちろん私の深読み癖はありますが……。それでも神父からの情をあっそっちか!という捻りに持っていってくれて、作者に振り回されたい私は大満足です。
 信仰要素は言わずもがな神父が直喩として担っているととりました。しかし彼を中心に現在に向かう過去からの祈り、とりわけ命を落としたアーネストの愛とエゴを表裏一体とした最後の望みが、この列車内の一幕をうみだしたのかなと思いました。信仰とは進むべき方向を定めてくれる光なのだな……と胸に染みました。
 ものすごく読み応えがあり、本当に素晴らしく、本当に面白かったです。ランズ・エンドに光あれ………。

謎のショートカット
 こちらメチャメチャ良い小説でしたね……。
 デリラのキャラクターがいいなあ……こういう傷だらけの警戒心剥き出しのさみしい女がド好みです。ハント神父も優しくて、こんなの好きになるなってほうが無茶だろ〜〜!と頭をかきむしる思いでした。優しくしないでよ!!という気持ちになっちゃう……ハント神父は何も悪くないのに……恋って厄介だから……。
『デリラのためには想像できなかったその後の暮らしのことを、自分のこととなればありありと想像でき、デリラを傷つけるために利用した偏見が、今度は自分に向けられることに怯えている』ここが好きです。
 デリラがあまりにもひどい目に遭っていたので、終盤希望の見える展開になったのがかなり本気でうれしかったですね。人間、悪い人もいれば良い人もいて、悪いところもあれば良いところもある……だから死にきれないんですよね……。これは人間恨み節をB面に隠しながら歌う人間賛歌だ……。
「デリラの収監中に汽車賃は上がった。それを教えてくれるような人は、塀の中にはいなかったということだ」こういう文章でデリラの孤独が浮き彫りになる。ものすごい表現力です。
 デリラがハリネズミのように周りを威嚇してそっぽを向いているのにも、ハント神父がものすごく親身で親切なのにも、薄っぺらじゃない理由がある。人間を描くとはこういうことかと思いました。
 デリラの見た目、パサパサの茶髪で肩に届かないくらいのウルフカットがいい……ハント神父は恰幅のいい白髪でメガネの男がいいし、アーネストは黒髪に髭の優男がいい……好みの話です。
 神父が最後まで正しいことをしてるのもいいな。そしてオチもいい! ラブでした。

謎の綿棒
 荒みがちな現実であっても、そこに綺麗事ではなくしっかり根付いて生きている人間の信仰(心)の在り様が、リアルに、かつ美しく描かれていると思いました。苦しみも罪の意識も湧くけれど、人間は己の信条や信心を持つからこそ、生きながら前向きに昇華していけるのだ、という希望を感じることができました。
 作中に描かれているように、実際に私たちの生きている世界は時に不条理で、特別に高潔な人物がいるわけでも魔法のような奇跡がある訳でもないでしょう。それでも人が社会に属し他者と関わり相互に善い影響を与える時、ちっぽけな人間ならではの信心や信条がきっとそこにあるのではないかなと思います。
 本作中の一番の功労者とも言える神父は、人格に軸があり最後まで信頼できる人物だったので、読んでいて安心感がありました。また終盤、彼も個人的な人間らしい動機や信念を大切にしている人物ということがわかり、何も高潔なばかりではない、どこか身近な人物に感じられて良かったです。


36、薫る/ドラ・焼キ

謎のイートハーブ
 ドラ・焼きさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 現在を生きる主人公が故郷の田舎に馳せつつ心情を綴る掌編です。どこか私小説の味わいがありました。ドラ・焼きさんのことを深く存じ上げているわけではないので完全な想像なのですが、作者と主人公がある程度リンクした上で、読み手にも郷愁を煽ってくるように調整されている印象を受けました。田舎生まれなのであまりの懐かしさに目頭を押さえましたね……。
 解釈が分かれそうなのはやはり言語化されていないダッシュ部分かなと思います。ーーに入る語は同一とは限らず、また言語化されないなにかというキャプションもございますので、脳内では好きに当てはめて遊んでみました。そういった意図はないかもしれないのですが、言葉遊びとして読ませていただける部分が非常に楽しかったです。
 主人公は人の繋がりというものに信仰と生活のあらましを覚えているように見えました。それらを新天地で獲得出来ずに病む姿は、少なからず読み手ともリンクするのではないでしょうか。
 なにかの挫折を覚えたことのある人間には無視できない掌編です。特に田舎に関する描写が本当に上手く、読んでいる間5回は目頭を押さえることになりました。私の祖母も味噌汁に玉ねぎ入れるんですよ……私は玉ねぎがこの世で一番嫌いなのに……本当に郷愁を煽られました、凄いです。
 これは個人的な話なのですが、文字で五感に訴えるとき、嗅覚と聴覚が効くんじゃないかなと勝手に思っています。こちらの薫る、タイトルの通りに私が一番訴えられたのは嗅覚です。玉ねぎってすごく独特な臭いがするので、冒頭から土と玉葱が混じったような排気ガスと出され、一気に話に放り込まれました。お上手です……私は嗅覚情報をすぐ入れ損ねるので真似がしたい……。
 現在の祈りが跳ね返された場合、救いを過去に求めてしまうのかもしれません。こちらのお話を読んでそのように思いました。そして故郷は現存している限りは自分を受け入れてくれるのでしょう、しんみりとしつつもほのかな光が嗅ぎ取れる、いい読後感でした。
 信仰要素は「  」ととりました。ブランクであり想像によって補われる、言語ではないところの感情、状態なのかな、と個人的には思いました。ドラ・焼きさんの別の作品が読みたくなる掌編でした。

謎のショートカット
 生活生活生活! 生活感がタイトル通り『薫る』お話でした。においがものすごく効果的に使われています。
 生活感、という影も形もないものをものすごく細やかに描写してくれて、目に浮かぶよう・耳に聞こえるように・鼻に薫るようというか、本当に五感に訴えてくる小説でしたね。すばらしい! 私も祖母と祖父が畑をやっていたので、つい畑の土の匂いを思い出しました。
 それほどまでに詳細な文章で描かれる、故郷の記憶というか、郷愁?なのでしょうか。あまりうまくいっていない主人公の思い出、ものすごく切なくなりました……。
 私には絶対に書けない小説です。

謎の綿棒
 田舎の土っぽい香りや空気感をもリアルに感じられる、風味豊かな作品でした。本作に明確かつ具体的な信仰の対象は出てきませんが、何かを求めるような、人が普遍的に求める切実なものをひしひしと感じることができました。
 それがずばり文中の「ーー」とも言えるのでしょうが、それはもしあえて具体的にするのであれば、繋がり、生きがい、安心感、使命などと表現することができるものなのでしょうか。
 彼は今あまり精神も健康ではなく、暗中模索なのでしょうが、今後の人生で何か転機になるような出会いがありますようにと祈りを向けたいような気持ちになりました。


37、告解/上村湊

謎のイートハーブ
 上村さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 赤いキッチンタイマー、現lemに続く話です、村瀬先生シリーズとお呼びしてもいいのかな……? 私は全部読ませて頂いておりましてとても好きなのですが、こちらの告解もすばらしい作品でした。
 まず文体の話なのですが、物凄く読みやすいというか、読み手を引き込む力がすごくあるように思います。告解に限るのであれば0が交換日記から始まる点が上手いのかな、この二人は一体……? と興味をそそられる出だしになっています。それでいて文章自体もするする読み込めるのが凄いです、なんだろうこれ? 私の脳とチューニングが合いやすいという相性での理由もありそうなんですがとにかく喉越しがとてもいいです、好きです。
 かなめ先生と友希ちゃんのやりとりがメインで、この二人に私は元々現lemにより好感と謎の知人意識を持っているため、現lemのB面というイメージで楽しむことができました。「私は、かなめ先生に応えてみせたかった。」この友希ちゃんの台詞が本当にぐっときます。
 友希→かなめへの感情が信仰のそれを象っているととりました。唯一向き合ってくれた(と感じる)かなめ先生に頑張ったねと言って褒めてほしい、という祈りに対する見返りを求めているように思ったのですが、そこでかなめ先生が塾をやめており、信仰という祈りが宙に浮いてしまってからが、特に好きな場面です。鬱陶しいと感じていた弟への情を思い出して目の前が開け、弟の健気さに救われた形になった、と読みました。見えなかったものが見えてからの告解というタイトル、はじめに目にしたときとは印象も変わって私の目の前も開けたようです。
 弟→姉の信仰のかたちがあるのかなと思いました。そして今度こそかなめ先生の問い掛けに答えられる、かなめから友希ちゃんへの祈りに応えたいという幕切れに繋がって、すごく綺麗にまとまった美しい掌編でした。
 読後からまた読み手の脳内で飛躍しそうな最後の一文が胸に残っております、面白かったです! 

謎のショートカット
 冒頭は先生と生徒の交換ノートからはじまります。はじめは何かにイライラして攻撃的になっている生徒が、先生に心を開いていくことがわかる描写が素敵です。超おもしろい!!
『私の態度が悪いのを先生の教え方が悪いからだなんて言う人がいたら、私はその人に腹を立てたに違いない。』ここ、ものすごく子どものプライドを書いてあってメチャクチャ刺さりました。友希のものの見方や感じ方が、本当にすねた子どもをメチャクチャ捉えていて、思春期をここまで文章化できるものなのかと驚きました。
 友希が、自分の立場とかなめの立場をよくわかっておらず相手を困惑させるところなど、シチュエーションがおもしろいのに現実から逸脱していない、とにかく『普通の小学生』と『普通の18歳』の動きなのがすごいなと思いました。友希が真面目に授業を受けないのも、塾講師に殴られても文句を言わないことも、殴られたことを親に言わないことも、次の塾に顔を出すことも、メチャメチャ自然なんですよ。そして、かなめが友希に勉強させようと必死になることも、手をあげてしまい青ざめることも、何も言わない友希を不審に思うことも、交換ノートを提案することも普通。奇行や蛮行が一つもない。なのにおもしろい。すごい!!
 ひとつごめんなさいなのですが、信仰要素を見つけにくかったかもしれません……。私は不勉強でちょっと見逃してしまったので、お二人の講評を読ませてもらって反省したいと思います。
『勉強をさせてるのはそっちなんだからせめて弟を静かにさせるくらいのことはしてくれてもいいでしょう』『不安でいたいから不安になっているのだ。娘の受験について心配することが、母親としての務めだと思っているような節がある』など、友希の小学生離れした観察眼と、小学生相応の「実際に口にする声」の拙さ、親なら察して当然という思い、もう、こんなに『子ども』が書けるものなのか?と思いました。超おもしろい小説です!

謎の綿棒
 友希にとって、きっと人生で初めて出会った信頼できる大人がかなめ先生だったのでしょう。本来導いてくれるべき親が子供の意思を尊重できない人格だった場合、子供は自立や自尊心の健全な発育に苦労することになりますが、幸いなことにかなめ先生はきちんと主人公の人格に向き合ってくれるよき大人でした。
 しかし悲しくも仕方ないことに、かなめ先生は家族ではなくあくまで塾のアルバイトの、しかもまだ経験の浅い大学生だったので、友希の人生に向き合いきるということはできませんでした。かなめ先生の立場を思うと仕方ないのですが、友希の主観を思ったとき、このせっかく出会えた信頼できた大人からの裏切りとも受け取れてしまう経験は、彼女の人生にどんな影響を与えていくのでしょうか。苦い経験も人生の糧になることがあります。
 自立に向かう過程で辛酸を舐めることになった彼女ですが、どうかよくない方向に沈んでいくのではなく、すべての経験を豊かな糧にしてほしいなあと不思議な親心のような気持ちになりました。



38、メシ喰うな/けだま

謎のイートハーブ
 けだまさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 視点は話毎に変わるのですが、全体を通して一人の少年を主軸としたとある信仰の話です。この信仰、ツイッターの画像でも見たことがあるし、ニュース記事でも見たことがあるし、かなり現代に沿ったお話で他人事のように見られないです。キャプションを読むに実話なのかな? 大変な思いをされましたね……。
 実話ベースということで講評を進めますが、面白い! というよりは興味深い、考えさせてくる、という類に思いました。文章自体は地に足がついており、地続き地続きで別角度からひとつの物事を掘り下げているため、そういった意味での面白さはあります。脳が楽しいといえばいいですかね……こっちからはこう見える、という知覚を与えて貰えて純粋に楽しいです。
 内容は……申し訳ない暴言失礼させていただくんですが、ほんっとうにこう……私の胸が不快になった度は随一でしたすみません、面白くないとかではなく内容があまりにも……子供が可哀想で耐えられず……。子供の手紙で終わるところも凶悪なコンボという風情で、読んでいる間何度も休憩挟んでしまってたまらないんですが、決して後ろ向きな意味ではないです。文章と構成がお上手で、読ませてくる筆力だから読み進むし、こういうことは現実にどこかで起こり得ていると理解もしているので、だからこそ読んでいて段々虚しくなっていきます……。
 ただこう、信仰するもの自体は悪ではないんですよね。実際、子供の皮膚病には効果がありましたし、頭ごなしに悪! と言い切れないなと個人的には思います。罪は罪自体が悪いのではなく、それを行う人間の悪性が罪ということです。ここでいう悪性は邪悪な意味ではなく、抑制できない自我の類をさします。
 敢て書いておくのですが逆の意味で私の特効をブチ抜いていった作品です、これは無視できない。動悸が酷いです。
 信仰とは「どうすればいいものなのかわからない」という気持ちにさせられました。多分一番冷静に書けていないので、不愉快にさせてしまったら本当にすみません、でもこれを出してくださって私はとても嬉しく思いました。

