見出し画像

Q53 違法配信対策

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 インターネットで音楽CDが無断で配信されていた。どのような対策がとれるか。

Point

① インターネットと著作権
② P2Pによるファイル共有と著作権
③ 動画投稿等のサイト運営者の責任
④ 違法配信を発見した場合の対処


Answer

1.インターネットと著作権

 著作権者には、公衆送信権が認められており(著作権法23条1項)、インターネット上で著作権者に無断で著作物を送信する行為は、著作権侵害となる。また、実演家、レコード製作者、放送事業者等の著作隣接権者は、送信可能化権を有しており(同法92条の2、96条の2、99条の2、100条の4)、インターネット上で著作隣接権者に無断で実演等を送信する行為は、著作隣接権侵害となる。また、インターネット上で著作物を送信するためにサーバー等に複製する行為は、複製権(同法21条)の侵害であり、実演等を複製する行為は、著作隣接権者の録音権、複製権等の権利の侵害である(同法91条1項、96条、98条、100条の2)。
 インターネット上で流通する著作物をダウンロードする行為については、個人的にまたは家庭内等において使用することを目的とする複製については、私的使用のための複製として原則として許されている(著作権法30条1項)。しかし、私的使用を目的とする複製であっても、権利者の許諾を得ずに自動公衆送信されているものであることを知りながら、録音または録画する行為については、複製権の侵害となる。実演等の著作隣接権についても同
様である(同法30条1項、91条1項、96条、98条、100条の2、102条1項)。
 著作権または著作隣接権を侵害する行為については、民事的には、差止め、損害賠償の対象となり、公衆送信またはインターネット上で著作物を送信するための複製については、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはそれらが併科されることがあり(著作権法119条1項)、権利者の許諾を得ずに自動公衆送信されているものであることを知りながら、私的使用の目的で録音または録画する行為については、2年以下の懲役もしくは200万
円以下の罰金またはそれらが併科されることがある(同条3項)。

2.P2Pによるファイル共有と著作権

 P2Pによるファイル共有のしくみには、中央サーバーを介し、ファイル情報を共有するもの(ハイブリッド型)と中央サーバーを介さず、ファイル情報を共有するもの(純粋型)がある。P2Pによるファイル共有を利用して、ファイルをアップロードする者およびダウンロードする者については、前述のとおり、著作権および著作隣接権の侵害となる。
 ハイブリット型の場合には、中央サーバーを提供する者も著作権および著作隣接権の侵害となる。東京地決平成14・4・11判時1780号25頁、東京地判平成15・1・29判時1810号29頁等の裁判例においても、中央サーバーを提供する運営者についても、ファイル交換サービスは、市販のレコードを複製したファイルが大多数を占めている音楽ファイルを送信可能化状態にするためのサービスという性質を有すること、利用者の電子ファイルの送信可能化行為は、運営者の管理の下に行われているといえること、運営者は、ファイル交換サービスにより広告収入を得ているうえ、将来は受信の対価を徴収するシステムに変更することを予定しており、運営者の営業上の利益を増大させる行為と評価することができることから、運営者自身がパソコンに蔵置した音楽ファイルを運営者サーバーに接続させるという物理的行為をしているわけではないにもかかわらず、運営者が著作物の送信可能化を行っているものと評価でき、公衆送信権を侵害していると判示した。
 純粋型については、ファイル交換ソフトWinnyの開発者が著作権侵害に広く利用されていることを知りながらWinnyの改良版を提供した行為について、京都地判平成18・12・13判タ1229号105頁は、有罪としたが、大阪高判平成21・10・8刑集65巻9号1635頁では、無罪とされ、最決平成23・12・19刑集65巻9号1380頁の上告棄却により無罪が確定した。最高裁判所は、「ソフトの提供者において、当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、その公開、提供を行い、実際に当該著作権侵害が行われた場合や、当該ソフトの性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で、提供者もそのことを認識、認容しながら同ソフトの公開、提供を行い、実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り、当該ソフトの公開、提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である」と判示した。

