スキンシップしよう。
ある占い師の女性に、こう言われた。
「あなたみたいに、スキンシップのない赤ちゃん時代を過ごした人は珍しいわね…」
水晶玉を見ながら、僕の過去を見ていたようだ。
「普通はね、もっと母親とか、誰かしらから、触れられて成長するものなの。そうやって人は、温もりを通して、愛されることを実感していくの。あなたはそれがない。そう感じるんだけど、どう?」
僕はしばらく黙っていた。あまりにも、心当たりあるからだ。
母はよく言っていた。「あんたみたいに手のかからない子はいなかったわ」と。父も言ってた。「お前はずっと一人で座布団の上に寝かしておけばよかったから、楽だったよ」と。兄貴の時は、あやすのに大変だったと。
「ちなみに」僕は占い師に尋ねた。「そう言う、スキンシップが足らずに成長した人は、どんな大人になるのですか?」
「愛がわからないのよ」
彼女は即答した。
「動物もそうでしょ?自分がちゃんと親から育てられていない動物園の動物は、自分の子供を育てられなかったりするのよ。愛されないと、愛し方がわからないのよね。もちろん、人間は動物じゃない。でも、やはり愛し方も、愛され方もわからなくて苦労する人は多いわね」
愛が、わからない。確かに、そうだった。僕は、愛というものが、よくわからない。
人を好きになる気持ちはわかる。恋心もたくさん抱いてきた。しかし、その先にある「愛」となると、実はさっぱりわからないし、正直なところ、僕は誰かに対して「愛している」という感情が湧いたことがない。
恐ろしいことに、我が子に対しても、そうだった。そんな自分が怖かった。我が子を愛せない親なんて…。
子供のいる友人たちはみんな口を揃えて言う。
「どんな忙しくても、子供の寝顔みたら疲れが吹っ飛ぶよ」
「守るもんができて、人生かわったよ」
「子供と過ごす時間は宝物だ。オレの人生、本当に変わった」
オレも、子供が生まれたらそうなるのかと思っていたが、残念ながら、一度もそんなことを思ったことがなかった。
「でも、少し、気づいているんじゃない?」
占い師はそう言って、僕のことを試すような顔で、上目遣いでじっと僕を見た。
「どうでしょう…。確かに、子供の事、愛していると、感じるようにはなった、のかな」
「あのね。大人になっても取り戻せるのよ?」
「取り戻すって…。スキンシップを?」
「そう。とにかく、スキンシップしなさい。ふれあいなさい。手を繋ぎ、ハグをするの。セックスも大事。だけど、あくまでもあなたの場合はスキンシップ。触れ合い。そうでないと、結局人恋しさと、自分の足りていないものが混同して、セックスに依存してしまうわ」
確かに、僕はこれまで、何人かの女性に対して、明らかに依存していた。性欲とは違う何かが、いつも僕に肌のぬくもりを飢えさせ、求めさせていた。
「愛し愛される。今からでも遅くはない。むしろ、人の心の弱さや寂しさがわかるからこそ、あなたが愛を知ったら、きっと素晴らしいことになるわ」
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上に書いた話は、数年前の体験談だ。
僕は妻に事情を話し、とにかく、ハグや手を繋ぐ習慣を持つことにしたし、息子とも、ハグをかかさなかった。とにかく、触れ合った。
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