謎のショートカット
 自然派信仰の話です。終わってしまった後の祭りの話なので救いがないけれど、小説としてはそれで良い、完璧だと思いました。
 宗教と食事は根深くつながっていますよね。食べていいもの悪いものを区分けして信徒の生活を支配するのは宗教あるあるです。わかりやすいんですよね。食べものを制限する⇒救われる、食べものを制限しない⇒救われないという図式は、超わかりやすい。
「それまではやっていたことを我慢する」は、つまり「何もしない」なのに何かをした気になれて簡単に自己陶酔できるので……。「こうすれば救われる」、すがりたくなりますよね。感覚的にわかりやすいし。医学は、「こうすれば救われる」とは言えないんですよね。病院に通っても薬を飲んでも死ぬ人間は死ぬので……。
 父親にも子供にも病気の母親にも、良くなろうという思いがあったであろうことが救われないですね。『お寺の人間にできることは、よくなろうという気持ちを後押しすることだけですね』その通りだなあと思いました。名文って、みんながボンヤリ思っているような当然のことを書いてあるものだと思うんですよね。自分の思っていた「ぼんやり」を言語化されたときが何より気持ちいいものですから……。
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、ストーリーにもうひとふんばりの地獄が欲しくなりました。おもしろかったので、もうちょっと地獄の釜を覗きたくなっちゃって……。ですが、これ以上を書いてしまうと読めないくらいの地獄になってしまうかもしれないので、これがベストの塩梅なんでしょうね……。ベストな状態のものを読ませてくださりありがとうございました……。

謎の綿棒
 内容には直接関係ないかもしれませんが、知り合いのお坊さんが「まず現代の常識的な範囲で、人間の努力でできること(通院、治療など)をしないままに神仏に祈るのはお門違いなので、体調不良はまずお医者さんにかかってください」とはっきり言っていたのをふと思い出しました。
 うっかりハマってしまう盲信は身を滅ぼすこともあるので、何かに入れ込むのも慎重にならないといけませんね。


39、少年の無意味な祈り/くもの

謎のイートハーブ

 くものさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 とある仲の良い同級生グループの回顧録、という皮を被ったひとりの少年の話です。すこしホラーミステリの味わいがあって話を前後に戻しながら読むという楽しみ方ができました。及川君、非常にいいですね。どこか無機質な浮世離れしたキャラクター好きなので、その点でも楽しませていただきました。
 さっそく信仰の話なのですが、面白い信仰要素いれてきた! とこちらの点でも大喜びしてしまいました。
 上にも書かせていただいた及川君、いわば信仰を集めるための依り代的な存在なのでしょうか? そうとらせて貰いまして、更には痕跡を残したくて信仰を作ったととり、恋心もある種の信仰だと私は解釈しているため、多層の信仰を摂取できて大満足です。
 率直な感想になるのですが、登場キャラが多く、突出して印象に残る及川君以外の名前が文子くらいしか覚えられませんでした……すみません……。短編向きのキャラの多さではないのかな、という印象です。あくまで一読者の一意見として、参考程度に……!
 ラストにくるおばあさんの祈りの内容が本当に好きです。ここのラスト信仰が個人的には一番好きで、過去にはあとをこっそりつけて、なんであんなことをしてるんだ? と考えていたキャラたちが敵わないといってしまうほどの祈りの内容……伏線回収としてもすごく好みです。
 無意味だけど無意味ではない祈り、まさにおまじないや願掛けの類だと思われます。他人には意味がないと思われても当人には意味がある、意味を見出しているという構造、大事にしていきたいですね……。
 信仰要素は散々語った通りです。及川君の作る信仰、及川君という存在、文子のある恋心、お地蔵様に祈るおばあさんと、多重信仰を読ませていただけてとても嬉しく思います!
 ついでなのですが及川君に同意点があります。祈りの動作、美しいですよね……。

謎のショートカット
 コレ良いですね!! 青春モノとしてかなり良い感じでした……! 及川くんは信仰を生み出す組織の一員? 見習い? という感じなのでしょうか。謎の少年っていうのは魅力的ですね……。良い!
 講評なのでムリヤリ批評っぽいことを言えば、名有りの登場人物が多すぎて混乱してしまいました……。私は人の名前をおぼえられないので、同級生は文子と及川と隼人の3人にしてあと2人は名無しの後輩とかだと覚えやすかったかもしれません。でもコレは私の記憶力の問題なんですね……。
 男女男の三角関係、時空を超えた別れ、何かを忘れている喪失感、『何かを残したい』ということ……おもしろいキーがあちこちに散りばめてあって「これは良いぞ」と思いました。おもしろいです!

謎の綿棒
 主人公の若者たちが、学生時代に仲のいいグループで何かを残そうとして都市伝説を作ったり、そこに恋愛沙汰が絡んだり、爽やかな青春群像劇でした。
 最初にどうしても気になってしまったのが、序盤に一度に出てくる登場人物が多く、わかりやすい特徴が(強いて言えば)性別くらいで覚えにくく、そのために全体的に少し状況が掴みにくい点でした。また、随所で誰の視点に切り替わったのかがわかりづらく、一度読んだところを何度も読み返してしまいました。多くの登場人物を効果的に動かすのはきっととても難しいのだと思います。特に人物のビジュアルなどが文字でしかわからない小説の場合は、それぞれの登場人物を印象的にするために登場をずらしたり、登場シーンに印象的なエピソードを入れる等する必要があるのかなと素人なりに思いました。
 先述の理由でどうしても何が起こっているかを咀嚼するまでに時間がかかってしまったので、個人的にそこが少し勿体無い印象でした。
 私は群像劇が好きなので、本作の全体的な雰囲気がとても好きです。


40、それでも私の信じるあなたへ/一志鴎

謎のイートハーブ
 一志鴎さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちらは架空の宗教を軸にしたとある恋人たちのお話です。善行をおこなうとあざが出るという架空の宗教、設定が非常に面白くて一気に興味をそそられました。スティグマというやつなんでしょうか? この宗教だけで中篇くらいのものが書けそうだなあと個人的にいろいろ妄想していました。
 はじめのほうは恋人たちの甘酸っぱいやりとりが繰り広げられ、いやーかわいい、幸せになってほしい……という思いになります。がしかし、彼氏のほうが集会に行かなくてはと行ってしまってからどんどん雲行きが怪しくなっていき、最後は……。
 この段々と雲行きが怪しくなるタイプの作品、かなり好きなのでとても喜びました。じわじわ忍び寄る不穏さを書かれるのが大変お上手です、これは駄目かもしれんな……と思いながら読み進められました。好みはわかれるのかもしれませんが、私はとても好きです。
 何度もいうのですが、この架空の宗教が本当にいいですね。善行をすることを是とする部分はそう目新しいわけではないかもしれませんが、教義に則り善行を積んでいけばあざが出る、という設定がすごくいじりがいがあると感じました。
 この作品内でも、人を助けることによりあざが発現した彼氏の最期を象徴するアイコンとして非常にいいです。信仰が目に見えて認められる、それゆえに思い残すことなく信仰とともに死ねるのだな、と解釈致しました。
 そこからの虚無的な幕切れ、賛否ありそうなのですが私は好きです。残された彼女に視点を回せば悲劇的なのですが、彼氏に合わせるとおおよそ満足している、ととれました。そして聴衆に合わせると、不気味な教徒たちが亡くなったところで……となります。様々な角度から最後を読める作品はいい作品だと私は思っています、その点でも非常に良かったです。
 信仰とは「多面的なもの」ととりました。タイトルも読み終わってから見るとまた違った意味で切なくもなり、いい作品だったなと振り返ることができました。

謎のショートカット
 コレ良かったですね〜〜! 殉教だ……。
「熱心に新興宗教を信仰している彼氏」「特に新興宗教に興味のない彼女」を書いてくれている。「彼氏、優しいけど、宗教より私を優先してくれたらなあ」とは思うけれど、彼氏を彼氏たらしめているのは宗教の教え、みたいなことって人間界あるあるなのですが、それをキャラクターに落とし込めているので「わ~~~~~い!」と思いました。宗教含めてパーソナリティなので……。そして、このような秀逸なキャラクターデザインでものすごく空しい殉死を描かれてしまって気分が落ち込みました……。感情が動かされる小説です。読書体験をさせられました……。
「私は昨日、重そうな買い物袋を抱えて途方に暮れているおばあさんをお家まで送ってあげることが出来ました」→「私もこの前、買い物帰りにつかまってしまってね。いつ荷物を盗られるかひやひやしたんだよ。それに家の前まで着いてこられて、怖いったらないよ」ここ痛恨の極みで最高です。心が痛い……。「家の前でお礼を頂いてとても暖かい気持ちになりました」とか言ってしまっているので本当に悲しい……人に親切にしようという思いが仇になるの、本当に悲しい……。
 でも徳積みレベリング中の人間ってたぶん常に人助けチャンスを嗅ぎまわっているだろうし、そりゃ浅ましいしウザがられるんですよね……。基本的に親切と余計なお世話って表裏一体なものなのですが、そこに「どんな場面でも自己より他者の利益を優先することが美徳!」とブレーキを外したうえで「もうちょっとの徳で痣が出現するかもしれない!」というブーストかけてしまうと、ちょっとしたことに首突っ込みマシーンと化してしまう……。心が痛い……自分の身を鑑みたいと思いました……。
 最後までビアンカがエドの信仰に染まれない……私はあなたを信じているけれど、あなたが信じるそれは正しいの??という虚無……良いですね……。

謎の綿棒
 冒頭の二人の仲睦まじい様子がとても微笑ましく爽やかで、きっと読んだ人は皆彼らを応援したくなるだろうなと思いました。原因のわからない事件が起こりエドは死んでしまいましたが、彼が彼女に残したものはなんだったのでしょうか。
 物語はビアンカ目線で流れるように進みますが、エド目線で起こったことや、事件の真相など、きっと語られていないことが多くあるのだろうという印象でした。読者にあえて想像をしてもらうようにしているのかな?とも思いましたが、個人的にはもっと色々知りたいなあという印象でした。それらが描かれる別の短編があればぜひ読んでみたいです!


41、魔羅ネード カテゴリー・ゴリラ/武州人也

謎のイートハーブ

 武州人也さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 もうキャッチコピーの時点で腹筋崩壊太郎でした。ディック・ステップ・ジャンプ! 面白すぎてここだけで笑ってしまい全然冷静に読めませんでしたね……最高です、信仰ゴリラ欲しいな~(チラッチラッ)して本当に良かったと心から思いました。
 奇祭の起源が絶妙に「ありそう」という詳しさであるところがまず素晴らしくて感嘆しました。妙な言い方かもしれないんですが、ブラックジョークというかコメディというか、こういった類の作品に必要なものって「全力でボケる」だと思っています。こんなもんでええやろ、みたいな姿勢は許されないと個人的に思うんですね。ところがどっこいこちらの作品はディティールも凝っている、奇祭の説明もリアリティがある、そこに燦然と輝く陰茎に救世主たる豪腕ゴリラ……すべてが絶妙な調和を果たし、最高のエンタメ信仰として昇華されています。
 そしてこの最高の舞台装置に据えられている主人公二人組、そう美少年。素晴らしいですね……甘酸っぱさのある思春期到来の少年たちが陰茎に襲われる様は圧巻です。男根のパワーを感じ取りました、これでは少年たちも一突きでイってしまうだろう、このまま弾丸ペニスに貫かれ二人の絆も絶たれてしまうのか……!?私の心配をよそに機転をきかせ、チン器に立ち向かう様子はアクション映画さながらの臨場感です。
 そして現れるゴリラ!!待ってましたゴリラさん!!!このゴリラが本当にかっこよく、窮地に立たされた弓弦を颯爽と救う様が本当に素晴らしいです!!!まさに英雄……そう魔羅ネードはエンタメ信仰であり美少年BLであり、英雄譚でもあるのです!!!勃ち上がって拍手してしまいました、エクセレント……!!!
 講評を書き終えることすら寂しいです。私はずっと魔羅ネードの話をしながら屹立していたい……魔羅ネードの撃退方法もしっかりと練られており、最高でした。クレバーな筆致とも相俟って一層の高揚を胸に、応援上映のようにイけーーーー!!!と声に出しておりました。
 いやーもう本当に面白かったです、ありがとうございます。少年たちも上手くいき、ゴリラは英雄として黄金陰茎を抱える像を作られ、博物館の修復も完了している……大団円です。素晴らしい。心に深く刻み込まれた名作でした、面白かったです!!!

