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Q39 広告制作契約

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 会社の新サービスの宣伝のために、広告代理店に依頼してテレビCMを制作することを検討しているが、作成された広告の著作権は誰のものになるか。また、広告代理店との契約においてどのようなことに注意が必要か。

Point

① 広告制作過程の実際
② 広告の著作権の帰属
③ 広告主と広告代理店との契約関係
④ 広告代理店と制作会社との契約関係


Answer

1.広告制作過程

 今日では、新聞の折込広告・チラシ、テレビCMなどに加え、インターネット上の静止画・動画による広告、鉄道車両内や街角のディスプレイ画面を通じて流される映像による広告など、その形態、媒体ともに、文字どおり多種多様な広告が登場している。
 広告が制作される過程においては、伝統的に、広告代理店が大きな役割を果たしてきた。広告代理店は、広告主の依頼を受けて、広告主からみた広告制作の窓口的な役割を果たすと同時に、広告の制作、新聞社・テレビ局といった広告媒体との交渉・調整も担当する。もっとも、広告の制作に関しては、実際の制作作業は、他者(制作会社)に委託して(あるいはそこからさらに再委託して)行われることも多い。このように、広告の制作過程には、多数の当事者が関与している。
 広告の内容を構成する要素についても、複数の当事者が関与することが多い。すなわち、映像、音楽等も含め、その広告のために新たに創作されたすべてオリジナルの素材が使用される場合もあれば、既存の音楽が使用されたり、広告の全体あるいは一部に、他の業者から、あらかじめ用意されている写真等の素材の提供を受けて制作される場合もある。後者のような場合、最終的に完成した広告について関与する当事者が複数になることが多く、誰にどのような著作権が成立しているのか、一般的汎用的な基準を示すことが難しい。

2.広告に係る著作権の帰属

 前記1で述べたように、広告の制作に関しては、制作作業のみならず、広告内容の面からも多数の当事者が関与し、その結果、権利関係が錯綜することが多い。広告の著作権の帰属に関しても、大別すると、費用を負担する広告主であるとする立場、制作窓口となる広告代理店であるとの立場、制作実作業を行う制作会社であるとの立場が表明されてきた。このような中、平成4年、全日本CM協議会(現・一般社団法人ACC)が「CM(映像広告)の使用について」を公表した(いわゆる「ACCルール」)。ここでは、テレビCMの著作権者を特定することは現時点では困難であるとしたうえで、広告制作に携わる広告主、広告会社(広告代理店)、制作会社の3者間の取引にまつわる問題への対処をめざすこととされている。具体的には、広告主によるテレビCMの利用を他の2者が妨げないこと、他方で、広告主は、当該テレビCMの改訂や複製については、当初発注した広告代理店や制作会社を優先すること、音楽、出演者等の権利に十分に留意することである(以上につき、金井重彦=龍村全編著『エンターテインメント法』409頁以下が詳しい)。
 このように、テレビCMの著作権については、いわば「棚上げ」とされたが、平成24年、著作権の帰属主体を広告主であるとした判決が出された。すなわち、知財高判平成24・10・25裁判所ウェブサイト(平成24年(ネ)10008号)は、この事件で問題になったテレビCM(ケーズデンキおよびブルボンのCM)について、映画の著作物(著作権法10条1項7号)であるとしたうえで、この事件において映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者(同法16条)を著作者と認定し、映画の著作物に係る著作権の帰属主体について、映画製作者(同法2条1項10号)に帰属すると規定する著作権法29条1項を引用して、このテレビCMの著作権帰属主体は、広告主であるケーズデンキおよびブルボンであると判示した。
 では、この判決により、少なくともテレビCMの著作権の帰属問題が解決したかというと、そうともいいきれない。上記判決の事案は、テレビCMが映画の著作物とされたために、著作権を映画製作者に集中させる上記著作権法上の原則から著作権者が特定されたが、音楽は別扱いであるし(著作権法16条)、テレビCMの表現は多様であり、常に映画の著作物に該当するかは不分明ともいえ、テレビCMに関する著作権の帰属の問題がすべて解消したと考えることができるかについては、なお慎重に検討すべきように思われる。
 また、テレビCMのような動画以外の広告については、やはり権利関係が同様に錯綜しているところ、映画の著作物のような帰属主体に関する規定がないため、著作権の帰属に関してもケースバイケースで判断せざるを得ないように思われる。場合によって、複数の当事者の共同著作物(著作権法2条1項12号)であるとされる場合も考えられる。
 なお、広告に出演するタレント等の肖像権・パブリシティ権の問題や、広告に使用される既存の音楽や映像などの「素材」に含まれる著作権については、別個の問題として検討する必要があることには留意されたい。