3.動画投稿等のサイト運営者の責任

 動画投稿サイト、掲示板等において違法配信がなされている場合、運営者は、情報発信者に対して発信のための手段を提供しており、仮に運営者がサービスを提供しなければ、著作物が世の中に広がることはなかったという関係にある。しかし、運営者がすべての情報をチェックすることは事実上不可能であり、運営者が常に責任を負うとなると、リスクが高すぎて、サービスを提供することができないということになってしまう。
 そこで、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任及び発信者情報の開示に関する法律、いわゆるプロバイダ責任制限法が制定されており、たとえば、動画投稿サイトにおいて、違法配信がなされた場合に、運営者が責任を負うのは、①情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたときか、②情報の流通を知っていた場合であって、その情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当
の理由があるときに限るとされている(プロバイダ責任制限法3条1項)。また、運営者が責任を負うのは、権利を侵害した情報の送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合に限られている。
 動画投稿サイトにおいて、違法配信がなされた場合に、被害者が発信者に対して、損害賠償請求をしようとしても、発信者の住所、氏名がわからなければ、訴訟を起こすことすらできない。そこで、プロバイダ責任制限法は、発信者情報の開示請求権を定め、①侵害情報の流通によって権利が侵害されたことが明らかであるときで、②発信者情報が損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときには、被害者は、発信者情報の開示を求めることができることが規定されている(プロバイダ責任制限法4条1項)。発信者情報として開示を求めることができる情報は、氏名または名称、住所、電話番号、メールアドレス、IPアドレス、携帯電話端末等の利用者識別符号、SIMカード識別番号、年月日および時刻である。サイトの運営者が氏名または名称、住所等の発信者情報を保有しておらず、IPアドレスがわかる場合には、IPアドレスの主体である電気通信事業者(いわゆる経由プロバイダ)に対しても、発信者情報の開示を請求することができる(最判平成22・4・8民集64巻3号676頁)。

4.インターネット上での違法配信を発見した場合の対処

 インターネット上での違法配信を発見した場合、配信自体の差止めと損害賠償、刑事責任の追及をすることが考えられる。
 まず、ウェブサイトにおいて、著作物が違法配信されている場合には、ドメイン名またはIPアドレスからウェブサイトの運営者を特定し、サイトの運営者に対し、違法配信の停止を求める。サイトの運営者自身が発信者である場合を除き、サイトの運営者は、前述のとおり、情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき、または情報の流通を知っていた場合で、情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ、損害賠償責任を負わない(プロバイダ責任制限法3条1項)。しかし、サイトの運営者は、違法配信の停止を求められることにより、著作権の侵害を知ることになるため、自らが損害賠償責任を負うことを避けるためには、違法配信を停止することが必要となる。
 また、インターネット上で違法配信がなされた場合には、サイトの運営者に対して、発信者情報の開示を求めることもできる。違法配信の停止、発信者情報の開示にあたっては、一般社団法人テレコムサービス協会が書式を公表しており(同ウェブサイトに掲載されているプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会「プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン」〈https://www.telesa.or.jp/wp-content/uploads/provider_hguideline_20200909.pdf 〉21頁*に掲載がある)、その書式に従うことが便利である(なお、発信者特定の手続については、Q57も参照)。
 P2Pにより違法配信がなされている場合には、専用のソフトウェアを使用して、発信者のIPアドレスを特定する必要がある。IPアドレスが特定できた場合の発信者情報開示請求については、上記と同様であるが、特定方法の信頼性が問題になり得る。テレコムサービス協会は、特定方法の信頼性が認められるシステムについて認定制度を設けている。
 以上のような方法により発信者が特定できた場合には、著作権または著作隣接権侵害を理由として、差止めおよび損害賠償を請求していくことになる。また、著作権および著作隣接権を侵害する罪について、刑事処分を求めていくことも考えられる。

執筆者:横山経通

*以下リンクに更新(2023年10月時点)
https://www.isplaw.jp/vc-files/isplaw/provider_hguideline_20220831.pdf


東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」
アーティスト等の持続的な活動をサポートし、新たな活動につなげていくため、2023年10月に総合オープンしました。オンラインを中心に、弁護士や税理士といった外部の専門家等と連携しながら、相談窓口、情報提供、スクールの3つの機能によりアーティストや芸術文化の担い手を総合的にサポートします。
公式ウェブサイト https://artnoto.jp