謎のショートカット
 おもしろかったです! タイトルからして最高でしたね。単品でも手を叩いて爆笑できるような装置がどんどん出てきて合体、舞台がどんどん整っていきます。良い意味でバカの集大成みたいな舞台になっているのに、めちゃくちゃ綺麗な名前の二人・綺麗な人物設定を出されてメチャクチャおもしろかったです。センスあるなあ……すごいなあ……。
 二人の少年の掛け合い、良かったですね……。非常事態、近づく距離……。自分の生まれ育った町を守る!という動機も良かった。そしてポニテ男子という一般的な理解を得にくいニッチなキャラクターに、こういうのを待ってたんだよ!と思いました。
 舞台に出てくるゴリラ……男根……竜巻……! そして男根と竜巻が合体して魔羅ネードになった……次はゴリラが合体してカテゴリー・ゴリラか……!?と予想しながら読んでいたら、まさかのゴリラが味方。ドラミングの際に手をグーではなくパーにしている、満点だ……ゴリラ警察も文句言えないなコレは……。事件後、神社にいるゴリラめちゃめちゃ楽しそうで良かったです。
 かんまら祭、かなまら祭だと思って読んでいたらメチャクチャ渋くてガッチリした由緒が出てきてアレッ!? と思いました。神話じゃなくて史実だ……『実在の人物・団体・施設には関係ありません』だったんですね。よく見たら地名も違う……。つまり、この成り立ちの設定はオリジナルなんですか!? 祭の起源が本当に良くできてて、すごい!と思いました。
 神社の成り立ちだけでなく、少年の思春期描写とか、部活で博物館に下見に行くとか、そういう細やかなレリーフが小説を飾っているから、魔羅ネードとゴリラという出落ちになりかねないトンデモ舞台装置が輝くんだろうなと思いました。

謎の綿棒
 概要をふと見るとゴリラとか魔羅とか書いてあり、もうその時点で私の中の秘めたる小学生男子マインドが大いに刺激されました。チンコVSゴリラで笑わない小学生男子はいません……。
 祭りの設定が詳細で本当にありそうなのでつい実在の神奈川市の祭りなのか気になってしまいました。淡々とした文体で綴られる魔羅竜巻騒動に始終笑わせていただきました。どちらかというとしっとりした作風や張り詰めた雰囲気の多い今回の参加作品の中に、燦然と輝く魔羅ゴリラの存在感、大好きです。
「目の前で自分を助けてくれたのは、一頭の立派なゴリラであったのだ。」がやたらとツボに入りました。物語の展開がどこか特撮のとある1話のようにも感じられて大いにニヤリとしました。そしてとにかく、ゴリラが最強にかっこよかったです。


42、導きの日/不可逆性FIG

謎のイートハーブ
 FIGさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 とあるユートピアで起こる男女の恋愛や世界のきまりごとについてのお話です。けっこう解釈に悩んでしまい、キャプションを読んだところ思い切り誤読だったと判明して突っ伏したのですが、せっかくなので誤読のまま講評を進めます。
 まず私は一話目と二話目のノドスが同一人物だと読みました。そうでなければエリンの綴りに関する伏線と伏線回収を盛り込む意味がないかなと思ったためです。これはいわば現世で同時に行われた前世と来世の話ととりまして、前世である二話目の幕切れ後に二人は天上に導かれたと読み、そこでなんらかの改変が行われて、構成要素は同じだけれど別人格として生まれなおした、という解釈を致しました。「獣」というのが下界のディストピア的世界における人間を指していると読んだため、このようになりました。
 大きな世界観の中で個人間の話を書くという手法は私も最近触れて感銘を受けていたこともあり楽しく読ませていただきました。恋愛の機微、とりわけ青春の甘酸っぱさの描写に光るものを感じます。世界の設定が面白く、運命の相手が決められており恋愛などはほぼ機能しない、という管理された世界観は何度読んでも楽しいです。余談ですが管理社会だとすばらしい新世界とおおきな鳥にさらわれないようが私は好きです。
 一話目と二話目がA面とB面のような扱いになっており、二話目を読んでから一話目を読むと深みが増す構成もお上手です。拡大解釈をしようとすれば無限に出てきます。一話のエリンは二話のノドスではないか?という説も考えるには考えたりしました、是非作品解説を読ませていただきたいです。
 信仰要素なのですが、男女間でのやりとりや神様とされている存在に向けた無条件の信頼などにそれを感じ取りました。天上にいって二人は再会し結ばれた、ととっていたため、偶然にせよ神様の采配によりハッピーエンドとなったように思いました。「信じるものは救われる」という普遍的な信仰を感じました。

謎のショートカット
 冒頭から出てくる、ゆかり法(※恋と嘘という漫画です)みたいな戒律がおもしろいです!! 設定がおもしろい小説でした。SFでは設定を読むのが何より好きなのでこちらの小説も大好物です。
 1章は空の世界のお話、もう1章は大地の世界のお話です。もともと大地の世界にいたノドスが、空の世界に来た時に大地での記憶を失ったのかな……?と思いましたが、作品説明を読むと空ノドスと大地ノドスは別人なんですかね? とりあえず1回目に読んだ結果の感想を喋ります。
 まず、おもしろかったですね。20歳が子どもの世界観うらやましいな……。空ノドスの朴念仁なキャラクターがナイスです。かわいい。エリンもかわいい。ツンデレともまた違う素直なツンツン……かわいい……。
 大地の世界から空の世界に来たノドスが、アモンを忘れてしまってエリンと結婚する話?なのかな?と初見では思いました。それともアモンはエリンと同一人物? アモンは妹、しかもノドスより後に上に行くことになっているのでエリンは同い年なら違うかな? 大地ノドスと空ノドスが他人だとしたら……?などなど、さまざまな想像を巡らせることができます。
 ノドスとエリンも良いんですけど、ノドスとアモンも良いですね……! 兄妹の禁じられた恋、引き裂かれる2人。愛し合った証を身体に残す……いいですね……。

謎の綿棒
 説明文に「主人公ノドスは、同姓同名ということで一応別人です」とありますが、これは「あくまで別の人生を送っている人格」、という意味で理解してよかったでしょうか。空と大地に住むそれぞれの人の存在が絶妙にオーバーラップしているエモさのようなものがこの作品の旨味だと思ったのですが、この説明文があるために少し気になって別の含みがあるのかな?と深読みしてしまいました……!
 AIとはっきり明記されている存在が民間人から"神様"と呼ばれるほどになる世界、というのはきっと我々の生きる時代よりも相当時が経っているのだなあと思いました。またこの神様の管轄下の世界がうまく機能しているというのも、それ自体がどこか現実離れしていて、SFとして面白い舞台設定でした。一般的にこういう世界観はディストピア的に描かれることが多い気がするので、斬新な印象でした。
 これは好みかもしれませんが、せっかく表裏一体の存在感の二つの世界を描くのであれば、更にわかりやすく明確な違いを作り、情景描写にもそれぞれのイメージカラーを用いるなど、視覚的にもわかるくらい鮮やかなコントラストにしてもスッキリと読めていいかもしれないと思いました。(例えば片や完成されものすごく恵まれている世界でイメージカラーは白、片や荒れ果てている無秩序な世界でイメージカラーは赤、など)
 空と地上のそれぞれで不思議にオーバーラップした存在の2人が生きている姿は、世界観と相まって短編でも奥行きを感じるものになっていて、よかったです。



43、百物語 -サークル合宿最終日の夜にて-/@yuichi_takano

謎のイートハーブ
 yuichi_takanoさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 いきなり34話から始まるという仕様がまず凄く目を引きます。1でも99でも100でもなく……? と興味をそそられました。特に意味はないのかもしれませんが、早すぎず佳境すぎず、絶妙な数字に思います。
 ほとんどが一人称口語の台詞ですが、お上手でするすると読み進みます。語り手の口調がかなり私の好みでその点でも楽しく読めました。誰かに朗読して欲しい軽妙さ……いいですね、すごく好きです。
 内容もかなり好きでして、まずこっくりさんという説明するまでもなくみんな知っている占いを軸に置いたのがすばらしいと思います。そのこっくりさんを崇拝するやばめの同級生、いやこれ絶対ろくでもないことになるのでは……と予想できて面白いです。
 この占いというのがまた絶妙ですね。個人としては信仰の類だと思うんですよ。占い結果を導き出すのは運というか、星のめぐりというか、超常現象的ななにかしらで、信じる信じないはさておき繰り返せば確立は収束するため、一定の効果があるように見える気がします。そこにのめり込む男子学生は、五感では感じ取れないなにかを信仰しているように思えます。本当に上手いですね……主題のチョイスにかなり唸りました。
 オチもさくっと重大発言をしていて面白く、その場で聞いていた人間はぞくっとしただろうなー! と想像できました。もしかしたら故意なのでは……? と考えれば考えるほど……。いい百物語34話目でした。
 信仰要素はやはり「狂信」ととらせていただこうかと思います。傾倒しすぎるのもいけませんね……とっても楽しく読めました、面白かったです!

謎のショートカット
 百物語のうち一つって設定いいな~~~~~~と思いました。いちばん怖いのは幽霊なんかじゃなく人間だね、を2段構えでブチこんでくる……。しれっとした小説のふりをして、とんでもないパワーを感じました。
 怖い人間の話をしている本人も怖い、というのを小説として表現できるのはすごいことですよ……。怪談における「まあ実はそのAさんというのは俺なんだけどね」系のオチは、ともすればベタで興ざめになりかねないのに、これは背筋がゾワー―――ッとしました! 良いホラーでした……。

謎の綿棒
 百物語にコックリさん……!個人的にぬ〜べ〜世代なのでたまりませんでした。物語の語り口が聞き(読み)やすく、ぐいぐい引き込まれました。人の向ける念の力の恐ろしさを身近な体験として聞かせてくれる怪談話には、独特の恐怖がありいいですね。最後に、狐の像にボールをぶつけた張本人こそが語り部だとわかった瞬間の、目の前にこの恐ろしい出来事と実際に関わった人がいる!というヒヤリとした感じ、またそれが本当のことかはわからないのも、百物語の醍醐味のように思いました。とても好きです。


44、須王美琴は美しい/2121

謎のイートハーブ
 2121さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら女神と評される女生徒を信仰する話です。シンプルでわかりやすい流れになっており、非常に読みやすく好感を持ちました。主人公のデストルドーの推移が面白く、帰結までの流れがスムーズです。
 信仰の話なのですが、信仰とははやり神聖ななにかを絶対視してうまれるものです。そのためこちらで信仰対象となっている須王美琴の徹底的な人外ぶりが目を引きました。
 一見聖母であり非常に慈悲深く、暴挙に出る主人公を深い慈愛で許す場面などが特に顕著です。当然ですがこのような人間ほぼほぼいません。それゆえに、みんながみんな美琴を崇拝し信仰する教徒となっている様子に納得感があります。
 主人公も許されて信仰心を増し、教典のひとつのような一幕が終わります。
 ひとつだけ言っていいのなら、これは私のヘキの問題なのですが、聖母女神な美琴が主人公にあれこれ暴力でも陵辱でもなにかしらされている描写がもっと欲しかったです……絶対興奮できました……いやしかし私の趣味の問題なので聞き流してくださいすみません。
 主人公の語り口がいい意味で気持ち悪くて非常に良いですね。厨二をこじらせている人間特有とでも言えばいいでしょうか。この思わず背中がかゆくなってしまう感じ……良い造詣です。結局は愛情の裏返しであった、というところも美琴の絶対性を増幅させるいいスパイスとなっています。
 こちらで感じた信仰要素は「絶対的なもの」です。ストレートにひとりの神的存在を観測できたいい掌編でした。

謎のショートカット
 須王美琴の超人描写がいいですね!! 絶対に外的要因では折れず、内的要因でも曲がらない超人の須王美琴をどうにかして汚そうとしたけど……という話。
 須王美琴、優しそうに笑って賢そうに喋って悲しそうにこちらを憐れんでくれているのに、まったく人間という感じがしない。おまえの血は何色だと言いたくなります。何をされても怒らないから許すも何もない、ただ受け入れるのみって人間じゃなくてサンドバックでしょ……こわい……感情がまるでない……救済のための装置が……人間の形をしやがって……俺はおまえが……好きだ……!
 ひどいことをしたはずの主人公のほうがまだ共感できる……ではないのですが感情移入できるというか、人間味を感じられるキャラクターであるぶん、須王美琴の人外っぷりがすごいです。
 そして、二次元の女だから私も須王美琴のことをこわいこわいと怯えていますが、実際に三次元、クラスメイトに須王美琴がいたら、それはもう女神様だと信仰するしかないのだろうなと思いました。

謎の綿棒
 輝かしい人の特別な存在になりたいけれどなることができず、愚かでありふれた行動に出た主人公と、その本音をも見透かした女神のお話でした。
 この主人公のように気になる人にちょっかいを出す人は、現実にもしばしばいるよなあ!という気持ちで拝読しました。本作の主人公は最終的には素直に彼女にひれ伏し、また彼女への信心?を深くするという結末で何となく安心しました。思い通りにいかないことに逆上するパターンではなくて良かったです。
 女神はカリスマ性がすごいとはいえ、あくまで年相応の女の子なのだと考えると、またこの主人公が今後身勝手な理由で彼女に失望して攻撃的になるようなことがないといいなあ……と思いました。心配です。


45、超絶破壊力アイドル、そして新宿終末戦争/綾繁

謎のイートハーブ
 綾繁さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら、神的存在アイドルを信仰する人々の話です。タイトルのインパクトが本当に秀逸ですね、そして大体の内容を教えてくれているという優しさ……。内容も非常に好みでした。
 アイドル兄妹の造詣の描写が本当にいいです。溢れ出る語彙力で兄妹双方の描写を細かく書き分けており、鮮明にイメージすることができる点が素晴らしいです。神々しさが文章だけで充分に感じ取れて、す、凄い……と思わず唸りました。ガラス玉を転がしたような透き通った声という描写が特にお気に入りです。実際にいたら推してしまいかねない神々しさ……。
 小気味の良いくすりと出来る文章を入れて息抜きさせるのがお上手です。「私の太腿は跡形もなくなっている可能性が生まれてきた。」が非常に頭に残りました、好きですこういうふっと肩の力が抜ける描写、やろうと思ってもわりに難しいんですよね……いい技術です本当に。
 兄妹にふっとさす残酷さがまた美しく、一話目で主人公が語る自身の性質がどんどん生きてくる点も素晴らしいです。半分ってそういう……唯一の中立という立場だからこそ視点も担ってインタビューも担う主人公、君じゃなきゃこの話を描写できなかったと強く思えるいい設定に思います。
 観客席に下界とふってあるのが面白くて笑ってしまいました! すみません……。ラストに差し掛かり、タイトルの通りに新宿終末戦争と化す様もあまりの阿鼻叫喚にも笑ってしまいました……いやーめっちゃ好きですこの作品! 最初から最後まで飽きることなく面白く読めました。「統率する人間の存在しない暴力はやがてそれ自体が目的となっていく。」この文章が狂おしいほど好きでして……好きな文賞を勝手に差し上げたいと思います。
 そして信仰要素なのですが、信仰で勃発する争いはいつでも悲しいな……という気分にもなり、けして否定的な意味ではなく悪い例の信仰を出していただけたなと思います。この兄妹邪神だ……と私は震え上がりました。
 この作品の持つ信仰とは残酷な神々の遊びなのでしょうか。「盲信狂信」によっての暴徒化、どうしようもない混乱の最中での幕切れ、私はかなり好きでした。面白かったです! 頑張れ主人公……!

