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英雄の旅。

ロイヤルミルクティ

あまりに忙しすぎて、自分がどこにいるかわからなくなることがある。

朦朧として遠くを見つめる。思考も回らない。隣の妻の声も聞こえない。何か鋭い声で何かを言ってるな、心に届かない。

そんな時こそ、一人の時間だ。自分の家(ホーム)に帰ることこそ、回復につながる。
霧がかった頭の中が少しずつ晴れてきて、言葉が見えてくる。それを書き留める。

NHK100de名著で「千の顔を持つ英雄」の著者キャンベルのことをやっていた。心理やカウンセリング、ビジネス論におけるバイブル。神話から分析された「ヒーローズジャーニー」は、人間の人生における大切な指標である。
スターウォーズも、ロードオブリングも、ドラゴンクエストも、古事記も、ブッダも、ギリシャ神話も・・。あらゆる物語が、主人公がにおこる「数々の共通した出来事」を指摘している。

1.Calling「天命」
2.Commitment「旅の始まり」
3.Threshold「境界線」
4.Guardians「メンター」
5.Demon「悪魔」
6.Transformation「変容」
7.Complete the task「課題完了」
8.Return home「故郷へ帰る」

これらは何も英雄に起こるものだけではなくて、私たち個人にも起こりうることだ。まず、今の人生を振り返るときに、きっかけとなる強烈な出来事があるだろう(1)。
そして、退屈していた生活から一歩踏み出して旅に出る(2)。子供が思春期を経て自立するように。
旅に出ようとすると、その世界から外に出させない門番がいる(3)。全ての村上春樹作品のように、門番は主人公の道を塞ぎ、跳ね返す。特に挫折し故郷に舞い戻り、再起をかけることもあるだろう。
なんとか門番を通り越すとそこでメンター(4)と出会う。ヨーダのように年寄りだったり、歳の離れた先輩だったりする。
旅の佳境で、悪魔(5)に出会い、存亡をかけて戦う。最大の敵であり、ライバルであり、自分自身だ。
そして、悪魔を倒すと英雄に変容する(6)。大きく成長し、己の悪魔すら飼い慣らす。そして大きな宝物を得る。
主人公は、今までの旅の意味を知る(7)。自分のミッションを悟り、なんのために生きているのかを知る。そうして、再び故郷に帰り(8)得られた智慧を還元する。

これで旅は終わりではなく、螺旋階段のように、次なる旅が待っている。大切なのは、一歩前に進むこと。今の日常、動けないルーティンや安泰した生活を手放して新しい行動に移してこそ、真の目的に近づくのだと、古今東西の神話から、人間の遺伝子レベルの真理を読み解いているのが面白い。
だって本当に、平凡たる私たちの人生にも、この流れがあるではないか。それを振り返る時間があるかないかは、それぞれによるところだが、キャンベルは言う。「私が言いたいのは、人生における大きな苦難、マイナスに思える出来事こそ、その後の道の光になっていると言う事実だ。だから、みなさんには、今の苦難を少しでも前向きに、それが奇跡の泉のように思って過ごして欲しい」と。(自分解釈・笑)。

2024年7月末。家族から逃げるようにロイヤルミルクティを飲んでいる自分は、まさに苦難の真っ只中にいる。この6年あまりの子育てという旅は、家族の調停も含めて、かつてないほどの敵と向き合っているような気がする。

そんな時こそ、かつての旅を思い出してみよう。いつだって、あの苦難があったからこそ、今があるのではないか。子育てという自己犠牲を学ぶ旅。そして、センスオブワンダー(神秘や不思議に驚く感性)を目の当たりにするたびに、全く新しい感動に震えている。
陸地の旅から、新たな船を得て、大海原に乗り出してはや6年。かつての経験は全て陸に捨ててきた。そうして体感するこの嵐も、荒波も、暴風雨も、新しい発見と次なる叡智の兆しにあふれている。
この海は、生命の神秘に溢れている。深海の静けさを、いつも胸に留めておこう。

画業の旅におけるメンターは、大学生活における画家の先生であったけど、子育ての旅におけるメンターは、ティクナットハン禅師だ。己の敵に向き合うために、禅を学ぶ。精神を統一し、執着を捨て、子供に向き合うこと。そのうえで、限られた精神力と時間を愛おしむように、絵を描くこと。
そうして生まれた絵画は、やはり数年前の自身の絵よりも静かに輝いているような気がする。深海から見上げた、水面に揺れる光のように。

だから、これでいいのだ。

おしまい。

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