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エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 既存の漫画の絵をどこまで改変すると著作権侵害となるか。全く同じものを作成する「トレース」の場合は著作権侵害となるだろうが、人物絵の基本的な姿勢は同じで、服を変えたり手や足の向きを少し変えたりした場合、著作権侵害にあたるか。

Point

①    著作権で保護される対象
②    文章に関する判例
③    イラストに関する判例
④    パロディ


Answer

1.著作権で保護される対象

 著作権はどのようなものに発生するかについて、著作権法2条1項1号では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」としている。
「創作的に」とあることから、オリジナリティが重要であり、創作的でない、つまり誰でも思いつく、ありふれたものは著作物とはいえない。
また、「表現したもの」とあることから、アイデアは著作権法上保護の対象ではない。
 既存の著作物を改変した場合、それが翻案(著作権法27条)であれば、翻案権の侵害となる。

2.文章に関する判例

 どのような場合が翻案権侵害となるか。文章(小説)に関するものであるが、江差追分事件上告審(最判平成13・6・28民集55巻4号837頁)は、以下のとおり判示している(下線は、筆者。以下同じ)。

 つまり、他人の著作物に依拠し、他人の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できる場合、翻案権の侵害となるのである。
 「依拠」とは、他人の著作物にアクセスしたことである。これは、実務的には、立証できたか否かが問題となる。他人の著作物が有名な作品であり広く流布していたという点から立証する方法もあるが、他人の著作物の「創作性」のある部分、すなわち「偶然の一致とは考えられない」部分が一致していること、により立証することが考えられ、それは著作権侵害の立証とも重なる。
 ただし、依拠性が認められても、それだけで翻案権侵害が認められるわけではない。「表現上の本質的な特徴」がみてとれる必要がある。この「表現上の本質的な特徴」は、著作権として保護の対象となるものである以上、「創作性」が必要となる。

3.イラストに関する判例

 ⑴ マンション読本事件(大阪地判平成21326判時2076号119頁)
 多くのイラスト(若い女性の絵。全127点)がある本から、複製または翻案されたイラストについて複製権・翻案権等の侵害があるかが争われ、結果として否定された事件である。判示の内容は、以下のとおりである。

 これは、個々のイラストではなくキャラクターとしての特徴を抽出すること、キャラクター自体には著作物性が認められないこと、という特殊性がある事案であるが、元のイラストの本質的な表現上の特徴が何かを検討し、それが感得できないとして著作権侵害を否定している。
 ⑵ 博士イラスト事件(東京地判平成20・7・4裁判所ウェブサイト(平成
  18年(ワ)16899号))

 角帽にガウンという博士の絵を複製・翻案したと争われた事件である。判示は、以下のとおりである。

 これは、両者のイラストは似ているが、その似ている点はありふれたものであるということが指摘されている。
 以上から、翻案権侵害とならないためには、
 ① 依拠していない
   依拠していない事実を立証できればよいが、実際には依拠しているこ
  ともあり、依拠していないとの立証が成功するかについて結果を予測す
  るのは困難であることから、翻案権侵害とならないための対応としては
  確実性に欠ける。
 ② ありふれた表現だけを「使う」
   元のイラストにもありふれた点はあることから、たとえば「博士」と
  いうとき、角帽をかぶってカイゼル髭である、といった「ありふれた」
  表現のみ使えば、たとえ依拠していても翻案権侵害とならない。
   姿勢が非常に独創的で見たこともないようなものであれば、姿勢が創
  作性のある表現となる。一方、どこでも見るようなありふれた姿勢であ
  れば、それは創作性のない表現である。骨格や服装についても同じであ
  る。
   その他人の著作物の本質的特徴を感得するとは、新たに描かれた絵を
  見て、元の絵を思い浮かべるか、ということである。
   したがって、独創的でない姿勢であれば、そのままの姿勢でも著作権
  侵害とはならない。
   ただし、体の輪郭等を完全にトレースした場合、いずれかの部分に創
  作性があれば著作権侵害となるし、また、著作権侵害以外の一般不法行
  為(民法709条)に該当する可能性も出てくる。

4.パロディ

 なお、日本の著作権法においては、いわゆる「パロディ」であるから「引用」(著作権法32条)であり著作権侵害とならない、とはいえない。モンタージュ写真事件上告審判決(最判昭和55・3・28民集34巻3号244頁)の判示は、次のとおりである(旧法下の事案である)。

 パロディであることは明瞭区別性や主従関係とは別次元であり、むしろ原著作物の本質的な特徴が感得できるから、パロディである以上、著作権侵害とならないパロディは想定しがたい。そのため、パロディであるから問題ない、という説明は通用しない。

執筆者:小早川真行


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