謎のショートカット
 このお話ハチャメチャにおもしろいです!!!!
 ストーリーとしては世界を混乱させたところでエンドで主人公は何も選べずにおしまいなんですけど、完成度の高い時の世にも奇妙な物語みたいなまとまりがあります。読み終わったら脳内に世にも奇妙な物語の曲が流れました。神ノ兄妹が橋本環奈ちゃん・吉沢亮くんで、女子アナはマジの女子アナで世にも奇妙な物語にしてほしい……絶対に神回……超おもしろいから……。
 構成も良いですね。はんぶんこの話から双子アイドルの話になるの、うまいなあと思いながら読んでいました。
 双子が喧嘩し始めるところ、マジでおもしろい……! このシーン、やっぱりこの小説は……おもしろいぞ!!!!!と確信できる良いシーンです。
 言ってしまえば、一般的な大人なら(そうでなくても高校生にもなれば)アレくらいの質問なら適当に返してお茶をにごせるものなのに、双子はできなかった。おそらく「お二人がそれぞれ、相手について自分とは違うなと思うところは——ありますか?」というのが本当の本当に初めてされるタイプの質問だったのでしょう。ちょっと困らせちゃうかもしれないなあ……という質問をインタビュアー全員が避けてきた結果なのでしょうか……。それ自体にジョーとアイの神性がうかがえますね。普通の双子とか似たもの兄妹ならよく聞かれそうな質問ですし……。
 そして、これまで双子に「違うところ」を訊ねてくれる人がいなかったこと自体が、双子の水面下の不和の理由なのではないかと思いました。互いに、「俺(私)のほうが強いのに双子ってだけで同列に扱われて不愉快」とか思ってたのではないでしょうか。
 そして、主人公に「どちら派にもなれない人間」を置くセンス。もう、この小説を読んでしまったあとでは「双子のアイドル、人気投票はどっちが勝つ? 暴動・戦争・ヴァルハラ開戦」というシチュエーションで主人公に「選べない!」と言わせる以外の選択肢がなくなるのですが、私みたいな素人だと主人公をどちらか片方推しに置いてしまうだろうなと思ったので……すごいなと思いました。

謎の綿棒
 ライトノベルのような作風でサクサクと読み進めることができました。インタビュアーの主人公の生放送での質問がきっかけになり、性格や音楽性の不一致の暴露、ユニット解散へと転がり込んでいきましたが、そのような不一致が以前からあったのであれば、二人はどこまでが計算の内でこの流れに持ちこんで行ったのかな? とつい想像してしまいました。
 両者それぞれにファンがいることは当然わかっている上での、「活動を続けられるのはどちらかのみ」という極端な発信は当然ファンを混乱させましたが、この双子はなんらかの理由でそのようにファンを混乱させることがしたかったのかもなあという印象を受けました。
 似た二つのものに偏りを作ることを嫌う少し変わった感性の持ち主がこの物語の主観主人公なのが面白かったです。


46、ガン・オン・グレイス/藤原埼玉

謎のイートハーブ
 藤原埼玉さんこんにちはご参加ありがとうございます!
 こちら、主催の概念と作者の概念で行われたなんらかの身内作品です。草……藤……? この時点で何の関係もないあと二人の評議員がなんて講評するのか楽しみすぎて笑いました。
 ちょっとハーブ神父がかっこよくて意味がわからないですね……開幕から木庭の小高いところに陣取って酒を瓶のまま直でいく神父一体なんなんですか? 読んでいる間ずっと笑ってしまって正常な思考ができませんでした、主催特攻の精度が酷いですねこれは……自分草良いですか?
 まともな講評なのですが、シンプルに構成が上手いです。藤原さんの作品はキャラ立ちが素晴らしく、ゆえにキャラの強烈さによるごり押しにも見えがちかと思うのですが、土台の構成が固まっているため破綻しません。今回もそれが遺憾なく発揮されていました、良い手腕です。
 こういった主軸が二人の作品に宛がう第三者、悩みどころかと思います。しかしこちらのサニーフィールド神父……なんらかのなんらかですが……この神父の食えなさが非常に生きており、最も有効な場面で真価を発揮してくれます。前半こそ破壊僧ハーブと巻き込まれ主人公ウィステリアのぶっ飛んだやり取りに笑わせられるのですが、後半の展開は各キャラの印象もひっくり返され、いつの間にか引き込まれています。
 それでいて信仰要素がこれは非常に面白いですね! 私自身、ツイッターのヘッダーをパワーはすべてを解決するという字幕にしてあるのですが、ハーブ神父もまさにそうで……これは……そういうことなのか……? どちらにせよ、ここまでの参加作で初めて受けた信仰だったように思います。敢て言うのなら、負を正へと転換している信仰、でしょうか。
 そう力こそパワー。この作品の信仰は「力」ととりました。シンプルでわかりやすく穴を穿てる弾丸こそが神父達の信仰であり、守るもののために引くトリガーは祈りのようなものなのでしょう。いいエンタメ作品でした、面白かったです。ちょっと続きが読んでみたいですね……。

謎のショートカット
 ハーブ神父のキャラクター がいいですね!! 魅力にあふれすぎています。
「どんな苦難があっても決してあきらめてはいけません…どんなドがつくほどの外道であっても神の愛と救いは分け隔てなく…そう、それこそ春の嵐の如く私達信徒の上に降り注ぐのです…そう、たとえどんな人間であっても…痛ましいほど…平等に…」このセリフ大好きです。
 銃火器をドバドバ持ち出す聖職者は良いものですね。今は効かなくてもそのうち癌にも効くようになるでしょう。
 ハーブ神父の台詞、全部おもしろい……ピカピカでした。二次元における生臭坊主の魅力、ハーブ神父だけでほぼ履修できるのでは?
 そして、はちゃめちゃ面白カッコいいハーブ神父と、苦労人で巻き込まれ方の見習い神父ウィステリアの物語なんですけど、ボーイズラブな描写を抜くと少年漫画っぽくも見える。いっつもふざけている師匠と常識的な主人公という形はものすごく少年漫画の王道ですし、キャラクターが立ちすぎてて一見するとわかりませんが、ストーリー構成も実はかなり王道です。つまり、少年漫画に出てくる男同士をくっつけて遊んでいる私のような人間にとって最高の小説ということです。星三つでした。
 そして、こちらの小説はおそらく主催である草さんの小説、『藤原埼玉の初恋〜ゴリラを添えて〜』のアンサーだと思うので、外野の私はあんまりどうこう言えませんが、お話がおもしろかったです!
 キャラクターがみんな魅力的なので、続きが読みたくなる感じでした。

謎の綿棒
 小気味のいいテンポで進む楽しいコメディ作品でした。(各登場人物デザインもモデルがいるとのこと少し伺ったので、また楽しく読ませていただきました!)ハチャメチャなハーブ神父が実はいいやつ(?)で読者は愛さずにはいられないキャラだなとニヤリしました。途中で突然キッスしたシーンは爆笑してしまいましたが……。
 ハーブ神父の調子に飲まれると忘れてしまいますが、これは立派に告発案件なので、そういう不穏な展開になるのか?と一瞬ヒヤッとしましたが杞憂で良かったです。こんな神父が野放しでいられるこのコミュニティはいい意味でのびのびと開放的な雰囲気なんだろうなと妙なところに安心感がありました。
 挙げるときりが有りませんが、BL的な意味でお約束だったり笑いのツボに入ったりする箇所がいくつもあってとても楽しく読ませていただきました。

47、地上に楽園はなくても/Veilchen(悠井すみれ)

謎のイートハーブ
 悠井さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 以前こむら川に投稿されていた彼女は踊ったが好きな方には合うと思うと言ってらっしゃって、彼女は踊った凄く好きなので喜んで読ませていただきました。感情失礼します、滅茶苦茶好きな話でごろごろ転がりながら読みました……文字数がぐっと詰まっていて内容もぐっと詰まっている話、大好きです。
 内容は子供時代にとあるカルト宗教(とあえて表記しておきます)に属していた女性の現在の話です。既にある程度お年を召されており、件のカルトによってろくに埋葬されなかった方々の遺骨を掘り起こすボランティアを続けています。
 この視点人物である女性の感情の変化、過去から現在にかけての周囲の変化がとりわけ強く描写されており、彼女のインタビューや地の文という心の声を直接聞いている心地になります。わかっているのですが筆力が抜群に高くて、物語にするっと入り込めてしまう筆力お見事です。
 どこか虚無的に、周りが求めているであろう理想像に沿って振舞う主人公。この空虚さは大なり小なり誰もが持つかと思います。求められているようにインタビューの受け答えをする場面、胸に来ました。
 しかし流石というべきか、この話は信仰を軸にこの空虚がふっと開いて周りの景色を取り込み始めるのが素晴らしいんですよ。いや本当に上手いんですよね……怖いな……彼女がとある遺体を掘り起こし、とある遺品を見つけた地点での視界の広がり方が素晴らしいと通り越して恐ろしいです。
 空虚だった彼女にも信じていても良かったもの、これからも信じていけるものがある。話や文章の上手さもさることながら、信仰要素も素晴らしいです。
 信仰とは「道しるべ」ととりました。この段になりましたが、話に出てくるカルト宗教の造詣がじわじわ這い寄ってくるようなおぞましさで面白かったです。面白いは語弊があるかな……こういう、綺麗な側面を巧みに見せながら、裏側では非人道的な行いをしている、というやばいカルトの解像度がとても高かったです。面白かったなー! 胸に残る読後感です。

謎のショートカット
 おもしろすぎる!! 世界の設定ハチャメチャにおもしろすぎました。
『楽園とは人が自らの手でこの地上に造り上げるもの』という思想の独裁者が現れて……という……ぜひ本編を確認してもらいたいです。読んでほしい! おもしろいです!
 主人公は、モデルタウンのモデルを本気でやらされていた子どもだった人です。設定がはちゃめちゃにおもしろい……。話がメチャメチャ良くできてる……おもしろいです……。
 自分の信じていた世界が偽物だとわかったあとも、まだ信じている。信仰とは根深いものですね……。
 主人公のクレバーさと言うか冷たさというかクールさというか、自己保身のために思ってもいないことを喋るところの描写が好きです。良すぎる。ここまで舞台を整えたうえに、さらにキャラクターまで立ててくれてる……すごい……。主人公に『心底の贖罪の意思からボランティア活動をしている』キャラクターデザインを持ってこないの、センスだなあと思いました。
 楽園の記憶、すべてが美しかったです。楽園の回想以外はほとんど泥に塗れて死体掘りをしているので、相対的に楽園の記憶は綺麗に見えるのでしょうが、「彼」と別れるシーンがいちばん美しかったと私は思いました。

謎の綿棒
 何も信じていないようなことを思いながらも切実に何かを求めているような、複雑な心が繊細に描写されていると思いました。主人公は使命感や正義感に燃えるような性格ではなく、至極リアルに、生きて身を守るために人生を通して精神性の選択すらしてきたような印象でキャラクター造形の深みを感じました。己が世間や社会にどうあることが望まれているのか、それを知った上でどうすれば真の意味で楽に安らかに生きることができるのか……。
「父」が与えてくれた世界は仮初のようなものではありましたが多感な頃の主人公にはたしかに安寧を与えたことでしょう。
 その世界を壊してしまうかもしれない挙動を見せた「彼」に主人公が反対してしまった気持ちにはすんなりと共感することができました。


48、時に祈る/五三六P・二四三・渡

謎のイートハーブ
 五三六Pさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 キャプションだけで「あっ絶対読みたい!」となりました。五三六Pさんが書かれる小説、いつもどうすればこんな設定が思い付くのか……? となるのですが今回もそうでした。発想力が凄いですね……凄いです。
 タイムトラベラーになりたい少年と、少年の通う学校の先生を軸に据えたSF信仰物語です。信仰によりタイムトラベルのルールが変わるとは一体どういうことか…?と一気に興味をそそられます。ちょっと調べてみたのですが、トラルファマ教はスローターハウス5という映画のトラルファマドール星人から来ているのでしょうか?未視聴なのですが、時に祈るを読ませて頂いて興味が出ました。
 このトラルファマ教を信仰していると運命は変わらないと先生は言います。未来からやってきたタイムトラベラーが、実際に起こる出来事、すなわち運命を信徒に授ける宗教形態であるためです。SF慣れをしていないと一気に脳が混乱しそうなのですが(実際にしましたすみません…)トラルファマ教においては平行世界などは存在せず、数多の演算の果てに決定された未来が運命として鎮座しているために、未来を変えるまたは今更未来を覗くというタイムトラベラーにはなれない、ととらせて頂きました。合ってるかな……。
 先生と少年のやりとりが非常に好ましいです。特に成長した「僕」が先生のアパートを訪れて、急に抱き締めてくるところがとっても可愛くて、先生が大きな存在であるとよくわかるいい場面でした。主人公、本当に素直でいい意味で愚直な雰囲気があり、かなり好感が持てます。不屈の男好きなんですよね……主人公と先生のいたちごっこ、永久に眺めていたいです。
「君の訪問はある種の墓参りに似ている」この一文が読後も強く印象として残りました。墓参りって自己満足の域を出ない祈りにも思うのですが、同時に生きていく人間には必要な祈りだと私は思っております。この一文を握りつぶす主人公の段も含めて、二人の信仰が矛盾しつつも噛み合う瞬間を想像し、余韻を残す良い幕切れに思います。
 信仰要素として、先生は英雄の糧になれたことを誇りに思い、その誇りが信仰を象って作用し満足のいく人生を全うしたととりました。ある種の殉教に見えたことも含めて、「命を全うするためのもの」と読みました。面白かったです!

