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Q20 AI、動物による創作物

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 AIの創作による楽曲、小説等は勝手に使ってよいのか。また、動物が撮影したという触れ込みの写真は勝手にウェブサイトに転載してよいのか。

Point

①    AIによる創作物の保護
②    AIによる創作物の著作者
③    動物による創作物の保護
④    動物による創作物の著作者


Answer

1.AIによる創作

 AI(人工知能)の進化は、人間が設定した特徴に基づく分析から、AIによる特徴抽出・分析の段階を経て、AIによる創作に至ると予想されている。このうち、AIによる創作については、音楽や絵画など比較的パターン化しやすい創作物から順に、人間の具体的な指示なしにAIが創作物を生み出すことができる状態に至っている。
 音楽の分野では、スペインのマラガ大学が開発した、作曲をするAI「ラムス(lamus)」は、アルゴリズムによりわずか8分で楽曲を自ら作成するとされている。ラムスが作曲した楽曲は、すでに、オーケストラによって演奏され、それを収録したCDや音源が販売もされている。オーケストラが受け取った楽譜はコンピュータから生成されたままであり、人手は介在していなかったといわれている。絵画の分野では、米Microsoft、オランダのデルフト工科大学などの共同チームによるプロジェクト「The Next Rembrandt」が著名である。これは、17世紀のオランダを代表する画家レンブラントの画風と特徴を機械学習させたAIに3Dプリンタを使ってレンブラント風絵画の新作」を描かせるというもので、実現に約1年半を要したとされる。具体的には、レンブラントが描いた全346作品を3Dスキャンし、高解像度化した画像データを分析、ディープラーニングのアルゴリズムを用いて、絵画の主題や構図、服装の特徴、性別・年齢などを学習させたとされる。言語の分野は音楽や絵画に比べて、AIによる創作は難しいとされてきたが、公立はこだて未来大学によるプロジェクトでは、作家星新一氏のショートショート作品を解析し、AIに面白いショートショートを創作させることをめざした。同プロジェクトの作品は第3回星新一賞の一次審査を通過したものの、人間による手直しが相当必要だったともいわれている。

2.AIによる創作への関与の態様

 AIによる創作と一口にいっても、上述の音楽や絵画のように、AIが主体的にコンテンツを生み出すに至っている分野もあれば、小説のように、依然として人間の関与が必要になる分野もあり、その態様はさまざまである。
 現在、AIによる創作物は、主に知的財産権法による保護対象となり得るか否かの観点から、AIの創作への関与の程度により、〔図〕のように分類されている。
 すなわち、「AIを道具として利用した創作」と「AIによる創作」である。
前者は、あくまで創作主体は人間であり、創作の意図をもつ人間が、創作的寄与を行って生み出す創作であり、AIは人間の創作を助ける道具にとどまる。後者は、人間からAIに対する「○○をつくって」という働きかけは行うものの、働きかけの後は、人間による寄与は予定されておらず、AI自身が主体的に創作していくことが想定されている。
 では、このAIによる関与の差異が、知的財産権法による保護にどのように影響するのだろうか。

3.著作権法の保護

 コンテンツの保護は、通常は、著作権法に依拠するので、本問では、著作権法の保護について検討する。
 著作権法では、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(同法2条1項1号)と定義されている。そして、著作者とは「著作物を創作する者をいう」(同2号)と定義されている。
「AIを道具として利用した創作」については、一般的な創作と変わらず、創作性が認められれば、著作物として保護される。
 他方、「AIによる創作」については、人工知能であるAIはそもそも思想や感情をもち得ないはずであるから、一見、人間と類似した「創作」活動の成果を生み出したとしても、それは「思想又は感情を創作的に表現した」とはいえず、著作物としての保護は受けられない、とする見解が強い。

4.「AIを道具として利用した創作」といえるためには

 「AIを道具として利用した創作」といえるためには、以下の条件を充足する必要があるとされている。まず、思想または感情をAIのコンピュータ・システムを使用してある結果物として表現しようとする創作意図が必要である。ただし、この創作意図は、具体的な結果物の態様についてあらかじめ確定的な意図を有することまでは要求されず、当初の段階では「AIを使用して自らの個性の表れとみられる何らかの表現を有する結果物をつくる」という程度の意図があれば足りるものと考えられている。次に、創作過程において、人間が具体的な結果物を得るための創作的寄与と認めるに足りる行為を行ったことが必要である。問題は、どのような行為を行えば創作的寄与と認められるかである。たとえば、AIによる機械翻訳は日々能力が向上している分野であるが、自然な文章とするにはまだまだ人間の編集・確認作業が欠かせない。この編集・確認の段階で、作業を担当した人間の創作的寄与が認められると考えられる。また、AIが自動的に作曲した多数の楽曲から、楽曲を使用する場面に応じた最適な曲を選択し、編曲を加える場合は、選択・編曲の段階で、作業を担当した人間の創作的寄与が認められると考えられる。このように創作的寄与が認められるか否かは、コンテンツの種類や性質、創作の態様に応じて異なってくる部分であり、最終的には、個々の事例に応じて判断せざるを得ない。
 なお、結果物が客観的に思想感情の創作的表現と評価されるに足る外形を備えていることが必要であるが、この点については、AIを使用した創作物であっても、AIを使用しない創作物であっても変わるものではないため、現実に、「AIを道具として利用した創作」といえるためには、創作意図と創作的寄与の検討が必要である。

