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Q50 パブリックライセンス

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 自分のつくった音楽作品を多くの人に自由に利用してほしいと考えた場合、商業利用を防止しつつ利用を促進するための方法は何か。

Point

① パブリックライセンスとは
② CCライセンスとは
③ CCライセンスの種類
④ CCライセンス付与時の注意点
⑤ その他の手法


Answer

1.パブリックライセンスとは

 自己の作品を他者に利用してもらう方法としては、個別に許諾を与える方法のほか、特に音楽作品などの場合には集中管理団体に管理を委託して行う方法などが考えられるが、個別に許諾を与える場合、手間がかかるうえ、多くの人に作品を利用してもらうこと自体が困難となる。他方、集中管理団体に管理を委託した場合には、広く利用がなされる可能性は高まるものの、権利者自らが利用形態等にさまざまな条件を設定することは困難となる。そこで、一定のルールの下でより多くの人に自由に作品を利用してもらうための意思表示として、パブリックライセンスというしくみが活用されている。
 パブリックライセンスとは、一定のルールの下であれば自己の作品を自由に利用してかまわない、という利用許諾の意思表示を、広く一般公衆に向けて行うためのツールであり、さまざまなライセンスが存在している。中でも、特に音楽や写真、文学、映画、学術研究などの創作物に関する分野では、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(以下、「CCライセンス」という)が広く活用されている。

2.CCライセンスとは

 CCライセンスは、作品の利用と流通を図る目的で230の国と地域において活用されているライセンスシステムであり、日本では特定非営利活動法人コモンスフィアが「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」の名称で、主に日本国内における普及活動等を行っている。
 その利用は、インターネットの普及とともに年々増加し、現在ではさまざまな分野で広く活用されており、CCライセンスが付与された作品は、令和元年12月の時点で、全世界で約20億件に上るものとされている。また、日本では、文化庁においても公式にCCライセンスを支援する旨を発表し、官公庁のウェブサイトなどでも一部CCライセンスが活用されている。

3.CCライセンスの種類

 CCライセンスには、①作品のクレジット(作品名や著作者名など)の表示を求める「BY(表示)」、②非営利目的での利用を求める「NC(非営利)」、③元の作品の改変を禁止する「ND(改変禁止)」、④元の作品と同一のライセンス条件での公開を求める「SA(継承)」の条件が用意されている。
 そして、この4つの条件の組合せによって、以下の6種類のライセンス形態を利用することができるよう設計されている。
 ⓐ 「BY(表示)」
   作品のクレジット(作品名や著作者名など)を表示することを主な条件
  とし、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可される最も自由度
  の高いCCライセンス。
 ⓑ「BY SA(表示-継承)」
   作品のクレジット(作品名や著作者名など)を表示し、改変した場合に
  は元の作品と同じCCライセンス(このライセンス)で公開することを主な
  条件に、営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス。
 ⓒ「BY ND(表示-改変禁止)」 
   作品のクレジット(作品名や著作者名など)を表示し、かつ元の作品
  を改変しないことを主な条件に、営利目的での利用(転載、コピー、共
  有)が行えるCCライセンス。
 ⓓ「BY NC(表示-非営利)」
   作品のクレジット(作品名や著作者名など)を表示し、かつ非営利目
  的であることを主な条件に、改変したり再配布したりすることができる
  CCライセンス。
 ⓔ「BY NC SA(表示-非営利-継承)」
   作品のクレジット(作品名や著作者名など)を表示し、かつ非営利目
  的に限り、また改変を行った際には元の作品と同じ組合せのCCライセン
  スで公開することを主な条件に、改変したり再配布したりすることがで
  きるCCライセンス。
 ⓕ「BY NC ND(表示-非営利-改変禁止)」
   作品のクレジット(作品名や著作者名など)を表示し、かつ非営利目的
  であり、そして元の作品を改変しないことを主な条件に、作品を自由に
  再配布できるCCライセンス。
 以上のほか、CC0(シー・シー・ゼロ)という、権利者が自己の作品をパブリックドメインで提供し、著作権法上の制約などを一切課さずに自由な利用を促すためのライセンスも、別途用意されている。