謎のショートカット
 第一章の「私」の、自意識のめばえと成績の堕落の描写おもしろいですね〜〜! 子どもが堕落するに至るプロセスにリアリティがある。こういうところにリアルさがないと、タイムトラベルという未来技術にもリアリティが出ないのかなあと思いました。
 タイムトラベラーが職業としてある世界おもしろいな……タイムトラベルをして何をするのか一般的に知られてないのもおもしろいな……『事務って結局どういう仕事をしているの?』みたいな感じですよね、おそらく。
 そして、タイムトラベルと宗教が密接なのがおもしろい。科学が発達しきってタイムトラベルができる時代にガッツリ宗教があることを示す、超おもしろい!!!
 思ってみれば『過去を変える・未来を変えることの是非』ってメチャメチャに宗教観出ますよね……すごい視点だ……。
 「僕」の話を客観的に聞いてくれていた先生が実は運命を変えない教だったの、膝を打ちました。そう来るか……そう来るか……運命を変えないという思想が……こう来るのか……。
 師弟は良いですね……。過去を変えることを決意するの、ものすごく主人公って感じで、燃えさかりました。

謎の綿棒
 普段あまりSF作品を読み慣れていないなりに、SF映画の金字塔『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は大好きなのですが、やはりタイムトラベルものは無条件でワクワクしますね!本作はそれに加えて(架空の)特定の信仰、また教師と教え子の絆と、要素がふんだんに盛り込まれていてとても読み応えがありました。
 企画レギュレーションに合わせて1万字という制限の中で収められているのが少し惜しいと感じるような、これを丁寧に引き伸ばして文庫1、2冊程度の長編にしたものを是非読んでみたいような、いい意味でそんな「もっと読みたい」という気持ちになりました。それゆえに全体としては少し説明パートの割合が多いような、また短編としては多少複雑で難解な第一印象ではあったのですが、最終的な物語の落とし所(物語の軸)としては登場人物二人の絆に焦点が当たっているため一旦はさらりと読み進めても満足感が得られ、その上で何度か読み返すと色々と深掘りして考えながら楽しめる、そんな懐の広い楽しみ方の幅がある作品に感じられました。


49、能動的スケープゴートの計画/古川 奏

謎のイートハーブ
 古川さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こーーーれはいいですね、めちゃくちゃ好みでした。話としてはシンプルで、奇妙な頭痛に悩まされる人々を治療する医者の話、で説明がつきます。
 ただし一介の医者ではなく、彼ないし彼女の抱える命題が太い軸となり作品を分厚くしています。まず設定が面白い、三千文字台であることにも驚きつつ、設定の開示タイミングも絶妙で飽きるところがありません。五千文字以内でぐっと詰まっている作品、私の好みとして百点満点ですね……何食ったら思い付く設定なんでしょう?ドリアンソーダですか?
 神が人を創ったのではなく人が神を作るのではないかという、主軸である命題がとてもいいです。これはある意味ではその通りである、と主催は考えています。そのため信仰対象に制限を設けておりません、そこを上手く掴んでこられたなという印象です。神仏は信仰してくる相手がいなければ成り立たない、つまり無に等しい。ここですね。
 信仰の二文字に対して非常にシンプルな回答をいただけたなと感じます。神に挑戦する人間は、いずれ宿願を果たすにせよ、志半ばで折れるにせよ、過程上において神を信じているに等しいわけです。この作品はそれを綺麗に明示してくれます。神になろうとする人間視点、という部分についてかなり面白く読みました。
 細かいディティールの話をすると、ヘッドホンを装着している理由についての伏線回収が非常に良かったです。聴いている二曲は二極と言っても良さそうなほど違うベクトルの音楽で、ここにスケープゴートたちへの一抹の罪悪感に対する赦しを見出すことにより、またひとつ信仰というものを提示してきます。それでいて「能動的スケープゴート」は主人公自身にもかかっているタイトルに見えました。
 最後の一文があまりにも好きです、好きなだけではなく巧みです。作品から信仰を感じ取るというよりは「作品そのものが信仰の只中にある」と、作中の文章を引用させていただきます。読む人間により、いい意味で解釈に幅が出る作品だと思います。めちゃくちゃ面白かったです。

謎のショートカット
 医療は神の領域に足を踏み入れてる、という切り口は信仰森においては初だったので「おっ!」と思いました。そしておもしろかった! オチが秀逸です。
『おそらく信仰とは、思想よりむしろ、行為の側により強く発生するものなのだ』ここ良いですね……。この医者パンチライン何度も決めまくってんな……となりました!
 と思ったらマッチポンプじゃないですか!! マッチポンプマッドサイエンティスト。医者のきちがいほど怖いものはない。騙しやがったなーーー!!って気持ちよく騙されちまいました、小説としておもしろすぎる……。予想していなかったオチだったので「おおおおおおおおあああ〜〜〜〜!!」と思いました。
 よくできてます……悔しい……騙されました……。

謎の綿棒
 自らについて神のようなことをしていると豪語しながら、一方同時に”神”を試すような気持ちでもいる主人公は、自分の思う”神”に対してちょっと構ってちゃんのような気持ちがあるのかなという印象を受けました。
 信仰を扱った物語にはしばしば”神”を試す人物が出現しますが、彼らは無責任に他人を巻き込んで迷惑をかける場合も多いように思います。本作の主人公も例に漏れずのようですが、彼はこのまま特に”神”からの返答が感じられなかった場合、その後どのような行動を取っていくのでしょう。己の想定した”神”の不在に失望したり、自分が与えた影響に目を向けたり後悔することもあるのでしょうか。純粋に、とても興味深く思いました。
 是非、人間の愚かさと独善のようなものを深掘りし、そこに焦点を当てた後日談パートを読んでみたいと思いました。


50、アルミアの巨像/マイルドな味わい

謎のイートハーブ
 マイルドな味わいさんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 物言わぬ巨像に話しかける聖職者の女性と属する集落が滅ぶ話です。
 作風がとても私の好みです。淡々と進む物語は読み手の介在を許さない雰囲気すらあるのですが、主人公である女性はずっと喋り続けます。この語りかける相手が集落の信仰対象である巨像で、賛否ありそうというか、たとえばエンタメ小説方向に振るのであれば巨像は動くべきだった、なんらかのアクションを起こすべきだったと思うのですが、この話の私が一番高評価したい部分は「巨像だけは最初から最後まで不変である」という部分です。
 女性は巨像とコミュニケーションをとっている、一方的に話し掛けるという行為を常日頃行っており、最終的に巨像の前で殺されてしまいます。逃げも隠れもせずに信仰対象である巨像の前に居続ける、殉教のひとつととりました。しかしこの従順な態度は一切実らないわけです。なにせ巨像は女性を助けることはなく最初から最後まで動きません。
 それが非常に良かった……。何故かと言えば、何もなくなるからです。ちょっとおかしな言い方ですが、この作品を読み終わって抱くものって多分大多数が虚無だと思うんですよ。でも無味無臭ではなく、巨像に対する聖職者の一方的な会話があり、巨像を捨てずに敵を迎え撃った集落の信仰があり、集落は滅んでしまったという結果があるんだけれど、崇められていた巨像が特になにかを起こすわけではないんですね。何も起こさず何も残らないからこそ、読み手の胸には空しさが去来する。
 一貫して「巨像は応えない」。それでも巨像のために行動を起こした人々は巨像を恨むことはないでしょう。
 それこそが信仰だととりました。信仰とは「虚像」、誤字ではないです。応えないものをそれでも信じた上での殉教、幕切れのあとに訪れる虚無、いいですね本当に好みの雰囲気でした。他の作品も是非読んでみたいです。
 全然関係ないんですがお名前がマイルドな味わいでいらっしゃるのに読み味が全然マイルドじゃないことはちょっと笑ってしまいました、いいお名前です。

謎のショートカット
 エイラのキャラクターが良いですね! 応援したくなる感じ、からかいたくなる感じ、ものすごく良いです。好きなタイプの女の子だ〜!
 巨象の前で食べ物が消えると聞いておおっ!と思いました。ただのデカブツじゃない、何かあるぞ。ワクワクしました。めちゃくちゃおもしろい……。
 エイラの話で連合国の圧が近づいてくることが肌でわかり、言いかたは悪いのですがワクワクしました。何か起こるぞ……これから何か起こるぞ……と……。
 聞こえている、聞いてくれていると信じること、ものすごく尊い信仰だなと思いました。そして殉死です。殉死の大盤振る舞い……。
『「ホントだ、気持ちわり」と顔をしかめて舌を出した。』の文章で「くっそ〜〜〜〜!」と思いました。悔しい……踏みにじられた……。
 そして、そうなって初めていつの間にかエイラを好きになっていた自分や、エイラを通して村のみんなを好きになっていた自分に気がつきました。これは巨象も同じ気持ちなのではないでしょうか??? そうでなきゃ救われないよ……。
 オチがどちらとも取れますね。もう、私はエイラの仇を討ちたくなって仕方なかったので、巨象がロストテクノロジーの破壊光線でその場の連合国の兵士達を皆殺しにしていてくれと思っちゃいました……。星5つです……。

謎の綿棒
 ただそこに在り続ける巨像と、それに働きかける人間(たち)の姿が描かれた物語でした。巨像は最後までわかりやすい答えを人間に示すわけではなく、また登場人物たちも何かわかりやすく得るものがあったとは言えないのですが、この寂寥感のある味わいが個人的にはかなり好きでした。
 ただ少しもったいない気がしてしまったのは、序盤の読者が世界観に入り込んでいくためのパートの印象が荒いというか、言葉の使われ方が説明不足だったりふんわりしていたりして世界観が掴みにくいため、例えるならしばしば小石につまずきかけながら読み進めているような感覚になってしまいました。序盤でもっとスムーズに物語に没入できると、この終盤の(この物語の旨味としての)寂しさのようなものがより味わい深く感じられるような気がします。
 巨像に一方的に語りかけある種のイマジナリーフレンドのように接している主人公など、描かれているものはとても好みだったが故にそういう細かいところが気になってしまったのかもしれません。好みの世界が描かれていて楽しませていただきました。


51、檜扇忠臣の八百万屠殺記/神崎 ひなた

謎のイートハーブ
 神崎さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こーーーれめっちゃ面白いです! 掴みがまず抜群で、檜扇忠臣の狂気じみた信念をがつんと叩き込まれます。信仰テーマにして信仰を屠ろうとするキャラがメイン、面白くないわけがないですね……。思い通りにいかないからと血の涙を流す主人公、イカれていて本当に好きです!褒めてます本当です。
 主人公檜扇忠臣はキャラ立ちも完璧であり、一気に物語に入り込めます。流石だなー! 神崎さんの小説ってキャラの印象がいつも強く残るんですよ。造詣が達者で、その土台があるからこそ内容も映えるんじゃなかなと個人的には思っております。
 一話目の重要さをわかっていらっしゃるというか、冒頭から飽きさせない展開が続きます。この、しれっと信長や家康も死んでて「えええ!?」となるようなところもいいですね、エンタメのレベルが本当に高い作品ですよこれは……。救われると巣食われるをかけているところも好きです。
 檜扇と対になるように出てくる邪のキャラクター性もかなり良く、特に誤謬嵐という名前にちょっとはしゃいでしまいました……。私西尾作品はアニメ漫画でしか摂取したことのないニワカなのですが、とある漫画のとあるキャラのオールフィクションという性能が好きで……なんというかそういう技を感じました!
 四話での切り返しも抜群に面白いです。あっそういうこと!? となる感覚大好きなのですが、それを存分に味わわせて頂けて大満足です。時代物ということもありけっこう固い文章なのに、ルビ効果もあってかなり読みやすいところも素晴らしいです。いや本当に面白い……最終日なだれ込み勢力怖いですね……?
 信仰要素も勝手に読みとらせて頂きました。そう邪の言う通りなんですよ、エウヘメリズムというか、英雄とか偉人などが死後に祀り上げられたのが神の起源という説なんですが、大衆の頂点に立つってつまりそういうことなのかなと私は思っております。檜扇はまさしく、信仰を嫌いながら信仰を求めていたんですよね……巣食われているのは自分だったという皮肉も感じ取りました。
 信仰とは「己をみつめるもの」ととりました。いや本当に面白い作品でした。信仰を憎むとき信仰に覗き込まれている、信仰を憎むことを信仰している……そんな気持ちで檜扇の最期をしんみりと見送りました。面白かったな……面白かったです。

謎のショートカット
 ふりがなマジでありがたいです!!!! 素で感謝しちゃいました。ありがとうございます。
 そして檜扇が開幕からテンションぶち上げでサイコー! 藤原竜也かよ。「弱きものは神仏のために生まれて神仏のために死ぬようなものだ!」という檜扇のセリフ。ここまでの信仰森では無かったタイプの切り口ではないでしょうか?
 そして、「斬りたいものを斬れる」とかいう超カッコイイ設定!! 西尾維新かくやの尖りっぷり……良すぎる……まさしく炎が燃え上がるように行われる寺社の焼き討ち。檜扇のやることなすことの滞りのなさに読者はもうメロメロ、ついていくのかやっとだよ……などと言いながら絶対に離れられないって感じになりました。
 個人的に、おもしろい小説とは読みながらオチと展開がどうなるのか考えを巡らせながら読んでしまうものだと思っています。そして、超おもしろい小説とは速攻で予想より遥かにメチャメチャおもしろい展開になるものなのです、たぶん。そして檜扇忠臣の八百万屠殺記に関しては一章目で既にその『予想を超える』展開がありました。宗教を無くすつもりが宗教を信じてはいけないという宗教を作ってしまって絶望する話かな?という私のつまらない予想を遥かに超える展開。
 僧侶を虐殺しておいて「仏なんか信じてるせいで!」かわいそうにと血の涙を流す檜扇、良すぎる。サイコーです。もう展開がどんどんおもしろいです……。名だたる名将軍たちを死なせたことがサラッと出てくるところは興奮しました。歴史の特異点。SF。時空のひずみ。檜扇、サイコーの男。
「自分の人生の責任を、自分だけで負うということが、どれだけ残酷か。お主のような強い奴には死んでも分からんだろう」檜扇と邪の対話がサイコーですね。二杯目読みました。『あ……檜扇と対等に話せる奴が出てきた……』ゴクリ、という感じ、雰囲気が出ていて、すごい……。
 異能力バトルか!? やったぜ と思いきやオメ〜〜!!となりました。作者に踊らされちゃった……楽しかった……という心地です。はちゃめちゃにレベルが高い小説を読ませてもらいました。檜扇、死に様までサイコーでした。
 続きが読みたいですね……。毎回メチャクチャおもしろいキャラクターが出てきて暴れまわったところを、邪が出てきて屠殺!というシリーズものになったらお金を出します。出させてください。このネタを使い捨てるのはもったいないのではないでしょうか!?!?!?!?