3.広告主と広告代理店との契約関係

 広告をめぐる著作権の帰属が一義的に決まらないのであれば、契約によって当事者間で取り決めることが重要となる。
 この点、広告主からすれば、自社が費用を負担して自社商品等の広告をするわけであるから、その広告の著作権も自社に帰属させたいと考えることが多いであろう。
 しかし、実際には制作会社に制作を委託する場合や、他の業者から写真等の素材(ストックフォト、レンタルポジ、レンタルフォトなどとよばれる)の提供を受けたり、既存の音楽を使用したりする場合であれば、こうした制作会社等が著作権者となることも考えられる。また、タレントを起用する場合であれば、そのタレントとの契約上、通常は期間や媒体を限定しての起用となることが多い。このような事情から、広告代理店の立場からは、上記裁判例のように広告主が著作権者と考えることができる場合を除いて、著作権譲渡には慎重にならざるを得ない。
 他方で、広告は、広告主と広告代理店との協議等を通じて制作されていくため、当初の段階では、どのような内容の広告が完成するのか、完全に予想できるとは限らないという側面もある。
 そこで、広告に係る著作権の帰属をどのようにするか、広告主と広告代理店との間の契約において、著作権に関する定めを整備しておくことが重要な意味をもつ(もちろん、広告の制作に先立って契約が締結されることが前提である)。
 具体的には、著作権譲渡を行う場合であれば、その旨を明記しておく。同時に、譲渡者の元に残る著作者人格権の不行使を定めることも多い。なお、上記のように、「素材」を含めて多数の著作権が観念しうる場合、広告代理店から著作権譲渡を受けるだけでは不十分であるが、こうした手続の煩雑さや、対価増大の可能性も考慮すれば、必ずしも譲渡を受けることが広告主に有利であるとは限らない。
 著作権譲渡を前提としない場合、広告主と広告代理店との間の契約は、通常、制作される広告に関する使用許諾が中心となる。許諾に際しては、当該広告が使用される期間、媒体、配布(放送・配信)範囲、使用回数といった事項を定める。そのほかにも、当該広告の付随的・周辺的な使用法(自社ウェブサイトへの掲載、報道機関等への資料提供など)といった事項についても、必要に応じて規定しておく必要がある。
 このほかに、広告主の立場に立てば、その広告が第三者の著作権等を侵害しないことなどに関する表明保証が必要となる場合もある。

4.広告代理店と制作会社との契約関係

 制作会社の立場からは、自社が制作した広告であれば、著作権は自社にとどめておきたいと考えるであろうし、仮に譲渡する場合は、相応の対価を得たいと考えるであろう。
 広告代理店の立場からすれば、いずれにしても、広告主の意向に沿って広告(の原版)が利用できるかどうかが重要である。広告主が想定する広告方法に沿った権利処理がされていなければ、当該広告の利用に関し著作権侵害の問題が生じる可能性があるからである。
 そこで、広告代理店と制作会社との間においても、契約により著作権の帰属や許諾関係を明確にしておくことが重要である。
 具体的な契約の内容としては、前記3で述べた広告主と広告代理店との間の契約に類似するが、広告主の意向との間に齟齬がないように留意する必要がある。継続的に取引のある制作会社との契約であれば、あらかじめ基本契約を締結しておき、個別の案件ごとに異なる使用期間や媒体といった事項については、注文書・受書等による個別契約で対応することも考えられる。

5.その他契約関係

 これら以外に、前記3で述べた広告代理店や制作会社が行う写真等の素材利用に関しても契約が重要である。実務的には、契約書面ではなく、ウェブサイト等も利用した定型のフォームを利用した契約や、メール等のやりとりで済ませている例も多いと思われるが、ここにおいても、広告主の意向との間に齟齬がないように留意する必要がある。

執筆者:上村 剛


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