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奇怪な生き物(詩画集)

「奇怪な生き物」

品川駅。冷たく硬い道に、突如現れた奇怪な生き物。
目の前を素早く横切った姿にゾッとして足を止める。カマキリの変種系。巨大なアメンボ。自身の吐く糸に絡まったタランチュラ。なぜこんな生き物がここに。人工物と有機物の間に存在する違和感。
隅っこで動かなくなった彼奴に恐る恐る近づくと、何重にも絡まった埃の綿だった。

ひとしきり失笑した後、彼奴を動かしていた風が、私の体に触れてきた。台風の前なのか、ビルの隙間風にしては、嫌に生々しい。
うねり、ささやき、甘く、激しいその風は、ただの埃に奇怪な生命を与えた。あれは確かに生きていた。そして隅に追いやられて、眠った。

ふと。
私の人生を取り巻くこの風を、どうしてやろうかと思った。
無色透明な風が、モノに影響し現象を生み出す。無意識のうちに化け物に変わることもある。
根底に沈めていた感覚に繋がる。たとえ美しい形で現れても、阿鼻叫喚の叫びが変化しただけかもしれない。また、絶望的な経験が、静謐な祈りに変わるかもしれない。夕焼け空を見上げれば、美しく流れゆく、オレンジ色の鱗雲がある。
それは風の力のせいなのか、己が望んでいたことなのか。

だから、風を利用してやるのだ。
さぁ私の心の内を暴くがいい。鬼が出るか蛇が出るか、または鱗雲か。
その躍動感こそ創造の糧となる。冷静に観察し、真理を探る。己を知る。命を知る。問いを問いのままに、変幻自在な現象を凝視し、そこに至純の輝きを見出す。
新しい形を与える。失われないもの。受け継いできたものと、譲り渡すもの。
時間を超えて生み出す力が、風にはある。

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