4.CCライセンスの利用方法

 CCライセンスは、法律の知識等がなくても非常に簡単に作品へ付与することが可能である。具体的には、「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」のウェブサイト(〈https://creativecommons.jp/〉)にある「CCライセンス付与」というメニュー上で、2つの質問に答え、フォームに作品情報を入力するだけで、ライセンスの「コード」が表示されるので、これをコピーして作品に貼り付ければ、CCライセンスの付与が終了する。
 また、たとえば音楽作品については、YouTubeやSoundCloudなど、一部のプラットフォームにおいては、作品をアップロードする際にライセンスを選択する項目があり、その中でCCライセンスを選択することで、容易にライセンスを付与して作品を公開することができる。

5.CCライセンス付与上の注意点

 CCライセンスが付与された作品であっても、提示されたライセンス条件をすべての利用者が遵守することは何らも保証されていない。そのため、たとえば非営利との条件を付していたにもかかわらず商用利用されてしまうなど、ライセンス条件に違反して作品が利用されてしまうおそれは常に存在し、またそのような違反者に対しては、自ら対処しなければならない。
 また、作品に対する各種の権利をすべて自身が有している場合には、自由にCCライセンスを付与することが可能であるが、当該作品に対して、第三者の有する著作権や著作隣接権(特に音楽作品の場合には、実演家やレコード製作者の権利)などの権利も存在する場合には、ライセンスの付与に際して、当該第三者から事前に許諾を得ておく必要がある。
 なお、当該作品に関する権利をJASRACなどの集中管理団体に管理委託している場合にも、当該団体との管理委託契約上、委託者において自由にライセンスを付与することはできないものと考えられているため、注意が必要となる。
 そのほか、CCライセンスの4つの条件のうち、「NC(非営利)」の条件に関しては、どこまでが非営利目的であり、どこからが営利目的の利用となるか、その境界が明確に定められているわけではない。そのため、ライセンス付与者の意図と、当該作品の利用者の意図との間で齟齬が生じてしまう可能性があり、この点についても注意が必要となる。

6.音楽作品の利用に関する他の手法

 ⑴ ニコニ・コモンズ
 
ニコニ・コモンズは、主にニコニコ動画等の動画共有サイトにおける利用のために設けられているライセンスであり、自己の作品の利用を希望する者は、利用条件を選択したうえで、ライブラリーに登録することで、他者による利用を認めることができる。
 営利目的での利用を許すか否か(営利・非営利を固定した条件のほか、営利目的で利用を希望する場合個別の許可が必要であることを明示する旨の条件などもある)に加え、対応サイト(ニコニコ動画など)での利用に限るか、あるいはインターネット全体での利用を許可するか否かも選択することができる。
 ⑵ 自ら公認を与える
 
一定のルール(たとえば非営利など)を守るのであれば作品の自由な利用を認める旨を自ら宣言し、利用を推奨する、とのアプローチも考えられる。コロナ禍の中で星野源氏が公開した楽曲「うちで踊ろう」について、コラボレーションを推奨し多数の反響があり大きな話題となったことは記憶に新しい。また音楽以外のコンテンツにおいても、たとえば任天堂株式会社がガイドラインを策定公表して著作物の利用・収益化を一定の範囲で認めたケースや、スタジオジブリがさまざまな作品の場面写真の画像を、常識の範囲で自由に使用することを認めたケースなどは、それぞれ大きな反響があった。
 また、上記のほか、事後的に、問題のない利用行為に関して、第三者にわかる形でのマーク付与などにより、いわば公認するなどの対応も考えられる。
 ただし、いずれの場合にも、他の手法と同様に問題ある利用者に対しては、個別に権利行使等により対処する必要が生ずる。
 ⑶ コンテンツIDプログラムの活用
 
YouTubeにおいて実践されている「コンテンツIDプログラム」を活用し、事後的に、作品の削除を求めるか、あるいは、収益化や統計情報の取得のため作品の利用を認めるかを選択するとの対応も考えられる。

執筆者:川野智弘


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