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Q4 ゲームのキャラクター

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 ソーシャルゲームで既存の第三者のコンテンツのキャラクターを利用するときの注意点は何か。海外展開時はどうか。また、歴史上の人物をキャラクター化するときの注意点はどうか。

Point

① 既存の第三者のコンテンツの利用
② 歴史上の人物のキャラクター化
③ 海外展開時の留意事項


Answer

1.アニメ・漫画コンテンツのソーシャルゲーム化

 アニメ・漫画コンテンツのソーシャルゲーム化には、2つのパターンがある。1つは、従来の家庭用ゲーム機と同じく、当該コンテンツのタイトルを冠したゲーム化であり、もう1つはソーシャルゲーム特有の事象である、既存のソーシャルゲームとのコラボレーション企画である。
 前者は、アニメ・漫画の世界観をソーシャルゲームの舞台に反映させるべく、キャラクターをそのまま取り込むのに対し、後者では、キャラクターを取り込む場合もあれば、既存のソーシャルゲーム内のキャラクターに、コラボレーション先のコンテンツのキャラクターのコスプレをさせる場合もある。スマートフォンの限られた画面サイズなどの技術的制約に合わせた変更や、ゲームの内容に合わせたアレンジがなされることも多い。
 近年の特徴として、海外で日本のアニメ・漫画コンテンツの人気が高いこと、海外でもソーシャルゲームが人気になっていることから、日本のコンテンツの海外でのソーシャルゲーム化の事例も増加している。

2.ソーシャルゲーム化に関連する契約

 アニメ・漫画のコンテンツのうち、どの部分をゲームに利用するかで、ゲーム化に関連する契約も異なってくる。タイトルはもちろん、キャラクターの絵も不可欠であるが、背景美術等は流用されない場合も多い。キャラクターボイスについては、新たに収録するのが通常である。本問では、このうち、キャラクターに焦点をあてて検討する。
 アニメ・漫画のキャラクターは、美術または映画の著作物として著作権法により保護されるので第三者は無断で利用することはできない。したがって、これらをソーシャルゲーム内で利用しようとする場合には、著作権を有する者から複製等の許諾を得る必要があり、これは家庭用ゲーム機でもソーシャルゲームでも変わらない。その場合に締結されるのが、「商品化契約」または「キャラクター商品化ライセンス契約」である。
 ゲーム化に際して許諾を受ける必要がある権利として、典型的には複製権、翻案権、公衆送信(可能化)権、同一性保持権等があげられる。とりわけ、スマートフォンゲームでは、限られたピクセルでキャラクターを再現する必要があり、元絵に似せることが技術的に困難な場合も少なくない。このため、翻案権の許諾を受けること、元の著作者から同一性保持権を行使しないことの確約を受けることが重要になってくる。
 また、許諾を受ける範囲については、家庭用ゲーム機や携帯キャリアやソーシャルゲームのプラットフォーム等に合わせたプラットフォーム別、デバイス別、国と地域の範囲を明確にしておく必要がある。