謎の綿棒
 作中で起こっていることはシリアスなのに独特のコメディ感のある雰囲気が不思議で面白く、楽しんで読ませていただきました。
 このコメディ感(いわゆる”シリアスな笑い”?)は何だろうと個人的に考えたのですが、斬りたいものを斬ることができるという最強感のある独善的な主人公が、無茶苦茶な理屈を振りかざしながらバサバサと無双していく疾走感でしょうか。
 うまく説明できないのですが、例えるなら、あまりに理不尽な人格のルフィ(ワンピース)が他人に対して諭し無双していくのを始終「エッ!?」とツッコミまくるビュティ(ボーボボ)になったような気持ちで読み進めました。主人公が、神仏にすがらず確固たる己を掲げよ、と序盤で言っている割には己を拝めというタイプの人間だったことや、終盤、存外素直に他人の言うことを信じて静かに生涯を閉じたところにも大いにビュティ化してツッコミつつ面白く読んでしまいました。
 さて個人的にはこのように楽しんだのですが、書かれた神崎さんは果たしてそのつもりで書かれていたのかはあまり自信がないので、もしトンチンカンなことを言っていたら大変申し訳ありません……面白かったです!


52、死後の世界診断/全方不注意

謎のイートハーブ
 全方不注意さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 死後にどの世界に行くことになるかわかるようになった未来の話です。設定が非常に興味深くて、タイトルと概要だけで死んだあと天国か地獄かどこにいくことになるんだろうなあ……と色々想像できて楽しかったです。
 こちら内容としては、設定との対比のようにある種普遍的な学生さんの、とある二人組の女子にスポットが当てられています。
 このいくらでも深堀りが出来そうな世界観の中で取り立てて秀でたところのないような、小さな世界の話を展開するという方式、最近よく読んだのですがそわそわして面白いですね。こちらの作品もそれを感じました。
 私の知らない世界観の中でも私が知っているような人々が生きているという状態が凄く興味深くて、主人公が死後の世界診断を何度も行い何度も地獄行きになるというショックが、わからないはずなのにわかるのが本当に面白かったです。
 そしてこちら百合としても読めて、青春ものとしても読めます。女の子同士の何気ないやりとりが非常にお上手で、微笑ましい気持ちで眺めちゃいました。シンプルにかわいい……。
「あやめちゃんが悪いんだからね」という台詞が一度目と二度目ではまったく意味合いが異なるところが印象的でした。また、最後の幕切れが爽やかであり、すっきりとした読後感で良かったです。
 信仰要素の話なのですが、色々考えたのですが死後の世界診断をかたく信じている主人公の状態そのものに信仰があるととりました。そして最後に死後の世界診断自体の信憑性が怪しいとなり、信頼しあった二人の友情という信仰にシフトするのかな、と深読み致しました。

謎のショートカット
 ネットでできる心理テストみたいなガバガバ自己分析でわかる死後がかなり重要視される世界観、めっちゃインタレスティングじゃん……と思いました。あやめちゃんのキャラクターが好きです。なるほど本人の死後観に沿った死後になるわけか……おもしろい……。
 そして、仮死状態にして臨死体験させて死後を見せるってメチャメチャ良いアイデアですね!!! おもしろい発想だ……すごい……。これ私が考えたことにならないですかね。ならないんですね……。
 死後の世界診断がとにかくおもしろくて、現実にもあったらなあと思いました。いやあったら怖いんですけど……でも本当に超おもしろいうえに、ありえるかも?と思わせてくれるラインにいるというか……。小さい頃にドラえもんのひみつ道具に感じていた思いとかなり近いです。のび太くんが失敗したのは見ていたけど欲しい、あやめちゃんが苦悩しているのは見ていたけど欲しい。魅力的すぎる。
 ラストの「あやめちゃんが、悪いんだからね——」でぞわっとしました。女の子二人がかわいい最高。これがいい……。
 そして章タイトルを審判の日にするセンス! 光ってました。

謎の綿棒
 科学的に証明されたらしい死後の世界が、脳神経内科で診断される、生きているうちに変化するという設定なのが面白いと思いました。そうなるとつまり、死後の世界のイメージというのはあくまで個別的かつ具体的なもので、かつ人間の魂(意思)は肉体と同時には滅びず、また努力によって変化する可能性があるということになります。
 ラストで死後の世界診断を操作していた病院というのが出ていましたが、あくまでその病院がそうだったということなので、まだ「(この世界における)実際のところはどうなんだろう!?」という想像の余地と余韻が残り、それも面白かったです。


53、信仰と貨幣/夏木郁

謎のイートハーブ
 夏木さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら架空の漫画のファンがとても強い圧で語り掛けてくる話で、前半部分にあたる怒涛の語りにまず圧倒されます。凄い筆致ですね……そして評議員三人ともがゴリゴリの二次創作者であるため、これはこう、効きます……。私は前半部分をうわああああ! という気持ちで読みました! いやもう本当に凄い筆致です、リアリティがあるんですよ本当に……こういうお気持ちレシートどっかで見たな? となりました、凄いです。
 それでいて投稿作品内では異色の部類に入るかと思います。まったく悪い意味ではなく、面白い角度のアプローチだなととても興味深かったです。特に前半の怒涛の語りを終えてからの展開、読み手じゃなくて本当に誰かに、しかも公式の偉い人をとっ捕まえて語っていたのか! とわかるところで耳が痛かった私も物語であるとやっと認識できました。これは私が下手に二次創作者なために心や耳が痛くて前半はあんまり入り込めていなかっただけです……いやもう自分に言われているようで、こんなに移入することもないので自分で驚きました。本当に素晴らしい解像度です。
 これは指摘というほどではないのですが、ご存知なら申し訳ないのですが実は「X」というタイトルの漫画が実際に存在します。そのため、実在の「X」をご存知の読者さんは、そちらの「X」だと思われるかもしれません。私ははじめそう思っていたので少し混乱しました。なのでXという表記を変えるほうが読者さんの混乱を防げるかなと思います。
 起承転結が綺麗で、特に話を聞かされている相手がいるとわかってからの転がる展開が非常に面白かったです。そして結局言いくるめられてしまい、解釈に任せると立ち去るファン……。ここも強く共感しまして、どう足掻いても神たる原作者がそういう意向であるのならば、ファンは納得するしかないんですよね。貨幣の価値を憎んでも原作者を憎むことは出来ない……いやわいせつ行為で逮捕とかされたら憎しみと怒りが(すみません聞き流してください)
 信仰要素は額面通りに受け取りました。「X」ならびに「原作者」への信仰であるととり、「貨幣価値」という別側面の信仰を憎んでいる、ととりました。

謎のショートカット
 こんこんと自ジャンルや覇権カプ(地雷カプ)の話をされるのは慣れてるので、私にとっては入り込みやすくて良い冒頭でした。何度も出てくる「『X』の価値観に反しますからね」というセリフが不穏さをかもしてくれます。
 主人公の語りがおもしろいですね!!!! 私はどちらかというと腐女子側の人間なので主人公には申し訳ない気持ちになったりしましたが、主人公の思いの矛先はファンではなく公式に向かっていきます。主人公、不穏だけど純粋に『X』を好きなんだろうな……って思えました。
 そして、主人公は誰に話しているのか?がわかった時オオーーーッとなりました。おもしろい。予想していなかった展開が来たのでウワーーーーッと思いました。悔しい……ヒントはあったのに気づかなかった……。

謎の綿棒
 とある作品を信仰の対象に見立てた上で、信仰というものに普遍的に関わってくるお金(作中でいう貨幣)やその影響に言及している、とてもユニークな作品でした。インターネットの普及した現代、日常的に二次創作に触れている人やそこで活動している人は特に入り込みやすい世界観だったと思います。
 作品自体、ひいては”信仰(の対象)そのもの”と、公式、ひいては”それを現実社会に存続させるための活動全般をする機関”というのは決してイコールではありませんし、前者の本質はあくまで資本主義の枠組みからは切り離されたものとはいえ、同時に後者は必要不可欠な存在です。なので、作中の(広報担当の語る)絵舟先生の判断や選択のように、後者が前者に影響を及ぼすことは当然あるかと思います。そのバランスが崩れると、本質と言えるものがグラついてしまうこともあるのでしょう……。
 また、信仰に必ずと言っていいほど付随してくる”お布施”という行為には「己の大切な価値あるもの(お金)を奉納すること」に信仰としての意味があるので、単純に現実社会での存続にお金が必要だというシンプルな切り口だけでは語りきれません。などなど、信仰に関わる事柄にオーバーラップするような概念を、現代の若者にも身近なモチーフでわかりやすく扱っているのが面白かったです。
 作中に「大切な人の言葉や考え方に影響を受けることで、いつのまにか自分の核となる価値観を形成していたという経験はありませんか?『X』の価値観に従って生きているのも、私が努めてそうしているのではなく、自然と人生の一部になっていたからなんです。「信仰」という言葉も、そういう文脈において使用しています。」とありますが、主人公の価値観が明確だと納得しやすく、特に今回の信仰のような人によって認識が様々なものをテーマにしている場合、特にわかりやすくて良心的だと思いました。


54、いい子だからね/富士普楽

謎のイートハーブ
 富士普楽さんこんにちは、ご参加ありがとうございます!
 こちら魔女とされている日本古来の霊能力者である老婆とその後継者である双子の姉妹のお話です。独特の空気が流れるお話で、特に魔女というどこか西洋を髣髴とさせる単語をあてがいながらの純和風怪奇譚であるところが面白いなあと個人的には思いました。
 双子ものって萌えますよね、魂をはんぶんこという風情でエモを感じます……。それはさておき、作中に挟まれる祈祷の内容が本格的で驚きました。ギリギリで書いたと仰っていたので、こういった専門知識の要りそうな部分をざくざくっと書けることがまず凄いなと思いました。私が浅学でもあるのですが……。
 同様に、これはしてはいけない、こういう症状の人はこう呼ぶ、という細かい部分も拘っているように見えて、本当にRTAで書いたのか……? いやすごく読み応えがあって本当に驚いたというか、シンプルに脱帽しました。
「晴れました」という言い方が凄く好きで、万人に通じる「状態がよくなった」を意味する台詞だなとここでも帽子を脱ぎました。題材や語句を選んでくる能力が素晴らしいです羨ましい気持ちになりました……。
 そして最後に向かう文章の流れが鬼気迫る雰囲気で、読んでいるこちらも手に汗握りました。怪奇を書かれるのがお上手です、焼死体の腕が出てくるの怖すぎてびっくりしました……腕の中でもかなり出てきて欲しくない部類の腕ですね焼死体の腕……。
 是非とも続きが読んでみたいというか、そ、それで!? ちゃんと取り戻せたの!? とめちゃくちゃ気になっております。
 信仰要素は真朱が最後に語る「ほんとうは、おばあちゃんと、朱音だけだったんじゃないかな?」という部分をとらせて頂きました。真朱の信仰とはおばあちゃんと双子の姉、そう最後に「見出すもの」と読みました。

謎のショートカット
 冒頭から薫る不穏さ……。絶対に意味があるのに意味を理解できない歌、怖すぎるんですよね。雰囲気がとても好きでした。
 透かし、晴らし、なわし、という言葉がおもしろいです。なんとなく意味がわかるような、わからないような……というバランスがとても良いなあと思いました。しかも、わからないままにせず、ちゃんと作中で種明かしもしてくれるので読んでて気持ちが良かったです。
 意味不明で意味深な言葉の意味がスッキリ判明する、が何回もあって気持ちがいい!
 おもしろかったです。

謎の綿棒
 家に伝わる宗教的な伝統を守る修行者姉妹のお話でした。信仰やまじないごとにタブーはつきものですが、大好きな身内がそのタブーを破ってしまったら?という難しい内容だったので、最後はどうなるのだろうとドキドキしながら読み進めました。続きが気になるところで終わっていますが、この真面目で愛情のある姉妹とその家族が不幸なことになりませんように……と願わずにはいられませんでした。
 どんなに愛情があっての行為でも、タブーを犯すという行為は問答無用で裁かれてしまいかねない恐ろしさがあります。この物語が結末までを描かれた場合、読者の誰もが納得感がある結末ということも難しかったかもしれません。そういう意味で、姉妹の愛情が描かれているところまでで物語が終わっていて、あとは読み手の想像に委ねられているのは、最良の落とし所なのかもと個人的に思わせていただきました。架空のものとはいえ、姉妹の家に伝わる伝統が丁寧に描写されていて、摩訶不思議ながら主人公たちが守る大切なものとしての存在感がきちんとしていたので、最後まで安心して読むことができました。

番外 
 間に合わず企画には投稿して頂けませんでしたが、書いていただいたことが嬉しいので主催のみ講評をつけさせていただいております!

