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Q40 コンテンツ制作契約

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 コンテンツ発注者と受注者の間では契約書があるが、受注者と製作者との間には注文書しかない場合の問題点は何か。

Point

① 著作権法の「特掲」条項
② 受注者と制作者との間の契約
③ 実際の事例


Answer

1.著作権法の「特掲」条項

 著作権法上、翻案権等(同法27条)と二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法28条)は、それを特に掲げて譲渡しない限り、譲渡されていないものと推定される(同法61条2項)。
 したがって、契約書に「甲が乙に対し代金全額を支払ったとき、本件著作物の著作権の一切が、乙から甲に移転する」といった定め方では、翻案権等は移っていないと推定されてしまう。
 そこで、「甲が乙に対し代金全額を支払ったとき、本件著作物の著作権の一切(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む)が、乙から甲に移転する」といったように、著作権法27条および28条の権利を明記して定めることになる。

2.受注者と制作者との間の契約

 しかし、現代社会においては、コンテンツ制作といった業務はアウトソーシングされる場合が多い。そして、そのアウトソーシング先は中小零細規模の会社や個人であることも多い。
 その場合、受注者の会社も、発注者との間では整った契約書を交わしても、アウトソーシング先とは契約書を交わさず、発注書だけで済ませることもままある。
 しかし、発注書は、制作するコンテンツの内容・納期・金額といったことしか書かれず、著作権といった法的なことには触れられないのが通常である。
 そうすると、著作権法27条および28条の権利の移転につき「特掲」されていないのはもちろんのこと、そもそも譲渡(売買)なのか、利用許諾(ライセンス)なのか自体が必ずしも明らかではない、ことになってしまう。利用許諾ということになれば、非独占ということも解釈上あり得る。非独占ならば、制作者がコンテンツを第三者に利用許諾することも可能であり、大きなリーガルリスクが生じる。
 もちろん、受注者と制作者との間の関係が良好であれば、深刻な事態が起きることは稀である。しかし、いったん関係性が悪化すると、このリスクが顕在化してくることになる。
 そこで、契約書に、「著作権の移転(譲渡)である」と明記されているか、明記されていても、著作権法27条および28条について言及しているか、という二段階について注意する必要がある。

3.実際の事例

 本問に関係する判例としてひこにゃん事件抗告審(大阪高決平成23・3・31判時2167号81頁)がある(下線は、筆者による)。
翻案権を「特掲」しない著作権譲渡契約について著作権法61条2項の推定を覆した事例である。

 事案は、キャラクターの権利を有する自治体が、類似のイラストの使用について差止めを求めたものである。そして当該キャラクターについては、自治体が一般に募集し採用されたものであるが、募集の際の仕様書には「採用された……キャラクターに関する、所有権(著作権)等一切の権利は、実行委員会に帰属するものとする」と書かれており、著作権法27条および28条につき「特掲」されていなかったのである。
 裁判所の決定は、種々の事情(立体使用の予定は明示されていた)から、立体物の作成とその利用に関する限りで、著作権法61条2項の「推定」を覆したが、それ以外は覆らなかった。
 この例からわかるとおり、「発注者→受注者→制作者」の契約関係において、「発注者受注者」間の契約がきちんと交わされていても、「受注者→制作者」間の契約に遺漏があると、後になって、コンテンツの改変もできない、という事態になりかねず、改変を行った場合は債務不履行として損害賠償責任が生じるであろう。

執筆者:小早川真行


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