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Q41 スポーツに係る商品化契約

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 プロリーグ所属のスポーツ選手の氏名や肖像等を自社の商品に使用して販売したい。誰とどのような契約を締結すればよいか。

Point

① 商品化権の法的根拠
② 商品化権の帰属
③ 商品化契約の留意事項


Answer

1.商品化権の法的根拠

 ⑴ プロパティの商品化
 人気の高いアーティストやキャラクターのみならず、人気の高いスポーツでは、その顧客吸引力に着目し、スポーツに係るプロパティが商品化の対象となることがある。令和2年のプロ野球ファンの人口は2462万人、サッカーJリーグファンの人口は1098万人、Bリーグファンの人口は542万人に上り(マクロミルと三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる共同調査)、こうしたファンをターゲットとしたスポーツに係るプロパティの商品化はすでに広く行われている。
 アーティストの場合、所属事務所に商品化権を含む自らのプロパティを包括的に譲渡または利用許諾している場合が多く(たとえば芸名等に係る権利関係の詳細はQ27参照)、商品化権に係る交渉は当該所属事務所と行うことが多い。また、アニメ・漫画コンテンツの商品化については漫画著作権者等からの許諾が必要となることが多い(Q4参照)。これらに対し、
野球(セントラルリーグ、パシフィックリーグ)、サッカー(Jリーグ)、バスケットボール(Bリーグ)をはじめ、多くのプロスポーツは、リーグ制を採用し、①リーグ、②球団/クラブ、③選手という三者のプロパティがそれぞれ商品化の対象となることがあり、その権利の処理にも固有の問題があるため、本稿においてはスポーツに係るプロパティの商品化について説明を行う。
 プロ野球においては球団主導で日本職業野球連盟(現・公益財団法人日本野球連盟)が結成され、リーグ制が開始したという歴史的背景から相対的に球団の力が強く、JリーグおよびBリーグでは、リーグ構想が先行し、事前に定められたクラブの参加条件等を満たすクラブが選ばれて、リーグ制が開始したという歴史的背景から相対的にリーグの力が強いという関係にある。
 ⑵ 選手等のプロパティ
 スポーツ選手、監督、コーチ等の肖像、映像、似顔絵、氏名、愛称、声、サイン、背番号等は、顧客吸引力を有し、商品化の対象となることがある。これらのプロパティは、人格権の一種である、氏名を他人に冒用されない権利たる氏名権(最判昭和63・2・16民集42巻2号27頁〔NHK日本語読み事件〕)や、何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌等を撮影・公表されない権利たる肖像権(最判平成17・11・10民集59巻9号2428頁〔法廷内撮影事件〕)により保護されるほか、氏名、肖像等が商品の販売等を促進する顧客誘引力を有する場合に、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利たるパブリシティ権(最判平成24・2・2民集66巻2号89頁〔ピンク・レディ無断写真掲載事件〕)により、保護される。
 また、愛称等が商標登録され商標権が発生したり、似顔絵等のように創作行為により著作権が発生しているような場合には、商標法や著作権法によっても保護される。さらに、商品等表示として周知な他人の氏名等を使用して混同のおそれを生じさせたり、著名である他人の氏名等を使用することは、不正競争(不正競争防止法2条1項1号、2号)として、損害賠償や差止め等の対象となりうる。
 ⑶ 球団/クラブ、リーグのプロパティ
 球団/クラブの名称、ロゴ、エンブレム、マスコットキャラクター、フラッグ、ファンクラブの名称、スローガン等(以下、「マーク等」という)や、母体組織のマーク等が商品化の対象になることがあり、球団/クラブのマーク等は、著作権法や商標法、不正競争防止法によって保護される。
 リーグのマーク等や、リーグ主催の大会名等も商品化の対象となることがあり、その法的根拠は球団/クラブの場合と同様である。