ダウン・タウン少女/和泉眞弓

謎のイートハーブ
 
和泉さんこんにちは、書いていただきありがとうございます!!
 開幕の台詞がまず掴みとして完璧です。主人公が客観的にどのような人物なのかが一文目でわかり、主観的にどのような人物なのかも二文目でわかります。和泉さんはわかっているんですけど本当にお上手です……一文一文が端整で、読んでいる間ずっと脳が楽しかったです。
 田舎から都会に出てきて、浮かないようにと気をつける主人公の心が田舎出身の私にはよくわかりました。実は改行が少ない小説が好きなんですが、ただ少なければいいということでなく、改行がすくないのにグイグイ読める! という爽快感が好きでして、こちらのダウン・タウン少女もそのような楽しみ方をまずさせていただきました。文章が綺麗だからこその技ですね……大好きです。
 そしてこの、仏教の話を交えてくるこの……! 感情で失礼するのですが私は仏教が大好きでして!! 主人公が真理の扉を開いたような心地になったことがすごくよくわかります。悟れたような気になるんですよね仏教の教え……凡俗なので……謎の感情移入失礼しました……。
「求道は孤独な営みとはなから思い込んでいた」この一文が非常に好きです。少し言い方がおかしいのかもしれませんが、片田舎からやってきた人間の素直さといいますか、悪く言ってしまえば騙されやすさみたいなものが滲んでいる台詞に思います。一文一文、ほんとうに綺麗ではっとします……。
 道しるべを得たと思った主人公が懊悩していく後半の段、私がもっともすばらしいと思った段です。求道の仲間を得たかと思えばまったく様子が違い、幹部育成研修では自身の思いのベクトルと集団の信仰のベクトルが違うと気付いてしまい、奈落に落ちた心地になる……。ここからの巻き返し、主人公の胆力と成長が如実にわかる筆致は必見です。
 表面上はある程度取り繕いつつ、微かに絶望なんかを持ちつつ、心には産毛を生やしてなにより自分が違うと感じたことには抗っていく。主人公は自身に則った教義を信仰する、芯の通った大人へ成長するだろうと感じる幕切れでした。そうかな? そうかも、そうですよ。明るい未来が私には見えました。
 信仰とは「己と向き合う術のひとつ」ととりました。すばらしかったです。私は和泉さんのファンです……。


◆選考会議議事録

謎のイートハーブ(以下ハーブ):お集まり頂きありがとうございます! では早速会議を始めましょう、議長を務めますイートハーブです。気になることなどありましたら随時仰ってください。

謎のショートカット(以下ショート):よろしくお願いします、わかりました~。

謎の綿棒(以下綿棒):よろしくお願いします、かしこまりました。

ハーブ:では大賞選考を行います! 各自、これこそが信仰小説の大賞だと思われる三作を挙げてください。重要視していただきたいのは「信仰」というテーマを感じた指数です。信仰に対する解釈については、各評議員に委ねます。
 では私から……。
・月は淋しいだろうか
・能動的スケープゴートの計画
・ディルク・ヴィレムスの殉教

 この三作を大賞候補として挙げさせて頂きます。

ショート:では私は
・白銀の巫子
・Cave
・アムルとハルワ

 を推したいです。

綿棒:私は
・告白
・ディルク・ヴィレムスの殉教
・ランズ・エンドの約束

 を候補に挙げます。

ハーブ:おお、ディルク・ヴィレムスの殉教二票入りましたね、どうですか。

ショート:意義なしです!

綿棒:異議なしです!

ハーブ:では決定しましょう!! 草食信仰森小説賞大賞は「ディルク・ヴィレムスの殉教」となりました!おめでとうございます!!
「殉教」というワードを捉え、私の考える殉教と一致した内容であることも含めての選出でした。本当におめでとうございます!

ショート:おめでとうございます!!調べてみたらディルク・ヴィレムスは実在していて、知識力がすごい……!と唸った作品でした。納得です。

綿棒:おめでとうございます!!重厚な歴史小説の雰囲気があって、信仰を強く感じました。テーマ性としても奇を衒わず真っ直ぐであり、内容も深みがあって信仰をテーマに掲げた企画の大賞として相応しいと思います。

ハーブ:まさにそれです、はじめに読んだときは圧巻の一言でした。
 では続いて金賞選出と行きたいんですが……。どうしましょう見事にバラけてますね。再投票かな……?

ショート:私、四つ目が選べたなら絶対にランズ・エンド入れてました……。

綿棒:そうなんですか!?

ハーブ:私もなんですよ実は……超良かった……。

綿棒:wwwww

ハーブ:もうこれ決定でええな、金賞は「ランズ・エンドの約束」でよろしいでしょうか!

ショート:異議なし!

綿棒:異議なし!

ハーブ:決定します、おめでとうございます!!神父という信仰の只中にいる人物を軸においての分厚い人間ドラマ、信仰の解釈も申し分ありません!

ショート:おめでとうございます!!物語としても本当に面白くて、人間模様の描き方も卓越してました!!

綿棒:推し作品なので金賞選出本当に嬉しいです。物語としての読み応えもあって、人々の生活や無意識にも根付いた深い信仰を感じられる作品でした。おめでとうございます!

ハーブ:サクサクやん張り切っていきましょう。では銀賞選出なんですが……ちょっと候補作を削りたくてですね……。ここであのー、アムルとハルワについてなのですが……。作者の大澤先生、無冠の女王と呼ばれて親しまれている川の設立者でしてね……。

ショート:マジかよ空気読まずに入れちゃったじゃん……。でも超良かったんだよー!

綿棒:いやわかりますよ私もすっごく好きです。

ハーブ:私も超好きなんですよ。そしてわざと作者情報を伝えていませんでした。
 でもこう、あの、大澤先生ごめんなさい!!!!!!どうせ獲るなら大賞を獲っていただきたい……そんな屈折した厄介ファン思想が新参ながら私にもあります……。殺してください……。

綿棒:アツいリスペクトのこもった配慮により候補から外さざるをえないとは……!

ショート:wwwww

ハーブ:気を取り直して行きましょう。残りは「月は寂しいだろうか」「スケープゴート」「告白」「白銀の巫子」「Cave」か……。
 うーん……プレゼン聞いてみてもいいですか?

ショート:じゃあ私なんですが、信仰が捻じ曲がるというのが良くて白銀を選びました。Caveは偶像崇拝の類で一番最高だなと思って入れてます。
 でも二人の話を聞いてたら私の選出信仰というか趣味丸出しって感じで…特に白銀…うう…。

ハーブ:いやいやそのために三人集めてるからそのへんは大丈夫だよww

綿棒:そうですよ!

ハーブ:では次私プレゼンなんですが、月は淋しいだろうかはこう、信仰の原型を取り扱ったものとして唯一無二だと思うんですよ。スケープゴートは意図的に神になろうとする人間軸と捉えて、ネガティブな方向性の信仰枠として選びました。愚かだ、でもそれがいい……。

ショート:なるほど……Caveも似たニュアンスです。ネガティブ。

綿棒:私の推し作品のプレゼンなんですが、告白の主人公は、現代日本育ちならではの信仰の世界を持っている気がして。軸はキリスト教だけど生活の中できっといろんな信仰にまみれてて、そういうところからも生まれていそうな葛藤を感じてすごく良かったです。神様を試すような祈りをしてしまった後に懺悔する流れにも、信仰心の深さを感じて選出しました。

ハーブ:私もテーマストレート枠として殉教告白か悩んで殉教にしたので、凄くよくわかります。

ショート:なるほどわかりやすい……!私はけっこうエンタメ方向で選んでます。

ハーブ:……駄目だ埒があかねえ!!!!!!!!

ショート、綿棒:wwwwww

ハーブ:決選投票したいんですがちょっと減らしたいな…。
 あくまで私の意見なのですが、白銀の巫子は信仰テーマというよりも、神話テーマととったほうがしっくりくる気がするんですよ。

ショート:ああ……すっごいわかります、神話テーマならスキャンベルルとかも推してました私……。

綿棒:仰りたいことわかります。ユエの国も神話テーマなら上がって来そうですね。

ハーブ:その辺めちゃくちゃわかります。……というわけで、ショートカット氏綿棒氏両名に納得していただけるのなら、白銀を候補から下げようと思うのですがいかがでしょう……?

ショート:ううーー!!個人賞にさせてくださいー!!!

綿棒:wwww 異議なしです、お話自体は雰囲気もたっぷりで、本当に素敵でした。

ハーブ:私も同意ですめっちゃ面白かったです。神話テーマなら確実に推してましたね……。
 では、両名の了承も得たため、白銀の巫子も外します!灰崎さんごめんなさいめっちゃ面白いのは確かです講評を読んでくれ~~!!!!!
 で、残りが「月は淋しいだろうか」「能動的スケープゴートの計画」「告白」「Cave」か……。けっこう減りましたね。

綿棒:まだ削りますか?

ハーブ:うーん……個人的な意見としては、現在残っている作品群はどれも違うベクトルで信仰を扱った作品だと思います。
 二人がよければ、月、スケゴ、告白、Caveで最終投票しようかと思います。いかがでしょう?

ショート:異議なし!

綿棒:異議なし!

ハーブ:ではこの四つの中から二つ銀賞推しを選んでください。
 私の推しを残してしまった……主催の我が強い……いやここでは私が神です。というわけで「月は淋しいだろうか」「能動的スケープゴートの計画」をそのまま推します。

ショート:私は「Cave」「能動的スケープゴートの計画」で!

綿棒:「告白」「月は淋しいだろうか」にします。

ハーブ:月、スケープゴートが二票ですね。ど、どうしようこんな割れ方をするとは……。

ショート:もう一回投票します?

綿棒:同率の賞は今までなかったですか?

ハーブ:あったと思います。そして更に銅賞まで派生させた賞もありました。これ最終的に私が決めるみたいな残り方ですね? でも私はスケゴ、どちらかを選ぶのはかなり厳しい……別ベクトルで選んでいるので……。

ショート:凄い推しだ……。

綿棒:わかりますよ……。

ハーブ:ここでは俺が神だ、主催権限発動します! 票も二人が満遍なく一票ずつ入れてくれていますし、同率ととりましょう。
 銀賞は「月は淋しいだろうか」「能動的スケープゴートの計画」の2作品とします!いかがでしょうか!

ショート:異議なし!

綿棒:異議なし!

ハーブ:両作品共々、受賞おめでとうございます!!どちらも私のゴリ推しなのですが、二人が一票ずつ投じてくれたので良かった……主催の作為だと思われない……。

ショート:www スケープゴート、面白かったです。おめでとうございます!

綿棒:月は淋しいだろうか、とっても好きな雰囲気だったので入れました。おめでとうございます!

ハーブ:さて……では、緊急で賞を増設したいと思います。レギュレーションで信仰対象は神仏に限らないとしたためか、予想以上に巨大感情を信仰と捉えた作品が寄せられました。
 そのため、「人間の巨大な感情」に重きを置いた作品を一作、「評議員特別賞」として選出したいと思います。いかがでしょうか?

ショート:いいですね! 出しましょう。

綿棒:私もいいと思います!

ハーブ:オッケーです!
 では大賞選考と同じく、これこそ「人間の巨大感情」を扱っている!と思う作品を三点選出お願いいたします!

~思考タイム~

ハーブ:どうでしょう。

ショート:いけます。

綿棒:私もいけます。

ハーブ:よし、それではまず私から。
・生まれた時に与えられ、死ぬまで離れないもの
・ヒゾウの子ら
・アルミアの巨像

 こちら三作です。アルミアの巨像はごめんちょっと趣味です。

ショート:私は
・ヒゾウの子ら
・生まれた時に与えられ、死ぬまで離れないもの
・うたうくび、滅びの喇叭

 こちらでお願いします。

綿棒:ちょっと悩んだのですが、
・生まれた時に与えられ、死ぬまで離れないもの
・アムルとハルワ
・Cave

 こちらの三作で!

ハーブ:ストレートやんか!!!!!(驚愕)

ショート:ほんとだwwwww

綿棒:決まりですね……www

ハーブ:ではストレート満場一致ということで、評議員特別賞は「生まれた時に与えられ、死ぬまで離れないもの」に決定しました!!おめでとうございます!!!

ショート:おめでとうございますー!

綿棒:ストレート気持ち良い! おめでとうございます!

ハーブ:ちなみになんですが、私は勝手にBLは一作だけ選出と思って選んだので、私の中の森トップオブBLも「生まれた時に与えられ、死ぬまで離れないもの」ということになります。いやこちらほんと……凄くないですか?

ショート:うんうんすごいわかります。本当にいいBLでした……。

綿棒:生まれた時に~は、ただクソデカ感情を持った人間が主人公というだけでもなく、「相手にクソデカ感情を湧かせる」のが巧みな男がこの主人公の相手で、二人の相互作用であの状況が生まれているのが描かれているのがとてもお上手だなと思って選びました。
 ……ほねがらみの方ですよね?

ハーブ:そうです、普段はホラー書かれてますね……。(私の界隈にも進出してるほねがらみ凄いな……)

ショート:BLも書けるんですね凄い……めっちゃ良かったです。

綿棒:お二人はヒゾウの子らも推してますね。

ハーブ:そうなんですよ。これはこう、メタ構造に物凄い巨大な感情を読み取ったに加えて、内容もそうだったので……推しちゃうよね……。

ショート:最後本当に告白したところで終わってああああ! ってなりました。

綿棒: なるほど!私は先輩の台詞や存在感に最初からメタっぽさを感じつつ読んでいたので、個人的にはあまり終盤にハッとさせられた感じはなかったのですが、現代ドラマとしてすごく面白かったです。
 私の選出作品だと、Caveのどうしようもなさに感情を感じました。

ハーブ:それも凄くわかります、シンプルにお上手なんですよねナツメさん……。面白かった……。
 では次、個人賞出しましょうか。ショートカット氏は「白銀の巫子」でいい? 君にブチ刺さってるのは知ってたから、大賞に推してきたときもブチ刺さってんなーと思ってました実は……w

ショート:ごめんwwww もちろん「白銀の巫子」がいいです!!!もうすごい良かった、最高です。俺の好みを何故知ってる!?ってくらい好きな要素しかなかったです。驚きっぱなしで、ミアっていうキャラがもうすごく好みで可愛くて、どこを見ても美少年ばかりでショタコンなので堪りませんでした!
 ショタコンなので、若いうちに死んでくれたところも本当に助かりました!あまりにもド性癖で選ぶしかなかったです。最高~~~~!!