3.誰を当事者とすべきか

 アニメ・漫画コンテンツの権利者から許諾を受けようとする場合、意外に見落としがちなのが、誰が権利者であるのかをどのように調査し確定するか、という点である。
 ⑴ 漫画著作権者からの許諾
 国内で放送されているテレビアニメの中には、完全オリジナルのアニメもあるものの、多くはライトノベルや漫画を原作とする原作付きアニメである。日本の著作権法では、原著作者は直接の著作物だけではなく、「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作された著作物」(二次的著作物)についても、権利を有する。二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する、と定められているためである(著作権法28条)。漫画原作のアニメをゲーム化する場合は、漫画が原著作物、アニメが二次的著作物に該当することから、漫画の著作者が引き続き著作権を保有している限りは、アニメの著作権者だけでなく、漫画の著作権者からも許諾を得る必要がある。
 実際に、日本国内で原著権者の許諾が得られず、漫画が絶版、アニメも放送不可という事態に陥ったケースがある。ある連載漫画Pは、①原作者Xが各回ごとの具体的なストーリーを創作し、小説形式の原稿化、②漫画家Yは原稿からネームを作成、③ネームに基づき漫画家Yが下書きおよびペン入れを行い、漫画を完成させる制作手順がとられていた。このような手順で漫画連載が続いていたところ、Yが、上記制作手順によらずに、主人公を別途描いた原画を作成し、Xとの合意によることなく、同絵を原画とするリトグラフおよび絵はがきの作成を広告会社に許諾し販売させようとした。そこでXは、本件漫画の特定のコマおよび本件連載漫画の連載中にYが作成し連載漫画雑誌の表紙に掲載された主人公を描いた表紙絵について、Xが共同著作物の著作者の権利または本件連載漫画を二次的著作物としその原作を原著作物とする原著作者の権利を有することの確認を求めるとともに、右権利に基づいてリトグラフおよび絵はがきの原画の作成、複製、頒布の差止めを請求した。最高裁判所は、「本件連載漫画はX作成の原稿を原著作物とする二次的著作物であるということができるから、Xは本件連載漫画について原著作者の権利を有するものというべきである。そして、二次的著作物である本件連載漫画の利用に関し、原著作物の著作者であるXは本件連載漫画のYが有するものと同一の種類の権利を専有しYの権利とXの権利とが併存することになるのであるから、Yの権利はXの合意によらなければ行使することができないと解される。したがって、Xは、Yが本件連載漫画の主人公‥‥‥を描いた本件原画を合意によることなく作成し、複製し、又は配布することの差止めを求めることができるというべきである」とし、原作を創作したストーリー作家の権利が連載漫画の主人公を別途描いた原画にまで及ぶことを初めて明示した(東京地判平成14・5・30裁判所ウェブサイト(平成11年(ワ)20392号))。これは、ソーシャルゲームの事例でいえば、ゲームに使おうとしているキャラクターの絵が、原作漫画にないようなコスチュームやポーズであり、つまり、対応する絵が原作に存在しない場合であっても、原著作権者の許諾を得る必要があることを意味している。
 実際に、原著作権者の存在を含め、ゲーム化を行おうとする事業者が、権利関係に問題がないことを確認するためには、①アニメの権利者が誰かを確認し、その許諾を得るとともに、②アニメに係る原著作権の取扱いを確認し、原著作権者の許諾を得る必要がある。①の段階では、アニメの権利者の確定に際して、いわゆる製作委員会方式の場合もあれば、誰がアニメに関する交渉窓口となる権利(窓口権)を有しているのかを確認する必要がある。②の段階では、原著作権がどのような取扱いになっているのか、原著作権者の意向を確認するのが難しい場合がある。とりわけ漫画家の意向を確認する必要がある場合、直接の交渉相手ではない漫画家にコンタクトをとるのは難しく、窓口権の担当事業者や出版社を経由せざるを得ない場合が多いが、現実問題として、そのルートすら機能しない場合もあるため、注意が必要である。
 ⑵ 権利の所在の確認
 漫画を直接ソーシャルゲーム化する場合は、原著作権者の問題は生じないが、著作権者としての漫画家の許諾を受ける必要がある。漫画家によっては権利管理会社を設けてそこで著作権管理を行っている場合もあるので、確認が必要である。また、漫画家は著作者として、著作権とは別に、自分の創作した著作物に対する人格的な利益を保護するための著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)を有する。著作者人格権は著作権と異なり、他人に譲渡することができないため、著作権だけが漫画家から第三者に譲渡され、著作者人格権が漫画家に留保されている事態があり得る。この場合に、漫画から著作権を譲り受けた第三者から許諾を受けて、ゲームを制作していた場合、その改変内容が漫画家の意に沿わないものとして、漫画家から同一性保持権に基づいて、差止請求・損害賠償請求を受ける可能性もある。そのような事態が起きないよう、著作権者の許諾を得るだけでなく、漫画家にも監修を依頼する、著作者人格権の不行使を約束してもらう等の手当てをすべきである。
 漫画家は個人なので、法人と異なり死亡する可能性がある。実際、近年、若くして夭折する漫画家も少なくない。著作者人格権は相続されないものの、著作者の死亡後においても、著作物の利用者は著作者が生きていたならば著作者人格権の侵害になるような行為はしてはならない(著作権法60条)。そして、死亡した著作者の遺族は、著作者が生きていたならば著作者人格権の侵害になるような行為に対して、差止め、損害賠償や名誉回復の措置を求めることができる(同法116条、民法709条)。したがって、漫画家の死亡後も、生前と同様の注意が必要なことには変わりない。

4.歴史上の人物のソーシャルゲーム化

 近年のソーシャルゲームの特徴として、大量のキャラクターを揃えるために、歴史上の人物をソーシャルゲームに取り込む事例が多くみられる。歴史上の人物は、既存のコンテンツのキャラクターと同程度あるいはそれ以上の知名度を有している反面、既存のコンテンツのキャラクターとは異なり、著作権によって保護されていないため、著作権法との関係では許諾なしに利用できるという大きなメリットがあることがその理由である。
 他方で、歴史上の人物をゲーム化するに際して、参考資料として、後世につくられた人物画や小説、ドラマの映像を収集することは少なくない。それらの収集した資料から、意図せずして少なからぬ影響を受けてしまう事態もありうる。それらの人物画や小説、ドラマは、他人の創作物であり、保護期間を経過していない限り、著作権によって保護されている可能性が十分にある。そのため、これらに依拠することは、第三者のコンテンツに依拠することにほかならないから、著作権侵害に該当する可能性がある。資料として収集した場合でも、それらの資料に安易に依拠することのないよう、明確な方針の下にゲーム化を進める必要がある。

5.海外展開時の留意事項

 海外展開時、コンテンツの内容によっては、現地の文化的特徴・宗教的特徴から、そのままでは現地で広く受け入れてもらうことが難しいと予測される場合や、あるいは、より広範囲のユーザーを獲得すべくマーケティングの観点から、キャラクターの設定や画像を改変する必要に迫られる事態も想定される。ソーシャルゲームではないが、アーケードのいわゆる格闘ゲームがブームで日本国外のさまざまな国に輸出されていた当時、国内の人気キャラクターの名前や設定が変更されていた事例は数多い。ソーシャルゲームでも同様の対応が必要となる事態を想定して、権利者との契約において、その対応について手当てすることも検討すべきである。実務では、とりわけ原著作者あるいは原著作権者にどのように説明し、納得してもらうかが重要になってくるだろう。

執筆者:中崎 尚


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