宝塚歌劇・雪組のレビューアラベスク「タランテラ!」の感想(やや考察)

※「タランテラ!」は2006年にトップコンビの朝海ひかる&舞風りらの退団公演のレビュー(ショー)作・演出は荻田浩一


本当に、読んでも読んでも深読みにならない。完璧に構成されたレビュー。

宝塚歌劇団のホームページの作品説明によると、

「"タランテラ"は毒蜘蛛の名前。その蜘蛛に咬まれた時、解毒の為に人々が踊ったとされる音楽・舞踊の名前がやはり"タランテラ"。或いは、蜘蛛の毒によって引き起こされるという「舞踏病」のことをも、また"タランテラ"と言い表す。「舞踏病」は中世ヨーロッパに大流行した社会現象で、それは抑圧された民衆のパワーが暴走して吹き上げた狂乱であり、その混沌と熱狂はカーニヴァル的な祝祭空間となって時空を超越する。この作品は、「舞踏病」をもたらす一匹の毒蜘蛛タランテラが、そのルーツを辿るように旅をする情景をつづっていく、情熱的かつ神秘的、そして生命力に溢れたレビューである。」

タランテラの毒によって踊らされる(つまり熱狂、不安の渦に陥る)人々、しかし、実際に誰よりも踊っているのはタランテラその人で、いつの間にか自分自身が「死の舞踏」を踊っている。

人を翻弄する毒蜘蛛タランテラの悲しくも美しい宿命と、トップスターという人を熱狂させる存在を重ね合わせているように思う。

熱狂させるもの自身の光と影、生きることの美しさや悲しみ悦びを寓話的に描いているようにも思われる。

レビューがパイドパイパー(ハーメルンの笛吹き男、あるいは水先案内人)の蜘蛛の歌から始まるのもあって、これから“お話”が始まります、そんなふうに言われている気がする。これは寓話だと。

タランテラは旅をする。
スペイン・ラプラタ河、アルゼンチン・ブエノスアイレス~アムステルダム、大西洋。

(ラプラタ河流域はタンゴ発祥の場所、ブエノスアイレスでピアソラによってタンゴは息を吹き返す。アムステルダムにはレンブラントやゴッホ、フェルメールの絵が所蔵された美術館がある。運河に添って文化(ある種の熱狂)の足跡を辿る熱狂自身の旅のようにも思われる)

タランテラはラプラタ河で愛した蝶が自分の巣にかかって死に、その亡骸を食べた自分に絶望したのち、ブエノスアイレス~アムステルダムと放浪、疲れ果てもはや踊ることもままならなくなったタランテラは大西洋であの蝶に似た姿の海の精をみて、その導きにより水の中に入り息絶え、その亡骸は海に流され故郷のアマゾンへたどりつく。

アマゾンは「命ある者が還っていく場所」として描かれる。
つまり、実際のアマゾンというよりは
天国、生まれる前の場所といえよう。

ここからは「メメントモリ」“食べ、飲め、そして陽気になろう。我々は明日死ぬから” “今は飲むときだ、今は気ままに踊るときだ”と、タランテラに踊らされていた群衆も自ら踊り、お話の終わりだ、とパイドパイパーの後ろを着いて歩く少女が虫かごにタランテラを捕らえるがタランテラは自分の足で籠から出ていき、自ら踊る。

生命賛歌として大団円をむかえるが
最後の最後の幕引きは、幕開けにパイドパイパーが歌った蜘蛛の歌で、あくまで寓話としてこのレビューは閉じられる。

このようにとても寓話的であるのに、トップコンビのサヨナラ公演のショーとしても完璧に成立していて、
宝塚のノルマである「スーツ」「スパニッシュ」「ラテン」などそういう要素もふんだんに盛り込まれている。

悪夢のような美しいレビューとしてみるもよし、宝塚屈指のダンサーであるトップコンビのサヨナラ公演としてみるもよし、レビューの中に盛り込まれた謎解きのような様々な要素を読み解きながら寓話としてみるも良しな良作中の良作。

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