ハーブ:wwwww わかったわかった!www

綿棒:wwwwwww すごく刺さってる…ww

ハーブ:
えーーーと私はそうですね、「雪が巡る地」を個人賞に推したいです。もうこれ、画が良すぎて……ずっと忘れられなかった……大好き……。雪景色が大好きなんですよ私は……。季節の概念を愛してるのですが、一番季節を感じたのがこちらの作品という部分もあります。好きだ……。
 アルミアの巨像ともちょっと迷ったんですよ。このアルミアと雪の共通項なんですけど、読後の虚無感が強いというところで。テーマ虚無ならどちらも大賞推しです。このね、いろんなことがあって紆余曲折を経て、何も残らない。最高では?

ショート:wwwww 個人賞すっごい趣味が出ますね。

綿棒:wwwww 虚無大賞かな?
 私は個人賞「青森の救世主」でお願いします。不思議だけどちゃんと救いがあってほっこり優しくて、しみじみといいなあ……となりました。参加作品の中でも癒し枠になってくれて、大好きな作品です。

ハーブ:青森の救世主もめっちゃ良かったですね。イエスおじさん本当にいいひとなんだろうな……。

ショート:わかる、めちゃくちゃ面白くて青森の救世主私がおもいついたことになんねえかなって思いました。

綿棒:wwwww

ハーブ:さてでは……賞選考はこれで終わりとします。
 せっかくなので座談会というか、他にこれよかった!という作品などありましたら是非しゃべってください。
 私はさっきからしつこいんですがアルミアの巨像がね~~すきなんですよね……ただこう、大賞などに挙げるにはあと一歩という気持ちだったんですが、とにかく虚無で良かったです!

ショート:虚無といえば「赤い海と青い海」好きでした。周りが一切とめなくて、淡々とこういう宗教なんですよって進むところが虚無ですっごい良かったです。
 最後も男の子がとめにくるかと思ったらこなくて、虚無なんだ…となりました。ほんのり甘酸っぱいところも最高。

ハーブ:あれ怖かったね、ほんと淡々と進んで淡々と死んだ……。

綿棒:私は「えびす神社のお守り」が凄い好きです。内容も深く考えさせられておもしろかったですし、色んな描写がシンプルにお上手で読みやすく、個人的にかなりの好印象でした。ホラー要素も絶妙で良かったです。

ハーブ:えびす神社はほんと起承転結の流れが完璧でしたね。ミステリの味わいもあって大好きです。

ショート:「偶像のキモチ」も超好きでした。もうたっちゃんがほんと頭悪くて可愛くて……好みのタイプです! その流れで「でも、明日を信じて」も大好き! ニンジャが本当に面白くてずっと笑ってました。この作品の主人公も馬鹿で可愛くって……。マモンさんもすごくイイキャラだし最高!

綿棒:www 段々ショートさんの趣味がわかってきました…www

ハーブ:「偶像のキモチ」私も好きです、文章のテンポもよくて面白かった……。

ショート:そうなんですよ!好き……。

綿棒:ショートさんラブコメ系お好きなんですね! 私は逆に信仰要素探しに囚われすぎてしまってもいたような……!
 性癖で推すなら「灰色の果てより」「ヒゾウの子ら」がほんとファムファタル! ファムファタル部門として本当に良かったです。

ショート:灰色~のヒロインほんと良かった! 年下の男を誑かして殺す女最高です。
 諸々完全に好みで全部選んじゃった……ごめんなさい……。

ハーブ:自分に正直でいいよ! そのための三人体制ですからね。
 賞選考の話のときにも出ましたが「ユエの国」もほんといいですよね、神話テーマなら間違いなく推してました。

ショート:わかる、めっちゃいい話なのに~~! と思いつつ枠が~~!となってた……。
 神話系でいうならスキャンベルルも好きです。戦争は虚無って感じで……。

綿棒:やっぱりテーマがテーマなので、どちらかと言えば重ためな雰囲気の話が多かった印象なんですが、その中にはさまるほっこり枠に度々癒されました。青森、残像の杜、たぶん神さまあたり……。残像の杜は繰り返しのテンポが絵本的で、クリスマスキャロルみたいな感じで胸に染みました。

ハーブ:たぶん神さまも良かったなー、わかる。癒し枠……。残像は信仰要素的には薄さを感じてしまったんですが、それでもしみじみくるものがありました。いい小説だ……。

綿棒:絵本のやさしいホラーっぽさもありましたね。テンポと構成もかなり好みです。

ショート:絵本わかるー! 捲っても捲っても鳥居の絵、みたいな! ほっこりほのぼの枠なら雑木林のツチノコ神も超好きでした!かわいいキャラが段々成り上がっていって、ほんと好きだなーと思いました。

ハーブ:ツチノコ様、はじめのほうは暫定個人賞でした実は。

ショート:えっ。

綿棒:ええー!!実際に選んだ雪が巡る地や推してらっしゃるアルミアの巨像と全然毛色が違うじゃないですか!?笑

ハーブ:うっ……違うんです虚無が……虚無が私を呼んだ……。

ショート:スケープゴートとかもハーブ好きそうだなーと思ったよ。

綿棒:思いました。

ハーブ:スケープゴートと言えば、大賞に推した三作全部違う方向性で選んでて。殉教は正統派、は信仰の原型として選び、スケープゴートは人間のくせに神になるみたいな愚かさ、ネガティブな方向性で選んだのですが、張って悩んだのが「Cave」「檜扇忠臣の八百万屠殺記」なんですよ。
 いやもう愚か、この三作とも本当に人間が愚かなんですよ。めっちゃ好きですね……こういう作品マジで投稿して欲しかった! という痒いところに届きました。

ショート:Caveのカメラマン、ほんとクソ男~~! って私もはしゃぎ倒しました。すっごいよかったです。

綿棒:愚かな人間部門大賞候補のCave、スケープゴート、檜扇忠臣……。

ハーブ、ショート:wwwwwwww

綿棒:他作品だとあとは百物語すごいすきです、「百物語 -サークル合宿最終日の夜にて-」か。ぬ~べ~が昔すごく好きで、それを思い出すようで本当によかったです。
 最後のオチのひやっとする感じ、自分が話の輪にはいってる感覚で……。カレー食いたくてカレー出して貰えたって思いました、すっごい面白かったです。

ハーブ:あの作品も面白かったですね! オチほんと好きでした、臨場感……。

ショート:こむらさきさんの「宵闇の王と銀の魔女」好きです。少女マンガのファンタジー!と思って童心に返りました。シンプルにいいなーと思いました!
 ラノベの雰囲気というか、私の心の中の中学生が本当によろこんだんですよ。銀の魔女が真の力を解放してからが、こうじゃなきゃな!と嬉しくって……でも童心に戻っちゃったから同時に恥ずかしくもあり……!王道のファンタジー、ほんと久し振りに読んで……ううー!!

綿棒:wwwww

ハーブ:私ね……二人に「ガン・オン・グレイス」の感想聞きたかったんですよ……どうでした? ワイの概念が活躍してましたが……。

ショート:ふふふwwww 藤原埼玉の初恋(※イートハーブの内輪ネタ作品)アンサーだと思って読んで、たしかに身内ネタなんですけどめっちゃおもしろかったですよ。

綿棒:ハーブ神父wwww ってなりましたが面白く読みましたww

ハーブ:「ワイの信仰はこれや」ちゃうねんて……いや面白かったならいいんですけどねw

(ここで大賞報告をした偽教授さんのコメントが届く)

ハーブ:早い。せっかくなのでみんなで読みましょう。

ショート:貫禄ありますね大賞として……。

綿棒:渋いですね…!

ハーブ:そういやあ、コメントはいつも大賞の方のみから頂戴しているようだったんですが、特別賞とかも設けちゃったしどうします?

ショート:あ、受賞された方のコメント全員読みたい!

綿棒:わ~~読みたいですね!

ハーブ:じゃあ川じゃなく森だし、全員に聞いちゃいましょうか。

ショート、綿棒:やったー!!


ハーブ:大体話したかな~~!どうです?

ショート:「でも、明日を信じて」のニンジャ出てくるところが本当に面白くてめっちゃ面白くて、すごい好きでしたって何回でも言いたい!!! もう本当にニンジャが……マモンが真剣に話してたら急にニンジャが……wwwwほんと面白くて……wwwww

ハーブ:ツボりすぎやろwww

綿棒:わかった!私にとっての「魔羅ネード カテゴリー・ゴリラ」だwwwwマラネードゴリラ本当に大好きで超面白くって、陰茎が着弾って何!?wwww最後にゴリラの名前も明かされてほんとよくて、ずっと笑ってました推しの一作ですwwwwwwふふふディック・ステップ・ジャンプwwwwww

ハーブ:こっちにもおったわ…wwww
 しぃるさん念者さん、各評議員にブチ刺さってます!!(報告)私もどっちもゲラゲラ笑いながら読んだのでめっちゃわかりますよ……www

ショート:はーほんとニンジャ……。大体話し尽くしました!!

綿棒:ゴリラ……着弾……。私も大体話しました!!

ハーブ:よしでは……これにて会議を終了したいと思います!通話時間二時間半くらいですね、しゃべったなけっこう……。
 ではお疲れ様でございました!!!!

ショート:お疲れ様でした~~楽しかったです!!

綿棒:お疲れ様でした、ありがとうございました!!!!

ハーブ:では閉場!!!!お二人とも長時間本当にありがとうございました!!!!!

※三人とも特に告知することはないため告知枠はございません。あえて言うのであればサウスパークを見てくれ、ひぐらしを見てくれ、ポケモンをやってくれというところです。よろしくお願いいたします!


【おまけの主催単体総評】

 こんにちは、主催のイートハーブくんです。
 54作もの投稿まことにありがとうございました! 30作くらい揃うといいな~~と思っていたのが倍近い数……他の企画などとも被っていた期間に皆様本当にありがとうございました嬉しいです!
 そしこの「信仰」。掲げておきながらなんなのですが難しく重く大変だったと思います。
 そんな中でも色々と考え、投稿してくださった皆様方……。多岐に渡る信仰の小説を読ませていただけた上に、講評までしてもいいとはなんたる僥倖かと……お礼を何回言っても足りません。
 私がBL愛好者ということもあり、BL作品も多かったですが、それらを含めてどの作品も本当に素晴らしい作品でした。
 ここからは言い訳なのですが、三者三様予想外の忙しさに見舞われ、中々講評が進められなかったために、公開が遅れてしまいました。本当に申し訳ございません。
 第二回があるのかは不明ですが、もしこの「森」という形で企画を出したいという方がおられましたら、そちらについてはフリー素材でございますので、好きに使って頂ければと思います。
 また、賞選考や雑談などに作品名を出せなかった方もいらっしゃいます。講評で思ったような評価を得られなかった方もいらっしゃるかもしれません。それは我々三人の好みというものもございますし、投稿タイミングという運もございます。
 我々も皆様の作品にかける熱意をなあなあにすることがないよう、忙殺されつつも全作に向き合うために締め切りを延ばすという方向に致しました。多分他の企画の講評よりも公開が遅れたとは思うのですが、ご了承頂ければ幸いです。
 選考に上がらないから駄作だということはけしてありません。今後もたくさん創作していただければ嬉しいです。

 選考会議をするにあたって、普段はまったく違う畑にいる評議員二名をつれてくることもあり、誰が大賞経験者で……という話をわざと事前にしませんでした。それによる所感なのですが、賞候補として上がった作品を書かれた皆様は、川系列常連、これまでの大賞候補作の作者様が多かったように思います。それにプラスして、コンスタントに作品を発表されている方ばかりだなとも感じました。企画以外にも、長編や中編、公式の賞レースなどなども含みます。
 それで思ったのは「継続は力なり」です。月並みなことですが、大事なことなのだろうなと実感しました。これまでの講評を生かしてここまで来た、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 
 自分語りですが、私もドピコ(※弱小サークルの意)は淘汰されるんですよみたいなクソ匿名メッセをもらったり、○○ネタおもんないマジで地雷と思い切り見えるところで発言されたりとゴミみたいな目にあったこともあるのですが、いつか作品でブチ殺してやるからなという気持ちでこれまで文字を打って参りました。
 なので皆様も、万が一おもてたんと違う!!という講評であったとしても、いつか作品で殺してやるからな!!という気持ちで、果敢に取り組み継続していっていただきたいなと思います。次に繋げるためには次を書かなきゃ駄目なんですよね。当たり前なのですが、講評・会議を経て私はそう感じました。
 この講評が皆様の創作人生において、なにかしらの糧になることを願います。私も頑張ります。一緒に楽しく頑張って、いつか誰かを唸らせる作品を書きましょう!
 
 最後になりましたがこちらに掲載しております講評などにおける責任は主催である私にございます。何かございましたら主催である私までご連絡いただけますよう、よろしくお願いいたします。

 お疲れ様でございました、ここまで読んでいただきまことにありがとうございます!!


【関連リンク】


草食信仰森小説賞後半ピックアップガチャ

草食信仰森小説賞中間ピックアップガチャ

草食信仰森小説賞



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