5.「AIによる創作」の保護は不要か

 音楽や絵画の分野において、「AIによる創作」が現実のものとなりつつある現実を踏まえ、「AIによる創作」の著作権法による保護を一律否定することの是非が、議論されている。一律否定する場合、完全な自由利用が可能となるため、価値のあるAI創作物が生成されても一切保護が及ばず、第三者によるフリーライドが野放図になされることになる。他方で、当然のことだが、AIを構成するプログラムが、人間の関与なしに、自動的に誕生するわけではない。現状、AIの開発には、超巨大企業が、しのぎを削って、多額のコストと多数の人員をつぎ込んでいるのは誰もが知るところである。その結果としてこの世に誕生したAIによって生み出された「AIによる創作」が一律保護されないのでは、AIを開発するインセンティブが失われるだろう。逆に、保護を受けたいと考える者は、創作過程においてAIの関与を減らし人手をかけることになり、AIの利活用が進まなくなる可能性が高い。
 また、「AIを道具として利用した創作」と「AIによる創作」は、成果物だけでは見分けがつかない場合が多い。コンテンツがいかにすばらしいものであっても、「AIによる創作」であるというだけの理由で保護されないのであれば、保護を受けたいと考える者は、見分けがつかないのをよいことに、意図的に「AIによる創作」であることを隠して、流通等させることが予想される。音楽作曲AIのラムスがわずか8分で作曲をすることからもわかるように、「AIによる創作」は、人間が関与する場合と比べて、圧倒的なスピードで、かつ、大量にコンテンツを生み出すことが想定されている。その結果、一見、著作物として保護されるようにみえて、実は保護されていないコンテンツが爆発的に増加し、蔓延することになる。そうすると、人間が新なコンテンツを生み出そうとしても、すでに世間に存在している「AIによる創作」と類似してしまう等の理由で不要な萎縮を強いられかねないリスクが指摘されている。
 それでは、法律を改正して、「AIによる創作」についても著作物としての保護を与えるべきだろうか。この場合は、著作物として保護されている大量のコンテンツが爆発的に増加するため、まさに、人間が新たなコンテンツを生み出そうとしても、すでに世間に存在している「AIによる創作」と類似してしまう等の理由で萎縮してしまうリスクがある。
 加えて、著作物としての保護を与えるといっても、AIが権利主体になり得ない以上、関与する人間のいずれかを権利主体としなければならない、という問題がつきまとう。権利の主体の候補としては、①AIプログラムの開発者、②AIの学習用データの提供者、③AIに対し創作の意図をもって指示した者、が考えられる。①、②は、AIの創作の過程に深く関与する者であり、その生成物に対して一定の創作的寄与があると考えられるが、AIの創作物に係る権利の主体と考えることが適当かどうか、という問題がある。③は、創作の過程に関与している側面と、創作ができる環境に対して投資をしたという側面をいかにするかが問題となる。
 また、著作物としての保護を与えようとする場合、どのような条件を充足すれば権利を付与し、また、権利内容をどのように設定するかも重要になってくる。
 さらに、「AIを道具として利用した創作」と「AIによる創作」は、成果物だけでは見分けがつかない特有の事情に起因する問題もある。仮に「AIによる創作」について登録させる等の方式主義を採用する場合、登録主体の善意に任せておくだけでは、「AIによる創作」であることを公にせず、より簡易な手続である無方式主義による保護対象であるようにみせかける行為が防げないのではないか、という懸念がある。

6.動物による創作

 動物による創作については、AIと同じく、思想または感情が認められず、また、法律上の権利主体とはなり得ないことから、著作物としての保護は受けられないと考えられている。動物が法律上の権利主体として認められるかに関連する裁判例としては、動物を原告とした訴訟であるアマミノクロウサギ訴訟が知られている。この裁判は、平成7年(1995年)2月23日、奄美大島でのゴルフ場建設に反対する住民たちが、林地開発許可処分の取消しなどを求めて鹿児島地方裁判所に提訴したもので、動物たち(アマミノクロウサギ・オオトラツグミ・アマミヤマシギ・ルリカケス)を原告にしたことで非常に注目されたものの、原告適格は認められなかった。
 また、海外では、動物によって撮影された写真について、カメラの所有者が権利を主張した裁判例がある。写真家が撮影に使用していたカメラを、野生のクロザルが偶然、シャッターを押す操作をした結果、「自撮り写真」が撮れてしまったという事案である。撮影された写真があまりにすばらしかったため、誰に著作権があるかが問題になった。クロザルが自撮りした写真を含んだ写真集を、カメラの所有者であるカメラマンが出版したのに対し、動物愛護団体が「著作者はカメラを操作したクロザルである」として、写真家と出版社を相手に訴訟を提起したという事案である。この事案で米国の裁判所は、クロザルの権利を否定している。

執筆者:中崎 尚


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