2.選手等のプロパティの商品化権の帰属

 選手の肖像等は、人格権に由来する氏名権、肖像権およびパブリシティ権により保護されるため、その商品化権は本来選手個人に帰属するものの、下記のとおり、選手の氏名、肖像等の商品化権は、選手契約により、球団/クラブ等に使用許諾され、選手自身による商品化権は制限されている。
 ⑴ 野球選手のプロパティ等の商品化権の球団への帰属
 プロ野球選手は、所属球団と野球選手統一契約書による選手契約を締結しており、同契約書16条には、「球団が指示する場合、選手は写真、映画、テレビジョンに撮影されることを承諾する。なお、選手はこのような写真出演等にかんする肖像権、著作権等のすべてが球団に属し、また球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを使用しても、異議を申し立てないことを承認する。なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき、選手は適当な分配金を受けることができる」との定めがあり、球団は、当該規定を根拠として、所属選手の肖像等の商品化を行っている。
 野球選手らが、所属球団に対し、プロ野球ゲームソフトおよびプロ野球カードにつき、球団が選手の氏名および肖像の使用を許諾する権限を有しないことの確認を求めた事案において、知財高判平成20・2・25裁判所ウェブサイト(平成18年(ネ)10072号)〔プロ野球選手肖像権事件〕は、野球選手統一契約書16条により、選手は球団に対し、商品化を含め、その氏名および肖像の使用を独占的に許諾したものと解するのが相当であり、このような契約も公序良俗等に反するものではなく有効である旨判示し、選手らの請求を棄却した。
 ⑵ サッカー/バスケットボール選手のプロパティ等の商品化権のクラブ
  への帰属

 日本サッカー協会選手契約書(ブロA契約書)8条3項および公益財団法人日本バスケットボール協会の定める選手統一契約書8条3項は、クラブが、所属選手の肖像等を自ら商品化し、またはリーグ等に対して商品化を許諾できる旨を定め、同4項は、選手が自身の肖像等の使用および許諾等を行おうとする場合には、事前にクラブの書面による承諾を得なければならない旨を定めており、サッカー/バスケットボールのプロ選手は、所属クラブと当該契約書により選手契約を締結していることから、これらの選手の肖像等の商品化権は原則として、所属クラブが有していることとなる。
 ⑶ リーグによる商品化
 J/Bリーグには、①リーグ、②リーグの会員たるクラブ、③リーグに所属する選手等の三者間を規律するリーグ規約が存在する。Jリーグ規約127条およびBリーグ規約110条は、リーグが、選手等の肖像等を包括的に使用する場合には無償で使用でき、特定の選手の肖像等のみを使用する場合には、事前に当該選手の所属するクラブと協議し、その承諾を得て使用でき、リーグがこれらの権利を第三者に許諾することもできる旨を定めている。
 これに対し日本野球連盟、球団および選手等の三者間を規律する規約は存在せず、日本野球連盟と球団の間で締結されている日本プロフェッショナル野球協約にも、日本野球連盟による選手等の肖像等の使用や球団のマーク等の使用を想定した規定は存在しない。したがって、野球連盟が選手等の肖像等を使用する場合には、球団の個別の許諾が必要となる。

3.商品化契約の留意事項

 商品化契約は、パブリシティ権、商標権、著作権等のライセンス契約という法的性質を有する。そこで一般のライセンス契約と同様、ライセンスする肖像等やマーク等の対象の特定、商品化する商品の特定、販売地域、販売期間契約期間終了後一定期間商品を販売できるセルオフ期間の有無、販売個数、ロイヤルティの計算方法や支払時期、ロイヤルティの最低保証額の有無、開発費用の負担、デザインの事前承諾等商品化プロセスへのライセンサ一の関与、排他性の有無、サブライセンス権の有無、表明保証等につき、明確に定めておく必要がある。
 またスポーツに係る商品化権に特有の問題として、デザイン等の決定にあたっても、選手等、球団/クラブ等、リーグ等の二重、三重の承諾が必要となる場合があることを念頭に、余裕をもったスケジュールで臨むようにしたい。また、Jリーグおよび各Jクラブの商品化窓口である株式会社Jリーグマーケティングが、ハードリカー、タバコ、医薬品等については商品化を想定していない旨を公表しているように、対象となるスポーツやリーグのイメージを維持する観点から、商品化の対象たり得る商品の種別が限定されている可能性もある。同様に株式会社Jリーグは、リーグ/クラブ等のロゴ等のロイヤルティを「希望小売価格×ポンサー契約やエンドースメント契約(詳細は、Q46参照)を締結しており、こうした既存の契約によって商品化が制約を受ける場合もあるため、注意が必要である。加えて、スポーツ業界における不祥事が昨今話題であり、商品化の対象となる選手等に、法令違反や自社のイメージ低下につながるになるような行為を行わないことを誓約させ、契約締結時点において不祥事につながる行為が行われていないことを表明保証させ、万が一不祥事が発生した場合の契約の解除権やロイヤルティの精算、損害賠償について規定しておくことも考えられる。

執筆者:若松 牧


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